第二十話 虹睨祭編④ 龍冠喫茶
十月十一日、体育の日。
祝日であるこの日、楼城館学院の空に、虹で描かれた龍の立体映像が、空に浮かんだ。
破裂する度に虹の円環を作り出す、小さな花火が青空に浮かぶ。
その度に、チケットを手に持った観光客達が、目を輝かせた。
伝統と格式のある楼城館女学院の文化祭。
――虹睨祭に参加する。そう言えば、学校も会社も公欠扱いとなる。
そのため、泊まり込みでこの三日間を過ごすと決めた社会人も、少なくはない。
楼城館女学院二大行事の一つ。
秋の醍醐味にして、伝統と技術の結晶。
――――虹睨祭の開幕である。
Flame,Plus
階段を上り校舎を進むと、西洋風の洒落た看板が見える。
派手すぎずに白い看板に空色の文字で、その店の名前が刻まれていた。
【紳士喫茶“Dragon Crown”】
女学院であるはずなのに、“紳士”の文字を冠するその喫茶店に足を踏み入れると、そこはまさしく白亜の宮殿、紳士達による白銀の薔薇園だった。
ある女生徒は、その場所に踏み入れて、息を呑んだ。
男性などいない、女学院。家でもあまり男性との接触は、許されていない。
そんな少女が見たのは、見目麗しい美少年達だった。
眉目秀麗とはこのことか。
首の後ろで長い金の髪を一括りにした、目元を隠した男性が、動きを固めた少女の前に立った。
男性は控えめに微笑むと、少女に向かって手を差しのばした。
「席までご案内しよう。Lady」
すっと手を取られ、白いテーブルの側に置かれた洒落た椅子に、案内される。
椅子を引かれて、ごく自然な動作で座る。そこで漸く、少女は我に帰った。
「あ、あの……」
「どうした?あぁ、メニューか。ゆっくり、選ぶと良い」
メニューを手渡される。
黒いベストの執事服。
手首まで覆う白い手袋。
きめ細やかな肌が目に入る度に、少女は胸の高鳴りを覚えていた。
「おっ……」
お名前は?
そう聞こうとしたが、少女は上手く言葉を紡げずに、詰まってしまう。
恥ずかしげに上目遣いで男性を見ると、男性は見守るように、微笑んでいた。
――彼に見られていると、どきどきする。
少女は顔を俯かせる。
そんな少女に、男性は小さく呟いた。
「折角可愛い顔なんだ……上を向いていないと、もったいないよ」
少女はゆでだこのように顔を赤面させると、メニューから一番高い物を注文し始めた。
もうこれで、四人目の“被害者”だった――。
紳士喫茶“Dragon Crown”――少女に夢を与えてがっぽり儲ける。
そんな、一種のたちの悪いホストクラブのような、店だった。
†
白亜の壁、その内側のベニヤ板の、更に向こう。
簡易厨房で料理を作りながら、料理の受け渡し口から見えるその光景に、椿は顔を引きつらせていた。
ミアが非常に楽しそう。
これはいい。虹睨祭を楽しくしたいというのは、椿にもよくわかった。
だが、仕草がおかしい。
いたいけな少女を陥落させるのに、全力を使っているようにしか見えなかった。
「うっひゃー……ノリノリだね、ミア」
「う、うん……すごいね」
鍋を振っていた奈津が、感嘆の声を零した。
椿も、それに頷く。相変わらず顔は引きつっているが、仕方がないだろう。
「そろそろ交代しよう」
ミアがそう声をかけたので、奈津が出る。
椿は休憩を挟んでから、フロアに移動するのだ。
衣装は、白のスーツだ。
緑色のネクタイと着崩したスーツは、楼城館女学院の制服の男性用に見えた。
いちいち入り口で固まる客に悠然と近寄ると、声をかける。
「おねーさん」
焦げ茶のショートヘアの美少年。
厚底の靴を使って背を高く見せていることもあって、中性的な美少年といった風貌を、演出させていた。
「は、はい」
「席、案内するよ」
気軽に片手を出して、女性の手を取る、
決して疚しくない仕草に、女性は胸がどきりと鳴ったことを、自覚する。
