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Flame,Plus  作者: 鉄箱
26/42

第十九話 Dear My……

――九月中旬、旧校舎南、英雄考察研究会部室。


広い部屋。

普段は明るいこの部屋は、今は暗くなっていた。

といっても、空気が沈んでいて暗いわけではない。

電気がついていないので、視覚的に暗いのだ。


電気が消えているのなら、それは就寝時か誰もいないとき。

だが、今は真昼で、カーテンを閉め切り、机を囲むように三人の少女が座っていた。


言うまでもなく、奈津とレイアとラミネージュの、三人だ。


奈津は、手元のリモコンを手に取ると、ボタンを押す。

すると、中央にスポットが降りた。お金の無駄遣いである。


照らされた場所には、一枚の紙が置かれていた。

その紙には、“極秘資料”と書かれている。


「今日の議論は、この事についてだ」


そう、わざとらしい渋い声で、奈津が言う。

すると、ラミネージュがそれに頷いた。


「うむ」


そして、レイアが虚ろな目で声を発する。

諦めているのだろう。何に、とは言わないが。


「なんなんですの?……いや、いいですわ」


奈津とラミネージュに白けた目を向けられて、レイアは口をつぐむ。

ツッコミたい、けれど、ツッコミをしたら負ける。そんな風に自分を納得させたのだ。


「作戦コードはT-0923-HB――よく、覚えておくように」

「うむ」

「はぁ」


奈津が大げさに言うと、ラミネージュはかけてもいない眼鏡を持ち上げる仕草をした。

机の上の資料には、しっかりと作戦コードとやらが書かれていた。


――Code-T-0923-HB

――九月二十三日、椿の誕生日。


そう、誕生日の、打ち合わせだった――。











Flame,Plus











――九月二十日、月曜日。


チャイムが鳴って、席に着く。

就任して、もう一ヶ月が経とうとしているのに、入室する姿には緊張からぎこちなさが残っている。教壇に立つ姿にも、まだ違和感がある。だが、授業はしっかりと行うので、特に不満の声が上がったことはなかった。


「おはようございます!今日も暑いですけれど、頑張りましょうねっ」


こうして励みの声をかける姿が、いかにも“少女”が一生懸命頑張っているようで微笑ましい、というのも、不満の声が上がらない理由の一つだった。


「今日の授業のテーマは……“響霊者と魔霊者”ですっ」


そんな幼さの残る彼女は、今年で二十四歳。

実年齢よりも十歳ほど若く見られているとは、想像もしていなかったりする。


「ごく稀ですが、特に感受性の高い存在が生まれてくることがあります。名家の子だったり、魔法と関わり合いのない家庭の子だったりと条件は不明ですが、その人は精霊と契約しやすい、という才能を持っています」


真剣な顔で授業を始める神楽。

その引き締まった表情に和みながらも、生徒達はしっかりと耳を傾ける。


「さらに低い可能性になりますが、そういった人たちの中に、境界鏡を持ち要らずとも精霊を召喚して、完璧な意思疎通を可能とする存在が出てきます」


境界鏡を必要としない、召喚。

その言葉に、椿は目を見開いた。

その様子に気がつく者もおらず、授業が進められる。


「そういった存在のことを――“響霊者|≪エレメントキャスト≫”と、我々は呼んでいます」


響霊者――その、聞いたことのない単語に、椿は首をかしげた。

神霊者では、ないのだ。


「最初の響霊者は、レベル十一の、“名も無き英雄”だと云われています。彼、もしくは彼女は、境界鏡を用いずに召喚した精霊で魔法を扱っていた……そんな伝承が残っていました」


あとで、神楽に聞いてみよう。

そう判断した椿は、聞き漏らさないようにしっかりと耳を傾けた。


「それから、現在までの間に確認された響霊者は、三人のみ。それも、そのうち一人は人類の敵となってしまいました」


どういう意味なのか解らずに、首をかしげる。

響霊者が、人間の敵に回る。それは、如何なる状況なのか、と。


「どのような現象で“そう”なったのかは、わかりません。響霊者が、悪意に堕ちて、人を害するようになる。それも、邪霊として。このように、響霊者が邪霊と成るケースは、たった一人のみです。その一人も、四十年前に、魔法使い達の手によって打ち倒されました。それ以来、そのような存在が出てきたという記録はありません」


