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Flame,Plus  作者: 鉄箱
7/42

第六話 温泉×卓球×友情

休みの日なので、なんとか投稿。

まだ肌寒さの残る、五月の初め。

それでも春は過ぎ、そろそろ夏至に入ろうかというのに、その場所は涼しかった。


山の上の、旅館。その、テラス。

その景色を目に納めようと、椿は身を乗り出した。


「すっごーい……」


一点の曇りもなく晴れ渡った空は、太陽光を遮ることなく、綺麗に澄み渡っていた。

そのおかげが、命の鼓動に輝く新緑の山々が、青い空に良く映えていた。


今日から、世の人々に愛される黄金週間。

ゴールデンウィークに、椿たち四人は温泉旅行に来ていた――。











Flame,Plus










事の始まりは、黒沢梓だった。

彼女は、海外へ旅立つ間際、自分の親類が経営している温泉旅行を椿たちにプレゼントしたのだ。それは、自分を助けてくれた椿たちへのお礼だった。


ゴールデンウィークに特に予定を入れていなかった椿と奈津は、温泉旅行へ行くことに決めた。また、家からの呼び出しがあったレイアとラミネージュは、さくっと予定をキャンセルして旅行へ行くことになった。


どんな言い訳をしたのか椿たちは解らなかったが、レイアとラミネージュは妙に清々しい顔をしていた。


移動手段は、バスだ。

そう聞いた椿は、旅行の支度をすると、集合場所である学院の関係者駐車場へやってきた。

ちなみに、外出許可は提出済みだ。


どこかの旅行会社に頼んだのだろうと当たりをつけて駐車場に到着した椿が見たのは、とても予想できるものではなかった。


色は白だ。それはいい。

銀細工が施してある。ここで首をかしげる。

長い。ぶっちゃけ、リムジンだ。


「あら、早いですね、椿」


声をかけられて振り向くと、そこには私服姿のレイアが居た。

レースのついた白いシャツと、銀細工で青い宝石が装飾されたブローチ。

それに、同じくレースのついた青いロングスカートを穿いていた。


対する椿は、白い半袖のシャツに、薄い生地で出来た淡い緑の上着。それに、桜よりも薄い桃色のロングスカートというシンプルな格好だった。


「え?レイア……これ、バス?」

「何を言っているんですの?当然でしょう?」


認識の食い違いというレベルではない。

持ってる常識が世界観ごと違う。

なんとか自分の常識が通じないだろうかと周囲を見ると、旅行鞄を背負った奈津とラミネージュが歩いてくるのを見つけた。


「おー、早いね、椿」

「おはよう」


手を挙げて挨拶をする二人に、椿とレイアはそれを返す。

奈津は、黒の半袖のシャツに紺のジーパンという、椿よりもシンプルな格好だ。

ラミネージュは、白のワンピースに麦わら帽子という、まだ肌寒いであろうこの季節には、少々先取りしてしまったような服装だった。手に持った妙に長くて大きい鞄は、十中八九装霊器だろう。椿たちも持ってきてはいるが、ラミネージュほどかさばりはしない。


