第6章 交差する意思
ゼル=レクスの艦内は、長い時を経た静寂に包まれていた。だが、その静けさの底で、眠っていたもう一つの意識がゆっくりと目を覚まし始めていた。
「歴史記録中枢」と名乗るその人格は、戦術中枢とは異なり、冷徹な記録者であった。膨大なデータベースと過去の記憶の断片を蒐集し、艦の過去を蒼一の意識に流し込む役目を担っていた。
蒼一はふと気がつく。まるで夢の中のような映像が彼の脳裏に次々と展開されている。そこに映るのは、煌びやかに栄えたフォーリナー文明の末期の姿。超高文明の光景は美しくもあり、またどこか寂寥に満ちていた。
文明は無数の星々に張り巡らされた巨大なエネルギーネットワークを駆使し、時空を自在に操っていた。しかし、その力はやがて過信へと繋がり、不可解な災厄が襲いかかる。内部の対立、外部からの侵攻、そして謎の崩壊の連鎖。
蒼一はその映像に息を呑む。彼の体の内部で起きている変化は、まさにこの失われた文明の断片が彼に流れ込み始めた証だった。
「俺は一体、何を背負っているのか……」
その問いは艦の歴史と彼自身の遺伝子に刻まれた秘密に重く結びついていた。彼のDNAは、ただの地球人のものではない。超古代種族の遺伝子情報が、無意識のうちに彼を選び、艦の一部と化そうとしているのだ。
そのとき、艦内の静寂を破って甲板から呼び声が響く。アーシェ第三王女が、再び蒼一の前に姿を現したのだ。
「あなた……あの時のあなたですか?」
彼女の瞳は迷いと決意が入り混じり、確かな感情が宿っていた。任務と感情の狭間で揺れる彼女は、蒼一への想いを隠せずにいた。
二人の距離は、これまで以上に近づいていく。共に背負う銀河の運命、その重さを分かち合うかのように。
しかし、彼らの前には依然として数多の障害が立ちはだかる。帝国の圧力、評議会の監視、海賊の暗躍。混沌の銀河で、二人の意志は果たして未来を切り拓けるのか。
ゼル=レクスの深層から流れる過去の声が、静かに、しかし確かに蒼一の心に響く。
「すべては、選ばれし者の手に託された――」
交錯する意志が、銀河の未来を紡ぎ始めていた。