プリーズ
あんなに細いのに胸がでかいのって犯罪だよな、でもって締まりなんかも良かったら完璧とか通り越して罪悪感とか抱いちゃうよな、なんていうようなグラビアアイドルとエロいことする夢を明け方に見ちゃって、それがもうオレのなんかいつ勃ってないときがありましたっけ、なんてくらいガチガチで何度も何度もイッちゃっててよく夢精しなかったよな、っていうか乾いちゃってるだけだったらやたらと糊の効いたトランクスだこと、みたいな感じだったから、今日一番で携帯に電話してきた奴と何が何でもオレはヤル、と心に決めていたのは確かだけど、こういう時に限って何年も連絡なんか取ったことのなかった幼馴染みっぽい女からかかってきちゃったりしてどうしよう、とか焦ったのも確かで、ってより実は誰だか最初全然分かんなくて。
「……母ちゃんとかじゃなくて良かったけど、」
「何が?」
何がじゃねぇよ、うちの母ちゃん近親相姦用の造りじゃないし顔も身体も、とかくだらないことを考えないとどうも視線が固定されてしまうというかどうして数年振りに会ったこの女は高校のときより比べものにならないほど発達した胸になっちゃってんだろう、ってほど風船玉みたいな乳になっててしかもそれを赤いレザーのぴっちぴちなワンピースでこれ見よがしに強調したりしてて、オレが知ってるこいつはもっと長い制服のスカートに三つ折ソックスしかも白、な、それで眉毛とかも結構太くて髪とかも真っ黒でぶっといおさげにしてて何十年代の女子高生ですかあんた、みたいなのだったのにどこをどうしちゃったらこんなお水っぽい姉ちゃんになるんだろうな女ってすげぇ怖ぇ、って言うかなんか。
「まあちゃん、格好良くなったね」
「んあああ、おお、そうでもない、ぞ」
「女いっぱい泣かしてそう」
「泣かされる方が多いヘタレだって、あはは」
新宿駅の裏側でコーヒー専門店でよく分からない南国音楽がかかる店内の一番奥の席に座っていた幼馴染みはタカコという名前で、まあちゃんに会いたいけどどうすればいい、って電話でいきなり聞いてきたからオレは東京在住だ、って答えたらうん今新宿、と明るく言われた。
秋口でなんだかすかすかとする九月の空の下、レザーのワンピースはノースリーブで寒そうだった、声だけじゃなくて姿を見ても気付かなかったのは内緒だ、でもタカコはすぐに西口の改札付近にいるオレに気付いて甘い声でまあちゃんと呼んだ、オレもちょっとは垢抜けたつもりだったのになんだかな田舎にいるときとそう変わんないかな、と思ったらちょっとへこんだ。
「でもさ、なんで」
「東京にいるか、って?」
「おおお、そう、それ、ライブとかでも見にきたのか? オレん家泊めろとか言う?」
でもタカコってライブとかって柄じゃねぇな、と言いかけて飲み込む、昔のダサかったときならまだしも、今なら何をしていてもそれなりに様になりそうな顔立ちになってる。肩甲骨くらいまでのストレートな髪はマロンブラウンできらきらしているし、マスカラだってだまにならずに睫毛が長くなってる、もしかして睫毛パーマとか。ふたりくらい前の彼女がそういうの好きだったな、でもなんで別れたんだっけ、オレが浮気したのかあいつがしたのか。
「言わないよ」
「あ、何が?」
「まあちゃん、人の話聞かないの昔からだね」
唇の色がカシスソーダみたいでそれが白い肌によく似合っていて、なのに笑うと白い歯がこぼれて見えて子供っぽい顔になった、ちいさい頃のタカコだ、と思った。
なんとかかんとかマウンテンクリームスペシャルとかとにかく長ったらしい名前のコーヒーは深緑のカップに入れられて湯気を立てている。タカコのは白いボウルに入ったカフェオレ、それを両手で掴んで、あち、なんて慌てて手を離して耳たぶをつまんでいる、あ、オレこいつに突っ込みたいな、とかいきなり下世話な欲望がぐるりと脳内を一周してすごく。焦る。
