第1章『眠れる艦と目覚めた者』
初投稿初作品です。取り合えず10章くらい目標に作成していきます。
――空間は、沈黙していた。
そこには何の音も、何の光もなかった。
ただ、意識だけがゆっくりと浮上していく。
「……ここは、どこだ?」
高城蒼一は、目を開けた。
感覚はぼんやりとしていたが、すぐに自分が“何か”の内部にいることを察した。
壁は滑らかすぎて無機質というより、まるで“生き物の内側”のような感触があった。
淡く脈動するような光が、天井から滲み出る。
一歩足を踏み出した瞬間、床が微かに呼応するように震えた。
(夢か、現実か――それすら曖昧だ)
前方に伸びる通路。その奥に、何かが彼を呼んでいる。
声ではない。感情の揺らぎ、あるいは“記憶の欠片”のようなもの。
彼は導かれるように歩き始めた。
通路の先、扉のない部屋に足を踏み入れた瞬間、彼の視界に巨大な“球体”が映る。
それは、空間の中心に浮かぶ漆黒の球――だが、ただの物体ではなかった。
(これは……艦の中枢?)
蒼一がそう思ったとき、
球体が波紋のように脈動し、彼の意識に直接“言葉”が流れ込んできた。
《識別コード……一致。対象:コアリンク者……認証開始》
「……え? ちょっと待て、俺はそんな――」
《適合率:99.999……リンク、完了》
言葉では説明できない“何か”が脳に突き刺さる。
一瞬、彼の視界は白く塗りつぶされた。
――映像。
焼き払われた星々、崩れ落ちる文明。絶対的な力で銀河を支配していた種族が、何者かに敗れ、消えていく光景。
(なんだ、これは……俺の記憶じゃない)
《こちらはゼル=レクス第88位正統継承艦。統合知性体、覚醒率3.2%。
コアリンク者により最低限の機能を解放。……待機命令、千三百九十六万日経過》
「……目覚めたのか、俺で」
彼の胸に、言葉にできない確信が宿る。
これは、選ばれたのではない。
そう、“偶然”というには不自然すぎる。
――この艦《ゼル=レクス》に、彼は“触れられた”のだ。
そしてその瞬間、すべてが始まった。
* * *
高城蒼一、地球出身。
宇宙開発企業の下請け整備士として、静かに暮らしていた青年は、
突如、超古代文明の遺産――眠れる覇艦と精神を繋げられた。
ゼル=レクス。その名も、意味も、彼には未知。
だが、彼の中の“何か”が、確かに言っていた。
――これは、運命ではない。
――だが、逃げる理由もない。
この瞬間、銀河に眠っていた「覇艦」が目覚め、
そして一人の“無名の地球人”が、
やがて“銀河最悪の海賊”として恐れられることとなる……その最初の一歩が、
静かに、確かに刻まれたのだった。