第十九話 それぞれの行動
第十九話 それぞれの行動
「見つけた……」金髪の高校生が激しい息遣いで炎の前に立ち尽くす。額の汗が火照った肌に伝う。
ステージ裏に山積みされた未使用の花火箱に視線を釘付けにする。
「くそっ……」膨大な量の花火に、胸がざわつく。
(こんなに……)時間の重圧が肩にのしかかる。
歯を食いしばり、袖をまくり上げて力こぶを露わにする。致命的な火薬の山を火元から遠ざけようと。
(一人で……間に合うか?)苦渋に満ちた表情で、重い花火箱を担ぎ上げ、足取りがふらつく。
「わ、僕が手伝います!」その時、慌ただしくも決意に満ちた声が横から響く。
金髪の高校生が驚いて振り向くと、絆創膏だらけで包帯を巻いた黒髪の少年(主人公)が煙と炎の縁に立っていた。
激しく上下する胸は全力で駆けてきた証。腰から下がる金色の鎖が炎に照らされ微かに光る。
金髪の高校生は複雑な眼差しで彼を見つめる。
「駄目だ」きっぱりと拒否する。余地のない口調。
「で、でも……僕、僕は……」主人公はこの直接的拒絶にさらに動揺し、包帯巻きの手首をぎゅっと握り固まる。無形の縄に縛られたように身動きが取れない。
「人を集めて……」金髪の高校生が花火箱を安全な場所まで運びながら、力みのある声で言う。
「できるだけ多く!」箱を下ろし、振り返る。頬を伝う汗。しかし瞳は今までに見たことない真剣さと切実さで主人公の目を見据える。
「こっち側に消火栓がない。消火は間に合わない。最優先は花火を火元から遠ざけること!」早口で説明し、すぐさま次の箱を担ぎ上げる。
「頼んだ!」そう言い残すと、再び時間との戦いに没頭する。炎に照らされた背中は孤独ながらも力強かった。
「僕……」主人公はその場に凍りつき、内面で激しく葛藤する。視線は猛威を振るう炎と、一人で汗だくで戦う姿の間を行き来する。
(動け……早く動け!)恐怖と責任感が体内でせめぎ合う。
「わかった!」大きく息を吸い、無形の枷を振り払ったように、緊張しながらもはっきり叫ぶ。
足に力が漲り、迷いなく比較的安全な人だかりの方へと全力で走り出す。
金髪の高校生を一人、山積みの花火と迫り来る炎舌の前に残して。
「来るとは……思わなかったな」主人公が煙に消える後ろ姿を見やり、呟く。すぐに首を振り、眼前の危機に集中する。
「とにかく、今はこの事件を解決しなければ」歯を食いしばり、再び重い箱を担ぎ上げる。
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一方、混乱の縁で、黒髪の少女は嵐の目のように冷静に学生スタッフを指揮していた。
「ホースをつなぎ、消火を集中させて!」火の手が伸びる方向を指差す。冷たいが通る声だ。
「消防車到着までに、延焼を食い止めます!」
「軽傷者は、火元から離れた水源へ移動し、応急手当を!」うめく人々を見渡す。
「その他の者は、ありったけの容器で水を運び続けること!」指示は明快かつ決断力に満ちている。
茶髪の少女は後方の臨時避難所に座り、指揮を執る黒髪の少女の姿を静かに見つめる。
「お姉ちゃん、水!」幼い声が響く。先ほど助けた少年が両手でペットボトルを抱え、心配そうに近寄ってくる。
「ありがと」茶髪の少女は少年を見つめ、無理やり笑顔を作り、子供の体温が残る水を受け取る。
「私にお任せください」傍らに控えていた執事が自然にペットボトルを受け取る。
「こっちは危ないから、離れてな」茶髪の少女は脚の痛みに耐えながら、少年に優しく言い聞かせる。
「はい!」少年は力強く頷き、少し離れたところで待つ母親の元へ走る。
母親は彼を強く抱きしめ、すぐにより安全な場所へと連れ去る。
茶髪の少女はその姿を見送り、言いようのない温かくも苦い感情が胸に広がる。
ふと我に返ると、執事が既にペットボトルの蓋を開けていた。
「少々お痛みを」落ち着いた声で、腿の後ろのひどい火傷に冷水を優しく均等にかける。
「うっ……めっちゃ痛……」冷たさが鋭い痛みに変わり、少女は息をのむ。唇を噛みしめ、声を押し殺す。額に脂汗がにじむ。
「瘢痕が残るかもしれません」執事が傷の様子を見て、残念そうに呟く。手を止めず、次々と渡されるペットボトルを開け、傷を冷やし続ける。
少女は耐え難い痛みに耐えながら、忙しない人々の隙間から、指揮を執る黒髪の少女と、なおも猛威を振るう炎を見つめる。
「予備の花火は、具体的にどのくらい?」黒髪の少女がやや落ち着いたスタッフに尋ねる。
「た、たぶん3~5箱……大きさもバラバラです」スタッフが緊張して答える。
黒髪の少女が微かに眉を寄せる。
(防火線をもう少し後退させるべき? だが隙間ができてしまう……)素早くリスクを計算し、ひっくり返した鉄製の机で作られた簡易バリケードを見渡す。
(さらに机を運んで補強するか……)しかし爆発に耐えられる強度ではない。
突然、煙と炎の間からよろめくように人影が飛び出し、まっすぐ彼女に向かってくる!