「うわぁ……リムジンじゃん」


奈津の引きつった言葉に、椿は漸く|(庶民の)希望を見た。

やっぱり、流石にリムジンはバスとは言わないだろうと、同意を求めに近づく。


「あら、どうしてですの?」


だが、その前にレイアが話しかけた。


「だってさぁ……」


うんうんと影で頷く椿。

だが、その希望はあっさりと打ち砕かれる。


「今、ゴールデンウィークだよ?使用人さんも運転手さんもお休みあげてるよ?」


バスそのものに、ツッコミがあった訳ではなかった。

椿は光の見えない展開に、心を閉ざすことで現実逃避をしようとした。


「椿?」

「ねぇ、ラミ……リムジンがバスって、普通のことだったりするのかな?」

「そんなことは、ない」


思いもよらないところからの援護に、椿は顔を上げた。


「うちは、クルーザー」

「うん。そんなことだろうと思ったよ」


椿の常識は、早くも崩れ去ろうとしていた――。















バスという名のリムジンは、椿が想像していた以上の乗り心地だった。

まず、揺れない。そして、冷暖房完備どころではなく、冷蔵庫もテレビもついていた。

ふかふかの高級感漂うソファーっぽい椅子に、椿は何度か腰を浮かして感触を楽しんでしまい、レイア達に温かい目で見守られるハメになった。


そうして、三時間程かけてやってきたのは、山頂に位置するひっそりとした旅館だった。

けっして大きくはないが、設備を見ればいかに儲けているかが解る、所謂隠れ宿的な旅館だった。


「いらっしゃいませ、梓お嬢様のご友人の方々ですね。お待ちしておりました」


頭を下げる女将と従業員に、椿は緊張していた。

他の三人はまったく気にしていなかったが、それに関しては何も言わないと決めた椿だった。何事も、妥協は大切なのだ。


部屋に案内された椿は、早速荷物を置いてテラスに出た。

美しく広がるその景色に、思わず息を呑む。


「すっごーい……」


こうして、冒頭のシーンに戻る。















温泉宿に来て最初にすることは?

そう聞くと、大抵は“温泉”と答えることだろう。


だが、浴衣に着替えた椿たちは、奈津に連れられて遊技場にやってきた。

そう、温泉旅館の醍醐味――卓球だった。


「第一回、チキチキ卓球ダブルスファイトゥッ!」


ハイテンションで、奈津はラケットを振り上げた。

椿たち三人は、しっかり汗をかいてからの方が温泉は気持ちが良いと、奈津に説得されてここにいた。

椿は、結構楽しみにしていたが、ラミネージュは表情から感情が読めず、レイアは肩を竦めてため息をついていた。


「さーて、チーム決めよう!僕は当然椿と……」

「あ、籤作ってきたよ」


当然のように椿と組もうとした奈津を止めたのは、声を上げようとしたレイアではなく、他ならぬ椿だった。


「気が利きますわね。あら?奈津から引きます?」


見下すように笑うレイアの様子に、奈津は青筋を立てる。

にらみ合っている二人をよそに、まずラミネージュが引いた。


「赤」

「うん、それじゃあ二人は……忙しそうだから、私から引くねー」


温泉に来てまでいがみ合うこともないだろうと、ため息をつきながら椿も引く。

ちなみに、先に色を塗った割り箸を空き缶に入れただけの、簡単なものだ。


「な、奈津、先に僕が――」

「お退きなさい、ここは私が――」

「あ、赤だ」


その呟きに、ラミネージュが表情を変えずに両手を挙げて喜んだ。


「わーい」

「頑張ろうね、ラミ」


手を合わせてチームを組む椿とラミネージュの横で、うなだれる奈津とレイア。

対照的な空気を醸し出す中、立ち上がったのは奈津だった。


「勝つよ、レイア」

「奈津……?」


奈津はラケットを振り上げると、天井を指した。

当然そこにはなにもないが、奈津の目には夜空に輝く星が見えていた。今は昼だが。


「そう、ですわね。やるからには勝ちましょう……足を引っ張らないようになさい、奈津」

「ふん、それはこっちのセリフだよ」


そうこうしている間に、ラミネージュはどこからかホワイトボードを借りてきて、そこにチーム名を書いていた。ちなみに、チーム名はラミネージュの独断と偏見で決められていた。