「何食べたい?」
「え、えっと」
「僕はだめだよ?」
「えぇっ」
「クス……じょーだん、だよ」
すっかりペースに乗せられて、女性は翻弄されるのだった。
椿は休憩に外に出る寸前にその様子を見て、ミアを見たとき同様に顔を引きつらせた。
だが、後で自分もやらなければないこと。
ただのウェイトレス……ウェイターだったはずなのに、どこで間違えたのか。
椿は、気にしても仕方がないことだ、と頭を振って、自分を誤魔化すのだった。
†
休憩時間の間に、他の場所を回っておく事になった。
午前中はまだ良いが、午後からは客足も増えて、忙しくなる。
パンフレットを手にとって、一番近いところから見に行く。
最初は、レイアだ。その次に桃乃で、ラミネージュと洋子のクラスへ行く。
これで、休憩時間は終わるだろう。
パンフレットをしまうと、階段まで歩いて行く。
レイアの出し物は、一つ上の階なのだ。
「えっ、こっちで合ってる……あれ?」
「ち、違うよっ!あっちで……あれ?」
階段の近く、パンフレット見ながら首をかしげる二人組。
白に近い金色の長い髪と鳶色の目の少女と、黒いセミロングの髪に黒い目の少女。
どうにもうまくいかないという表情で頭を抱える少女達だった。
「どうしたの?」
そんな少女達を放っておくことが出来ず、椿はつい、話しかけてしまった。
「あ、あの、私たち、学園祭を見て回りたいんですけどっ」
「いやー二人とも、恐ろしい程方向音痴なんですよ」
黒い髪の少女に続くように、金髪の少女が明るく続いた。
陽気に言っても、目は泳いでいた。
二人は、普通に見て回りたかったらしいが、何度も同じ場所をぐるぐると回っていた。
おかげで、同じ店にしか行けないのだ。
「どこか、新しいお店を回りたいんですけど……」
「いやぁ……どうにもうまくいかないんですよね」
そう言って、困ったように笑う少女に、椿が既に回っている店を聞く。
すると、少女は戸惑いながらも、教えてくれた。大体、この下の階をうろうろとしていたようだ。
階段も上ったり降りたりしていたようだが、何故か移動は一個下の階のみ。
天性の方向音痴が二人集まると、こうなる。
「ここへは、どうやってきたの?」
「お父さんと伯父さんに連れてきて貰ったんです」
「でも、おじさま方、学院長先生のところへ挨拶に行っちゃたんです」
あっけらかんと答える金髪の少女と、肩を落とす黒髪の少女。
正反対だが、相性は良さそうだ。
「そっかぁ……ねぇ、それなら、私と一緒に回ろうか」
「……えぇっ!?いいんですか!?」
金髪の少女が、そう言って驚いた。
黒髪の少女は、口をあんぐりと開けている。
「うん……といっても、休憩時間の間だけだけど……どう?」
「お、お願いしますっ!」
「後で絶対、お姉さんの店にも行きます!」
休憩終わりに着いてきた方が確実に早いし、少女達もそのつもりのようだ。
椿はそんな少女達に、安心させるような笑みを作った。
「私は椿。あなたたちは?」
名門大家だったら、名乗るだけで素直に楽しめなくなる。
そんな風に考える人もいるということを、椿はレイアから聞いたことがあった。
だからあえて、名前だけ名乗る。名前だけで良い、といっているのだ。
少女達はそれを読み取ると、互いに顔を見合わせた。
そして、花開いたように、笑う。
「私はセレナー……セレナですっ」
「鈴ですっ……よろしくお願いしますっ」
金髪の少女――セレナと、黒髪の少女――鈴。
二人が迷わないように横に着くと、椿は案内を始めるのだった。
†
レイアの教室は、展示だった。
あらゆる魔法を使用して作った人形を展示する、という、聞いただけではよくわからない場所だ。
そして、椿は行ってみて、理解する。
「椿先輩っ!人形が燃えてますよ!」
「あわわわ、分身したっ!?」
