第十六話 空白の四人目
第十六話 空白の四人目
「結局、二人足りないね?」茶髪の少女が校門の前に立ち、声には些か退屈と次第に募る苛立ちを滲ませながら、一旁の金髪の高校生を見やった。
「俺に聞くな」彼は冷たく返し、人影が消えゆく夕闇の中、依然として賑わいを見せる校庭へと背を向けた。
学園祭最終日、校外の喧騒はまるで迫り来る未知を無言で訴えているようだった。
今回の任務は、四人だ。
金髪の高校生は校門の外を行き交う人々を見つめ、顔ぶれの中を探る。
(そのうちの一人は、あいつだろう……)彼の顔が脳裏に浮かぶ。共に任務を遂行したあの時、そして打ちのめされて傷だらけになった体、彼の母親が自分に向かって罵声を浴びせた光景を思い出す。
(退院したばかりだ、来るはずがない)静かに目を閉じ、既に決着のついた結論のようだった。
(そもそも、あいつはヒーローに向いていない)
通り過ぎる見知らぬ顔を黙って観察する。
「もう一人は、知らない……」現在の懐中時計所持者として、彼が把握しているのはこの小柄な中学生のような短髪の少女と、心の中で「来ない」と決めつけた同校の同級生だけだ。
突然、ポケットの携帯が振動。素早く着信音を切る。
そして銀色の懐中時計を取り出し、携帯と一致する時刻を確認した。
「時間だ、行こう」任務の集合時間は六時ちょうど。
(今は六時丁度……)一分の狂いもない時刻を懐中時計に見つめる。
「でも今回の任務は何なの?」茶髪の少女が興味深そうに尋ねる。
「ケンカ!?」拳を上げて興奮気味に叫ぶ。
金髪の高校生は黙ったまま、懐中時計を凝視する。
「あいつが教えてくれるはずなんだが……」困惑を滲ませながら呟く、今回だけ異なる懐中時計の反応に。
(普段は直接、事件と時間を告げて切れるのに、今回は違う……)
今回は、未来人から「集合後に任務内容を伝える」と言われていた。
(もしかして、全員揃わないとダメなのか?)
眉を深く寄せ、焦燥が顔に浮かぶ。
「ん~」少女は彼の手にある銀色の懐中時計を興味津々で見つめる。
自分もポケットから白色の懐中時計を取り出した。
「こんな機能あるの?」白色の懐中時計をぶら下げながら首を傾げる。
「私は普段ナビ代わりに使ってるよ、特に新しくて人が知らないケーキ屋さんを探す時」
「遅れましたか?」突然、柔らかな女声が響く。
黒髪の少女が執事を伴って眼前に立っていた。微笑みを浮かべ、ポケットからは黒い鎖が微かに覗く。気高く優雅な佇まいだ。
「君は……?」金髪の高校生が怪訝そうに彼女を見る。
(一目でお嬢様とわかる……)黒髪少女のポケットから見える黒い鎖に目を留める。
口を開こうとした瞬間、茶髪の少女が割り込む。
「なんであなたがここに……!」嫌悪感たっぷりの声だ。
「またお会いできましたね、鬼塚さん」黒髪の少女は爛漫に笑い、鋭い瞳で彼女を捉える。まるで獲物を見つけたかのように。
「知り合いか?」金髪の高校生が不機嫌そうな少女に尋ねる。
「一度会っただけ」そっけなく答える。明らかに話したくない様子。
「お送りしたケーキ、気に入りました?」黒髪の少女が追及する。
「うっ……」少女は小さく唸る。
「まあまあ……」内心ではもう一度食べたいと願う。
「違うよ!」
「どうして私の家の住所を知ってるの!?」
茶髪の少女が激昂して叫ぶ。
「一度しか会ってないのに!」
「これですよ」黒髪の少女はポケットから古びった財布を取り出す。
中から学生証を抜き出す。
「鬼塚申野さん~」楽しげに呼ぶ。
「私の学生証!」少女が驚きの声を上げる。
「返して!それと財布も!」手を伸ばすが、黒髪の少女は軽くかわす。
「喧嘩はやめろ……」金髪の高校生が呆れながら言う。二人の追いかけっこを見ながら。
執事の方に視線を移す。
「これで四人か……」懐中時計を開くが、依然として反応なし。
「おかしいな……」執事と懐中時計を交互に見比める。
執事も彼の手にある懐中時計に気づく。
(懐中時計……)瞳が微かに光り、お嬢様の方を一瞥する。
口は開かず、ただ両者の関連を思索する。
「一人足りないのか……」懐中時計を握りしめ、蓋に指を這わせる。
(まさか本当にあいつなのか……)内心で期待と焦燥が湧くが、すぐに消える。
(来るはずがない、三人で対応するしかない)
「行こう」懐中時計を閉じてしまう。
「場所も事件もわからない、パトロールするしかない……」
追いかけっこ中の二人に声をかける。
「聞いてるのか……」ため息混じりに見つめる。
執事の方に向き直る。
「とにかく、四人いれば対応できる」
「何を処理するのでしょうか?」執事が疑問を呈し、金髪の高校生を見渡す。
「この高校で事件が起きる」彼は厳粛に告げる。
「未然に防がねばならない」一呼吸置き、話題を転じる。
「これは霊感で得た情報だ」懐中時計を持たない執事には真実を伏せる。
執事は静かに彼を見つめるだけだ。
「どんな事件ですか?」さらに問い詰める。
「わからない」率直に認める。
「だが、死者が出る」淡々としたが重い口調。
校門の外に立ち、校舎を見据える。
(懐中時計からの任務は、全て人命に関わる。どうあっても阻止しなければ)
「財布返せよ!」茶髪の少女が怒声を張り上げる。
黒髪の少女は安全な距離を保ちながら微笑む。
「ねえ、どんなケーキが好き?」
「マカロンは?」相手の情報と好みをさらに聞き出そうとする。
「おい……」金髪の高校生が呆れ果てた様子でこれらを見守る。
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「だから何が起きるかもわからない?場所もわからないってこと?」
茶髪の少女が不満を漏らす。
「食べ物買いに行ってもいい?」苛立ちを滲ませる。
「ダメだ」金髪の高校生が簡潔に却下。
「でも何をすればいいかも教えてくれないじゃん」心の中で呟く。
「それに私は食べるために来たんだよ」
(財布も取り返せない……)黒髪の少女への怒りが瞳に満ちる。
「要するに、何が起きるかわからない事件を未然に防ぐということですか?」
黒髪の少女が冷静にまとめる。
「そして死者が出る可能性も」執事が補足する。
「可能性じゃない、確実に死ぬ」金髪の高校生が彼女の言葉を正す。
「現場で死亡するか、搬送後に死亡するかだ」
いずれにせよ、阻止しなければならない。
「事前に防がなければ」
携帯を取り出し、時刻を確認する。
「6時15分……」呟く。
今回は集合時間だけが伝えられ、事件発生時刻は知らされていない。
(自分で探すしかない……)
決意を固める。絶対に事件を起こさせないと。




