第二十話 危機の解除
第二十話 危機の解除
「せーの、で!」数名の屈強な男子学生が歯を食いしばり、重い花火の箱を臨時調達した運搬車に積み込む。
汗がシャツに染み込み、炎の光が緊張した顔を揺らめかせる。
「爆発するぞ、急げ!急いで!」火の音と遠くのサイレンの合間に、焦る声が響く。
一分一秒を争い、乱暴ながらも躊躇いのない動き。
「ドカン!!」炎の奥から再び心臓を掴むような爆音が響き渡る!残存設備の爆発だ!
金髪の高校生は全身が汗で濡れ、頬を伝う滴が止まらない。最後の一箱を必死に担ぎ上げる。
「これが最後だ、行くぞ!」声は嗄れ、生き延びた安堵が滲む。
「一人で大丈夫?手伝おうか?」駆けつけた男性教師が息を切らしながら、金髪の少年の腰に揺れる銀の鎖に目をやりつつ尋ねる。
「問題ない!」金髪の高校生は歯を食いしばり、足取りは重いが確かだ。
「助かったよ、あの特大サイズだけは一人じゃどうにもならなかった……」箱を運搬車に載せ、膝に手を付き激しく息を整える。
(ようやく……)燃え続けるものの脅威が大幅に減った火元を見上げる。
「あとは……完全に消火するだけ……」疲労が波のように押し寄せる。
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花火の危機が去り、金髪の高校生はようやく立ち止まる。胸を波打たせ、焦点の定まらない目で秩序を取り戻しつつある光景を見渡す。
数人の生徒が協力してホースを引きずり、頑固な炎に放水する。空き地には応急救護区域が設けられ、ボランティアが負傷者の手当てに追われる。
焦げ臭さと水気、消毒液の匂いが混ざり合う。
「大丈夫?」冷たい声が響く。
黒髪の少女がいつしか彼の前に立っていた。
「あ、大丈夫」我に返り、手伝っていた最後の小箱を安全な場所の山の上に置く。
額と顎から滴る汗が粗い段ボールに染み込む。
「ステージ裏の花火は全部運び終わった」疲れ切った声で報告する。
「これで最悪の大爆発は避けられたはずだ」金髪の高校生は告げるように言う。
黒髪の少女は彼を見つめ、汗と煤だらけの顔、隠せない疲労を目に焼き付ける。
「他の人の状況は?」金髪の高校生が顔を上げ、大火の中でも冷静な黒髪の少女に尋ねる。
「火傷や擦り傷が多いが」少女は淡々と述べる。
「幸い、命に別状はなく、手当て可能な範囲の負傷ばかり」
その時、傍らにいた執事が無言で主人公に未開封のペットボトルを差し出す。
「そうか……ご苦労様」主人公が低い声で言い、水を受け取る。
飲まずに蓋を開け、汗と熱で火照った頭と顔にざあっとかける。
冷たい水滴が金色の髪を伝い、遠くで消えきらない炎にきらめくダイヤモンドのように輝く。
「そうだ」金髪の高校生(主人公)が顔を拭い、黒髪の少女を見て提案する。
「連絡先を交換しないか?」誠実な声に反省の念が滲む。
「今回は状況把握が甘かった」まだ後片付けに追われる人々を見回す。
「今後、協力が必要な任務があれば、連絡手段があった方が便利で……」
(今までの事件は一人で対応できたが、今回は……自分の未熟さを痛感した。)
黒髪の少女はしばし沈黙し、ゆっくりと口を開く。相変わらず感情のない声だ。
「ごめんなさい」彼の目をまっすぐ見つめる。
「連絡先に男性の名前があると、余計な問題が起きます」
「そうか……」金髪の高校生は一瞬たじろぎ、すぐに納得する。
(さすが本物のお嬢様だ……)妙に納得する。
銀色の懐中時計を取り出し、ため息をつく。
「これでは連絡も取れないのか……」不便な欠陥品だ。
その時、興奮した集団が近づいてくる。消火と運搬に参加した学生スタッフたちだ。
「この人です!」誰かが金髪の高校生を指差す。
「火元で一人残り、花火を安全な場所に運び続けてくれたおかげで大爆発が防げたんです!」
「本当にありがとうございました!」学生会の幹部が前に出て、深々と頭を下げる。
「金髪が必死に運んでるの見て、最初は何か悪いことしてるのかと思ったよ!」体育教師風の大柄な男性が朗らかだが恐怖の残る笑顔で、彼の肩を強く叩く。
「い、いえ……」金髪の高校生は突然の賑わいに困惑する。
(集まられると暑い……)とぼけながらも、汗でベタつくシャツの襟を無意識に引っ張る。
「一人じゃ全部は運べなかったし……」功績を分けようとする。
「あの……」女子生徒が恐る恐る近寄り、校門の赤青の光を指差す。
「消防車が到着して……火事の詳しい状況を責任者に聞きたいそうです……」
「あ、僕が……」本当の責任者である眼鏡の男子生徒が緊張しながら期待混じりに手を挙げる。
しかし女子生徒は聞こえなかったかのように黒髪の少女の手を取る。
「こちらの方にお願いします!」疑いようのない信頼のこもった声。
黒髪の少女はその力に従い二歩歩み、金髪の高校生と真の責任者に簡潔に伝える。
「私が説明してきます」一呼吸置き、女子生徒に続ける。
「救急車到着時にも連絡を」視線は応急手当を受ける茶髪の少女を一瞥する。
