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Flame,Plus  作者: 鉄箱
30/42

第二十話 虹睨祭編④ 龍冠喫茶

十月十一日、体育の日。

祝日であるこの日、楼城館学院の空に、虹で描かれた龍の立体映像が、空に浮かんだ。


破裂する度に虹の円環を作り出す、小さな花火が青空に浮かぶ。

その度に、チケットを手に持った観光客達が、目を輝かせた。


伝統と格式のある楼城館女学院の文化祭。

――虹睨祭に参加する。そう言えば、学校も会社も公欠扱いとなる。


そのため、泊まり込みでこの三日間を過ごすと決めた社会人も、少なくはない。


楼城館女学院二大行事の一つ。

秋の醍醐味にして、伝統と技術の結晶。


――――虹睨祭の開幕である。











Flame,Plus











階段を上り校舎を進むと、西洋風の洒落た看板が見える。

派手すぎずに白い看板に空色の文字で、その店の名前が刻まれていた。


【紳士喫茶“Dragon Crown”】


女学院であるはずなのに、“紳士”の文字を冠するその喫茶店に足を踏み入れると、そこはまさしく白亜の宮殿、紳士達による白銀の薔薇園だった。


ある女生徒は、その場所に踏み入れて、息を呑んだ。

男性などいない、女学院。家でもあまり男性との接触は、許されていない。


そんな少女が見たのは、見目麗しい美少年達だった。


眉目秀麗とはこのことか。

首の後ろで長い金の髪を一括りにした、目元を隠した男性が、動きを固めた少女の前に立った。


男性は控えめに微笑むと、少女に向かって手を差しのばした。


「席までご案内しよう。Lady」


すっと手を取られ、白いテーブルの側に置かれた洒落た椅子に、案内される。

椅子を引かれて、ごく自然な動作で座る。そこで漸く、少女は我に帰った。


「あ、あの……」

「どうした?あぁ、メニューか。ゆっくり、選ぶと良い」


メニューを手渡される。

黒いベストの執事服。

手首まで覆う白い手袋。

きめ細やかな肌が目に入る度に、少女は胸の高鳴りを覚えていた。


「おっ……」


お名前は?

