第19話 伏見:劇的犯罪禄
『赫がッ……!』
〜【赫視点】〜
遡る事数分前……
「クソッ!見つからねー!」
「もう諦めろ、誰がが盗っていったに違いない」
妹から貰ったバッチがなくなった。
おそらくだが、前にあの爆破男に吹き飛ばされたんだろう。
「クソッ!諦めてたまるものかッ!」
俺は周りから"シスコン"ッて呼ばれるが、普通兄は妹を守るだろ。
俺は当然の事をしてるまでだ。
唯一の妹なんだから。
「おッ!合った……?」
地面に光る何かを見つけた。
しかしそれは妹から貰ったバッチではない。俺が妹にあげたバッチだ。
「これッ……!?陽華凛のッ……!?」
「は?どういう事だ……?なんでお前の妹のがここに落ちてるんだよ?」
心臓が痛い……
とんでもない速さで鼓動が響く。
「一体何が合ったんだッ……!」
プルプルプル
着信だ。
それも知らない番号から。
恐る恐る通話に出る。
『もしもし、君が赫くんかな?』
「なッ!?テメーッ!なんで俺の名前をッ!」
『君の妹ちゃんから聞いたんだよねぇ、電話番号もさ』
「テメーッ!陽華凛に何をしやがったッ!」
『誘拐させてもらったよ、君からお金を出してもらうためにね』
「ッ……わかったッ!金を出すッ!だから陽華凛には手を出すなッ!」
『素直な子だ、良いだろう』
『今日の24時までに太田腹の廃材置き場まで来い』
ガチャッ
「どういう事だッ?赫氏の妹が誘拐されたッ!?」
「訳がわからない……何故赫の妹を……神崩しと関係があるのか……?」
誰が陽華凛をッ……!
出会った瞬間にこのクソッタレの顔面をぶち壊してやるッ!
そう思いながら、脚を前に出し太田腹方面へと向かっていた。
「待てッ!赫氏!」
「1人で行くなッ!」
その声は小さく耳の奥に響く。
遠く離れたところから微かに聞こえた。だが、そんな声は俺に届くはずが無いッ!
【〜太田腹〜廃材置き場〜】
「ハァ……ハァ……」
結構時間がかかった。
あんなに明るかった空はオレンジ色に染まり始めている。
「フッ……!入るかッ!」
ガシャッ……ガシャッ……
廃材を踏み締める。
そして静かな廃材置き場に響き渡る。そして静かに息を飲み込む。
「スゥゥゥゥゥゥッ……」
「来たぞッ!この葬蘇赫様がなァァァァァァァァァァァァァァッ!」
シーン
「返事しやがれェェェェェェ!」
すると、俺に答えるように背後から背筋が凍るほどの冷たい声が聞こえてきた。
「人の感情と言うものは最も緩く、制限の無い弱点だ」
勢いよく振り返る。
しかしそこには誰もいない。
「どッ……どこにいやがるッ!」
「それに感情に深く関わる感覚が人間が自身の状況を理解するための最も重要な物だ」
また背後から声が聞こえた。
振り返っても居ないだろう。
そう思いながら再び振り返る。
「つまり、お前は既に僕の感覚の手のひらで踊らされている」
視界の中にうっすらと映る影、しかし薄い視界の中でもハッキリ分かるのが手ぶらという事だ。
「テメーが陽華凛をッ……!」
何故か一向に視界が晴れない。
それでも分かる。
今、目の前に居る男が不敵な笑みを浮かべている事を。
「ああ、そうさ。僕こそが近頃起こっている、連続誘拐事件の主犯、伏見禄だ」
「テメーがッ!陽華凛を何処にやったッ!出しやがれッ!」
「無理だね、妹を返して欲しければ僕を殺してみる事だな」
この時、俺の中で何かが切れた音が鳴った。
「破者ッ……!」
拳を振り上げる。
「そんな遅い攻撃が僕に当たるとでも?」
そして勢い良く振り下ろした拳は空を切る。そして地面を叩く。
「崩壊は……連鎖するッ……!」