そこで、一度言葉を切る。

そして、黒板に書いていく。


「そのような存在を、我々は“魔霊者|≪ダークキャスト≫”と呼びます」


そして、授業の纏めに入る。

それを聞き取りながら、椿はぼんやりと考えていた。


響霊者――それは、自分の力に繋がる、大きなキーワードなのではないのか?と。


そんなことを考えている内に、授業終了のチャイムが鳴った。

椿は、慌てて立ち上がると、神楽の元へ駆けつけた。


「神楽先生!」

「はい?……何か質問ですか?神崎さん」

「あの……神霊者って、どんなものなんでしょうか?」


椿が意を決して切り出す。

ストレートに聞いた方が、まだいいだろう。


「まだだいぶあと……二年生で習う内容ですが、よくご存じでしたね」


勤勉なのですね……そう疑いなく語る目に、椿は少したじろいだ。


「え、えと……まさ、と、遠峰先生!――遠峰先生が口から零したのを、聞いたことがあるんですよっ!」

「そうなんですか?」


思わず、“雅人さん”と言いそうになり、椿は慌てて言い直す。

どんな関係だと思われるか、わかったものではない。

神楽に、ではなく、周囲にいる生徒に、である。


「“真”霊者……“真霊者|≪ダブルキャスト≫”というのは、響霊者が精霊を自分に取り込んだ存在のことを指します。詳しい歴史的関係は二年生時にお話ししますが、三人の響霊者の内、純粋な響霊者はただ一人。他の二人は、真霊者と魔霊者なんですよ。真霊者は、響霊者よりも魂の“核”が、ずぅっと上だといわれていますね」


その説明に、椿はどこか困ったような笑顔で礼を言う。

だが、表情の変化はしっかりと隠していて、それを読み取ることが出来るとしたら、奈津くらいだろう。


神楽は当然気がつくことが出来ず、満足したのだと受け取って職員室に戻っていく。

椿は、一人、神楽の言葉について考えていた。


真霊者と、神霊者。

神楽の言い方では、まるで後者など存在しないような、そんな風に聞き取ることができる。


誰に相談すればいいのか?