そう聞こうとしたが、少女は上手く言葉を紡げずに、詰まってしまう。

恥ずかしげに上目遣いで男性を見ると、男性は見守るように、微笑んでいた。


――彼に見られていると、どきどきする。


少女は顔を俯かせる。

そんな少女に、男性は小さく呟いた。


「折角可愛い顔なんだ……上を向いていないと、もったいないよ」


少女はゆでだこのように顔を赤面させると、メニューから一番高い物を注文し始めた。

もうこれで、四人目の“被害者”だった――。


紳士喫茶“Dragon Crown”――少女に夢を与えてがっぽり儲ける。

そんな、一種のたちの悪いホストクラブのような、店だった。















白亜の壁、その内側のベニヤ板の、更に向こう。

簡易厨房で料理を作りながら、料理の受け渡し口から見えるその光景に、椿は顔を引きつらせていた。


ミアが非常に楽しそう。

これはいい。虹睨祭を楽しくしたいというのは、椿にもよくわかった。


だが、仕草がおかしい。

いたいけな少女を陥落させるのに、全力を使っているようにしか見えなかった。


「うっひゃー……ノリノリだね、ミア」

「う、うん……すごいね」


鍋を振っていた奈津が、感嘆の声を零した。

椿も、それに頷く。相変わらず顔は引きつっているが、仕方がないだろう。


「そろそろ交代しよう」


ミアがそう声をかけたので、奈津が出る。

椿は休憩を挟んでから、フロアに移動するのだ。


衣装は、白のスーツだ。

緑色のネクタイと着崩したスーツは、楼城館女学院の制服の男性用に見えた。

いちいち入り口で固まる客に悠然と近寄ると、声をかける。


「おねーさん」


焦げ茶のショートヘアの美少年。

厚底の靴を使って背を高く見せていることもあって、中性的な美少年といった風貌を、演出させていた。


「は、はい」

「席、案内するよ」


気軽に片手を出して、女性の手を取る、

決して疚しくない仕草に、女性は胸がどきりと鳴ったことを、自覚する。


「何食べたい?」

「え、えっと」

「僕はだめだよ?」

「えぇっ」

「クス……じょーだん、だよ」


すっかりペースに乗せられて、女性は翻弄されるのだった。

椿は休憩に外に出る寸前にその様子を見て、ミアを見たとき同様に顔を引きつらせた。


だが、後で自分もやらなければないこと。

ただのウェイトレス……ウェイターだったはずなのに、どこで間違えたのか。

椿は、気にしても仕方がないことだ、と頭を振って、自分を誤魔化すのだった。















休憩時間の間に、他の場所を回っておく事になった。

午前中はまだ良いが、午後からは客足も増えて、忙しくなる。


パンフレットを手にとって、一番近いところから見に行く。

最初は、レイアだ。その次に桃乃で、ラミネージュと洋子のクラスへ行く。

これで、休憩時間は終わるだろう。


パンフレットをしまうと、階段まで歩いて行く。

レイアの出し物は、一つ上の階なのだ。


「えっ、こっちで合ってる……あれ?」

「ち、違うよっ!あっちで……あれ?」


階段の近く、パンフレット見ながら首をかしげる二人組。

白に近い金色の長い髪と鳶色の目の少女と、黒いセミロングの髪に黒い目の少女。

どうにもうまくいかないという表情で頭を抱える少女達だった。


「どうしたの?」


そんな少女達を放っておくことが出来ず、椿はつい、話しかけてしまった。


「あ、あの、私たち、学園祭を見て回りたいんですけどっ」

「いやー二人とも、恐ろしい程方向音痴なんですよ」


黒い髪の少女に続くように、金髪の少女が明るく続いた。

陽気に言っても、目は泳いでいた。


二人は、普通に見て回りたかったらしいが、何度も同じ場所をぐるぐると回っていた。

おかげで、同じ店にしか行けないのだ。


「どこか、新しいお店を回りたいんですけど……」

「いやぁ……どうにもうまくいかないんですよね」


そう言って、困ったように笑う少女に、椿が既に回っている店を聞く。

すると、少女は戸惑いながらも、教えてくれた。大体、この下の階をうろうろとしていたようだ。


階段も上ったり降りたりしていたようだが、何故か移動は一個下の階のみ。

天性の方向音痴が二人集まると、こうなる。


「ここへは、どうやってきたの?」

「お父さんと伯父さんに連れてきて貰ったんです」

「でも、おじさま方、学院長先生のところへ挨拶に行っちゃたんです」


あっけらかんと答える金髪の少女と、肩を落とす黒髪の少女。

正反対だが、相性は良さそうだ。


「そっかぁ……ねぇ、それなら、私と一緒に回ろうか」

「……えぇっ!?いいんですか!?」


金髪の少女が、そう言って驚いた。

黒髪の少女は、口をあんぐりと開けている。


「うん……といっても、休憩時間の間だけだけど……どう?」

「お、お願いしますっ!」

「後で絶対、お姉さんの店にも行きます!」


休憩終わりに着いてきた方が確実に早いし、少女達もそのつもりのようだ。

椿はそんな少女達に、安心させるような笑みを作った。


「私は椿。あなたたちは?」


名門大家だったら、名乗るだけで素直に楽しめなくなる。

そんな風に考える人もいるということを、椿はレイアから聞いたことがあった。

だからあえて、名前だけ名乗る。名前だけで良い、といっているのだ。


