第五話 再通信
第五話 再通信
「明日はもっと金を持って来いよ、辰也君~」
彼らは私の財布から金を全部取り上げ、空の財布を投げ返した。
私は無力に地面に這いつくばっていた。
今日もいつも通りの一日だった。
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「朝からあいつらに会うなんて、運が悪い......」私は地面に座りながら考えた。
(クラスまで探しに来てるらしい......)今まではうまく避けられたのに、今日は入り口で待ち伏せされていた。
学校の隅に引っ張られ、財布の中身を全部取られた。
(昼飯はどうしよう......)ポケットから懐中時計を取り出した。
これは未来人と話せる時計で、未来に起こる大事件を教えてくれる。
唯一無二だと思っていたが――あの高校生も同じ時計を持っていることに気づいた。
(見た目は違うし、振動もする......)時計のボタンを押すと、蓋がパカっと開いた。
中の時刻を見る。
「私のは反応がない、壊れたのかな......?」
(それとも彼の言う通り、次の持ち主を待っているのか......)
未来人はどうやって私の名前を知ったのだろう。誰がいつ時計を拾うかも最初から決まっていたのかもしれない。
(もう交代の時なのか?)
あの事件を終えたら、私の役目も終わり?
(これが「英雄」なのか?)
「いや......」首を振った。
「少なくとも、あの金髪のやつに時計のことを聞いてみよう......」
時計をポケットに戻した。
(このまま終わりたくない......)
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昼休み。
「確かに同じ学校だけど......」廊下を歩きながら呟いた。
「校内で見かけたことないな、上級生か?」
金髪なら目立つはずなのに、周りを見回す。
「うっ......」その時、誰かとぶつかった。
「すみません......」慌てて謝る。
「またお前か」嫌そうな声がした。
見上げると、あの金髪の男が立っていた。
「見つけた......」呆然と見つめる。
「また前を見ずに歩いて」
そう言うと、彼は去ろうとした。
「あ、待って!」手を伸ばして掴んだ。
「用事か?」彼は言った。
「巳藤、行くぞ?」前方でクラスメイトが呼んでいる。
(巳藤って名前か......)脳裏に刻み込む。
「今行く」彼は答えた。
そして私を睨みつける。
「放せ」手を振り払われた。
「二度と姿を見せるな」
そう言って立ち去った。
彼が仲間たちと笑いながら去っていくのを見送る。
「人気者だな......」感心した。
(前に見た時は一人だったのに......)
その場に立ち尽くす。
英雄は孤独なものだと思っていた。
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放課後。
「見つけた!」校門で待ち伏せした。
「巳、巳藤さん!」
急いで前に立ちはだかる。
「聞きたいことがあるんです!」緊張して言う。
「てめえ......」不愉快そうな目で見られる。
見上げると、大勢のクラスメイトがいることに気づく。
(昼より多い、女子まで!)凍りつく。
「巳藤君、知り合い?」
「助けた人?」
周囲の女子が興味深そうに見る。
「いや、知らない」冷たく言い、そばを通り過ぎる。
「そう」彼女たちもついていく。
「お菓子食べに行こう~」
「近くに新しくできたスイーツ屋さんよ!」
集団で去り、一人取り残される。
「女子は甘いもの好きだな、太るぞ~」男子が笑う。
「巳藤君が守ってくれるからいいの!」
「そうだよ~」女子が楽しげに同調する。
「そういう意味じゃない!」
「巳藤、何とか言ってくれよ~」
「急用が入ればそっち優先」巳藤が言う。
「えー、今日はせっかく巳藤君が一緒なのに!」
「救助が第一」返す。
「救助なら仕方ないか~」
「そうだね~」女子たちが合唱する。
「巳藤君、私たちが危ない目に遭ったら助けに来てくれる?」期待の眼差し。
「警察を呼べ」冷たい返事。
「巳藤!ここは『すぐ駆けつける』ってカッコよく言うところだろ!」
女子ががっかりするぞ!
「ただ......警察よりは早く着けると思う」
顔を上げ、口元を緩める。
彼女たちは一瞬でメロメロになった。
「まあ、巳藤君の言う通り!」
「だって巳藤君が助ける人はいっぱいいるし~」分身の術はない。
「そうだね~」また合唱。
「お前ら、巳藤君の言うことなら何でも......」男子が呆れる。
「巳藤、今度男子だけで男らしいことしようぜ!」
「時間があればな」
「それって行けないってことじゃん!」
彼は先頭を歩きながら、ポケットから懐中時計を取り出し、ボタンを押して時刻を確認する。
思わず記憶が蘇る。
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「はあ......まったく......」家に帰る。
「もう......」カバンを放り投げ、時計も机の上に置く。
「どうして同じ時計を持ってるのに、あいつだけあんなに......」
「学校で友達もいない、話す人もいない!」
「いじめっ子に絡まれて、金まで取られる!」
「なんであいつだけ......!」
文句を言っていると――
『やっほー、辰也君~数分ぶりだね!』
時計が話し出した。
「お前、2ヶ月も無言だったくせに!」
興奮して時計を掴む。
「壊れたかと思った......」
(あれ!?いつ開いた!?)
「さっきの話......聞かれた?」緊張して聞く。
『ん~?何の話?』
疑問の声。
「よかった、聞かれてない......」安堵する。
『辰也君、その状態を"ぼっち"って言うんだよ~』
冗談めかして言う。
「聞いてたじゃねーか!!」
<任務があるよ、辰也君。場所はXX商店街の路地裏、時間は10月13日午後5時55分まで......>
<今回はもう一人と一緒の行動だ~>
<ペア任務だよ~>楽しげに話す。
(二人......まさかあいつと?)考える。
<では~>
通信を終えようとする。
「待て!」慌てて止める。
「時計......他にも持ってる人は?何人いるんだ?」
<え?言ってなかった?>
「言ってないよ!」思わず叫ぶ。
<辰也君がすぐ切っちゃうからさ~>
「あの時は......」
いきなり未来人とか言われたら、誰だって閉じるだろ!
(最近は毎日開いてたのに......)
まあ、言わなくていいか。
<では、"十二支"プロジェクトについて説明しよう>