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英雄になれない僕/弱い英雄  作者: 若君
第一章 毎週水曜日更新。
11/20

第十一話 黒い懐中時計

第十一話 黒い懐中時計


<明後日の為替相場は……>

机の上の黒い懐中時計が音を立てる。

傍らの少女は素早くノートに書き込む。

その後、手慣れた様子でノートPCを開き、株式取引システムにログインした。


「お嬢様、そろそろ登校の時間です」

ドアの外からメイドの声。

「わかった」

キーボードを最後に叩き、PCを閉じて時計を手に立ち上がる。


更衣室に入りながら言う。

「ところで、神原会社の倒産時期は?」

パジャマを脱ぎながら時計を置く。

<資産隠しは12月初旬から、破産申請は来年2月上旬の見込み>

<あくまで参考までに~>

時計の声は天気予報のように軽快だ。


「それで十分」

制服に着替え、襟を整える。

「未来人ならもっと正確にわかるんじゃないの?」

時計を手に取り、細目で見る。


<贅沢言うな~平行世界の可能性もあるし……>

<それに……君の選択次第だ、西田午原>

精巧な黒い時計を見つめる。


「『午原』でいいわ」

<西田家のお嬢様に失礼でしょう~>

「敬語なのにタメ口ってどういうこと」

微笑み、鞄を背負う。


「AIなの?本当の未来人なの?」

ドアを開け、部屋を出る。

<さあ~当ててみて~>


口元を緩める。

「両方でしょ」

<半分正解!おめでとう~>

蓋を閉じ、ポケットにしまう。黒い鎖が制服の隙間からちらり。


「行ってきます」

邸宅を出て、メイドに会釈。

「お車を?」

「いいえ、歩いて行く」


---

「西田さん、おはよう~!」

生徒たちが寄ってくる。

「おはよう」

優しく頷く。


「あれ?西田さん、ポケットのものは……」

「これ?」

自然に時計を取り出し、蓋を開ける。歯車が滑らかに動き、秒針が進む。

「わ~素敵な時計!」

「パリ?ロンドン?」


「いいえ、貰い物よ」

「え~誰?彼氏?」

「内緒」微笑む。


昼休み、窓辺で時計を回しながら思索に耽る。

(前に金色の時計を持った男子と会ったことが……)

黒い時計を見つめる。

(これらの時計には……何か関係が?)


「ほら、西田さんまた時計で悩んでる!」

「間違いなく彼氏からの贈り物だわ~」

「どこの御曹司かしら……」

「女子校で何妄想してんの」


「で、でも……最近西田さん歩いて登校してるよね」

「あの謎の男性と会うため?」

「美咲が歩いて来いって言ったんじゃ?」

「私がそんなこと?」


「家から30分以上かかるんだって」

「マジで!?私の家3分なのに……」

「お嬢様に毎日30分歩かせてる……責任取る?」


「でも午原ちゃん最近優しくなったよね」

「美咲のおかげよ!」

「私が??」

「そういえば、一緒にスイーツ行かない?」


---

「午原」

「いきなり名前で呼ぶなんて!」

「知り合いなんだから堅苦しくなくていいでしょ」

「そ、そうかな……?」


「どうしたの、真央?」


窓から振り返り、微笑む。

「午原さんまで……」

「あっという間ね~」


「駅前に新しいスイーツ店がオープンしたんだけど、一緒に行かない?」

「ええ」即答。

「午原ってスイーツ食べるの?西田家で禁止令とか」

「ないわ。ただ――一日5万円以上使う義務はある」


「そんな義務私も欲しい!!」

「そのお金あるのが前提だけど……」


「午原ちゃん本当に達成してるの?」5万よ!

「まあね」投資で簡単にクリア。

「お金持ちの世界……凡人には理解不能……」

「そう言わないで、ここは皆お嬢様でしょうに」


ここは緋霞学院――噂の名門女子校。


「いや、全国一位の西田グループには敵わないわ」

――鈴木真央:国内最大メディアを支配する鈴木グループの次女。

「せいぜい脇役ね、ふふ」

――佐藤美咲:中堅企業社長の四女、妄想癖がち。

「こいつが劣等感抱いてる……」

――山田千夏:山田デパートの長女、海外進出中最中。


「とにかく、放課後のスイーツで全てを癒そう!」

「そうね~」

「スイーツ万歳!」


---

放課後。

「早すぎた?」店には客がまばら。

「いえ、ちょうどよ」

「オープン5日目、明日休みなら今日が狙い目」

「ブームが去ればこんなに混まない」

(最終的には倒産!)と心で付け加える。


「いらっしゃいませ~4名様ですか?」店員の優しい笑顔。

「は、はい……」


---

「食べたいものいっぱい!」

「全部注文しよう」

「ダイエット中じゃなかった?」

「スイーツ店で『ダイエット』は禁句よ!」


「午原は何にする?まず飲み物から」

返事はなく、隅の方を見つめる――

不良風の少女がスイーツを貪っていた。


「どうしたの?」

「この時間、中学生はまだ部活では?」

「もしかして……不登校?」

「勝手なこと言わないで」


「サボりでしょ」

「それにしても服装が不良っぽすぎ……」

「こんな小柄な不良いる?」

「世間は広い」

淡々と言い、ウェイターを呼ぶ。


---

「金が尽きそう……」

少女が空の財布を見つめる。

「ここに連日通いすぎたせいか」

(昨日は急ぎすぎた、殴った後に金も奪えばよかった……)

(くそ、まだ腹減ってる)


「ああああ!」頭を抱えて叫ぶ。

皆が振り向く。

(まずい……)

(近所の不良から交通費借りるか)

こっそり席を立つ。


(ついでに時計に新しいスイーツ店聞こう……)


---

「また明日~」

スイーツ会は解散。


「午原、タクシー呼ぶ?」家までさらに遠いのに。

「大丈夫、運転手に迎えに来てもらう」

「運転手付きか……」ため息交じりの羨望。

「行こう、美咲」君の家は近いんだから。


「お迎えが来た~じゃあね午原」

「ええ、また明日」

手を振る。


店の前には彼女一人。

「ふう……」息を吐く。

「涼しくなってきたわね」

「そろそろ……車で登校しようかしら」

独り言をつぶやく。


「ケーキおごる約束、反さないでよね!」

突然、耳慣れた声。

振り向くと、あの少女が笑みを浮かべて立っていた。

傍らには、傷だらけの少年がいる。


「あれは……」

スイーツ店の外から、二人が近づいてくるのを見つめる。

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