第九話 奪われた
第九話 奪われた
「くそっ……」
私は席に座り、腹を押さえていた。
(殴られた上に、財布もあの三人組に取られた……)
去り際に「ちゃんと連れてくるんだぞ、辰也君~」と言い残し、金を持ち去られた。
(今日はいつも以上に最悪だ……)
机に突っ伏す。
(そもそも『金髪の高校生』ってあいつのことだろ……)
もうあいつとは関わりたくないのに。
(それに不良を倒したのは私じゃない、巻き込まれただけだ!)
なぜ直接あいつを狙わないんだ!
「あの時……行かなきゃよかった……」呟く。
(どうすればいい……)
ヒーローなら、こんな時どうする?
「誰か……助けて……」
机に額を付け、祈るように。
少なくとも、ヒーローは他人に助けを求めたりしないだろうが……
---
放課後、三人組は私が一人だと見るや逃げ出した。
私はたった一人で蒼月高校のアジトに向かう。
「どういうことだ?」
番長が私だけの到着に冷たい視線。
「あ、あの金髪の人とは知り合いじゃないので……」
震える声で説明する中、周囲の不良が迫る。
「お~、じゃあ俺たちが間違ってるって?」
ふざけた調子で見回す。
「違います番長!」
「こいつ確かにあの金髪と一緒にいました!」
「誓って!みんな見てます!」
手下が慌てて証言する。
「外で騒ぐのは勝手だが……」
冷たい声で椅子に座り、見下ろす。
「一番恥ずかしいのは――負けたことだ」
「相手はたった三人」
鋭い目で私を睨む。
「それでまだ舐められてる……」
「はあ……はあ……」
息が荒くなる、重圧に押し潰されそう。
(い、いや、私は正しいことを……)
一人で来た、他人を巻き込まない選択。
(指名が私なら、これでいい。)
「ぶっ殺せ」
命令一下、不良の群れが襲いかかる。
歯を食いしばり拳を握る。
(どれだけ役立たずで、弱くても……)
唾を飲み込む。
「俺は……少なくとも一度は――誰かのヒーローだったんだ!!」
叫びながら、拳を振り上げ突撃!
ぶつかる前に、数発のパンチが炸裂。
体が軋むような痛み、意識が遠のく。
(死ぬ……のか?)
手の古傷が裂け、血が滲む。
それでも拳を握り、空を切る。
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すぐに、私は地面に倒れ動けなくなる。
服は剥ぎ取られた。
「次はちゃんと連れて来いよ~」
携帯を向けられ、嘲笑される。
不良の一人が私の頭を踏みつける。
「こいつの財布、空っぽだぜ!」
「貧乏人じゃん」
「あの三人組は?」
「あいつらが取ったんだろ」
「来ないなら殴りに行くか!」
「そりゃいい!」
私を見下ろす。
「こいつ弱すぎてつまんねえ」
「あっちの方が手ごたえありそう」
這うのもやっと。
「おっ?何これ?」
ポケットを漁られ、金色の懐中時計を取り出される。
微かに顔を上げ、時計を見る。
嘘をついていた。
持ち歩いてないと言ったのに。
実はずっと携えていた。
――まだヒーローになりたかったから。
必死に起き上がる。
「返せ!!」
叫び、狂ったように飛びかかるが、また殴られる。
「わ~、高そうじゃん?」
不良は時計を弄ぶ。
「ぐっ……」
再び立ち上がる。
(時計は……持ち主を変える。あいつが言ってた……)
奪われたら、本当に変わるのか?
「返せ!!」
何度も跳びかかるが、届かない。
(前に他人に開かれた時は反応しなかった……)
もっと「ふさわしい」持ち主を探してるのかも。
私より強く、「影響力」のある人間……
「がっ!」
また腹部にパンチ。
苦悶の表情で跪くも、時計から目を離さない。
「これ純金か?」
「古い時計って高く売れるよな?」
「いい値がつきそう」
話が盛り上がる。
「よこせ」
番長が手を伸ばし、時計を受け取る。
(あいつが選ばれたら……)
確かに、私よりずっと強い。
押さえつけられたまま、彼がボタンを押すのを見る。
「お~、動いてる」時刻を確認。
「時計ってのも悪くねえな、特に金色は」
満足げに蓋を閉める。
「この時計、俺のもんだ」
そして私を冷たく見下ろす。
「明日同じ時間に、あの金髪を連れて来い」
「さもないと、どうなるかわかるな?」
「そういえば、あの金髪の時計も持ってたよ」
手下の一人が言う。
「は?」番長の表情が険しく。
「ち、ちがう色でした!銀色で、こんな高級じゃ……」
慌てて取り繕う。
「いらねえ」
嫌そうに時計を放る。
「捨てとけ」
「は、はい!」手下が受け取る。
「番長、連れてきました!」入口から声。
三人組が殴られて運び込まれる。
「ああ、忘れてた」
番長が彼らを見下ろす。
「約束通りだ――連れて来れなかったら、お前らもな」
三人は呻く力もない。
「で……約束破った奴は、どうする~?」
バットが取り出される。
「今回は特別だ」
「片手か片足、選べ」
淡々とした口調。
手下が三人を取り囲む。
「どっちがいい?手?足?」
「動いたら……間違うかもね~」
笑いながらバットを構える。
「や、やめて……お願い……」
哀願も虚しく。
バットが振り下ろされようとした瞬間。
「おい!」
声が響く。
入口に、二人の人影。