そう考える椿を、胡乱げな表情で見るものが居た。

――椿の肩に乗る、雅人である。


ここに記憶を継承した存在がいるのだから、訊ねればいい。

だというのに、椿は気がつかない。


雅人は、よくこんなところまで“ペット扱い”でいられるね、と呆れていた。

自分で言い出す気はなかったのだが、主をサポートするのは使い魔の定め。

ならば、人前から離れても聞かれなかったら、後から教えようと決意していた。


「椿っ!」

「あれ?どうしたの?奈津」


そうやって考え込んでいた椿に、奈津が声をかけた。

なにやら、慌てている様子だ。


「さっき、教室起動する途中のラミに会ったから、適当に雑談してたんだ」

「うん、それで……どうしたの?」


状況を思い浮かべながら話す奈津。

それを、椿は真剣に聞く。


「それで、何でかわかんない内に誕生日の話になったんだけどね」

「誕生日?」


話の流れはよく覚えていないようだ。

実際は、通りがかった生徒が誕生日占いの本を持っているのを目にとめて……という、偶然から話題に上った話だった。そんな理由、覚えていなくても仕方がない。


「それでそれでっ……ラミの誕生日、七月七日だったんだって!教えてくれればいいのに……っ」


祝いたかったのだろう。悔しげに、呟いた。

ちなみに、同じ事を言われたラミネージュは、怒られているような雰囲気なのに嬉しげだった。祝いたかった、と真剣に言われたのだから、嬉しくもなるだろう。


「そうなんだ……そうだね、お祝いしたかった。……奈津はいつなの?誕生日」


椿も、本気で残念そうだった。

この様子をラミネージュが見ていたら、赤面するラミネージュという珍しい光景が見られたのだろうが……残念である。


「僕は三月二十五日。だいぶ先だよ。……椿は、実は過ぎていましたーなんて、いわないよねー……?」


まさかそんなことはないだろう。

そう問いかける奈津に、椿は目を逸らした。


「ま、まさか……椿」

「す、過ぎてないよ!まだだよ、まだっ!」

「そ、そうだよね」


誕生日を言う。

そんな機会はなかったな、と椿は苦笑いをしていた。

ラミネージュの誕生日が過ぎてしまったくらいなので、一度くらいは話題に乗せるべきだった、と反省もしていた。


「で、いつなの?」

「う……九月の、二十三日」

「ふーん……って、近いよ!」


あと三日である。

過ぎてはいないが、近すぎる。

休みの日を挟むことが出来ないので、用意するのも大変だ。


「むむむ……絶対、サプライズパーティーするからねっ!」

「へ?」


そう、奈津が言うと、丁度予鈴が鳴る。

二人はすぐに席に戻ると、そのあとはもう、誕生日のことを話題に上らせることは、なかった。















「ということがあったのさっ!」

「サプライズって言ってしまったら、意味がありませんわよっ?!」


経緯を訊ねられて、奈津が答えた。

その後、サプライズの打ち合わせをするから、と言って椿を部室から追い出したことまで、しっかりと。


そして、レイアがそれに、最近ますます鋭くなっていたツッコミを入れたのだ。

もう、このポジションが板についていた。本人は、認めたくはないのだろうが。


ちなみに「椿も、本気で~」の下りで、ラミネージュはしっかり赤面していた。

各々自分のことで精一杯で気がつかなかったのだが、仕方がないだろう。


「それで、プレゼントとパーティーなんだけど……」

「そう、ですわね」


奈津は考えるように目を閉じて、指を立てる。

そして、そのまま前に乗り出しながら、目を開く。


「あんまり豪華すぎると、萎縮する」

「リムジンもクルーザーも、あまり慣れた様子はなかった」

「そう言われてみれば……そう、ですわね」


今まで質素な生活をしていたためか、椿は過剰に豪華なもてなしをされると、萎縮してしまって素直に楽しめない。


そうなると、“庶民的”なパーティーにする必要があるのだが……。


「庶民的って……どんなのだろう?」

「名家出身者以外に聞いてみればよろしいのでは?」

「誰か、知ってる?」


頭を捻らせるが、庶民出の友人など思い浮かばなかった。


「先生の中には?」

「……思い浮かびませんわね」

「聞いてみれば、いい」


教師陣は、全員レベル七以上の高位魔法使いだ。

そのほとんどが、当然のように名家出身である以上、難しい。


「そうだね、まずは神楽先生に、そんな人がいないか聞いてみよう」

「それが早そうですわね」

「うん」


奈津達は、ここで漸く電気をつける。

そして、身の回りのものを整理すると、書類仕事で涙目になっているであろう神楽の元へ行くために、部室を出た。















職員室では、神楽が予想どおり涙目で仕事をしていた。

彼女が今行っているのは、文化祭の下準備の、準備だ。つまりは書類整理である。

そんな仕事があるとは露知らず、来週までにしっかり生徒に指導することが出来るように、覚えておく必要があった。


彼女は部活動の顧問なのだ。

担当クラスを持っていないからといって、のんびり過ごすわけにはいかなかった。


「神楽先生ーっ」


職員室に入ってきた奈津達に、神楽は顔を綻ばせた。

そして、「これで休める」と顔に書いてあったことを、神楽の指導をしていた楓が見逃すはずがなかった。


「佐倉、東雲先生は忙しいから、要件なら代わりに聞こう。場合によっては力になれるぞ」

「あ、ありがとうございます。それなら、お願いします――ね?」

「――東雲先生のことは、気にするな」


机に突っ伏して撃沈した神楽の様子に、奈津は言葉を詰まらせた。

だが、楓が笑顔でそう言うので、野暮なことは聞くまいと、話を切り出す。


「椿の……神崎さんの誕生日にパーティをやりたいんですけど、庶民的なのが良いかなって思ったんです」

「あぁ、それで“庶民的”がどんなものか知っている人を探したい、と?」

「はい」


楓は、椿の部活のメンバーを思い浮かべて、苦笑した。

現在廊下で待っているレイアとラミネージュ。あの二人の感覚に慣れるのは、難しいのだろう。奈津の家も、名門と言える場所だ。そう言ったことも、関係しているのだろう。


「それなら、ミファエルに聞くと良い」

「セルエイラ先生、ですか?」


魔法学のミファエルは、レベル八のレッドクラウンだ。

相当高位の実力者なのに、“庶民的”が解るのだろうか?


