第21話 1/2成功体験
〜葬蘇赫死亡から2度の朝日が彼を照らす〜
【黒野零視点】
「赫……お前と過ごした2年間……絶対に忘れないからなッ……!」
あれから赫の遺体は回収され、葬式も行なった。全開と出会ってからは、死を軽視している気がして、自分に恐怖を抱くようになった。赫の死はまるで数年前かのように感じる。
「赫……安らかに眠ってくれ……」
「かッ……赫氏ィィィィ……!また一緒に遊ぼうぜェェェェェェ……!」
世界は残酷だ。
どれだけ悲惨な事が起ころうと、世界は待ってくれない。ただ着いていくだけなのに、これほど辛いのか。
「零……!戒……!」
外から声が聞こえてきた。
ガラスを凝視すると、そこには式服を着た男が立っていた。
「お前……海斗か……?」
司馬海斗、俺たちの同級生だが、赫の事は伝えてないし、式場も教えてない。
「まさか赫の奴、死んじゃうなんてな」
「なんでお前が、赫の事……?」
「陽華凛ちゃんから聞いたんだ、俺も良くわかってないけどな」
海斗は……
友人が死んでなんとも思ってないのか?
「お前……赫が死んでもそんな呑気に生きてられるのか……?なあッ……!」
「ッ……戒ッ!落ち着け……お前の気持ちも十分分かる。だが、此処は式場だッ!赫にも迷惑になるだろッ……!」
普段は温厚な戒が、こんなにも怒っているのは初めて見た。
だが、その気持ちは分かる。
友人が死んで呑気に過ごしてる奴なんか、俺達の気持ちは理解出来ないだろう。
「逆にさ、悲しむ方が赫に迷惑じゃないか?」
「……何言ってんだよ……?」
「赫ってさ、ヤンキー見たいにイカつくて、直ぐにキレる。だけど、アイツは仲間想いのいい奴で落ち込んでる奴が居ても、元気付けてくれるだろ?」
確かに、赫は側から見れば感じの悪い半グレって感じだけど、実際接してたら、ムードメーカー的な立ち位置で、落ち込んでる姿なんて見た事ない。
「だけど……悪いが、お前の言ってる事は人間の途を踏み外している。非人道的な言い訳だ」
「人間ッてのは、生きるか死ぬかの二択。赫は二択を外した、俺たちは二択を当ててる。死者を弔うッてのは、ギャンブルで大損した奴を励ましてるような事だぜ」
「ッ……お前はいつまでも運任せだなッ……!」
だからこそ、赫の前で悲しんだり、喧嘩したりするのは迷惑だと思う。たしかに、海斗は生粋のギャンブラーだし、性格に難ありだけど言ってる事は正しい。
「それに……」
「どうやら、不届者が来たみたいだ……!」
「は……?何言って……?」
戒が扉に目を向ける。
それに釣られて、俺も目をやる。
そこには複数の人影が太陽光を遮っていた。
「ッ……こんな時に限って……」
「大丈夫だ……!俺は勝ちに賭ける……!」
扉の奥に立ち尽くす人影が銃火器を取り出す。
「零!そのまま行け!」
「はぁ……!?お前ッ……俺を蜂の巣にする気かッ……!?」
「零が生きるにフルベットしてやるぜッ……!」
クソッ……本当に海斗は他人事でしか物事を考えないなッ……!だけど……こいつには信じるほどの実績があるッ!
「行くぞッ……!」
弾丸の雨あられが体を掠める。
しかし、全て空を切る。
「ふぅ……!やっぱり怖いなッ……だけど、信じないのはすなわち"死"を意味するからなッ……!」
「次は2歩右に歩け、そしたら攻撃開始だ!」
2歩右に足を運ぶ。
弾丸は全て、頬を掠めるが当たらない。
「全開……!」
「うおォォォォォォォォォォォ……!」
全開の拳が人影を蹴散らす。気付けば、人影は全て消えていた。
「ふぅ……なんとかなったぜ……!」
「さっすが零!俺は神……?とか知らんけど、なんとなくでわかるぜ!」
戒は呆然としていて、焔は赫の棺を見つめる。海斗は目を光らせながら、俺に話しかけに来る。
「お前には神が居ないのか?」
「まあ居ないな!だけど、赫から色々聞いててからな!」
海斗は神が居ないのか……
それだと、今後の先頭はかなり厳しい状況になる。正直、海斗にはあまり付いてきて欲しくはない。
「別れの挨拶はしたか?」
「……あ……焔か、立ち直ったか?」
「ああ、海斗の言葉を聞いて考え直したよ。赫氏はいつでも元気で、辛いことがあっても、ずっと自分を貫き通してたからな」
「戒も、別れの挨拶をして……」
プルプルプル
スマホに着信が来た。
「雅からだ……もしもし」
『大変……!私が寝てる間に大事な資料が盗まれちゃったの……!』
「大事なッて……何の資料だ……?」
『没落王族の……』
一難去ってまた一難とはまさにこの事か……
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