少女達はそれを読み取ると、互いに顔を見合わせた。

そして、花開いたように、笑う。


「私はセレナー……セレナですっ」

「鈴ですっ……よろしくお願いしますっ」


金髪の少女――セレナと、黒髪の少女――鈴。

二人が迷わないように横に着くと、椿は案内を始めるのだった。















レイアの教室は、展示だった。

あらゆる魔法を使用して作った人形を展示する、という、聞いただけではよくわからない場所だ。


そして、椿は行ってみて、理解する。


「椿先輩っ!人形が燃えてますよ!」

「あわわわ、分身したっ!?」


二人は、楼城館女学院に進学するといって、椿を“先輩”と呼んでいた。

そんな後輩二人から目を話さないようにしながらも、椿は人形達を見る。


燃えている着せ替え人形。

帯電しているカバのぬいぐるみ。

忍者のフィギュアは、時折分身していた。


「あら、椿ではありませんか」


そんな人形達を見て冷や汗をかいていた椿に、人形の魔法管理をしていたレイアが話しかける。レイアの姿を見て、セレナ達は素早く椿の影に隠れた。


人見知りをする方ではないが、警戒をするに値する、奇っ怪な部屋だからだった。


「どこから拾ってきたんです?……まぁ、どうせ絡まれたか迷ったかで、放っておけなかったのでしょうけれど」


そう言って肩を竦めるレイアは、実によく椿を理解していた。

椿は図星をつかれて苦笑いをし、そんな二人の掛け合いを見て、セレナ達は警戒を緩めた。


「レイアのお人形さんは?」

「あれですわ」


レイアが指で示したのは、教室の一番奥だった。

そこに鎮座するのは、西洋風のビスクドールだった。


軽くウェーブのかかった金色の髪。

その髪を纏めるのは、水で出来た不思議なリボン。

青を基調とした白いドレスに身を包み、水で出来た台座に可愛らしく座っている。


「メアリーちゃんMk-Ⅱですわ」

「まーくつー……」


椿に通じるところがある、ネーミングセンスだ。

決めたのは、リリアである。彼女が全ての人形の命名係だった。一種の公開処刑に思えた。


ちなみに、なんの変哲もない人形が一体あるが、地味すぎて誰の目にも止まっていない。

一応光学迷彩がついた、優れものなのだが、作り主の気質が関係しているのだろう。


「あんまり、巻き込まれすぎるんじゃありませんことよ?」

「だ、大丈夫だよー」


そうは言いつつも、あまり自信のない椿だった。















続いて、その更に上の教室を使っているのが、桃乃達のH組だ。

階段を上って、歩く。すると、大きな看板が見えた。


【とき☆めき――ふぁんしーあにまる】


何のことだろうと、椿は首をかしげた。

造化で飾られた、ファンシーな看板。

非常に入りづらい雰囲気だ。


それでも意を決して中に入る。

すると、解説をしていた桃乃が椿たちに気がついた。


「あら?……神崎さん、来てくれたのね」

「う、うん。ここは……なにを?」


どこか嬉しそうな様子の桃乃の出迎えを受けながら、椿がこの教室で行われている出し物について訊ねた。


「ここは、あの装置を使って、デフォルメされた動物の幻影を作り出して、楽しむところよ。人の資質によって、出てくる動物が違うの」


そう言って、台座に水晶のような宝石が嵌められた装置を指さした。

そこへ一般客が手をかざすと、ファンシーなパンダが、白い煙とともに出現した。

第一印象から予想していたよりもずっと、面白そうな出し物だった。


「神崎さん……と、後ろの子も、やってみる?」

「あ、うん。ほら、セレナと鈴も」


椿に手を引かれて、二人は装置に手をかざした。

すると、淡く輝いて、白い煙が音を立てて膨らんだ。


セレナの正面に現われたのは、羽のついた動物――精霊の、グリフォンだった。

同じく、鈴の前に現われたのは、大きな鷹だった。


二体とも可愛らしくデフォルメされていて、本来の姿に宿る“恐ろしさ”は感じなかった。

幻影なので、当然触れることは出来ない。そのことで落ち込む二人の横で、椿も装置に手をかざす。


すると、やはり白い煙と共に、赤い竜が出現した。

竜はぱたぱたと羽を動かすと、すぐに消えていった。


「本質で竜って……案外、気性が荒かったり?」

「でも、のんびりした竜に見えましたよ」


椿は可愛らしい竜が消えたところを名残惜しそうに見てから、桃乃とセレナの言葉に苦笑いした。本質が現われるといって今までの邪霊でも出てきたら、目も当てられない。

そういう意味では、助かったと言えた。


椿の肩の雅人も、どこか安心したように見えた。















桃乃の出し物を後にすると、今度は再び降りる。

椿の教室に帰れるように調整された道順だ。どのクラスも自分の教室でできればもっと早く回れるのだが、教室の確保は早いもの順である。


早く決まった椿のクラスが、自分の教室を確保することが出来たという、それだけの話だった。


ラミネージュのクラスは、射的だった。

水晶に込められた魔力を使って、一般人でも魔法が放てる……という見出しだが、実際に魔法が使えているわけではない。


これもまた幻影の一種で、発射されたBB弾を光弾のように見せる幻影を纏わせているだけだ。だが、銃型の競技用装霊器を象ったモデルガンから放たれる光の弾丸は、一般人に未知の感覚を与えていた。


