第10章 選ばれし者たち
銀河の果てで、ゼル=レクスの艦内はかつてない緊張感に包まれていた。
長きにわたり封印されていた“記録制御中枢”が、ついに蒼一の精神に呼応し、その眠りから覚醒し始めたのだ。
「お前こそが……記録の器だ」
艦内の深淵から響くその声は、まるで太古の時代の囁きのように彼の意識に染み渡る。
蒼一は自らの内部に流れ込む膨大なデータの奔流を感じ取りながらも、その重圧に戸惑いを隠せなかった。
膨大なフォーリナー文明の遺産、未曾有のテクノロジー、そして消えゆく種族の記憶が、彼の意識とDNAに深く刻まれていく。
それは単なる知識の継承に留まらず、身体的変容すら促す、超常的な融合だった。
「なぜ、俺が選ばれたのか?」
幾度も蒼一は自問した。
「それは偶然ではない。お前は適応し、受け入れたからだ」
声は確かな確信と共に告げる。
彼の体内で蠢くナノマシンが血流に乗り、組織の再構築を開始する。
怪我は瞬時に癒え、肉体は以前より遥かに強靭となり、常識を超えた回復力を獲得した。
だがその代償は大きい。
彼の遺伝子には、超古代文明の“意志”と“負の遺産”が混入し、肉体と精神の両面で激しい葛藤を生み出していた。
蒼一は冷静に自己を見つめ、選ばれし者としての重責を理解し始める。
彼は単なる操縦者ではない。銀河の未来を背負う“媒介者”であり、“記録の継承者”だった。
アーシェ第三王女との信頼は揺るぎなく、彼女もまた彼の変化を静かに見守っていた。
「あなたの持つ力は、銀河を救う鍵となる」と。
だが、銀河は依然として不安定であった。
帝国や評議会、連合、そして闇の勢力がそれぞれの思惑で動き、彼らの脅威となっていた。
蒼一は思考を集中し、艦の操縦席に立つ。
彼の手が操作パネルに触れると、ゼル=レクスはまるで意識を持つかのように応答し始めた。
「これより、お前と共に銀河の未来を切り拓く。恐怖も孤独も、この艦が共に背負おう」
巨大な銀色の艦は星々の間を滑るように進み、彼らの戦いは新たな段階へと入った。
銀河の運命は、選ばれし者たちの手に委ねられたのだ。