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Flame,Plus  作者: 鉄箱
18/42

第十一話 孤島の財宝

避暑地と言うこともあって、朝は少し肌寒い。

それは覚悟していたことなのに、布団が暖かいことに疑問を持つ。


椿は、ゆっくりと目を開けて――首をかしげた。


「え?あれ?」


何故か、四人で一緒に寝ていた。

どうしてこうなったのか?頭を捻らせてもまったく思い出せない。

いつの間に着替えたのかも思い出せない。入浴済みだが、いつお風呂に行ったのかも思い出せない。結局、夕飯以降のことはなにも思い出せなかった。


ちなみに、入浴の時は可愛がり上戸は終わって寝そうだったため、危ないと言うことでふらふらと入ろうとする椿を押しとどめて、レイア達で協力して手伝った。


夜一緒に寝たのは、成り行きだ。

ちなみに部屋は、大きなベッドがある空き部屋を使っていた。


「うーん……ま、いいか」


椿は大きく伸びをすると、カーテンを開けて日の光を取り入れた。

旅行二日目の、始まりである――。











Flame,Plus











持ってきた服は、私服とその替え、水着以外に、登山服がある。

この島は、島と言うだけあって当然山も森もある。


そのため、二日目は屋敷の裏の山で、宝探しを決行することになったのだ。


宝の情報は、ラミネージュが実家から引っ張り出してきた古びた地図から得たものだ。

別にお金に困っている訳ではない。だが、自由に探しても良い宝があるのなら、探したいと考えるのは、自然なことだった。


「何故宝を探すのか?それは――ヒーローのパワーアップアイテムは、大抵こういうところに眠っているからだっ!」


張り切る奈津をよそに、レイアとラミネージュはついでに山菜を採る予定を立てていた。

椿だけは、密かに“パワーアップイベント”に心惹かれていた。そんなに都合良く眠ってはいないだろうが、期待せずには居られない。


「コンパスと地図は持って――キャンプ道具はどうする?」

「日帰りですわ」

「夜は危ない」


夜の森は、色々と危ない。

だから、行くのなら昼から夕方にかけて、五時間程度だ。

全員、そんな本気で探そうとは思っていなかった。遊びの範疇である。


「蕗の薹とって天ぷらにして貰おう」

「いいですわね。付け合わせてくいっと一杯――」


無表情なので解りづらいが、どことなく楽しげにラミネージュが言った。

すると、レイアもそれに倣って酒を飲む仕草をして――ちらりと椿を見て首を振った。


「いえ、お酒は止めておきましょう」

「別にいいと思うけど」


レイアがそう零すと、ラミネージュが小声で反論した。

だが、幸か不幸か、その言葉はレイアには届かなかった。

代わりに椿に届いたが、椿は何のことか解らず、首をかしげていた。


昼食をとってすぐ、腹ごなし代わりに出発したため、太陽はまだ真上にある。

あまり険しくはないので、特に苦労することなくすいすいと歩いて行く。

己の身に魔力を宿して戦う魔法使いは、体力勝負なのだ。


「あ、ミズナ」

「あっちはヤマユリかな?」

「蕗の薹は?」

「考えてみれば、あれは春ではありませんこと?」


四人は、宝探しを忘れて早速山菜採りをしていた。

道中、ラミネージュが“山菜”を連呼していたため、食べたくなってしまったのだ。


「春……」

「ミズナも天ぷらにしたらおいしいよ、ラミ」

「天ぷら……」

「茎のおひたしも美味しいですわ」

「おひたし……」


落ち込むラミネージュに、椿とレイアが次々と希望を持たせる。

漸く元気を取り戻して、山菜採りを再開する。


「あ、ラミ!キイチゴ見つけた!」

「今行く」


ラミネージュが、先行していた奈津の下へ走り寄った。

次の目標に前向きなラミネージュの姿に、椿とレイアは顔を見合わせて苦笑した。


「ほらっ!椿とレイアも早く!」

「うん!」

「今行きますわ。食べ尽くすんじゃありませんことよ!」


自分を呼ぶ声に、椿とレイアは小走りで駆け寄った。















奈津が本来の目的を思い出したのは、キイチゴを食べて満足していた時だった。


「あっ!宝探し!」

「あー……忘れていましたわ」


奈津ですら忘れていたのだから、仕方がない。

奈津は頭をがりがりとかくと、宝の地図を広げた。


「現在地が、丁度島の中心みたいだね」


周囲の目印とコンパスで位置を割り出す。

島の地図、現在地からそう離れていない場所に、×印が書いてあった。


「あれ?結構近い」

「それなら、行ってみようよ」


あまりに離れすぎていたら、時間的に危ないので、中止にするしかなかった。

だが、そんなに離れていないのなら、話は別だ。宝探しで宝が見つかるなど、胸が躍る。


「うーんと、北東にまっすぐ、かな?」

「そうですわね」

「行って、みよう」