また、この射的はそれでは終わらない。

ファンシーに改良された邪霊を撃ち抜くと、ポイントが加算される。

決められた弾数――財力で解決できてしまう人が多くいるので、決められている――の内でどれだけポイントを得ることが出来るか。それで、景品が貰える。


同時に、邪霊に混じって現われる、ファンシーな黒猫。

これを撃ってしまうと、ポイントがマイナスされる。

合計マイナスポイントが一定数値貯まると、罰ゲームが施行される。


その罰ゲームは、料理が下手な生徒が作った、健康には問題はないが味と見た目の悪い料理を食べる……というものだった。


ただこれだけ聞けば、多少味と形が悪くても、お嬢様の手料理。

わざと失敗して食べたいと思う男性客もいるだろう。


だが、この料理は全て――――ラミネージュの、力作だった。


ラミネージュの料理について未だ詳しく知らない椿は、どれほど恐ろしいことなのか理解していなかった。これからも、理解できる機会は来ないだろう。たぶん。


射的のために銃を選んでいると、椿は後ろに気配が生まれたことに気がついて、振り向いた。


「椿」

「あっ、ラミ」


椿が笑顔で名前を呼ぶと、ラミネージュは少しだけ、照れたように頷いた。

そんなラミネージュに、高速で近づく影があった。


「お姉ちゃんっ!」

「っ……セレナ?」


その影は、セレナだった。

セレナの後ろでは、ラミネージュと親しげに話す椿を見て、鈴が驚いた顔をしていた。


「あれ?ラミの妹さん、だったの?」

「私としては、お姉ちゃんと仲が良さげな先輩の方にびっくりだよ」


そうは言うが、椿の方もかなり驚いていた。

更に言えば、イストが来ていると言うことにも、驚いていた。

彼女を連れて来た伯父というのは、イストの事だろう。


「なんだか、これなら名乗っても良かったみたいだね、鈴」

「う、うん、そうだね……驚いちゃった」


展開について行けずに首をかしげるラミネージュをよそに、セレナと鈴は改めて頭を下げた。


「千堂・セレナージュ・オールアクセンですっ」

「柿沼鈴です。改めて、よろしくお願いします」


丁寧に頭を下げる二人に、椿は慌てて礼を返した。


「こちらこそっ……私は神崎椿。ラミの友達……って、柿沼?」

「あっ、はい。父は、有名な戦鎧職人で――」


父親。

そう、この可憐で大人しい少女は、あの髭達磨と称しても間違いではない、荘厳の娘なのだ。ちなみに、奥さんも美人だった。勝ち組である。


どこでどんな縁があるか、解らない。

そう感心しながら、椿は自分と荘厳の関係を、鈴に話した。


「それは、なんというか、父がご迷惑を……」

「ううん。荘厳さんには、戦鎧や装霊器のことですっごく助かってるから、ね?」

「そう言っていただけると、助かります」


鈴が妙に申し訳なさそうにしているのは、説明中にラミネージュが、奈津と喧嘩友達のようだということを話したからだった。虹睨祭後の夫婦喧嘩が確定した、瞬間である。


セレナ――セレナージュが、ラミネージュに自分たちの事情を話し終える。

それを見計らって、椿たちはラミネージュに説明を聞き、射的を開始した。


幸いなことに、ラミネージュの料理を食べてしまうことは、なかった――。















椿の教室の前に到着する。

すると、二人は看板を見上げて呆然とした。


紳士喫茶の意味がわからないのだ。


「待っていてくれれば、私が接客するけど……どうする?」

「いいんですか?」

「それなら、お願いできますか?」

「うん。任せて」


椿が、着替えるために教室へ入っていく。