「は、早く助っ人を!」主人公だった。顔は煤だらけ、混乱の極みで、煙を吸い込んだせいで声がかすれている。
「この人は……?」黒髪の少女は絆創膏だらけの顔に見覚えを感じるが、状況が許さない。
主人公は激しい息遣いで彼女の前に立ち止まる。
「怪我ですか?」黒髪の少女は新旧入り乱れた傷と包帯に目を留め、疑問を滲ませる。
「そちらのスタッフに手当てを……」負傷者が集まる区域を指差す。
「い、いえ!」主人公が必死に遮る。胸が激しく上下する。
「花火……あの花火が!」ステージ裏の最も炎の激しい場所を指差す。
「爆発しそうなんです! 運び出すのに人手が足りなくて……」ほとんど叫びに近い。
「今あのエリアに近づくのは危険すぎる」黒髪の少女は迅速に分析する。
「消火ホースも届かない」必死に放水する学生たちを指差す。
「人員と資源をこちら側に集中させ、バリケードを強化し、爆発に備えるのが正しい選択……」自らの判断を述べる。
(あの金髪の少年が言っていたように、この事件では死者が出ると……)横たわる負傷者たちを見渡す。
(不用意に爆発源に近づけば、予言通りになる可能性が……)爆心地から離れれば、犠牲を最小限に抑えられる。
(爆発を完全に防げるのが理想だが……)衝撃範囲の予測が難しく、リスクが高すぎる。
「ここにいるのが相対的に安全です。火元に近づくのは控えましょう」黒髪の少女は結論を出し、淡々と主人公に告げる。
主人公の焦燥感は一瞬で氷水を浴びせられたようになり、驚きの目を見開く。この美しくも冷酷な顔を信じられないというように。
「あなたもここにいて、動かないで」黒髪の少女は付け加え、視線は既に主人公から離れ、変幻自在の炎へと戻る。
「救急車はすぐ来るでしょう」事実を述べるかのような平坦な口調。
周囲では学生たちがホースを引きずり、炎と格闘する。
水が火傷した皮膚にかかり、堪えたうめき声が上がる。
鉄製の机が次々と運ばれ、不安定ながらも「鉄の壁」を形成し、炎の熱波と予想される爆発の衝撃に備える。
主人公は棒立ちになり、力なく両手を下ろす。虚ろな目で、まるですべての力を失ったように。
「あの人は……」主人公が唇を震わせ、かすかに声を漏らす。
黒髪の少女が再び視線を向ける。
「あの人はまだあそこに……」声は震え、目には恐怖と焦りが満ちている。
「一人で……あの花火を運んでる!」精一杯の声で叫ぶ。
黒髪の少女の常に冷静な瞳が、珍しくはっきりと見開かれる。
その驚きが浮かんだ瞬間──
「ドカン!!!」耳を劈くような爆発音が炎の中心で炸裂する!
主人公は全身を震わせ、目を見開き、恐怖で口が開いたまま固まる。本能のまま炎の海へと飛び込もうとする!
「待ちなさい!」黒髪の少女の鋭い声が同時に響く。
素早く手を伸ばし、主人公の腕をしっかり掴む。その力は振りほどけないほど強い。
「何言ってるんだ! まだあそこに人が! あの、あの人は……」主人公は支離滅裂に叫び、拘束を振りほどこうとする。恐怖と絶望で正気を失いかけている。
黒髪の少女は彼を見ず、傍らの屈強な学生に即座に指示を出す。
「すぐに運搬車を手配し、力自慢の男子を集めなさい!」緊迫した明確な命令だ。
主人公はその冷静さに圧倒され、動きを止める。ただ呆然と彼女を見つめるしかない。
彼女の手はなおも鉄の枷のように彼を拘束したまま。
「今の爆発音は……」黒髪の少女は耳を澄まし、空気の振動を読み取る。
「ステージの音響機器の過熱爆発でしょう。花火そのものではない」素早く判断し、炎の奥を鋭く見据える。
「まだ……間に合うはず」低い声で言う。誰に向けてかわからない言葉。
「私も手伝う!」傍らから声が上がる。
なんと、後方にいた茶髪の少女が痛みに耐えながら、地面に手をついてゆっくりと立ち上がろうとしている。
スカートの裾が腿の酷い火傷を隠すが、水滴はなおも傷口から伝い、ソックスを濡らし、地面に染みを作る。
「見ての通り力には自信あるから!」明るくふざけた調子だが、青白い顔と額の汗が本音を暴露する。
「駄目」黒髪の少女は振り向きもせず、冷たく一蹴する。
「は!? あんたの知ったことか!」茶髪の少女がすぐさま反発する。
「私が駄目と言ったら駄目」黒髪の少女がようやく振り向き、傷ついた脚を一瞥する。言葉にせずとも意味は明らかだ。
(それに、あなたは既に負傷している)
主人公はこの強引な心遣いと、冷徹ながらも美しい横顔に、強い既視感を覚える。
(もしかしてあの時の……)記憶の断片が急につながり、主人公の頬が急に熱くなる。
(街で懐中時計を拾ってくれた……!)まさかこの生死をかけた状況で、再会するとは!
「あなたもここにいて」黒髪の少女の視線が真っ赤になり複雑な表情の主人公に向けられる。意外にも声のトーンが柔らかくなり、かすかな優しさが滲む。
「すぐに人を向かわせます」約束するように言い、再び炎の海を見つめる。その目は鋭く研ぎ澄まされていた。