「って、わあっ」
「え、え、なに、まあちゃん?」
「あー、なんかこう、何年振りだっけ、タカコ変わった、うん、あれ、オレ、きょどってる?」
「うん、ちょっと挙動不審」
「マジで? あー、なんかちっさい頃とか知られてる人間に会うのって、」
「あ、嫌だった?」
「嫌って言うか、」
なんかこんなオレでも人生の積み重ねがあってここまで大きくなりましたよ、的な、なんか。って思って、こいつに会うの十年振りだ、といきなり思い当たる。
「タカコ二十八じゃんか」
「なによいきなり、まあちゃんだってそうじゃん」
「おばさんだな」
「なんて失礼な」
「オレもおっさんだな、なんか高校とかの頃って二十後半とか三十とかは超大人だと思ってたけど、そうでもない」
「私、結婚するんだよ」
はああああ? 人の話を聞かないのはお前も一緒だ、っていうかなんだそれ、と変な声が出て、タカコはさっきよりもっと子供っぽい顔で笑った、いい感じに可愛い、今朝の夢に出てきたグラビアアイドルには負けるけど。
「あ、それ、シリコン?」
「は?」
「胸、胸、作り物?」
「違うよ生乳、本物本物。って、それより人の話流さないでよ」
いやいやいや。幼馴染みがいきなり片道三時間の田舎から出てきててオレとコーヒー飲んでるってのも不思議だけどなんで結婚するとかって言われてるんだかもよく分からない。
「誰と」
「まあちゃんの知らない人」
「同級生とかじゃないのか、年上? 年下?」
「年上、十くらい年上」
「くらい、って」
「だってお見合いなんだもん」
見合い! なんでこんな化粧の似合う女になっちゃったタカコが見合いとかしてるんだっけ、と考えても答えは見つからないのでとりあえずおめでとうと言ってみたけど今度は寂しそうな顔になっちゃったから無意識に手を伸ばしてテーブルのこっち側からタカコの頭を撫でてみる。
「……まあちゃん、」
「見合いしてまで結婚したかったのか、でもまだ焦る年じゃないだろう」
「おばあちゃんが死にそうなの」
結婚の次は葬式か。
「……見合いは遺言か?」
「まだ死んでないよ」
「そろそろ死ぬのか?」
「人ん家のおばあちゃんになんて縁起の悪い」
「って、お前が言い出したんだろうが」
孫見せたいんだって両親が、とか言う、外見は変わっちゃったけどいつまでも素直ないい子なんだな、なんてちょっとほろっとする。
「でもそれで結婚って、いいのか?」
「良くないからお願いしにきたの」
「おおなんだ、一緒に駆け落ちしてくれとかか? いいけど金ないぞ」
お金があったら駆け落ちしてくれるの? と可愛く聞かれてううんと首を振る、無理無理、駆け落ちとかそんな、オレはまだひとりの女に絞りたくない、恋人ひとりよりセフレいっぱいの方が欲しいお年頃、あ、でも最近ちょっと弱くなってきたからいっぱいは困るな、三、四人で充分だ。しかも毎日とかはやめて欲しい、三日に一回頑張ればすごい頑張ってる感じ。
「まあちゃん、私を処女にして」
「おおなんだそんな願いは容易い……は? 女、じゃなくて? 処女?」
なんだそれ、と変な声を上げるオレに、タカコは唇を横に引き伸ばしてどこか小悪魔ちっくにうふふふふんなんて笑う。
タカコとは生まれる前の産婦人科からずっと同じ町内だった、それで小中高と同じ学校で家も隣の隣の隣ででもアウトオブ眼中なくらい趣味じゃなかった、オレはもっと身体のラインとかが露骨なくらい、痴漢にあってもあんたも誘ったんじゃないですかとか平気で言われちゃうような出るとこ出て引っ込むとこ引っ込んでて頭とか中身よりはバカでもいいから外見美人ちゃんが好みで、だからどっちかっていうとタカコは真逆ではないけど正反対な位置に突っ立ってる女ではあったから興味がなかった。近所のタカコちゃん、林さん家のお姉ちゃん。
