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Flame,Plus  作者: 鉄箱
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第十八話 フレイムウィング!?

奈津は、その日、居眠りをしていつものように呼び出されて、職員室から戻るところだった。げんなりとした気分を、部活で晴らすのだ。


椿も退院して、漸く全員で部活動が出来る。

だからこそ、楽しみにしていたのだが――数学は、どうしても寝てしまう。


「まぁ、いいや。部活部活……っと」

「きゃっ」


呟きながら、角を曲がる。

その時に、走ってきた生徒とぶつかって、奈津は慌てて少女の身体を支えた。


「す、すいません!」

「いや、いいけど……」


お嬢様学校で走る生徒も珍しい。

奈津の顔には、そんな戸惑いが表われていた。


少女は頭を下げると、そのまま踵を返す。

その時に、長方形のカード――キャッシュカードのようなプラスチックの板――が落ちたのを見て、奈津はそれを拾い上げた。


「ねっ、これ落とした……んん??」

「あわわわわっ!!」


奈津が、そのカードを見て、形容しがたい顔で固まる。

その様子を見て青くなった少女は、カードをひったくると、逃げるように走り去った。


奈津はその様子を、カードを見た体勢のまま、眺めてしまっていた。


「あっ……追いかけなきゃ……って、もう遅い、よね」


既に姿が見えなくなった、生徒。

その“お団子頭”の少女が走った方角を見ると、奈津は真剣な表情で踵を返す。


「むむむむ……まずは、レイア達に相談して……椿には……ど、どうしよう?」


ぶつぶつと呟きながら廊下を歩く様子は、不気味だった。

奈津は他人の目を気にする余裕もないのか、顎に手を当ててひたすら呻っていた。


思い浮かべるのは、拾ったカードの、内容。


【神崎椿非公式ファンクラブ――炎の翼】


一体何が起こったのか?

初めての事態に、奈津は唸り声を上げるしか、なかった。


「どうしてこうなったの?」


誰に尋ねているのか、とにかく、虚空に呟いたところで返事が返ってくるはずもなかった。











Flame,Plus











九月十日、金曜日。

椿は、一週間入院して、今日になって漸く戻ってきた。


危険行為に注意されはしたが、チームメンバーを守って生き残るということは、大きな功績である……椿は、そう表彰された。


一年生から過剰にレベルが上がるのはよくない。

けれど、功績が評価されないというシステムを作る訳にはいかない。

そこで、椿のレベルアップは保留となった。


椿はその事を気にする様子もなく、いつものように楽しそうにしていた。


奈津は、そんな親友を見ながら、頭を捻らせていた。

内容はもちろん、つい先ほどのことだ。


奈津から見て、椿は確かに“良い人”だった。

優しくて、人に気を遣える……“温かい人”だ。


だが――きっと、それだけではない。


奈津は、椿がどうも自分に対する好意に疎いように思えていた。

詳しい話を椿から聞いたことはない。だが、慎二郎と戦っていたときの言葉――屋上から、僅かに響いた声――を聞いていれば、どのような幼少期を送ったのかは、想像がつく。


奈津は、そういった意味で、椿と似たような幼少時代を送っていた。

だから、それがどんなものなのか――想像するのは、たやすかった。


悪意を向けられて、反論する。

――“化け物”だから、そんな“怖い”ことをいうんだ。

暴力振るわれて、反撃する。

――“化け物”だ!殺される!

やがて人の顔を伺うようになって。

――最近、大人しいな

そして、それは無駄だと悟る。

――何を企んでいる!“化け物”!