椿&ラミネージュの“フレイムスラッシュ”……どこから引っ張り出してきたのかわからない名称だ。


奈津&レイアの“バタフライヒーロー”……いつか奈津がレイアの言った“お蝶婦人”というセリフを気に入っていたのだろうが、レイアの額には青筋が浮かんでいた。


妙に燃え上がる奈津とレイア。

普通に楽しもうとする椿とラミネージュ。


先攻は、籤を後に引いたということで奈津達になった。


「疾風……サイクロンッ」


かけ声である。

ラケットに当たったピンポン球は、ラケットの広い面で転がりスピンがかかる。

高速で縦に回転するピンポン球は、跳ねる度にその勢いを増した。


「――ふっ……!」


椿はそれを冷静に見極めると、ピンポン球の下側をスライスさせて打ち返した。

その球は一直線にレイアに向い、レイアはタイミングを読んで打ち返そうとする。

だが、奈津が放ったときと回転の向きが変わっていないピンポン球は、椿たちに帰るように後ろへ跳ねた。


「こしゃくなっ!」


だが、それで呆然と負けるようなレイアではない。

レイアは、あろうことか人差し指と中指でラケットを挟むことにより、射程を伸ばして打ち返した。


――カンッ


鋭い音に、何が起こったかわからず呆然とする。

そこには、高速でラケットを振ることにより、稲妻のようなスマッシュを決めたラミネージュの姿があった。


最初から全てを見通したような、ラミネージュの紅玉の瞳に、奈津は薄く笑った。

レイアもそれに呼応するように笑うと、激戦の幕が開けられた。


――戦いは、はじまったばかりだ。















どっぷりと卓球大会を楽しんで、四人は疲れた身体を癒すために温泉に入った。

卓球は、椿たちが見事に打ち勝ち、奈津とレイアはうなだれていた。


この温泉は、疲労回復に美肌効果と効能が書かれていて、魔法による調査もしてあるようだ。


とろけるような表情で入っているラミネージュの横に、椿が入る。

髪はアップにして、タオルを巻いていた。


「今日はお疲れ、ラミ」

「うん」


短い返答。

口数の少なさと表情のなさから、ラミネージュは他者から敬遠されていた。

世界有数の名家生まれと言うこともあり、彼女に近づく人間は、みんな敵意か、悪意しか持っていなかった。取り入ろうと媚びてきた人間は、表情を変えないラミネージュを見て気味が悪いと去っていく。