「私ね、ヤリマンなの」
おお、そういうのを自分で言う女って結構うぶかったりしてオレ嫌いだ、しかもブスが多いんだよな、セックスの数イコールモテてる証明じゃないっつの、男なんて酒でも飲んでて相手に穴開いてりゃ誰でも相手できるもんなんだから、愛がないとエッチできないよなんて言う男の方がよっぽど裏でなに考えてるか怖くなる、セックスなんて穴と棒でするもんだ、顔はいらない、究極論で言ってしまえば。そりゃ、顔も身体も極上級の締まりも最高ちゃんな女のがいいのは言うまでもないけど。
オレが何も言わなかったのでタカコは不服そうな心配そうな、とにかく複雑な顔をする。うんまあ、と口の中でもそもそと明確には伝わらないように言葉を転がす、タカコ、ヤリマンは自慢にならないここは田舎じゃないモテてる証拠にもならない同情もしないオレもやらしてもらえんの、くらいの卑下た感想を持ってもらえれば上出来なだけだからそういうことは言うな、と言ってやらないけど思ってる、テレパシーとかが使えれば楽だろうけど思考が駄々漏れになるからやっぱりそんな能力は要らないや。
「……あああ、えっと、ふうん?」
「……軽蔑、する?」
「まあ、人数とかにもよるし」
「五十七人」
数えてんなよみみっちい、即答するなよ恥ずかしい。でもちょっと驚いた、オレまだそんな数の女とは寝てないな、うん寝てない、寝たいかって聞かれれば悩むけど七分くらい考えたら首を横に振るかもしれない、十代ならまだしも今は別にいいや数より質って言うか、終わった後面倒でないほっといてくれるけど身体のどっかだけは触れ合ったまんまでいたいとかってちらりと甘えてくるような女が好きだから、そういうのが隣でにっこり目が合ったときだけ笑ってくれるのがいいから、やっぱ数じゃない、いっぱい寝るってことはオレが気に入らない女にもぶつかるってことだし。
「自慢、だったら意味ないからやめとけ」
「自慢じゃないよ、」
「誘い文句にもならないぞ、何百人と寝たってやる気がなければマグロ女はマグロのまんまだ」
なんだか言いたいことがズレてんな、と思いつつまあいいや、それでどうしようか、と聞く。タカコに。昼過ぎの駅前は人と光が溢れているからなんでここにタカコといるんだっけオレ等付き合ってるんだっけとかって間違ったことを平気で考えてしまったりするタバコやめようかな酒はやめらんないけど脳に支障を多く与えるのはどっちの方だろう日本語自体使い方を間違えてそうで自信がない。
「ところでオレ、魔法使いとかじゃないんだけど」
「え、なに、まあちゃん東京でなにしてんの?」
「なに、って、働いてるよちゃんと、それなりに」
なにして、って聞かれないままタカコはふうんとか呟いた、オレもフーゾク店の呼び込みまでさせられて女の子にどっちかっつうと舐められてる類のボーイさんやってます、なんてことはここで暴露したくないししてもタカコなんてまたふうんとか言うだけだろうけどあんまり言いたくもなかったからそのままスルーしてくれて良かったとか思う。
「あのさ、だからお前を処女にするとかって無理なんだけど」
「知ってるよ、まあちゃんが処女膜再生できる男だったらもっと有名人だよね、っていうか、それってお医者さんになるのかな、超能力者みたいなものになるのかな」
「知らんけど、今より金持ちにはなれそうだな」
「処女になりたい女っているのかな」
