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対立する 4

核という脅威が人類の頭上に振りかざされてもなお、暴力はなくならなかった。それは間接的アプローチと言う名前の暴力だった。


どこまでも続いていく、暴力の連鎖、立ち止まることなく変わり続けながら。

それは言葉も同じ。言葉が私と世界をどこまでも繋いでいく。暴力も言葉も何度も何度も積み重ねられ、どこまでもどこまでも前に前に進みながら変わっていく。変わりゆくけれど、その本質は変わらない。自由を奪い、意味を繋ぐ。暴力は他者を否定する意志で、言葉は他者と繋がる意志だ。

積み重ねられ、紡がれてきた膨大な人類の言葉が私の思いと思考を形作る。私はひとりではない、クラウゼヴィッツ、ナポレオン、オッペンハイマー、ルソー、北条重時、ジル・ドゥルーズ、フェリックス・ガタリ、リデル・ハート、ウィリアム・ジェイムズ、数多もの感情と思想とが私の中を駆け巡っている。異なる時代と異なる思いを抱えた人々の意志が。

ここにいる私は、すべての事物の終端のひとつだ。あなたの思いの先に私は生きている。あなたの痛みの先に渡しは生きている。暴力と言葉とを私は手放さない。けれど、ただ受け入れもしない。私は私だから。過去は過去でしかない、だからこそ今ここにある私はなによりも真剣に過去を今に、未来に持ち込まなければいけないのだと思う。過去に囚われず、過去を忘れず、今に生きて、未来を見つめ続ける。私は私でしかない。あなたはあなたでしかない。

私は相条紫澄、私には二人の友人がいる。私は相条紫澄、私には大切な誰かがいる。

私は繋がることを諦めない。私が私だけの世界ではないと知っているから、この世界が繋がっていることを信じているから、繋がれることを信じているから。私の前にあなたがいると感じるから。


第一次世界大戦で祖国の莫大な犠牲と破壊をみたリデル・ハートは、戦争という暴力的行為を最小限の流血のもとに置くことを目指した。この凍てつくような現実の前で暴力を拒否することはできない。だが、暴力を可能な限り理性の下に運用することはできるかもしれない。そして、そうであればこそ、そこに秩序が生まれ、無分別な破壊と流血を回避し求めるべき利益もまた獲得できると彼は考えた。

間接的アプローチそれが、リデル・ハートの考えた戦略論の名だ。私はそれを社会契約説と比類する偉大な発明と考える。間接的アプローチは暴力を他者と私の関係性の中で共有可能な記号として運用する方法論だからだ。

間接的アプローチ、それは、武力による正面衝突を避け、間接的な手段を主要な戦略として通商破壊、経済封鎖、指揮系統の撹乱、敵国内部の切り崩し、シーパワー・エアパワーの活用、プロパガンダといったあらゆる手法を使い敵戦力を直接に破壊することなく政治的目的を達成する戦略論だ。リデル・ハートは、間接的アプローチによって、流血と利益とのバランスを把握し、どれだけの犠牲を求めるべきかという尺度と選択肢を私達に与えた。


暴力は他者の意志を否定し、自己の意志を強制するものだった、相互確証破壊が達成されるまでは。私とあなたが核兵器の前で繋がり同じ終わりを共有したとき、暴力には限りが生まれた。私の死である、あなたの死を拒否するという同意がここにはあった。

無制限の暴力を拒否するという同意の上で可能な、唯一の暴力が間接的アプローチだった。他者を完全に破壊せずに自己の政治的目的を達成する為の手段。それでもなお、対立は解消されない。対立は私とあなたが異なることから生まれる。だけど、共同体も私とあなたが異なるからこそ生まれるものだ。異なる私はあなたを否定し、異なる私はあなたを求める。違うものはこわい、違うものは理解したい。そこにあるのは暴力で言葉だ。言葉も暴力も私とあなたという対立の中にある。

相互確証破壊という暴力の最果てで、言葉と暴力とはひとつとなった。間接的アプローチ、それはあなたの意志を否定する暴力で、あなたと繋がるための言葉だった。


薄氷の上で私達はなおも暴力を手放さない。それでもなお、それでもなおと言葉を紡ぐ。私達は終焉の上に立っている。この終焉を正しくおそれ共有できるなら、きっと私達は、第二の約束から、次に進むことができる。一つ一つ、暴力的でそれ故に真剣な言葉を伝えていくことができる、国家と国家による国際的社会契約を結ぶことができる。ここで紡がれる言葉、間接的アプローチは私を殺さずあなたを殺さない、けれど、とどめおくことのできない思いを伝達する。それは痛みだ、どうしようもない痛みだ。暴力としての言葉でしか新しい社会契約が結べないのだとしても、ただそれは悲しいだけではない。それは、言葉を捨てな買ったことの証明でもある。私とあなたは向き合っている。

ここにいる私は、ここまでのあなた達のお陰で存在している。夕陽と秋華のお陰でここにいる。だから、私は言葉を諦めない。言葉が繋がったときそれは物語となる。


「いし」は私達の始まり、それは0番目の約束。


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