第二十話 虹睨祭編⑤ HERO
黒い服に、どくろの仮面。
手には三叉の槍を持ち、耳は鋭く尖っている。
黒い戦闘服は、悪役の証。
戦闘員と呼ばれる姿をした彼女たちは、自分たちの親玉の指示の元、的確に動く。
幼い少女を捕まえて、親玉は高らかに声を上げた。
「おーっほっほっほっ……この娘は、あたしたちがいただくわっ!」
どこかで聞いたことがある笑い声だが、中身は当然その人物ではない。
茶色の髪を豪華に飾り付け、悪の女王様といった出で立ちで笑い声を上げる少女。
赤谷桃乃の、悪役姿だった。
Flame,Plus
十月十二日の火曜日。
虹睨祭の、二日目である。
椿たちは、朝早くから屋上に集まっていた。
最後のリハーサルと、衣装の最終調整のためだった。
衣装は、戦鎧と同じように自動装着が可能だ。
ブレスレットのボタンを押しながらキーワードを唱える。
すると、戦鎧と同じように、自動で装着されるのだ。
ちなみに、劇の時間の都合上、変身してから登場となるので、無駄な機能だったりする。
その最終調整を早々に済ませると、椿たちは奈津の下で円陣を組む。
「全力で、全身全霊を込めて、とにかく楽しもうっ!」
『おぉーっ!!』
一息で、気合いを入れる。
この日のための練習をしてきた。
ヒーロー研が屋上を使えるのは、二日目のみ。
ただし、午前と午後で二回も講演することが許されたのだ。
だからといって、失敗して良いと考えているわけではない。
一回目に素晴らしいショーをやって心を掴み、二回目で沢山の人に見て貰う。
そのために、こうして今ここで、気合いを入れ直しているのだ。
全員の準備が整う。
屋上にある移動舞台の、裏側。
その場所で、奈津達は瞑目する。
それはどこか――祈りのようにも、見えた。
「行こう」
奈津の言葉。
返事を返したりはせず、ただ強く頷くことで、意志を示した。
虹睨祭二日目のプログラム。
英雄考察研究会による――ヒーローショーの、幕開けだった。
†
軽快な音楽が鳴り響く。
人々のテンションを引き上げる、アップテンポな音楽だった。
その音楽と劇に、集まった子供達が沸き上がる。
舞台の上では、桃乃が戦闘員に命じてフランチェリカを浚ったところだった。
『みんな!大変だ!』
そう言うのは、ナレーションを努めている奈美だった。
『このままでは、幼い少女が怪人に連れて行かれちゃう!』
幼い少女という言葉に、フランチェリカは不満げだった。
もっとも、劇の最中に顔に出したりはしないが。
『みんなで、私たちの“ヒーロー”を呼ぶんだ!……せーのっ』
ヒーローの名前は、パンフレットで配られている。
それを同伴の保護者が、子供達に教えていた。
『助けて!ヒーローファイブ!』
――どんっ
白い煙。
魔法で起こした爆発を急速集束することで、爆風も発生させずに煙だけを演出として使用する。
その影で、組み体操の扇のようにポーズをとる、五人の姿があった。
羞恥心は、すでに犬の餌にしている五人だ。
「護り固める黒の盾!ブラックシール!」
一番左の、黒スーツ。
口元は出るスーツなので、よく見れば顔の判別ができる。
――神楽だ。
「煌めきたる白き稲妻、ホワイトサンダー」
声を張り上げてはいるが、抑揚がない。
一番右の白スーツ、ラミネージュだ。
「遙か海洋の水飛沫!ブルースプラッシュ!」
左から二番目の青スーツ、レイアだ。
バイザーで目元が隠れてはいるが、それを外せば虚ろな目が見られるだろう。
本気でやるとは誓ったが、この名乗りだけは慣れなかった。
「燃え上がる“炎の翼”!レッドフレイム!」
会場に来ていた、一部の女生徒が沸き上がる。
会の名前を台詞に混ぜる……それが、桃乃の出した条件だった。