賛同が得られたため、奈津は再び先頭に出た。

地図を見ながら、山道を早歩きで進む。山菜採りに時間をかけすぎたので、やや急ぐ必要があった。


進むにつれて道は険しくなり、奈津は鉈で邪魔な草や枝を伐採しながら進む。

石に躓きそうになったり、出てきた蛇を慎重に避けたりと注意深く進むと、ついに×印の場所まで辿り着くことが出来た。


「それで……お宝はどこにありますの?」

「う……」


ジト目のレイアに突っ込まれて、奈津は言葉に詰まった。

少し空けた場所になっているが、それだけ。そこには、なにもなかった。


「おっかしーなぁ」


奈津はそう零しながら、×印の真ん中まで来た。

なにもないことに首をかしげる奈津を見かねて、椿たちも×印の場所に立つ。


「ここで合ってるけど――?」

「うん。間違いはない」


奈津の持っている地図を、椿とラミネージュが覗き込んだ。

正しいという地図を正確に見ようと、レイアも奈津の手元を覗き込むために、一歩近づいた。


――ミシッ

「みし?」


地面から鳴った音に、首をかしげる。

いち早くラミネージュが異変に気がつくが――時既に遅し。


――ドゴンッ

「え?」「は?」「ん?」「あっ!」


地面が陥没して、落下する。

悲鳴を上げる暇もなく、遙か地中へと落ちていった。















――ざぶんっ


水に包まれる感覚。

冷たく清涼な水に、そっと身体を震わせる。


地中の下の湖などに入ったら、どこへ繋がるかわかったものではない。

椿はそう考えて、空恐ろしくなる。


だが、それにしては、どこか温もりを感じる水だった。

水に入ったまま、椿はゆっくりと“地面に”降ろされた。

優しく包み込まれて降ろされたおかげで、転ぶことなく地面に降り立つ。


「死ぬかと思いましたわ」


聞こえてきた声。

そこには、戦鎧を装着して装霊器を手に取ったレイアの姿があった。

他の二人も、見れば地面に降り立っている。


レイアが魔法の水で、落下の衝撃を防いだのだ。


「ふぅ――ホントだね。ありがとう、レイア」

「構いませんわ。二人は大丈夫なのかしら?」


レイアは椿に優しく微笑んだ後、困ったようではあるが優しさの残る顔で安否を確認した。


「もーまんたい。さんくす、レイア」

「ありがとう、助かった」


登山服はびしょ濡れだが、誰にも怪我は無かった。

そのことに、椿は一安心した。


濡れてしまっては、動きづらいし風邪を引くことだって有る。

そこで、ひとまず全員戦鎧を装着した。


「うっひゃー……上まで登るの一苦労だね、これ」

「奈津ならきっと、走って登れる」

「いや、それはちょっと……」


奈津は否定しているが、案外やれば出来そうである。


「ねぇ、みんな……この洞窟、奥の方、明るいよ」


椿は、洞窟の奥がほんのりと光っていることに気がついた。

そちらに、もしかしたら横穴でもあるのかも知れない。そう考えて、顔を見合わせた。


「もしかしたら、お宝だったりして」

「お宝は自然発光しませんわ。お宝が光っているのなら、それはやはり横穴があると言うことになりますわ」


洞窟の中で不自然に光る金銀財宝。

そんなものは、おとぎ話の世界の話だ。


実際に光っていたとしたら、それは遺産か精霊石だ。

椿は一人、そう納得して、レイアの言葉に感心していた。

こんなことできらきらとした目で見られて、レイアは戸惑っていたが。


進むにつれて、明るさが強くなっていく。

無色の白い光が、洞窟の周囲を埋めていく。


「ねぇ、レイア」

「どうかしましたの?椿」


椿は、一通り周囲を見回して、足元を見る。

そして、不可思議なことに気がついた。


「地面から、発光してる。……ううん。地面だけじゃない。壁や、天井からも」

「え――?」


椿の言葉を受けて、レイアも周囲を見回す。

それに倣うように、奈津とラミネージュを地面や壁を観察する。


「これはまさか――“亜霊石|≪エクスストーン≫”?」

「えくす……なに?」


レイアの口からこぼれ落ちた聞き慣れない単語に、椿は首をかしげた。

レイアは地面から光る石を拾い上げて、頷いた。


「亜霊石というのは、邪霊を怯ませることが出来る自然の鉱石ですわ」


魔力を用いた魔法使いの攻撃でなければ、邪霊を倒すことは出来ない。

子供でも知っている常識であり、人類が現代兵器に頼ることを諦めさせた、理由だ。


だが、それを覆すことが出来る鉱石も、存在した。


「邪霊を怯ませることが出来る自然の鉱石が、亜霊石ですわ。比較的手に入りやすいのですが、加工が非常に難しく、また魔法使いでないと加工できないという厄介な鉱石ですの」


主に、魔法を使うことが出来ない武装団体が、魔法使い到着までの時間稼ぎとして弾頭に込める鉱石だ。ただ、弾頭に込めると、加工の段階で威力が激減するので、大量に消費する必要がある。さらに、自然の鉱石なので人工で造ることも叶わず、お守りとして流用されることが多い。