自分のことは完璧棚に上げたまんまでタカコが言う、唇を尖らせて上目遣いにオレを見る、アパートに連れて帰ってみたいけどそれってどうだろう、朝のエロい夢のように女抱きたかったんだけどなんかちょっと違う雰囲気、とか思っているのにタカコはマスカラでばしばしに伸ばした睫毛の下の目をくりくりさせて、私まあちゃんと寝たい、とか言ってオレを驚かせる、なんだそりゃ。願ってもない、いやいや、あんたさっき結婚するとかって、いやいや、なにが、なんで、美味しくいただきますって言うには微妙なんだな幼馴染みって立場が、いやさっきはセックスなんて穴と棒の運動とかって言ったけど、ええっと。
「あのさ、ほら、まだ処女だった頃の私を知っている人と寝たりしたら、あの頃のまっさらな気持ちに戻れるかな、とかって思って」
いやいやいや、経験値がひとつ増えるだけなんじゃん? って言っていいものか分かんなくて大体まっさらな気持ちってなんだろう白いってことか青いってことか。青春ってどうして青いんだっけ、白いのって秋だったっけ、確か夏は朱色だったけどじゃあ冬って何色だ。
「理論無茶苦茶、タカコさん」
「分かってるよ、そんなの、分かってる」
「なんで処女に戻りたいんだよ、結婚するから? 綺麗な身体で嫁ぎたい?」
そんなんじゃないよ、って声がすごく近くで爆発したからなんかのスピーカーとかから変な宣伝の声がボリュームを上げられてオレの耳を直撃したのかと思ったけど、それは歩くのをいきなりやめて立ち止まって拳握り締めて叫んだタカコの声だった。通りを歩く人がちらりちらりとこっちを見る、歩いてくれよ頼むから立ち止まって人の流れを止めんなよ、注目とかされたくないんだからなんかこう、人から見られると自分はちっちゃくて汚い虫になった気がしてくる。
「そんなんじゃない、」
「あーあーあー、分かった分かった、分かったような口を利いたオレがごめんね」
「まあちゃんは、」
ちっとも分かってないくせに、ってタカコがさっきより唇をうんと尖らせてうるりとした目をしたから、なんだかちょっと腹が立ってなんだよ一体オレこれでも夕方から仕事行かなきゃなんないし土日休みじゃないし新人のマキはちっとも言うこと聞かねぇしマネージャーは喋り方がいちいちムカツクし、なんて関係ないことまで思っていらいらっとして、仕方がないからタカコに近付いて手首を掴んで尖った唇にいそいで自分の顔を持って行ってちゅっとくちづけた。
うるさい女を黙らせましょう、お口を塞いでしまいましょう。
今更驚いて後ずさるけど手首を掴まれてて逃げられないタカコは真っ赤になって、キスのひとつやふたつでうろたえるなよお前ヤリマンとかって言っても所詮男に騙されて経験数だけ増えちゃったマグロ女だなまったく、とかって思ってしまった、そしてオレは知らない通行人からピューイッとブラボーな口笛を貰ってありがとうな気持ちになる。
ホテルは嫌だとか言うし金もそうあるわけじゃないから結局オレのアパートに行くことになる、新宿駅から電車で一本田舎にいた頃は東京なんてネオンと騒音だけで成り立っている蜃気楼だと信じていたけどそうでもなかった。
「……狭い、」
ぐるりと見回して万年床に眉を寄せてる、タカコさん東京在住の田舎者って貧乏なんスよ学生で仕送り有りとか素晴らしい会社に勤務しているとかであったってそこそこなんスよ、言わずもがなオレなんて。六畳の狭いお城、だけどあんまり物はないからそう窮屈な感じはしないだろうと思っていたけど自分だけだったみたい。
「でもそんなに汚くはないね」
飲み物をいれるカップもないから冷蔵庫からビールを取り出す、カップ以前にインスタントのコーヒーさえない。差し出したら首を振られた、いらない、のジェスチャー横に何度かぶんぶんと。その度にタカコの髪が揺れて彼女の頬や首に絡みつく手前の軽さで広がった、花の匂いがする、女の子って香水つけてないと何が匂うんだったっけシャンプーだっけ。
「処女、抱いたことある?」
「あるようなないような」
「なにそれ」
