第2章 覚醒する艦とその代償
静寂が支配する艦内。
高城蒼一の意識は朦朧としていた。彼の精神は《ゼル=レクス》という銀河最古の超古代戦艦の心臓部と、無理やり結びつけられていた。
「汝、記録媒体としての構造を持つ者……応答せよ」
それは形も性別も定かでない、古代の“声”だった。艦のAI第一人格、戦術中枢が彼の脳に直接呼びかける。
「俺は……高城蒼一。地球の整備士……ここはどこだ?」
「言語構造、低階層。記録補完を開始する」
意味不明の記号や幾何学模様が彼の視界に流れ込み、意識は次第に薄れていく。蒼一は倒れ込んだ。
数時間後、彼は目を覚ました。
だが、もはや肉体も精神もかつての人間ではなかった。
情報の奔流を処理する彼の脳は、超高密度なデータを解析し、痛覚すら“制御”の対象になっていた。
彼の神経は、艦のシステムと部分的に融合しつつあったのだ。
艦の別人格、倫理制御中枢は静かに彼の昏睡を監視していた。
蒼一は夢の中で、“少女の影”に出会う。
「私を、忘れないで」
その存在は彼の未来に大きな影響を与える“記憶の種”となることを、今は誰も知らなかった。
徐々に回復する身体は、まだ重く手足に痺れが残る。
彼は自問する。
「俺は何者になるのか?」
しかし、その答えは彼の知らぬところで、艦の深淵と銀河の運命が絡み合い始めていた。
ゼル=レクスはただの兵器ではない。
それは知性を持ち、過去と未来を見据え、選ばれし“コアリンク者”との共鳴によって初めて真の力を発揮する存在だった。
蒼一は、まだ理解できないまま、その“異常”と“力”の渦の中に身を投じていく。
銀河の均衡は崩れ始めていた。