家というフィルターは、彼女へ余分な害意を振りまいていた。

奈津でさえ始めはそのフィルター越しに見ていたし、レイアは初対面で喧嘩になった。


オールアクセンの名を捨てるつもりはないが、それでも彼女の小さな肩に、この責は重かった。


身体の特徴もそうだ。

白髪赤目の魔法使いは、“欠落者”を意味する。優秀ではあるが、なにかしら欠けているのだ。

それは、優秀であればある程多くの欠陥を持つ。


ラミネージュは、表情と料理の腕が欠陥だった。

料理は別に作らなくてもどうにかなる。だは、表情はそうはいかなかった。

意図的に作ることが出来ず、また自然に出るとしても、その切っ掛けは解らない。家の者ですら、妹以外は彼女を遠ざけた。


そんな中、ラミネージュは椿に出会った。

出会った当初、椿がオールアクセンを知らなかったという事実は聞き及んでいる。

だが、その名を知ってからもずっと、ラミネージュをオールアクセンではなく“ラミ”として見続けた。


そのことの尊さを、ラミネージュは心から感じ取っていた。

今のメンバーだって、椿が居なければ集まらなかった。GWなんて、いつものように実家で、見えもしない先のことを、両親から延々と提示されるのだ。


「椿」

「なーに?」


のほほんとしていた椿に、ラミネージュはゆっくりと告げた。


「楽しい、な」

「……うん。私も、ラミと遊んでいて、楽しい」

「――――うん」


自分と遊んで、楽しいという言葉。

こうして、望んだ範囲を超えて、欲しい言葉をくれる。

受け入れてくれる友人の存在が、ラミネージュはなにより嬉しかった。


「レイアっ!それちょうだい」


大きな声が聞こえてきたので、椿とラミネージュは音源に顔を向けた。

そこには、タオルも巻かないで仁王立ちした奈津が、レイアの豊満な胸を指さしていた。


「ななな、何を言い出すかと思えばっ」

「うぅだって、だって」


レイアは、顔を赤くしてタオルで巻かれているのに上から手で胸を隠す。

奈津は絶壁といって差しつかえのない己の胸を見た。

見事に平原だ。胸が痛む。痛む程もないが。


ちなみに、椿は平均。

ラミネージュは小さいが、奈津よりはある、レイアは、喧嘩を売られいる理由で解るとおり、スタイルが良かった。


奈津は、そんなレイアの胸と自分の胸、そして椿たちの胸の間に視線を行ったり来たりさせて、大きくため息をついた。


――ガサッ


小さくも、はっきりと聞こえた音。

その音に真っ先に反応したのは、奈津だった。


「っそこ!」


桶を掴んで、フルスイング。

軽快な音とお湯を被った音と共に、何かが去っていく気配がした。

その瞬間、その影が小さく光ったことを、慌てて湯船に漬かったレイアがしっかりと見ていた。


「最後のアレ――ノズルフラッシュ?」


タオルを巻いていたとはいえ、半裸と言っても差し支えのない格好のレイア。

どっぷりと湯船に漬かっていたため、首から上しか見えないだろう椿とラミネージュ。


そして――タオルも巻かずに、仁王立ちをしていた、奈津。


「あうあうあうあう……きゅう」


真っ赤な顔で口をぱくぱくと動かすと、そのまま後ろに倒れ込んだ。


「な、奈津?!」

「ちょ、しっかりなさい!」

「とりあえず、タオル」


椿たちは、自分たちが悲鳴を上げるより先に倒れてしまった奈津を、必死で介抱することになったのだった……。















露天風呂近くの茂み。

草木も眠る丑三つ時に、フル装備の椿たちが立っていた。

一般市民に魔法まで使うのはいかがなものかと、椿は説得しようとしたが、奈津に説き伏せられてしまった。


「撮った写真を舐めますように見るんだよ?一般人なんかじゃ、絶対無いよ。悪だ、悪」


据わった目で言われたことと、“舐めまわすように”というフレーズ。

椿だって、年頃の女の子だ。放っておける問題ではなかった。


「ふふふ……エルストルの柔肌を撮影しようとは……」

「命はいらないんだと、思う」


普段全く表情に出さないラミネージュまで怒っているのを見て、椿はせめてやりすぎないように適当なところで止めようと、誓うのだった。


もっとも、“最初から”ではなく適当なところといっている時点で、椿も少々頭に血が上っていることが確認できたのだが。


暗い森を進んでいく。

奈津が桶ごとお湯をかけたので、同じ質の水がどこを通ったのか、レイアが水の精霊魔法を使用することによって追跡していた。


そして、歩くこと半時。

ついに反応が止まっている洞窟を見つけた。


「ここか……まさか、現像している訳じゃないよね?」


そう呟く奈津の声は、隣で聞いていた椿の背筋が凍る程冷たかった。

設備を持ってくれば、暗い洞窟だ、現像くらい可能だろう。

そんな設備をわざわざこんな山奥に持ってきたりはしないだろうが、奈津はそこまで頭が回らなかった。


「行くよっ!みんなっ!」


そして、頭が回っていないのは他の三人も同じ事。

現像という言葉に肩を震わせると、奈津に続いて洞窟に突入する。















夜ということもあるのだろうが、洞窟の中はひんやりとしていて、肌寒かった。


高さは四人が入れる程度。

だが、奥に行くにつれて、どんどん大きくなっていく。

さらに、洞窟の中だというのに、明るくなっていった。


光の反射で、洞窟の壁や天井は蒼く輝いているように見える。

夜空に浮かぶ月が、太陽から吸い取った光を、地上の生き物に分けているようにも思えた。


暗い笑みを浮かべる奈津とレイアは気がつかない。

ラミネージュは、ぼうっと周囲を見ている椿に気がついて、次いで自分もその意味に気がつく。


「月明かりには、沢山の魔力が込められている。この光景に魅入るのは、魔法使いなら当然のこと」


ラミネージュは、椿にわかりやすいように呟いた。

その横顔に、椿は優しく微笑んだ。


「うわぁ……」

「これは……」


先行していた二人が、足を止める。

椿はラミネージュと顔を見合わせると、奈津達に並んでその視界の先をのぞき込んだ。


青い光が、降り注ぐ。