右から二番目の赤スーツ、椿が終わる。
リーダーがレッドではないが、細かいことは気にしない。
「疾風怒濤の強き緑!グリーンエア!」
最後の緑スーツ。
中央の奈津が叫ぶ。
『我ら、ヒィーロォーッ……ファイッ!!』
――どどどどどんっ
一斉に、五色の爆発が起こる。
『わぁぁぁあああぁぁぁあぁっっっ!!!!』
子供達も、それに合わせて熱狂していた。
「くっ……忌々しきヒーローファイブめっ!やっておしまい!」
『キーッ』
奇声を上げる戦闘員。
恥ずかしがる者は一人もいない。
日頃の洗脳……教育の成果なのだろう。
「おのれっ怪人“モモーヅノ”めっ!」
「幼い少女は、返して貰いますわ!」
奈津、続いてレイアが台詞を言う。
飛びかかる戦闘員を、魔法の演出をしながらちぎっては投げる。
「そこまでよ!」
「もう、逃げられない」
「観念してくださいっ!」
椿、ラミネージュ、神楽が続く。
桃乃は悔しげに唇を噛むと、自分自身が躍り出る。ボス戦だ。
「平和のために!笑顔のために!僕らは戦う!」
「ぬかしなさいっ!」
激しく見える戦闘を繰り広げる。
最後に桃乃を追い詰め、五人で一斉に手を前につきだした。
『必殺!ヒーローソウルッ!』
五色の光が弾丸となり、桃乃を襲う。
桃乃は断末魔の叫びと共に、舞台から逃げ去る。
『みんなのおかげで、ヒーローファイブを呼ぶことが出来ました!みんな、ありがとう!』
ヒーローショーは妙なテンションを維持したまま、かつてない盛り上がりで幕を閉じるのだった。
†
午前の部を終えて、昼食時。
校庭の屋台から焼きそばやお好み焼きを買い集めて、食堂で昼食をとる。
劇中は考えないようにしていたが、いざ終えてみると、恥ずかしい。
顔を赤くして食事をとっているのは、椿とレイアと神楽だった。
椿はヒーロー好きだったおかげで、そこまで顔は赤くない。
だがそれも、長くは続かなかった。
「午後の部でさらに人は増えるだろうね」
「そうですわね……うぅ、お母様が来られるのは明日のみで良かったですわ」
急な仕事が入ったらしい。
偉い人は、そう簡単に休めない。
「ラミの妹さん、すごく形容しがたい顔してたね」
「――うん」
セレナージュは、“すごく酸っぱいレモンだと思って食べたらステーキだった”というような、形容しがたい表情をしていた。
「私は、おじいちゃんもおばあちゃんも来るのは明日だから、ちょっと安心かな」
身内に見られない、というのは、やはり嬉しかった。
恥ずかしいのだ。
焼きそばを食べて水を飲み、ふと顔を上げる。
視線の先には、一人の男性。白に近い金色の髪と、鳶色の目。
大きな身体と、鋭い目に、怖い顔。
とてもまっとうな道を歩いているように見えないその顔が、少しだけ歪む。
笑みと言うには凶悪な表情をして、すぐに口元を抑えて顔を逸らす。肩が震えていた。
「炎の……くくっ……翼!」
見ていたのだ。
あの劇を、しっかりと。
「あ、ぅ」
椿は、顔から火が出るのではないかと勘違いするほどに赤くなった。
奈津はそのやりとりに首をかしげているが、レイアは椿の気持ちがよくわかっていた。
わかっていたからこそ、目を逸らして震えていた。
「れっ、れっど……くはっ、もうだめだ、いや、負けたよ……くくくっ」
腹を抱えて、笑い出す。
あんまりといえばあんまりな笑い方に、椿は涙目だ。
「大丈夫?椿?」
「あぅあぅあぅ」
唸り声を上げて固まる椿に、ラミネージュが声をかける。
「ちゃんとお父様に、伯父様が私の友達を口説いてセクハラしてたって、伝えておくから」
「おいっ!」
思わず、イストが声を張り上げる。
椿は真っ赤な顔で俯いていて、確かに傍から見るとセクハラだ。
