#6
再びこの町の良いところ。
土地が有り余ってる。つっかけサンダルで隣町まで行ける。飲酒運転が可能(公になってないだけで毎日見かける)。
娯楽施設が何もないため大人達の楽しみはもっぱら酒。朝までどんちゃん騒ぎの宴会ぐらいだ。それが分かっているから前任の駐在員は目を瞑っていた。これでなにか事故が起きたらタダじゃ済まないだろうけど、現時点では黙認されている。
朝から夕方まで畑で腰を曲げるおばあちゃん、畑道を元気に駆けていく子どもたち、日曜日に必ず流れるラジオ体操の呼びかけ。
朝日が昇るのは早いけど、夕日が沈むのも早い。夜は空に敷かれる星の絨毯。また月明かりだけが頼りだ。電灯なんてあってないようなもの。町に面する国道だって、夜の運転なら注意しないといけない。一直線に続く暗いトンネルを延々と走っているようなものだ。
幸い、子どもの飛び出しは一度も聞いたことがない。むしろ留意すべきは動物の飛び出しだろう。隣町に入ったあたりから標識がたくさん設置されている。山の深いところだから、手付かずの自然が残っている。互いに干渉はしないけど、人と動物が共存している。
錆びれた神社は昔(と言っても数十年前)は参拝者が大勢いて、子どもから御年寄まで祭神を崇め奉った。小さな狸の銅像はところどころ苔むしているが、非常に頑丈で欠けたところはない。社自体の老朽化は見てとれるが、雨を凌ぐには充分。ここが自分にとって自慢の場所。世界で一番安らげる家。
この町が大好きだ。子どもは成長するにつれこの町を離れるけど、自分はずっとここにいたい。母が愛した、この町を守りたかった。
今でも昨日のことのように思い出す、家族の温もりを胸に秘めながら……あの神社へ向かう。
「こんばんは」
「胡内さん!こんばんは!」
深夜零時、耶神は昨夜約束した待ち合わせ場所で胡内を待っていた。誰からも忘れられた、小さな祠の目の前で。
「うーん、やっぱりここはいつ来ても趣きあるよ。でも人が全然来ないのは寂しいね」
社殿の祠を覗き、胡内は不思議そうに首を捻る。
「ここの祭神は狸か。俺がいる京都は狐を祀る神殿がたくさんあるんだよ。対照的だけど、何かちょっと親近感があるな」
「狐……ですか」
耶神は彼の隣でわずかに肩を揺らす。狐に良い印象がないからだ。北に生息する狐の事ではなく、世界各地で神や妖怪として伝承されている狐はどこか恐ろしい。オカルトの話に入るけど、人を騙す象徴に思えた。
とは言え、狸も時に人を欺く。
狐だってきっと必死に生きている。偏見や先入観は取り払うべきだ。そっと内省した。
「胡内さんは神社巡りが好きなんですか? それとも昨日言ってたように、この神社にだけ思い入れが?」
「うーん……そうだね。どっちかっていうと、この神社だけだ」