二人は、楼城館女学院に進学するといって、椿を“先輩”と呼んでいた。
そんな後輩二人から目を話さないようにしながらも、椿は人形達を見る。
燃えている着せ替え人形。
帯電しているカバのぬいぐるみ。
忍者のフィギュアは、時折分身していた。
「あら、椿ではありませんか」
そんな人形達を見て冷や汗をかいていた椿に、人形の魔法管理をしていたレイアが話しかける。レイアの姿を見て、セレナ達は素早く椿の影に隠れた。
人見知りをする方ではないが、警戒をするに値する、奇っ怪な部屋だからだった。
「どこから拾ってきたんです?……まぁ、どうせ絡まれたか迷ったかで、放っておけなかったのでしょうけれど」
そう言って肩を竦めるレイアは、実によく椿を理解していた。
椿は図星をつかれて苦笑いをし、そんな二人の掛け合いを見て、セレナ達は警戒を緩めた。
「レイアのお人形さんは?」
「あれですわ」
レイアが指で示したのは、教室の一番奥だった。
そこに鎮座するのは、西洋風のビスクドールだった。
軽くウェーブのかかった金色の髪。
その髪を纏めるのは、水で出来た不思議なリボン。
青を基調とした白いドレスに身を包み、水で出来た台座に可愛らしく座っている。
「メアリーちゃんMk-Ⅱですわ」
「まーくつー……」
椿に通じるところがある、ネーミングセンスだ。
決めたのは、リリアである。彼女が全ての人形の命名係だった。一種の公開処刑に思えた。
ちなみに、なんの変哲もない人形が一体あるが、地味すぎて誰の目にも止まっていない。
一応光学迷彩がついた、優れものなのだが、作り主の気質が関係しているのだろう。
「あんまり、巻き込まれすぎるんじゃありませんことよ?」
「だ、大丈夫だよー」
そうは言いつつも、あまり自信のない椿だった。
†
続いて、その更に上の教室を使っているのが、桃乃達のH組だ。
階段を上って、歩く。すると、大きな看板が見えた。
【とき☆めき――ふぁんしーあにまる】
何のことだろうと、椿は首をかしげた。
造化で飾られた、ファンシーな看板。
非常に入りづらい雰囲気だ。
それでも意を決して中に入る。
すると、解説をしていた桃乃が椿たちに気がついた。
「あら?……神崎さん、来てくれたのね」
「う、うん。ここは……なにを?」
どこか嬉しそうな様子の桃乃の出迎えを受けながら、椿がこの教室で行われている出し物について訊ねた。
「ここは、あの装置を使って、デフォルメされた動物の幻影を作り出して、楽しむところよ。人の資質によって、出てくる動物が違うの」
そう言って、台座に水晶のような宝石が嵌められた装置を指さした。
そこへ一般客が手をかざすと、ファンシーなパンダが、白い煙とともに出現した。
第一印象から予想していたよりもずっと、面白そうな出し物だった。
「神崎さん……と、後ろの子も、やってみる?」
「あ、うん。ほら、セレナと鈴も」
椿に手を引かれて、二人は装置に手をかざした。
すると、淡く輝いて、白い煙が音を立てて膨らんだ。
セレナの正面に現われたのは、羽のついた動物――精霊の、グリフォンだった。
同じく、鈴の前に現われたのは、大きな鷹だった。
二体とも可愛らしくデフォルメされていて、本来の姿に宿る“恐ろしさ”は感じなかった。
幻影なので、当然触れることは出来ない。そのことで落ち込む二人の横で、椿も装置に手をかざす。
すると、やはり白い煙と共に、赤い竜が出現した。
竜はぱたぱたと羽を動かすと、すぐに消えていった。
「本質で竜って……案外、気性が荒かったり?」
「でも、のんびりした竜に見えましたよ」
椿は可愛らしい竜が消えたところを名残惜しそうに見てから、桃乃とセレナの言葉に苦笑いした。本質が現われるといって今までの邪霊でも出てきたら、目も当てられない。
そういう意味では、助かったと言えた。
椿の肩の雅人も、どこか安心したように見えた。