そんな疑問符が顔に出ている奈津に、楓は苦笑した。


「ミファエルは、一般人の家から生まれた叩き上げだぞ」

「そ、そうなんですかっ?!」


セルエイラ。

そう耳にすれば、何となく聞いたことがある。

そこまで名声を轟かせたのは、ミファエル一代の力だった。


「ミファエルなら今、屋上の方で施設点検に参加しているだろうから、行ってみると良い」

「わかりました。ありがとうございましたっ」


頭を下げて退出する奈津を、楓は微笑ましい目で見送った。

そして、未だに突っ伏していた神楽の肩を叩くと、笑顔の“質”を変えた。


「続けようか?」

「あぅ……はい」


神楽の弱々しい声が、職員室にこぼれ落ちた。















奈津達が屋上へ向かうと、業者の男性と点検について話をしている、ミファエルの姿があった。彼女は今、慎二郎の引き継ぎで学年担当をしている。


「セルエイラ先生っ」

「おや?……佐倉さんにエルストルさん、それにオールアクセンさん?」


ミファエルは笑顔を崩さずに、振り向いて名前を確認した。


「どうしたんですか?」

「あの、実は――」


奈津は、楓にしたように椿の誕生日について、話をした。

楓に聞いてここまでやってきた旨まで話すと、ミファエルは和やかに微笑んだ。


「そうですか。友達思い、なのですね~」

「あ、ぅ……ありがとう、ございます」


顔を赤くして、俯く奈津。

レイアとラミネージュも、その後ろで目を逸らしていた。


「そうですね~……それなら、部室を使うと良いでしょうね~」

「部室を、ですか?」


ミファエルは、笑顔のまま、頷く。


「飾り付けは、なるべく手作りで。それから、一生懸命選んだプレゼントと一生懸命作った料理。――気持ちを伝えるのに、過剰なお金はいりません。ただ、真摯であれば、いいんですよ」

「一生、懸命……なんだか、解ったような気がします。ありがとうございます!セルエイラ先生っ」

「ふふふ、どういたしまして。それから、私はミファエルでいいですよ~」

「はいっ!ミファエル先生!」


走り去っていく奈津達の後ろ姿を見ながら、ミファエルは楽しそうに眼を細めた。


友人とは、財産である。

楼城館に生徒として通っていた頃の“親友”は、何の因果か現在、同じ職場で働いている。


「久々に、楓ちゃんとアンと、飲みに行こうかな~」


ミファエルはそう言いながら、二人の親友を思い浮かべて、笑った。















――九月二十三日、木曜日、椿の自室。


今日は秋分の日。

つまり、祝日だ。


椿は、誕生日の話をされた日から部室に立ち入ることを禁止されていた。

理由を知らなければ寂しくも思ったのだろうが、準備を始める前から宣言されていたため、待ち時間で顔が熱くなっていることを、椿は自覚していた。


とにかく自室で待機していてくれ。

そういわれて、椿は自室にいたのだ。


その午前中の、待ち時間で、椿は漸く雅人が呆れた顔をしているのに、気がついた。


「どうしたの?雅人さん」

『はぁ……神霊者のことは、もいいのかい?』

「神霊、者……?――――あぁっ!」


漸く雅人の言いたいことを理解して、椿は思わず声を上げた。

直後の騒動で、すっかり忘れていたのだ。


『はぁ、まったく、君って人は……』

「うぅ……そ、それでっ――神霊者って、過去にもいたの?」


無理矢理話を切り替えようとする椿に、雅人は大きくため息をついた。

そうは言っても仕方がないことなので、椿に合わせる。


『神霊者は、過去どころか現在においても、いたという記録はないよ』

「え――?そ、それなら」


自分は、何なのか?

