第十二話 少女たちの争い
第十二話 少女たちの争い
黒髪の少女が静かに二人の前に立ちはだかった。
茶髪の少女と、その背後にいる傷だらけの少年を冷静に見つめる。
「あなた、彼に何をしたの?」黒髪の少女の目は鋭い。
「は?私が?」茶髪の少女は一瞬考える。
「ケーキおごるって言うから連れてきただけ」
不機嫌そうに眉をひそめ、問い返す。
「何か問題でも?」鼻で笑い、睨み返す。
「彼の傷は」
「私がつけたんじゃないわ、関係ないでしょ」
「誰かにやらせたの?」
「は?そんなヒマないわよ」
小声で付け加える。
「まあ…最近金に困ってるけど」
口を尖らせ、スイーツ店に入ろうとする。
「とにかく、あなたには関係ないでしょ?どいて」
黒髪の少女は彼女の手首を掴んだ。
「あなた、先に帰りなさい」少年に優しく言う。
「でも、その…」少年は躊躇する。
「私が処理する。早く傷の手当てを」
少年は頷き、静かに去っていく。
「離しなさいよ!」茶髪の少女は腕を振り払い、服を払う。
「どうせ金は手に入れたし」楽しげに言う。
近所の不良から奪ったものだ。
「もう一回スイーツ食べられる~」
黒髪の少女は突然抱きつき、体をくまなく探る。
「何するのよ!」顔を赤らめ、慌てて押しのける。
黒髪の少女の手には、彼女の財布があった。
「こら!返しなさい!」
「このお金、あなたのでもないわよね?あの少年に返す」
「へえ、奪い合いする気?」
茶髪の少女は冷たく笑い、さっき盗んだ――黒い懐中時計を取り出す。
「あれ?これは…」
時計を見つめ、首を傾げる。
「返しなさい!」黒髪の少女は表情を変え、手を伸ばす。
しかし軽やかにかわされる。
「先に財布を返してよ!」
二人はスイーツ店の前で奪い合い。
「青春だね~」通りすがりが呟く。
---
「はあ…はあ…」
二人は息を切らして店の前に立つ。
「時計返せ…」
「まず財布を…」
「このお金もあなたのものじゃない」
返せと言う権利はない。
「ちっ…返さないって…」
小さく呟く。
「この時計だってあなたのでしょ?」
茶髪の少女は黒い時計を振りかざし、ふざけた調子で言う。
黒髪の少女は唇を噛み、思わず視線をそらす。
「お~、当たった?」大笑いする。
黒髪の少女は身だしなみを整え、突然上品な口調になる。
「これは西田家代々伝わる時計です。返してください」
そう言いながら、丁寧に手を差し出す。
「代、代々伝わる!?」茶髪の少女は驚いて時計を見つめる。
黒髪の少女は油断の隙に時計を奪い返す。
「ずるいよ!」不満そうに叫ぶ。
「不注意が悪い」時計を内ポケットにしまう。
(どうやって盗んだのかしら…)疑問が頭をよぎる。
「そ、そんなのあり?家宝を携帯するなんて!」
茶髪の少女は指をさして抗議する。
「確かに家宝ではありません」黒髪の少女は認める。
取り返すための方便だった。
(実際のところ、この時計の由来はわからないけど…)
「でも今は『私のもの』です」髪をかきあげながら言う。
「じゃあ財布だって私のよ!」(中身は別だけど)
黒髪の少女は財布を調べ、学生証を取り出す。
写真と眼前の少女を見比べる。
「高校生?」訝しげに対照する。
「中学生じゃないの?」
「高校生よ!立派な女子高生だってば!」
「なんでみんな私を中学生扱いするの!」
一人で憤慨している。
「ところで、中身は寂しいわね…」
財布の中の少ない紙幣と小銭を見て。
「小銭なんて初めて見たかも?」興味深そうに覗き込む。
茶髪の少女は隙を見て財布を奪おうとする。
「油断させたつもり?」
軽く身をかわし、財布をポケットにしまう。
「ちっ…」舌打ちする。
「お嬢様、お迎えにあがりました」
執事服の女性が近づく。
「何かありましたか?」白い手袋を直しながら。
「また手袋かよ…」
茶髪の少女が傍らでぼやく。
(待って、お嬢様って?)
財布を奪った黒髪の少女を見る。
(黒い制服、確か…)思い出せない。
「何でもないわ、帰りましょう、紫苑」
髪をなびかせ、歩き出す。
「待てよ、泥棒、財布返せってば!」
背後から叫ぶ声。
「あら…紫苑」執事を呼び寄せる。
「かしこまりました」
「五万円あげなさい」明日のノルマを先に。
「承知しました」
そう言い残し、車に向かう。
「ちょっと、こら!」袖をまくる。
「ぶん殴ってやる!」怒りに震える。
「失礼」執事は瞬時に側へ。
「ささやかですが」封筒を差し出す。
「なに…」奪い取って中を確認する。
「これは…」目を丸くする。
「今日のことは忘れてください」
そう言い残し、姿を消す。
「待てよ!」我に返る。
残されたのは彼女と、手にした札束だけだった。
---
「そうだ、少年を探して」
車内で黒髪の少女が言う。
「怪我をしているはず、制服は…」
「お金を返さないと」微笑む。
「かしこまりました」運転する執事。
後部座席で楽しげに財布を開け、学生証を取り出す。
「あの少年のですか?」執事が尋ねる。
「いいえ、さっきの女の子の」
「戻りましょうか?」
黒髪の少女はほほ笑む。
「いいわ、返すの忘れちゃった…」笑いを含んだ声。
「また会った時に返せばいい」
学生証を不審そうに見つめる。
「鬼塚 申野~」
---
「行ってきます」絆創膏だらけの少年が犬を連れて家を出る。
黒髪の美少女が門の外で待っていた。
「ごめんください、初めまして」振り向く。
「佐藤卯人さん」微笑みかける。