†
桃乃の出し物を後にすると、今度は再び降りる。
椿の教室に帰れるように調整された道順だ。どのクラスも自分の教室でできればもっと早く回れるのだが、教室の確保は早いもの順である。
早く決まった椿のクラスが、自分の教室を確保することが出来たという、それだけの話だった。
ラミネージュのクラスは、射的だった。
水晶に込められた魔力を使って、一般人でも魔法が放てる……という見出しだが、実際に魔法が使えているわけではない。
これもまた幻影の一種で、発射されたBB弾を光弾のように見せる幻影を纏わせているだけだ。だが、銃型の競技用装霊器を象ったモデルガンから放たれる光の弾丸は、一般人に未知の感覚を与えていた。
また、この射的はそれでは終わらない。
ファンシーに改良された邪霊を撃ち抜くと、ポイントが加算される。
決められた弾数――財力で解決できてしまう人が多くいるので、決められている――の内でどれだけポイントを得ることが出来るか。それで、景品が貰える。
同時に、邪霊に混じって現われる、ファンシーな黒猫。
これを撃ってしまうと、ポイントがマイナスされる。
合計マイナスポイントが一定数値貯まると、罰ゲームが施行される。
その罰ゲームは、料理が下手な生徒が作った、健康には問題はないが味と見た目の悪い料理を食べる……というものだった。
ただこれだけ聞けば、多少味と形が悪くても、お嬢様の手料理。
わざと失敗して食べたいと思う男性客もいるだろう。
だが、この料理は全て――――ラミネージュの、力作だった。
ラミネージュの料理について未だ詳しく知らない椿は、どれほど恐ろしいことなのか理解していなかった。これからも、理解できる機会は来ないだろう。たぶん。
射的のために銃を選んでいると、椿は後ろに気配が生まれたことに気がついて、振り向いた。
「椿」
「あっ、ラミ」
椿が笑顔で名前を呼ぶと、ラミネージュは少しだけ、照れたように頷いた。
そんなラミネージュに、高速で近づく影があった。
「お姉ちゃんっ!」
「っ……セレナ?」
その影は、セレナだった。
セレナの後ろでは、ラミネージュと親しげに話す椿を見て、鈴が驚いた顔をしていた。
「あれ?ラミの妹さん、だったの?」
「私としては、お姉ちゃんと仲が良さげな先輩の方にびっくりだよ」
そうは言うが、椿の方もかなり驚いていた。
更に言えば、イストが来ていると言うことにも、驚いていた。
彼女を連れて来た伯父というのは、イストの事だろう。
「なんだか、これなら名乗っても良かったみたいだね、鈴」
「う、うん、そうだね……驚いちゃった」
展開について行けずに首をかしげるラミネージュをよそに、セレナと鈴は改めて頭を下げた。
「千堂・セレナージュ・オールアクセンですっ」
「柿沼鈴です。改めて、よろしくお願いします」
丁寧に頭を下げる二人に、椿は慌てて礼を返した。
「こちらこそっ……私は神崎椿。ラミの友達……って、柿沼?」
「あっ、はい。父は、有名な戦鎧職人で――」
父親。
そう、この可憐で大人しい少女は、あの髭達磨と称しても間違いではない、荘厳の娘なのだ。ちなみに、奥さんも美人だった。勝ち組である。
どこでどんな縁があるか、解らない。
そう感心しながら、椿は自分と荘厳の関係を、鈴に話した。
「それは、なんというか、父がご迷惑を……」
「ううん。荘厳さんには、戦鎧や装霊器のことですっごく助かってるから、ね?」
「そう言っていただけると、助かります」
鈴が妙に申し訳なさそうにしているのは、説明中にラミネージュが、奈津と喧嘩友達のようだということを話したからだった。虹睨祭後の夫婦喧嘩が確定した、瞬間である。
セレナ――セレナージュが、ラミネージュに自分たちの事情を話し終える。
それを見計らって、椿たちはラミネージュに説明を聞き、射的を開始した。