天井はずいぶんと昔に崩れ落ちたのだろう。その空間だけ、ぽっかりと穴が空いていた。


決して派手な光景ではない。

儚くも優しい月光が、洞窟一面の“水晶”に降り注ぎ、その光を反射していた。

その美しさと儚さに、思わず感嘆の息を吐く。


「っ……椿、あれ」


ラミネージュに裾を引かれて視線をやると、そこには黒い影があった。

一瞬、羞恥心に顔を赤く染めるが、すぐにそんな気持ちは消える。


影は、宙に浮いていたのだ。


「覗きかと思ったら」

「邪霊だった、というわけですわね」


影は、まさしく影を固めたような存在だった。

てるてる坊主のような格好で、顔の部分には漆黒の仮面が張り付いていた。

仮面の目は、魔力に呼応して時折輝いていた。


「魔法使いである私たちに近づいて」


襲おうとしたが、お湯をかけられたことを攻撃と見なして一端退いたのだろう。

椿はそう解釈して、覗きでなかったことに安心していた。


「邪霊の分際で、私たちの柔肌を覗き」


奈津に続いたレイアの言葉に、椿は首をかしげた。


「その上乙女が入ったお湯を吸って」


いや、かけたのは奈津だ。

それを突っ込もうとしたが、ラミネージュに裾を引く動作で止められた。


「慰安の時間を叩きつぶすとは」


レイアが、クルタナ型装霊器を振り上げる。

白い光が装霊器を通ると、精霊石に反応して青い輝きに変化する。

月明かりよりも濃いその光は、海淵を連想させた。


「その命。惜しくないみたいだね」


奈津はポーズを決めて、戦鎧を装着する。

レイアも、イヤリングを弾くことで装着する。レイアの戦鎧は、金の刺繍が編み込まれた青のドレスに、上から装甲を嵌めたドレスアーマーだ。


ラミネージュは、両手の腕輪を強く打ち付けた。

すると、白いシャツと白い短パン。そして、両腕と両足に嵌められた重厚な鎧という姿になった。


三人に続くように、椿も指輪に唇を落として、戦鎧を装着した。


仮面は、ふわふわと漂うと、流れるような動作で近づいた。


「【起源より来たりて・誕生を司る水よ・我に応えて・我が敵を叩け・水蛇の鞭】」


それを、レイアが属性魔法をもって叩き落とそうとする。

だが、仮面は木の葉のように柔らかい動作でそれを避けた。


「【我が腕は矛・我が足は槌・汝は我の・堅き鎧也】」


ラミネージュは、基本魔法を唱えて肉体強化をする。

そして、巨大な武器と武装を持っていることを、微塵も感じさせない素早い動作で、仮面を叩く。


「【終焉より来たりて・再生を冠する炎よ・我に応えて・我が敵を穿て・火焔の魔弾】」

「【果てより来たりて・世界を凪ぐ風よ・我に応えて・我が敵を射抜け・疾風の射手】」


前線で戦うラミネージュを、椿と奈津が属性魔法で援護する。

風属性の矢と、炎属性の弾丸が、仮面の逃げ道を無くしていく。

仮面は時折その目を輝かせて、光線を発射してきた。だが、絶好調ともいえる椿たちには、通じなかった。それは、月の魔力に当てられていて、こちらが向こうと違って四人もいるということが、大きく関係していた。


ラミネージュが、大きく後ろに飛ぶ。

それと入れ違いに、レイアが突撃した。


「【起源より来たりて・誕生を司る水よ・我に応えて・我に剣を与えよ・清流の剣】」


クルタナに水がまとわりつき、鋭い切っ先を持った剣となった。


「平和の象徴であるクルタナを、魔法をもって戦の象徴へと革新させる。平和と戦乱の全てを統べる力を持つ……それが、私たちエルストルの家訓ですわっ!」


流麗な剣撃に逃げ場がないことを悟った仮面は、空中へと浮き上がる。

そんな仮面を、ラミネージュはじっと見据えた。


「【リミット・パージ】」


ラミネージュがそう唱えると、銀の筒が、縦に割れる。

筒が地面に落ちると、そこには金と銀でできた、薄く長い長剣があった。

ラミネージュは、それを腰だめに構えた。


「【雷霆纏いし・金色の神よ・稲妻を従えし・勇敢なる戦神よ・力の象徴たる・金剛杵を・我が剣に貸し与えよ】」


雷が、高い音を立てて剣に纏われた。

ラミネージュは、大きく飛翔すると、大きさからは信じられないような剣速で仮面を二つに割った。


それはまるで、空に浮かぶ月を切り裂く、神代の技のようにも見えた――。


着地したラミネージュに、椿は駆け寄る。

そして、どちらからともなく、ハイタッチを交した。

気のせいかもしれないが、椿は一瞬、ラミネージュが笑ったような気がした。















どっぷりと温泉につかり、料理を食べて、卓球で再戦した。

今度こそはと奮戦し、二度目は奈津達の勝ち……とはいかず、椿たちの連勝となった。


ここにいるのは、GWの四日目まで。

夜を過ごし、朝を迎え、かけがえのない、思い出を作った。


帰りの車の中で、椿たちはすっかり眠っていた。

遊び疲れたのか、目を覚ます様子はない。

だが、のっそりと、ラミネージュだけが起き上がった。


椿の左隣の奈津は、椿の肩に寄りかかって寝ていた。

レイアは、中央の席で、なにやらうなされている。


ラミネージュは、ゆっくりと椿の横へ移動すると、その横顔をじっと見つめる。

そして、大きく欠伸を一つ零して、椿の肩へ寄りかかった。


ラミネージュが寝入った頃、レイアも寝ぼけて奈津の隣に移動して眠る。




学院に到着するまでの間、離れることなく寄り添う四人。


エルストル家の使用人である、運転手の女性は、バックミラーでその姿を確認すると、優しく微笑んで車の速度を落とした――――。


今回、次回とやや短めです。

お話的には、八話への繋ぎです。


プロットががっちりと固まっている九話までは、早めに投稿できるかと思います。

それ以降は、あまりしっかりとしたプロットは出来ていないので、まだなんとも言えません。


それでは、ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

次回もまた、どうぞよろしくお願いします。

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