それは、憎しみの連鎖。

それは、悪意の輪廻。

それは、醜い円環。


そんな環境で生きる人は、優しくしてくれた人間や、憧れた夢に強く影響される。

それは――“縋る”と言い換えても良い、感情だ。


奈津はそれを、自覚している。

自分が夢に縋っていることを、自覚している。


いや――縋って“いた”ことを、自覚していた。


本当に、ヒーローになりたい。

優しい人を……“温かい人”を、守れるような。

そんな“ヒーロー”に、なりたい。


そう思えるようになったのは、椿のおかげだった。

椿が信じてくれたから、奈津は他人の“信頼”を信じることが出来るようになった。


だから、奈津は、今も夢に縋っている訳ではない。

夢を信じられるように、なれたのだ。


ふと、椿を見る。

椿は奈津の視線に気がついて、首をかしげる。

その手には、黒猫がもたれかかっていた。

――できることなら、猫になりたい。


笑ってみせると、椿は奈津に笑い返す。

結局何か話をするわけでもなく、和んだ空気が流れた。

その様子を見ていたレイアは、自然に流されて一緒に和む。

ラミネージュは最初からリラックスしていたが。

ちなみに、神楽はまだ、仕事が終わっていなかった。


その空気から名残惜しくも抜け出して、奈津は再び思考の海へ潜る。


椿は、夢に縋っている……そんなことを、考えるそぶりも見せない。

手を差しのばしてくれた、大切な祖父母。そんな風になりたいと、奈津は椿から聞いたことがあった。その真摯な声は、縋る人間の声ではなかった。


椿は、その変わり……自分に向けられる感情の“ほとんど”を、遮断しているのだ。


故に、好意に疎い。

それだけではないだろう。

悪意にも、憎悪にも、害意にも。

椿は、自分に向けられる、ありとあらゆる感情に疎いのだ。


悪意は“慣れない”……実のところ、そう考えているのは受けている本人だけだ。


奈津も、そのことには自分で気がついていない。

奈津も、椿も、受けた悪意に対して、確実に慣れていっている。


そして、彼女たちの特徴として……期待に応えようと、躍起になる。

そういったところが、あった。


ファンクラブ、というものができる。

既に、できている、その集まり。


それによって、さも“聖人君子”のように偶像化されたら?

――その想いに、椿は応えようとするだろう。


そうやって、無理をして。

その先で……その、ずっと先で、椿がどうなってしまうのか?