「ちっ……わかったよ、今は笑はねぇ」
そう、“今”は、である。
「帰ってから、ビデオ鑑賞と洒落込むからな」
身内のみではあるが、撮影は許可されている。
イストはラミネージュの伯父なので、撮影が可能だった。
「な、なん、なん」
「あ?アルト――そこのガキの父親に、頼まれたんだよ」
イストは、弟であるアルトに、娘の勇姿を撮影して欲しいと頼まれたのだ。
自分も、午後から見に行くのにも関わらず。
「わたし、もうだめ、らみ、もうだめだ」
「……セクハラチンピラ」
「……おまえ、ほんっとうに言うようになったな」
鋭い目で自分を睨み付けるラミネージュの視線に、イストは顔を引きつらせた。
「はぁ……まぁいい。個人的には、遙か海淵の水飛沫が、一番面白かったしな。意味がわからなくて」
大きな爆弾を落とされて、レイアが机に突っ伏す。
確かに意味がわからない。
「っと、俺は飯喰わなきゃなんねぇからもう行くが……アルトに、なんかあるか?」
「セレナに伝言を頼んだから、大丈夫」
それだけ聞くと、イストは「そうか」と一言を言ってその場を去る。
時折、思い出し笑いが聞こえてきて、椿とレイアはその度に顔を赤くした。
「くくっ……ブラックシール!」
気にいったのか、聞こえてきた台詞に、一生懸命聞かないようにしていた神楽が、ついに撃沈するのだった――。
†
午後の部を終えても、悟が現われることはなかった。
結局、最後まで顔を見せることがなかった悟に、奈津はどこか寂しそうにしていた。
翌日の準備のために少し遅くまで残って、それから寮に引き上げる。
すっかり暗くなってしまった寮への帰り道で、二人は洋子の姿を見つけた。
「あれ?どうしたんですか?浅川さん」
「か、神崎さんっ……佐倉さんっ」
洋子は、椿の声に振り返ると、急いで走ってきた。
だが、片目が見えないのに暗い道を走ったせいで、転んでしまう。
「だ、大丈夫?」
まず奈津が駆け寄って、椿もすぐに追いついた。
洋子は焦ったような表情で、奈津と椿に縋り付く。
「悟が……悟が、どこにもいないんですっ!」
奈津と椿は、顔を見合わせる。
二人は、謎の邪霊の姿を見ている。
奈津や椿なら問題のない相手でも、子供にとっては脅威だ。
「椿、浅川さんをお願い。僕は校舎を探してくるから、椿は寮と……あと、他の人にも頼んで周辺を探して」
「奈津……うん、わかった。気をつけてね」
「うん……行ってくるっ!」
奈津は、校舎への道を戻るように、全速力で走り出した。
椿もその後ろ姿を見送ってすぐに、洋子に肩を貸して、寮への道を急いだ。
†
暗い校舎の、一部屋。
椿たちの教室で、悟は膝を抱えていた。
ヒーローショーを覗いて、見ていることが辛くなり、人がいなくなった後にこの教室に入ったのだ。悟がヒーローだと聞いた、少女の教室に、気がついたら入っていた。
やがて暗くなって、帰れなくなった。
姉に迷惑をかけていることはわかるが、足は動こうとしなかった。
――カタ
物音に身体を震わせる。
周囲には何もいない。そのことが、悟の内側にくすぶる恐怖心を、加速させていた。
――カタカタ
再び、鳴る。
その音に、身を震わせる。
――ガラッ
「っ」
突然開いた扉に、思わず息を呑む。
物音が止んだことに安堵の息を漏らしつつ、顔を上げた。
そこに立っていたのは――奈津だった。
「ここにいたんだ……お姉さんが、心配してたよ」
奈津が近づいてきて、しゃがみ込んで悟と視線を合わせる。
悟は目を合わせて、すぐに逸らした。
立ち上がろうとしない悟の様子にため息を吐くと、奈津は苦笑いをした。
そして、小さく息を吐いてから、悟の隣りに座り込んだ。