「あんなの自己申告制だからな、処女です、処女じゃないです、なんでも言えるっつの」
そうなんだ、とタカコはゴワゴワする灰色のカーペットの上でお姉さん座りをしている、正座を横に崩したようなやつ、スカートが思っていたよりも微妙な長さで脚がすらりと伸びるけどパンツは見えない、みたいな。オレはプルリングを引いてビールを流し込む、喉の奥がちらちらとして飲むたびにいつも、実はあんまりビールって好きじゃないのかも、と思う。カーペットを撫でているタカコは俯き加減で、ダニとか気にしてんだったらオレも痒いのは苦手だから結構バルサンだけはちゃんと焚いたりするんスよ、と言ってみたくなるけどきっと彼女の頭の中はそういう考えじゃないものが詰まってると思うからやめておく、とかってこんなところで気を使っても仕方がないんだろうけど、あ、バルサンまた買っておかないとダニに刺されると赤い点々にふたつ吸い口というか血を吸ったのはここなんです、っていう印が並んでつくからそれがものすごく気持ち悪くて嫌だ、目に見えないようなものに刺されたりするのって腹が立つし怖い。
ぐびび、とか変な風に喉が鳴ってタカコがこっちを見た、ふたりの間には思い出話しかないから意地でもしないでおこうと心のどっかで決意してみる無駄に。過去ばかり持ち出して盛り上がるのって主役不在の誕生日会とかみたいでどこか落ち着かなかったり寂しくなったりする気がするけど、それはオレだけが持つ感情なのだろうか。
「……さっき、キスした」
「あああ?」
「……なんでもない、」
なんでこいつはここにいるんだろう、オレが抱いたら処女に戻れるかもなんて滅茶苦茶な思想だ、大体オレに処女膜再生能力とかがあるんだったら今頃女達は列なしてこのアパートに押しかけてるだろうテレビとかにも出て有名になってて金持ちにだってなってるだろう、って、今どき処女とかにそんなこだわる女もいるのか価値をつけるのは抱く側だから処女好き男がたくさんいるのか、考えていて混乱してきたのでやめる。ビールを飲む。ごくん。あ、さっきその話はしたんだっけ。
「タカコ、なんで東京にいるんだよ」
「え、だから、えっと、」
「結婚嫌で逃げてきたんじゃなくてか?」
「逃げてなんかきてないよ、ほら」
財布から紙切れを取り出してひらりと見せつける、電車の割引回数券。帰るつもりがありますよ、ってことだろうか、でもそんなの破って捨てちゃえばなんにもならないもんね、と意地の悪いことを思う、大体。
「大体、見合いでまで結婚したいってなによ、してもそんな年上の奴と」
「……もう、いい年なんだもん」
「いい年、って、あー、女の適齢期って今はどんくらいなんだろうね」
「知らない、でももう遅いと思う」
「高齢出産も増えてんでしょ、大丈夫なんじゃん?」
「そうは言っても年寄り女より若い女の方を好きなくせに」
誰が? オレが? どうだろう、今までの恋人達は年上も年下も同い年もいたし。結婚、はまだ考えてないし。オレは。自分以外を食わせていくだけの自信も金もないから、ってずるずるしてるうちに誰かを孕ませて身を固めたりすんのかな、できちゃった、って若いうちとか狙ってとかならいいけど、オレみたいないい加減な奴がするのは格好悪いな。
まだ日が高いうちのセックスって苦手だ、罪悪感はないけどこれでいいのかって気分になる、もっと生産的に行こうよ、ってすごい生産的なことなんだけどさ避妊しなければ。もう一本ビールを持ってくる、勢いつけなきゃ女抱けないってなんか嫌だなでも幼馴染とかだぜ制服姿も処理してない脛毛も知ってるんだぜ、それってどうよ。
「あー、でもどうせなら結婚する前に初恋の男に一目会いにきた、とか言う方が可愛いのに」
って言ったらタカコが真っ赤に耳まで染まった、え、なに、それって、図星?