奈津は、椿が心配だった。

壊れてしまうのではないか……そう、心配だった。


「だから、まずは……」

「奈津?」

「ううん、なんでもないよ。椿」


まずは、“相談”だ。

頼りなる、二人の友人。


この二人に相談して、それからどうにかしていく。


奈津は、“対等”でありたいのだ。

この、優しくて、温かい――“親友”と。















椿が使い魔との生活について、楓に詳しいことを聞くに行く。

本当は、実戦授業の後に、実戦を使い魔と経験してみた感想と共に聞くはずだったのだが、遅くなってしまったのだ。なにせ、医務室で療養していたのだから。


楓に指定された時間に、椿が席を外す。

そこで始めて、奈津はレイアとラミネージュに切り出した。


『ファンクラブ?』


声が重なる。

抑揚こそ違いはあるが、二人とも込めた感情は同じ。

――戸惑いだ。


「そう、今日ぶつかった女の子が持っていたカードに、書いてあったんだ」

「それが、椿のファンクラブ、ですの?」


奈津は、こくりと頷いて見せた。


「そう。神崎椿非公式ファンクラブ――“炎の翼”それが、会の名前みたい」

「むぅ……椿に気がつかれる前に、何とかしたいですわね」

「プレッシャーに、なりそう」


レイアが呟いて、ラミネージュが頷く。

奈津は、そんな二人の様子に、少しだけ安心した。


「とにかく、調査をしてみた方が良さそうですわね」

「うん……クラスの口が堅そうな人たちに、協力をお願いしてみる」

「頼みましたわ。私たちは下手に動いてしまうと、別口で厄介なのが出てきますからね」

「かとんぼ」


さりげなく、ラミネージュの暴言がひどい。

奈津とレイアは、そんなラミネージュの言葉を、華麗にスルーした。

気にしたら、負けである。


「あと、今できることは……」

「椿に心配されないよう、普通に過ごす」


ラミネージュが、抑揚なく言う。

レイアと奈津は、それが良いだろうと頷いた。


「そうと決まれば、即行動!……僕、ちょっと行ってくるよ!」

「まだ寮に帰っていない生徒なんて、わかりますの?」

「いや――部屋を知っているから、さ」


奈津はそう言うと、二人に椿への言い訳を頼んで、部室を飛び出した。















チャイムを押すと、高い音が部屋に響く、音がした。

それから、礼儀として、ドアをノックした。


中から聞こえてきた返事に、じっと待つ。

といっても、そんなに時間がかかるわけではなかった。


「む、佐倉か。何用だ?」

「ちょっと相談したいことがあるんだけど、いいかな?――――ミア」


奈津がそう切り出すと、部屋の主――ミアは、こくりと頷いた。


「ふむ、クラスメートを助けるのは委員長の努め。ましてや君は友人だ。入るといい」

「うん。ありがとう」


ミアに促されて、部屋に入る。

質素で整理整頓された、落ち着いた部屋だ。

インテリな高級感に、ミスマッチな“闘魂”ポスター。

どうにも、彼女“らしい”部屋だった。


「座ってくれ」

「あ、うん」


白いテーブルの前に座ると、ミアがキッチンへ行く。

そして、ガラスのコップにアイスティーを入れて、戻ってきた。


「ありがと。うん、おいしい」

「紅茶は好きなんだよ。……と、和んでしまうところだったな」


そのままのんびりした雰囲気になりそうだったので、ミアは慌てて軌道修正をした。

急がせるつもりはないが、話しづらいという雰囲気でもなかったので、先に聞くことにしたのだ。


「――って、ことなんだよ」


そして、奈津はあらかた説明した。

ミアは一度頷くと、返事をする。


「ふむ……ファンクラブ、か。聞いたことがないのはよほど上手くやっているのか、それとも出来たばかりなのか……。簡単に会員証を落としてしまう迂闊さを考えると、出来たばかりというのが近い、か」


ミアは推測を立てると、備え付けの電話を手に取った。


「予測を立てている内は、所詮全てが机上の空論で終わってしまう。ならば、どうすればいいと思う?」

「そりゃ、行動するのが一番だろうけど……」


だから今、奈津はこうして行動に出ているのだ。

その答えに、ミアは悪役っぽくニヒルに笑った。


「そう。行動だ……本拠地を見つけ出して、乗り込めばいい」

「へ?」


直接叩く。

出来ることなら、そうするのはいいかもしれない。

過激だが、手っ取り早く、なによりシンプルな方法だ。


「私だ、少し手伝って貰いたいことがある」


誰に電話をしているのか、その笑顔は清々しい。

相変わらず長い金の髪で目元は見えないが、きっと輝いていることだろう。


ミアが事情を説明すると、電話越しに驚く声が、奈津の耳にまで届いた。

その声は、奈津にも聞き覚えのある、ものだった。


「え?ルナ?」

「あぁ――そうだ……あぁ、頼んだぞ」


そう、ルナミネスだったのだ。

だが、ルナミネスは自他共に認める本の虫。

とても情報収集が得意なようには、思えなかった。


ミアは、電話を切って机に置く。

そして、にやりと笑って見せた。


「イクセンリュート……彼女の“伝手”を、借りたのだよ」

「ルナの、伝手?」


ミアは紅茶を一口嚥下すると、「あぁ」と頷いた。


「そうだ。彼女は応龍杯からこちら、A組の沖田と仲が良い」

「沖田って……マスクdo忍者?」

「なんだそれは?……まぁいい、その、忍びだ」


ちなみに、「マスクdo忍者」という呼び方は、ルナミネスがつけたものだ。

彼女は応龍杯で五十鈴に馬乗りにされただけあって、インパクトが強かったのだろう。


「彼女は実家で偶然遭遇した邪霊を打ち倒したこともある、レベル二の魔法使いだ。中々強いぞ?……と、それはいいのだが、そう……彼女は忍者だ。忍者というとは、除法蒐集に本領を発揮する……そういうことだ」