「僕もね、昔は――――“ヒーローなんて、どこにもいない”って、思ってたんだ」
「え……?」
自分がヒーローだと胸を張っていった少女の、意外な言葉。
その言葉に、悟は目を丸くした。
「僕にはね、昔、良く一緒に遊んだ男の子が居たんだ」
それは、独白のようだった。
悟に聞かせるためだけではない。
自分自身に、もう大丈夫だと語りかける行為。
もう――前を向いていられるという、宣誓。
「透君って言うんだけどね。気弱で赤面性、人見知りに引っ込み思案だった僕の手を取って、よく一緒に遊んでくれた。……僕の、幼なじみで、友達」
その焦げ茶色の目に映るの、遠き日の残照。
戻ることない、儚い蜃気楼。
「透君はいつも、“ヒーローになるんだ”って、胸を張ってた」
その眼差しに釘付けになりながらも、悟はじっと話を聞く。
「助けを呼ぶ声を聞きつけて」
――誰かが、助けてって叫ぶんだ。
「瞬く間に悪人を打ち倒し」
――あっという間に、悪い奴らをやっつけて。
「多くの人に、笑顔を与えてくれる」
――みんなに、ありがとうって、笑ってもらう。
「『――“ぼく”はそんな、ヒーローになるんだ』……ってね」
もう、記憶の中でしか、夢を語ってくれない男の子。
もう、記憶の中でしか、笑ってくれない――親友。
「ヒーローは、そういうものだからーって、笑ってたっけ」
そう言って笑う奈津の姿は、どこか楽しげだった。
「なんだよ、そいつ」
「――――でもね」
悟の言葉を遮るように、奈津が続ける。
その寂しげな横顔に、悟は再び声を詰まらせた。
「透君が、あいつら――邪霊に襲われたとき。どんなに助けを求めても、ヒーローは来なかった」
喉が潰れるほど声を張り上げて、泣き叫んでも……結局誰も、助けには来なかった。
「一人だけ、助かって、ヒーローなんて居ないんだって“私”は一人でいじけてた」
部屋にこもって、泣いていた。
突然変わった周囲の目、移ろう環境。
その全てが、奈津に絶望と失望を、与え続けていた。
「でもね、ある日、思ったんだ」
――化け物めっ!
「このままじゃ、だめだって」
――なんで、おまえが!
「こうしていじけているだけじゃ……」
――おまえだけが、生き残ったんだ!
「……何も変わらないんだって」
――なんで……透なんだっ。
頭に響く声は、男の子の、兄のものだった。
散々奈津に当たり散らして、我に帰って謝って、その頃には、奈津は手遅れなほど多くの人に“化け物”と呼ばれていた。
結局、騎士を目指して、道半ばで夢を閉ざした――憧れだった人。
新たなる絶望の中で奈津が思い浮かべたのは、幼なじみの男の子の、笑顔だった。
閉じこもった部屋の中で見た、特撮ヒーロー。閉じた世界の中で、彼女はヒーローと幼なじみを、重ねていた。
「ヒーローが居ないって、絶望するのは簡単だ。簡単で、楽なんだ」
その声に、その意志に、その夢に。
悟の心は呑み込まれていく。
「でも、そこで終わったら、前に進めない」
前を向かなければ、彼女は閉じた世界から、抜け出すことが出来なかった。
「ヒーローがいないなら……ヒーローに、なればいい」
決して大きくない声。
なのにその声は、不思議な程強く響いた。
「もう、“僕”や“私”のような人が、でないように」
そこで言葉を一度句切る。
そして、大きく息を吸った。
「――――悪の組織に改造された身体を使って、助けを求める人を救い出す。颯爽と駆けつけて、みんなに笑顔を与えてくれる、正義の味方」
奈津は、立ち上がって、前を見る。
悟は思わず、奈津を見上げた。
「そんな“ヒーロー”に――――“僕”はなる」
そして――振り向いて、悟の目を見て……笑った。
「なってやるって、決めたんだ」