次の瞬間、地面が崩れて伏見の方へと崩壊が進んで行く。
「なッ……!?これは想定外ッ……!?」
「触れたらテメーもぶっ壊れるぜッ……!」
「だがしかしッ!想定外の出来事も想定の範囲内だ!」
「何を言っているんだッ……?想定外が想定内だァ?」
構わず拳を振り続ける。
全ての拳は空を切るがその拳は地面を通じて伏見を追い詰める。
「そんな物は僕には通用しない……」
伏見が飛び上がった。
しかしその行為は計算の内だった。
「俺バカだけどよッ!こういう時は頭が冴えるんだッ!」
一度目の崩壊が伏見の背後にあった廃材を崩す。その廃材は伏見目掛けて降り注ぐ。
「なッ……しまったッ!」
崩壊が伝播している廃材が伏見の足を踏み潰す。そのまま、崩壊は伏見の足を崩し始める。
「何ッ……!?」
「ふッ!その足を落とさないと、体まで侵食していくぜッ!」
「クソッ……舐めやがって……」
伏見の背後から煙が立つ。
そこには脚のない幽霊のような体に、4本の腕、そこには喜、怒、哀、楽の文字が1本1文字ずつ刻まれている。目には光がなく、灰色の瞳に額に刻まれている『死』の文字。コイツが伏見の……
「感覚……俺の足を切り落とせッ……!」
すると、迷いも無く伏見の右足を切り落とす。そこからは大量の血が吹き出す。
「グアァァァァッッッッ……痛いッ……痛いッ……!」
「ッ……コイツ……ガチで切りやがったッ……」
苦しむ伏見が突然笑い始めた。
しかしそれは普通の笑いではない。
「はぁ……ははッ……!この僕は目的の為なら手段や犠牲は問わないッ……!ただ……ただ一つの目標の為にッ……!」
伏見がいい終わると、体を蹴り上げ向かって来た。
「テメー……狂ってやがるッ……!」
「僕の感覚は力こそ無いが……人の体を切り裂く力はあるんだッ……!お前の体を切り刻んでやるッ!」
それこそ俺の破者の方が力は無い。ただ崩壊させるという能力。だが……能力を扱える神格者こそがッ!最強の神格者だッ!
「ぶち壊せッ!破者ォォォォッ!」
「ウォォォォォォァァァァァッ!」
破者の高速ラッシュ。
伏見の体を掠めるも当たりはしない。それでも、拳は止めない。
「どうだッ!クソ野郎ッ!反撃してこいよッ!」
「くッ……良くもこの僕を蔑んでくれたなッ……!」
「ふッ!所詮はこの程度かッ!この赫様を舐めるとこうなるんだぜッ!はははッ!」
気分が高まって来た。
このまま仕留めるとしようかッ!
「死ねッ!」
「待てッ……!」
俺の拳が伏見の顔面を捉えた時。
奴が命乞いを始めた。
「僕を殺したら……お前の妹の居場所がわからなくなるだろッ……!」
「……妹は……陽華凛は生きているのか……?」
「あッ……ああ……生きているさ……」
「ふッ……良かった……」
安堵のため息に紛れて、伏見が邪悪な笑みを見せる。
「すまない……さっき言った事は嘘だ……!」
「……はッ?」
「お前の妹ッてさ……赤髪で短い髪……そしてお前みたいに赤い瞳をしてたな……」
「なに言ってんだよ……陽華凛は生きてるんだろ……?」
意識が朦朧として来た。
それが嘘か本当かわからない事が俺の心臓を揺さぶる。
「もう殺した……お前見たいに反抗して来たからなッ……!」
「嘘……だろッ……なァ……!?」
意識がどんどん薄れて行く。
朦朧する意識の中、伏見の不敵な笑みが薄らと映る。
「そんな……わけ……」
地面が逆転した。
伏見が視界の中に映る。
俺は何をしているんだ……?
―― キィィィィィィィン……
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