「邪霊を倒すことが出来る“稀霊石|≪アヴァロンストーン≫”というのもありますが、こちらは滅多に見つからない上に加工も困難なのですわ」


両者とも、困難を乗り越えて加工に成功すれば、非常に丈夫な素材となる。

そのため、銃弾や矢のような消耗品ではなく、剣や槍などの素材に使われる。


「えーと、これ全部?」

「そうですわね。亜霊石は、一つ見つければ大量に見つかりますの」

「一匹見つけたら三十匹」


ラミネージュが非常に嫌な表現をしたことで、椿たちの顔が引きつる。

それは、台所の黒い悪魔のことだ。


「この規模の群生は始めて見ますわ」


レイアは改めて周囲を見回して、感心したように呟いた。

家の者について行って、家が所有している鉱山を見たことがあるが、それもここまですごい範囲ではなかったという。


「って、奥に行けば行く程明るいって事は――」


奈津がその事実に気がついて、声を詰まらせた。

そして、椿たちと顔を見合わせると、一緒に走り出す。


どきどきと逸る気持ちを、わざわざ静めたりはしない。

宝探しと銘打ちはしたが、実際に見つかるとは思っていなかった。


――ただ少しだけ、夢を見て、期待していただけ。


走って、走って、走って。

そして、広い空間出て、息を呑む。


高い天井の広い場所。

洞窟の中とは思えない、神秘的な光。

微弱な魔力の発する亜霊石に反応して、魔力によって光る性質を持つ水晶が、その光を増幅させる永久機関。


「すごい」


誰の呟きだったか。

その声は、温泉の時の比ではない。

これが、宝の地図に記された――――“財宝”だったのだ。


そのまま前に進む。

ゆっくりと歩いているつもりだったが、興奮から早歩きになる。


そして、水晶と亜霊石で彩られた舞台の上、そこには、自然に出来た亜霊石が水晶と混じり合い、台座に突き刺さる剣を象っていた。


それはさながら、英雄を導く選定の剣のようだった。


「椿、奥に何かある」


こっそりと回り込んでいたラミネージュが、そういって椿を促した。

台座の裏側――そこには、誰かが造ったと思われる、階段があった。


「これって――」

「たぶん、地図を書いた人」


地下空洞に存在するこの場所の地図を書くには、帰還する必要がある。

この地図の主は、この場所を記した後に、何度か来て階段を作り上げたのだろう。

となると、所有者であり、この地図をラミネージュに渡した彼女の祖母も、当然ここを知っていることになる。


だが、誰が最初に見つけたかなど、どうでもいい。

今はただ、胸に宿る熱い気持ちをめいっぱい感じ取り、四人で無邪気に笑い合った。















屋敷に戻った時には、すでに夜の帳が落ちようとしていた。

ぎりぎりで帰ることが出来た、という形だ。


帰ってまずは博人に山菜を渡して、椿たちは浴場へ行った。

椿は、記憶のある状態では、初めての来訪だった。


西洋風の広い浴槽で、ゆっくりとお湯につかる。

その温かさは、疲れた身体を芯まで温めてくれた。


「はふぅ~」


声が漏れるのも、仕方がない。

椿たちは四人並んで、存分に寛いでいた。


「疲れがとれるぅ~」

「ふぅ……本当ですわ」


奈津とレイアも、頬に朱をさしてそう呟いた。

ラミネージュは声こそ出していないが、今にも寝てしまいそうだ。

その白い肌が、すっかり朱色に染まっていた。


たっぷりと寛いで、夕食にする。

山菜の天ぷらを中心とした山の幸は、自分で採ったという実感もあって、普段よりもずっと美味しく食べることが出来た。


「ですからっ!」

「ちょ、直道さん!もう少し静かに」

「す、すみません。御厨さん」


デザートをほおばっていると、大きな声が食堂に響いた。

椿はその様子にただならぬものを感じて、困った表情をしていた博人に問いかけた。


「あの、何かあったんですか?」

「あー……ちょっと、ね」

「博人さん」


椿に問われて言葉を濁したが、間接的ではあるとはいえ雇い主であるラミネージュの問いを無碍には出来ない。博人は、何度か戸惑いを見せたが、質問に答えた。


「実は、漁師がいなくなったんです――海の真ん中で、船ごと突然」


その言葉に、息を呑む。

怪奇現象じみたその言葉は、不安をもたらすには十分だった。


「まぁ、我々も出来る限りの捜査はします。私たちも無理をしたりはしませんので、皆さんはご安心して、お過ごしください」


そう言うのならば、安心する。

それが、笑って見せた博人への礼儀だった。

だが、もちろん気を抜いたりはしない。

表面上だけでも安心するそぶりを見せなければならいと判断したのだ。


「何かあったら、言ってください」

「私たちも、手伝う」


椿とラミネージュがそう言って、奈津とレイアが力強く頷いてみせる。

博人はそれに、困ったような、それでいて嬉しそうな笑みを浮かべて、未だに話し合いを続けていた美奈子達の下へ戻った。


旅行二日目から、早くも不穏な空気が、流れ始めていた――。

急に用事がキャンセルになって時間が出来たので、書き上げました。

しばらくは、夏休み編が続きます。


それでは、ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

次回も、よろしくお願いします。

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