そう問おうとする椿を、雅人は目で制した。


『遙か昔に、“預言|≪アカシックワード≫”という天恵を所持した人間がいたんだよ。ノストラ……なんだったかな?……とにかく、その人間が後世に出現するもの、として連ねたものの中にあったんだよ――統べる者、神霊者……ってね』


これから出てくる可能性のある存在。

そんな“夢物語”の存在を目にしたからこそ、雅人は椿を手に入れようとしたのだ。


「そっか……じゃあ」


正真正銘、椿は“異端”だということになる。

なにせ、物語の住人といっても、間違いではないのだから。


だが、これは一生ついて回る事情だ。

折り合いをつけて、生きていかなければ、ならないのだ。


沈んだ気持ちを振り払うように、頭を振る。

考えていても、仕方がないことなのだ。


そうして考えを振り切ったとき、チャイムが鳴る。

返事をしつつ扉を開けても、そこには誰もいなかった。


「あれ?」


右を見て、左を見て、上を見て、下を見た。

そこには、一枚の紙が置いてあった。

何故か、新聞の切り抜きで作られた、怪文書のような手紙だ。


「【ヒーロー研部室にて待つ】……あ、あははは、はぁ」


心底驚いたのだろう。

椿は、胸を押さえて息を吐いた。


「……、行こう?“まーくん”」

『はぁ……にゃあ』


しっかりと猫のように鳴いて、雅人は椿の右肩に飛び乗った。

ここが彼の、定位置なのだ。


椿は、先ほどまでの沈んだ気持ちなどではなく、胸を高鳴らせて部屋を出た。















相も変わらず恐ろしい雰囲気を醸し出す、旧校舎。

その裏側にある部室は、電気が消えているように見えた。


おそろおそるノックをしても、誰も出てこない。

椿は意を決して中に入るが、やはり真っ暗だ。


――バンッ

「うぇっ!?」


勢いよく、扉が閉まる。

その音に、椿は飛び上がった。


――パン、パパパンッ!!


そして、電気がつくと同時に、一斉にクラッカーが鳴った。


『誕生日、おめでとう!!』


その声に、目を丸くする。

奈津、レイア、ラミネージュ。

ルナミネス、フランチェリカ、明里、ミア。

七人がクラッカーを持って、椿を出迎えた。


色紙で作ったリングといった飾り付け。

手作りであろう巨大なケーキ。

数々の料理に、何故かクリスマスツリー。


その、椿を思って形作られた内装に、椿は感動していた。

ゆっくりと目元を拭うと、笑顔になる。


「みんな……ありがとう。……ありがとうっ!」

「ささっ、主役なんだから真ん中にこなきゃ」

「うんっ」


中央まで歩くと、各々が椿にプレゼントを持ってくる。


「まずはわたしからっ!はいっ、つーちゃん!」


フランチェリカが持ってきたのは、黒猫のキーホルダーだった。

粘土で型を取って樹脂で作った、手作りだ。塗りが甘いのが、試行錯誤を感じさせる。


「それなら、次は私ね」


ルナミネスが渡したのは、本だ。

食べられる野草ベスト千……微妙にずれたセレクトだが、椿が料理が好きと聞いて選んだのだろう。


「次はあたしだなっ」


明里が持ってきたのは、サンドバッグだった。

天井からつるすことが出来る、小型のものだ。ストレス解消にはいいだろう。


「では、私の番だ」


ミアから手渡されたのは、銀で作られたネクタイピンだった。

センスの良い、カッコイイデザインだ。


「私は、これ」


ラミネージュは、子猫の置物だ。

手作りだが、木彫りである。自分で彫ったのか、妙に上手い。


「私は、これですわ」


レイアが渡したのは、テディベアだった。

三日で作るという偉業を為したせいで寝不足なのだが、顔には出さない。

心配されては、元も子もないからだ。


「お誕生日おめでとう――椿」


奈津が贈ったのは……まっさらな、アルバムだった。

大きな赤いアルバムの下、縁に綴られた銀の文字。


――Dear My Best Friend


一筋だけ、温かい涙をこぼす。

奈津は、そんな椿の手を引くと、壁際まで連れて行く。

手はずどおりにレイア達も動いて、椿の横に並ぶ。


奈津は三脚を取り出すと、ポラロイドカメラを設置して、タイマーをかける。

そして、椿の右側に並んで、手を握った。


「最初の一枚、笑って撮ろう?」

「っうん――――うんっ」


これから、沢山の思い出が紡がれていく、大きなアルバム。

その最初の一枚に映った椿の顔は、目を赤くしながらも……。



――最高の、笑顔だった。


次回から、文化祭編に入ります。


椿たちの誕生日は、「誕生日大全」という本から、性格と物語の都合を考えて設定しました。ラミを決めるのに、一番悩みましたw


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

文化祭編も、よろしくお願いします。

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