差し出された、手。
その手を、悟は無意識のうちに掴んでいた。
その笑顔に――見惚れていた。
「さ、帰ろうか?」
「……うん」
短く、答える。
奈津が手を握ると、それに応えるように、悟も握り返した。
――カタ
そんな二人の間に届く、音。
奈津は悟を引き寄せると、自分の後ろに庇う。
――カタカタ
大きくなる音に警戒して、奈津は下がる。
――カタカタカタカタカタ……ごとん
廊下に出た奈津と悟を追いかけるように、飾られていた白い壺が、転がってきた。
背を向けるのは危険だと判断して、奈津は悟を庇いながら、壺を睨み付ける。
『オォオォォ』
壺から、声が聞こえる。
怨霊を連想させる、暗い声。
『オォオォォォォォオオォオォッッ!!』
壺から黒い煙があふれ出して、それが壺を中心に凝縮する。
分散する力を、本体を中心にして集めた、その壺の本当の姿。
――邪霊“魔を呼ぶ壺”の、真の姿だった。
「――悟君」
「な、なん、だよ」
強がる悟を下がらせて、奈津は一歩、前に出た。
「見せてあげるよ――本当の、“ヒーロー”を」
ショーでは見られない、本当のヒーロー。
その言葉に、悟はしっかり頷いた。
未だ形が固まらずに、蠢く邪霊。
その前で、奈津は緑のバックルを取り出した。
腰に当てると、黒いベルトが伸びて、巻き付く。
腰の横の両側に、銀色のパーツが出現する。
これが――スイッチだ。
右腕を、左斜め上に突き出す。
左腕は腰に当てて、握り拳を作る。
ゆっくりと、弧を描くように、右腕を右側に持って行く。
「【変――――」
右斜め上で一度停止させて、勢いよく腰に右腕を持って行く。
「――――身】」
左腕を右斜め上に突き出すのと同時に、右腕を右腰に打ち付ける。
すると、バックルが左右に展開して、白銀のプロペラが回転した。
奈津の周りを緑の粒子が舞い、そして、集まる。
目元のみを隠した黒いバイザー。
黒いスーツを貴重に、緑の装甲を嵌めた戦鎧。
右脚に輝く精霊石が嵌められる。それは、両足でセットの装霊器。
「“ヒーロー”」
悟の呟きに呼応するように、奈津から風が吹く。
力強くて、優しい風だった。
「【大気を統べる風の主よ・我が身体に宿り・我が身に烈風の加護を与えん】」
詠唱と共に、バイザー越しに両目が紫色に輝いた。
助けを求める子供の前で、ヒーローが“変身”した。
それならば、あと、やることはたった一つ。
クラウチングスタートの形をとる。
身体能力の強化により、一歩の力が何倍も増幅されて、踏み込む度に廊下が陥没する。
「一撃必殺」
貫通力に特化された魔法と、身体能力強化の力。
二つの力が混じり合い、邪霊にぶつかる。
『グゥオォォォォオオォォォォッッッッ!?!?!!』
漸く形を為したが、もう遅い。
誰よりも早く何よりも鋭いその蹴りが、邪霊の身体を貫いた。
「正義は――――勝つ」
塵となって消える邪霊の向こう側。
余波でぼろぼろになった廊下の中心で――奈津は、悠然と佇んでいた。
「今度こそ、帰ろう?」
「――――うん」
光の宿った目で見上げる悟の手を取ると、奈津は戦鎧を解除して歩き出す。
窓から見える校庭には、彼女の大事な友達が、息を切らして立っていた。
「早く戻って、安心させてあげないとね?」
悟は、校庭に集まる人の中に、自分の姉の姿を見つけて、こくりと頷いた――。
これで、二章の大きなイベントは、残すところあと一つになりました。
次回で、虹睨祭編は終了です。
少し時間がとれるかわからないので、次回はいつあげられるとは言えません。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
次回も、よろしくお願いします。