着替えも全て、厨房の端で行うのだ。


その間、セレナージュ達は周囲を観察していた。


好奇心溢れる様子で入った女性が、どこか夢見心地な様子で出てくる。

中で何が行われているのか、まったく理解できない。


「どうぞ」

「はいっ」

「は、はい!」


椿に呼ばれて、慌てて中へ入る。

するとそこには、喫茶店というよりも、洒落た軽料理屋のような風景が広がっていた。

名家出身という訳ではない鈴は、普通の喫茶店くらい、行ったことがある。


だから、普通と“ここ”を、見比べることが出来ていた。


喫茶店とは、もっと質素な物だ。

決して、上品な銀細工や純白の壺がよく似合う場所ではない。

白亜の壁とは一体どういう事なのか、鈴はわからず首をかしげていた。


「お待たせ、さ、座って」

「あ――」

「――へ?」


黒い長い髪を、ポニーテールにして、きっちりと上品なスーツに身を包んでいる。

男性らしい仕草と、凹凸の少ない体型。白い手袋で覆われた細い指と、どこか力強さを感じさせる瞳。肩の子猫も、しつかりと蝶ネクタイをしていた。


意図的に出されたやや低めの声は、美しいボーイソプラノの様で、心地よく耳に響く。

控えめな笑みの間から見える、白い歯。甘い言葉でも囁かれたら、くらりと来てしまいそうな瑞々しい唇。


一目で女性だとわかる程度にしか、改造していないのに、それを口に出させない、男装の麗人。今まで見てきた姿とは百八十度違う雰囲気で、椿がそこに立っていた。


「顔が赤いけど……熱、かな?」

「ひゃうっ!?」


思わず赤面していたセレナージュに、椿は自然な仕草で額を合わせた。

どこか手慣れた姿には、百戦錬磨の称号を与えたくなる。


「うん?……大丈夫、みたいだね」


椿はそう言うと、二人を先導する。

さりげなく相手を気遣うその性格は、男性として見ると実に素晴らしい好青年だった。


「何か欲しい物はある?」

「え、えーと」


迷いつつも、二人は拙い口調で注文した。


「それなら、少しだけ待っていて」


無言で何度も頷く二人を見て、椿は薄く笑う。

そして、二人の頭を優しく撫でると、立ち上がった。


「うわっ……私、顔熱い」

「うん、私も、すっごく熱い」


男性に免疫などあるはずもなく、二人は顔を赤くする。

セレナージュはともかく、鈴まで免疫がないのは、間違いなく荘厳の過保護が原因だった。

親ばかなのだ。


「お待たせ」


そう言うと、椿は二人が頼んだスコーンとパンケーキを置く。

そして、何気ない動作で、紅茶を二つ置いた。


「あ、あの、私たち、紅茶なんて頼んでませんよ?」

「これはサービスだよ。二人に出会えた今日、この日の記念に――貰ってくれる?」


ちなみに、素である。

折角未来の後輩に出会えたのだから、先輩として奢ってあげたかったのだ。


二人は口々に「ずるい、なんだかわからないけど、ずるい」と呟きながら、笑顔で見つめる椿の前で、紅茶を飲んだ。


やがて椿と別れた二人は、喫茶店に並ぶ少女達を見て、生暖かい視線を送った。

彼女たちは、確実に自分たちの、二の舞になるのだから……。




虹睨祭の、一日目。

この日は、喫茶店が最高の賑わいを見せることになった――。


今回で、虹睨祭一日目。

あと二回で、虹睨祭編は終了です。


その後、二章のスパートに入ります。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

次回も、よろしくお願いします。


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