幸いなことに、ラミネージュの料理を食べてしまうことは、なかった――。
†
椿の教室の前に到着する。
すると、二人は看板を見上げて呆然とした。
紳士喫茶の意味がわからないのだ。
「待っていてくれれば、私が接客するけど……どうする?」
「いいんですか?」
「それなら、お願いできますか?」
「うん。任せて」
椿が、着替えるために教室へ入っていく。
着替えも全て、厨房の端で行うのだ。
その間、セレナージュ達は周囲を観察していた。
好奇心溢れる様子で入った女性が、どこか夢見心地な様子で出てくる。
中で何が行われているのか、まったく理解できない。
「どうぞ」
「はいっ」
「は、はい!」
椿に呼ばれて、慌てて中へ入る。
するとそこには、喫茶店というよりも、洒落た軽料理屋のような風景が広がっていた。
名家出身という訳ではない鈴は、普通の喫茶店くらい、行ったことがある。
だから、普通と“ここ”を、見比べることが出来ていた。
喫茶店とは、もっと質素な物だ。
決して、上品な銀細工や純白の壺がよく似合う場所ではない。
白亜の壁とは一体どういう事なのか、鈴はわからず首をかしげていた。
「お待たせ、さ、座って」
「あ――」
「――へ?」
黒い長い髪を、ポニーテールにして、きっちりと上品なスーツに身を包んでいる。
男性らしい仕草と、凹凸の少ない体型。白い手袋で覆われた細い指と、どこか力強さを感じさせる瞳。肩の子猫も、しつかりと蝶ネクタイをしていた。
意図的に出されたやや低めの声は、美しいボーイソプラノの様で、心地よく耳に響く。
控えめな笑みの間から見える、白い歯。甘い言葉でも囁かれたら、くらりと来てしまいそうな瑞々しい唇。
一目で女性だとわかる程度にしか、改造していないのに、それを口に出させない、男装の麗人。今まで見てきた姿とは百八十度違う雰囲気で、椿がそこに立っていた。
「顔が赤いけど……熱、かな?」
「ひゃうっ!?」
思わず赤面していたセレナージュに、椿は自然な仕草で額を合わせた。
どこか手慣れた姿には、百戦錬磨の称号を与えたくなる。
「うん?……大丈夫、みたいだね」
椿はそう言うと、二人を先導する。
さりげなく相手を気遣うその性格は、男性として見ると実に素晴らしい好青年だった。
「何か欲しい物はある?」
「え、えーと」
迷いつつも、二人は拙い口調で注文した。
「それなら、少しだけ待っていて」
無言で何度も頷く二人を見て、椿は薄く笑う。
そして、二人の頭を優しく撫でると、立ち上がった。
「うわっ……私、顔熱い」
「うん、私も、すっごく熱い」
男性に免疫などあるはずもなく、二人は顔を赤くする。
セレナージュはともかく、鈴まで免疫がないのは、間違いなく荘厳の過保護が原因だった。
親ばかなのだ。
「お待たせ」
そう言うと、椿は二人が頼んだスコーンとパンケーキを置く。
そして、何気ない動作で、紅茶を二つ置いた。
「あ、あの、私たち、紅茶なんて頼んでませんよ?」
「これはサービスだよ。二人に出会えた今日、この日の記念に――貰ってくれる?」
ちなみに、素である。
折角未来の後輩に出会えたのだから、先輩として奢ってあげたかったのだ。
二人は口々に「ずるい、なんだかわからないけど、ずるい」と呟きながら、笑顔で見つめる椿の前で、紅茶を飲んだ。
やがて椿と別れた二人は、喫茶店に並ぶ少女達を見て、生暖かい視線を送った。
彼女たちは、確実に自分たちの、二の舞になるのだから……。
虹睨祭の、一日目。
この日は、喫茶店が最高の賑わいを見せることになった――。
今回で、虹睨祭一日目。
あと二回で、虹睨祭編は終了です。
その後、二章のスパートに入ります。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
次回も、よろしくお願いします。