#3
夜風を感じながら、落ち着かないまま空を向いた。満足したのか、青年はこちらへ駆け寄ってお礼を言った。
日本人だと思うが、髪の毛先がわずかに色素が薄く、金髪に見える。お洒落だから染めているのかもしれない。
「付き合ってくれてありがとう。ねぇ、良かったら名前教えて。俺は胡内っていうんだ。休暇を取って京都から来たんだよ」
「京都から?すごいですね、俺行ったことないや。四国には何度も来てるんですか? ……あ、俺の名前は耶神です。生まれも育ちもこの町で……郵便局で働いています」
簡単に自己紹介をして、再び段差に腰を下ろした。胡内というこの青年は二十九歳で、建築関係の仕事に就いているという。宿泊先はやはり耶神が思い浮かべていた、町で唯一の松風という民宿だった。
そして耶神は嘘をついていた。本当は郵便局に勤めてなどいない。加えて、まだ大人の括りに入ってない年齢だ。しかし正直に話したら家に帰るよう言われる気がして黙っていた。
何故なのか、もっとこの青年と話してみたいと強く思った。初めて会ったとは思えないほど彼と居ると安心する。素直に好感が持てる。その理由も知りたかった。
「実はこの辺り、大昔に来たことあるんだ。……この神社にも来た。そのときにいた女性に親切にしてもらって、もう一度会えないかと思ってきたんだよ」
「へぇ、ロマンチックですね! 昔って、何年前ですか?」
「え? ええと……そうだね、二十年以上前になる」
胡内は視線をずらした後にそう呟いた。しかし二十年以上前だと、自分はまだ生まれてない。人探しの力にはなれない気がして、耶神は眉根を下げた。
「かなり時間が経っちゃったから、もう会うのは厳しいと思う。……でも嬉しいな。前と同じに優しいひとに会えて。ね、この町の人は皆良い人だね。道に迷っていたら教えてくれるし、夜中に歩いても危なくない。って言っても、君はちょっと心配だけど」
可愛いから襲われないか、と真剣な顔で訊いてきた。それには全力で否定し、身を乗り出す。
「大丈夫です。俺いちおう男ですから! ……夜、眠れないときはここにいたいんです。暗くて静かだけど、ここが一番落ち着く。小さい時から、母さんに連れられて来ていたから」
「そうなんだね。今、お母様は?」
河内は柔和な笑みを浮かべる。そのとき、わずかに耶神の顔が曇った。
「もう、いません。十年前に事故で……車に轢かれて」