わあ、とか思ったら可愛くなって前からこの女を好きだったような錯覚まで起こしちゃって、タカコ、とかって甘い声が出てしまう、この唇から。ビールの缶をそこらへんに置いて、す、とタカコに寄る、お互いの間の空気をぎゅっと凝縮するように、近付いて肩に手をかけようとする。
「まっ、」
あ、ジタバタし始めた。
「まあちゃんっ、やっぱ、私、か、帰る、」
「何言ってんだよここまできてさ、そんな寂しいこと言うなよ」
ラブホテルに女騙して連れ込んだ男のセリフみたいだな、と思うと笑いそうになったからぐっと堪えて、タカコ、ともう一度名前を呼ぶ、だけどオレの手を彼女はするりと抜け出そうとする。
「やっぱ、いい、」
「タカコー、お前から誘ったくせに」
あ、泣きそうな顔になった。女のそういう顔好きだな、笑ってるより泣くか怒るかのときに表情がいい女が本当の美人だって聞いたことがあるな、オレ、どうでもいいことばっか考えてる、本当はタカコを抱く気がしない、というより本当に抱くのオレ? みたいな感じだ、だってお互い年を取ったと言っても高校や中学の制服姿どころか幼稚園の頃の黄色いスモッグ姿が脳裏にちらつくんだもの。目の前の女がどんなに乳をでかくした見た目は成熟済みの女でも違和感の方が先に立つ、あれあれあれ、ってな具合だ。
「やっぱやだっ」
「なんだよお前、東京までオレをからかいにきたのかよー」
手を出したり拒まれたり近付いたり離れたり、こんなにどたばたするのってなんか違うよな、ムードとか作るべきなんじゃなかったっけ、これじゃやりたい盛りの中坊が女を追い掛け回してるみたいだ、って笑ってたらビールの缶が爪先かどっかに当たって倒れた、タカコが、あーっ、と声を上げる。
「雑巾!」
「そんなもんないって」
「じゃあティッシュ、」
「あー、いい、いい」
「染みちゃうよ、カーペットダメにしちゃう、」
まあそんなのはいいから、とこぼれたビールに気を取られているタカコを抱きかかえるようにして捕獲する、唇を近付けちゃって、そういえば今朝の夢はなんだったっけ、と考えてみる。まあいいや。それより腕の中の女が暴れようとするのでちょっと力を入れる、唇を耳元に寄せて名前を呼ぶ、タカコ、もう一度繰り返して、もう一度、やがて彼女から抵抗が消える。はい、オレの勝ち。
こっちを向かせて唇を寄せる、タカコは目を瞑ったからそれを確認してからこっちも目を閉じる、重なる、やらわかな感触、ああ女抱くのっていつ振りだっけ。
唇を舌でこじ開けて進入しようとしたらタカコの身体が少しだけ硬くなった、そして笑い出す。
「なんか、」
なんか変なの、ね? タカコの声がうんと近くで聞こえる、吐息を肌で感じるくらい近くにいるからだ、幼馴染だからってそんなに近付いたことは今までなかった、これもひとつの初体験。
いいから黙れよ、ってどこか強引めかせて再び唇を重ねる、タカコは静かになって身体から力を抜く。だけどまだオレはどこか半信半疑でこのままタカコを抱いちゃうのかな、なんて思ってる、もう一度笑ってくんないかなタカコ、そしたら冗談にしちゃえるな、って男らしくないことを考えて、もっとビール飲んどきゃ良かった、なんてちらりと思った。