「おぉー」


ミアの手際に、拍手をする。

するとミアは、まんざらでもなさそうに、薄く笑った。

少しだけ、照れていたのだ。


こうして、あとは五十鈴の情報を待って――乗り込むだけとなるのだった。















その本拠地は、校舎内の多目的ホールだった。

施設の使用許可をどうやって取ったのか……土曜日の午前中から、こんなところで集会が開かれているというのだ。


「で、いつの間にこんな人数に?」


当初は、ミアと奈津の二人で乗り込む予定だった。

そこに、ルナミネスと五十鈴が加わるのは、まだわかる。

だが、どこからかやってきた、フランチェリカと明里、それにリリアまでいた。


サイミルが行くのなら、もう気にしなくて良いだろうとレイアとラミネージュも加わって、さらにいつの間にいたのか、また誰の付き添いなのか知らないが、ナリナまで同行して、気がついたら十人という大所帯となっていた。


これでは、カチコミである。


「すまない、私も予想外だった」


これも椿の人望。

そう、奈津は自分を無理矢理納得させた。

――そんな風に肩を竦めても、その顔は微妙に緩んでいたのだが。


「さて……それじゃあ――――たのもう!」


奈津は気持ちを入れ替えると、勢いよく扉を開いた。

そこには――五十人強の女生徒が、集まっていた。


出来たばかりという予測の元、せいぜい五~六人だと思っていたために、想像の十倍の人数に、奈津達は顔を引きつらせた。


「な、なんですか!あなたたち!」


ブルーのネクタイ。

二年生である。どんな繋がりなのだろう。


「みんな!殴り込みよ!」

「そんな!どうしてここがっ!?」


奈津達が何か言い出す前に、騒然となる。

収まり切らなくなり困っていると、事態を収拾させる声が響いた。


「静かにっ!……もう、何の騒ぎ?」


茶髪を適当に伸ばした、一年生の少女。

やってきたのは、そう――赤谷桃乃だった。


「会長!」

「会長っこの人達がっ!」

「会長!!」


声を大にして訴えかける彼女たちを、拍手一つで黙らせる。

変な方向へ目覚めたのか、妙なカリスマだ。


「あなたたち……いいわ、ついてきなさい」

「え?ちょ、ちょっと」


桃乃が背を向けて、歩き出す。

奈津達はその行動に戸惑いながらも、後ろについた。















多目的ホールの横にある、空き教室。

そこで、まず奈津達は、今回乗り込んだ理由を話した。


「そう――それは、あたしも良いことだと思うわ」


過分な憧れは、プレッシャーになる。

桃乃は、それはわかっていると言ったのだ。


「じゃあ、なんで……?」

「彼女が、“危うい”からよ」


桃乃は、真剣な目で奈津を見て、それから周囲を見回した。


桃乃にだって、名家としてのプライドがある。

赤谷の家は、桃乃に“受けた恩は返せ”と教え続けていた。


桃乃が受けた恩は、“命”を救って貰ったことだ。

その大きさは、自覚している。


彼女が地位の問題で困ったときは、近くにいるエルストルとオールアクセン――レイアとラミネージュ――が、手を差しのばすだろう。優秀な人材という意味でも、広く大きな伝手を持っている。それは、ここに集まった人たちが、何よりの生き証人だ。