「わかりました」女子生徒が応える。
「あの……僕が責任者なんですけど……」眼鏡の男子生徒の手が虚しく下がり、落胆と困惑の表情で立ち尽くす。
周囲は同情のまなざしで彼の肩を叩く。
人が少し散った頃、金髪の高校生は鋭い視線で周囲の顔を見渡し、眉をひそめる。
「あいつはいないのか……?」誰かを探しているようにつぶやく。かすかな疑問が滲む声だ。
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「じゃあ、そろそろ帰るわ……」茶髪の少女は増え続ける消防士と救急隊員を見て呟く。
体を起こそうとすると、腿の火傷が鋭い痛みを走らせ、思わず息をのむ。
「この傷、いつまで痛むんだよ……」顔をしかめ、いらだちと諦めが混ざった表情。
(あの神出鬼没の執事に捕まる前に……)警戒しながら周囲を見回す。
「どちらへ行かれるおつもりですか?」執事の感情のない声が背後から不意に響く。
「わっ!」少女は飛び上がり、鳥肌が立つほど驚いて振り向く。
「いきなり現れるなよ!」腹立たしげにきちんとした身なりをした執事を睨む。
「救急車が到着しました」執事は彼女の抗議を無視し、軽く会釈する。
「お嬢様のご指示で、真っ先にあなたを救急車に乗せるよう命じられております」と言いながら、彼女を横抱きにする構えを見せる。
「では、参りましょう」
「要らない!」火傷した猫のように跳ね退く。
しかし激しい動きが腿の傷を刺激し、脳天を貫くような痛みが走り、顔が一瞬青ざめる。
「こ、こんな軽傷自分で治せるわ!」痛みをこらえ、平静を装って手を振る。
「帰、帰るわ!」歯を食いしばり、震える足でこの居心地の悪い場所から離れようとする。
しかし、背後からしっかりと、抗いがたい力で抱き上げられる。
「救急車までお連れします」黒髪の少女の声が耳元に響く。珍しく穏やかな笑いを含んだ調子だ。
「あなたはこの事故で一番重傷の一人ですから」揺るがない足取りで点滅する救急車へと進む。
「放せ!下ろせ!」少女は彼女の腕の中で暴れ回り、怒った猫のよう。
「うっ!」腿の激痛が体を硬直させ、抵抗を封じる。
黒髪の少女は抗議を無視し、確実に前進する。
「いらない……」懐の少女は諦めたように声を落とす。
顔を黒髪の少女の肩に埋め、無意識に繊細なドレスの生地を強く握りしめる。
黒髪の少女は彼女の丸まる様子を見下ろし、歩みを止めずに呟く。
「あの時……引き止めるべきでした」かすかな、ほとんど感知できない後悔が滲む。
懐の少女が猛然と顔を上げ、怒りに目を輝かせる。
「何言ってんの!あの丸太が子供に当たってたら、あの子が怪我してたんだぞ!」この後知恵が理解できない。
黒髪の少女の目が一瞬で平常の冷たさに戻り、混乱の現場を見据え、平坦に言い放つ。
「自分が傷つくような行動は本末転倒です」単純な真理を述べるように。
「この……!」この冷酷な評価に少女の怒りが爆発!
どこから来た力か、黒髪の少女を強く押しのけ、足を地面に叩きつける!
痛みが電流のように全身を駆け巡り、眼前が真っ暗になるが、意地で体を支え、直立する。
頭を上げ、黒髪の少女を睨みつける。完全に怒らされた小動物のようだ。
「私は不良から金を巻き上げるけど……」一言一言、痛みと怒りで震えながらも明確に宣言する。
「あいつらも他人から奪ってるからだ!でも──」深く息を吸い、断言する。
「子供を守るのは当たり前だ!」
黒髪の少女は眼前の小柄だが怒りと痛みで迫力ある少女を静かに見つめる。
「私にとっては……」ゆっくりと口を開き、残酷なほど平静な声で。
「この世界は『私』と『それ以外』だけです」彼女の意地っぱりな顔を観察する。
「ただし」声に微妙な揺れが生じる。
「あなただけは特別に守りたい」不可解な引力を率直に認める。
「他の人が傷ついても構わないが……」少女の腿の酷い傷を見て、心からの心配を口にする。
「これ以上危ないことをしないでくださいね?」
茶髪の少女は唇を噛み、不満が溢れんばかりの表情。
この変わり者のお嬢様と話しても無駄だと悟る。
「話にならない!」歯の間から絞り出すように言い放つ。
「帰る!」黒髪の少女を見ず、腿の波打つ痛みに耐えながら、力強く不自由な足取りで校門へ向かう。
すれ違いざま、初対面から居心地を悪くさせた相手を、肩で明らかに拒絶するように押しのける。
静観していた執事は、茶髪の少女の意地っぱりな後ろ姿を見送り、無表情で立つ黒髪の少女に向き直る。
「紫苑」黒髪の少女が口を開く。冷静だが、冷たい確信に満ちた声。
執事は即座に恭しく頭を下げる:「はい」
「スミス氏に連絡を」黒髪の少女の視線はなおも必死に歩む後ろ姿から離れない。
「今夜のディナーには出席できないと伝えなさい」そう言い残すと、ためらわずに歩き出し、頑なに去ろうとする背中を追う。
「かしこまりました」執事の紫苑は、乱れた炎の中で一途に駆けるお嬢様の背中を静かに見つめ、低く応えた。