こと、戦闘においては、手を貸そうにも足手まといにしかならない。

そうなると、恩を返せる方法は、限られてくる。


「そこであたしは、見ず知らずの“悪意”から、彼女を守ることにしたの」


桃乃は、恥ずかしい話だが、椿に突っかかった経験を持つ。

その時、やり方がよくわからなかったというだけで、確かに“悪意”を込めて、椿に接した。


その時、椿は動じなかった。

それに腹を立てて、思い浮かぶ限りの嫌がらせをしようと考えて、確固たる“敵意”を込めて、椿を睨みもした。


だが、椿はそんな桃乃を助け、慰め、囮になった。


それは、恩を恩と感じない相手だったら、非常に危険な行為だ。

実際、桃乃が教師に伝えることもせず治療を受けるためだけに走っていたら、取り返しのつかないことになっていた可能性もあるのだ。


「だからせめて、椿の知らないところから椿に向けられる“悪意”を、こういった会を通じて遮断しようと思ったの」


それからの行動は、早かった。

大角大蛇の事件で助けられたものを誘って、以前から少し気になっていた程度の人も勧誘する。そうやって広げた輪を使って、情報を集めて、悪意を持った人間を捜し出した。


「探して……どうしたの?」

「引き入れたわ」

「へ?」


こんこんと、三日三晩かけて魅力を語る。

すると、最終的には虚ろの目で染まりきる。

洗脳……説得の効果が切れても、椿は確かに良い人なので、その頃には根っこからファンになっている。


「う、うわぁ」


奈津は、退いていた。

後ろのミア達も、目頭を押さえたり頭を抱えたり目を逸らしたり、と多種多様な反応で退いていた。


だが、プレッシャーになると解っている以上、覚醒したカリスマ桃乃ならば、椿に知られるような事態にはしないだろうし、させないだろう。


「でも、それなら、確かに」

「解ってくれたなら、いいわ。それじゃあ、あたしはこれからスナップ鑑賞があるから、帰って頂戴」

「うん、わかった。ありが……うん?」


途中で聞こえた、単語。

全てをぶちこわすような単語に、奈津は眉根を寄せた。


「赤谷、待て」


背を向けた桃乃を、ミアが止める。

桃乃は怪訝そうに振り向いた。


「何よ?まだなにかあるの?」

「スナップ鑑賞とは、なんのことだ?」


すぅっと、目を泳がせる。

口が滑ったようだ。


問い詰めようと、ミアが言葉を続けようとする。

だが、その前に、桃乃が大きく息を吸った。


「あたしは会長としてみんなを導く必要があるの。そのことに妥協は許されないわ。もちろん椿さまに感づかれないように写真を撮って鑑賞する時間を作ってにやにやしてそう言ったところを会員にみせて如何に本気であるか教える必要があるわけ。そう考えると会長なのだから写真を管理して持ち歩き方から拝み方までしっかり指導して勧誘のノルマ達成に景品を用意してご尊顔を拝見してと忙しくなる。でもこれも会の存続のためには仕方がない。そう仕方がないことなのそれくらいわかるでしょう?つまりこれは絶対に必要なことなのわかった?わかったならあたしはさっさと行きたいのだけれどどう?」


一息である。

一度も息継ぎをすることなく、言い切った。

そして、固まってしまい返事のない様子のミアを前に、もう一度息を吸い込んだ。


「あたしは――」

「――わかった!わかったから!」

「そう?それじゃ!」


返事を聞くと、桃乃は今度こそ、と走り去った。

残された奈津達は、げんなりとした顔で、肩を落とした。


「帰ろうか」

「そうだな」

「疲れた」

「ホントですわ」


ため息をつきながら、肩を落とす。

十人がぞろぞろと歩いて、夕暮れの道を進む。

そんなに時間が経っていたのか、と驚いていた。


「あれ?そんな大人数で、どうしたの?」


その声に、十人は一斉に振り向いた。

その様子が怖かったのか――椿は、肩を振るわせた。


彼女は今日、部室で神楽に、遅れた分の勉強を見て貰っていたのだ。


「椿……」

「うん?なぁに?」


ひどく疲れた様子の奈津たちに苦笑いしながら、椿が答える。

奈津はそんな椿にふらふらと近づくと、その手を握った。


「どうしたの?本当に……」

「これからみんなで遊ぼう!こう、ぱぁっと!!」

「へ?」


すると、控えていたレイア達も、椿を囲む。


「いいですわね、どこへ行きます?」

「学院内部商店に、怪しいゲームセンターが、ある」

「それではそこでいいのではないか?」

「あっはっはっ、疲れを吹き飛ばそう!」

「元気良いわね。私も今日は元気出そうかしら」

「わたしはいつもより出しちゃうよ」

「地味でも、地味でも!」

「私は今日は、調べ上げただけだが、疲れたな」

「あらあら、楽しそうですね」


一気に先ほどまでの憔悴した雰囲気を吹き飛ばして、妙にテンションの高い明るい雰囲気になる。そして、椿を中心に添えたまま、歩き出した。


「え?な?え、なに?」


椿は戸惑いながら、なすがままにされて連れて行かれた。



楼城館学院は、今日も平和である――――。

なんとか、書き上げ……。

次回一話置いて、次々回から文化祭編に入ります。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

次回も、よろしくお願いします。


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