第六章:胎動と扉
霧島の胸に埋め込まれた“赫い種”は、指を近づけただけでざわざわと蠢いた。
触れた瞬間、まるで自らの意志で肉を噛みつくように、霧島の心臓に絡みついていた。
「……これ、無理やり取ったら……霧島さん、死ぬ……?」
沙耶の唇が乾く。
頭の片隅では冷静な声が囁く。
> 「じゃあ死んだら、また神の一部になればいいじゃないか」
「……ふざけんな……」
沙耶は自分の腹を殴りつけた。
内側で何かがくすりと笑う。
胎の中の声はもう、自分の声と区別がつかなくなっていた。
(これが……“神”の声……?)
教主が囁いていた言葉が脳裏に蘇る。
> 「胎が開いたとき、あなたは神の声を聞くでしょう。
それはあなた自身の声でもあるのです」
「違う……違う……ッ」
沙耶は霧島の胸を抉った。
皮膚が裂け、血が噴き出す。
赫い種がギチギチと嫌な音を立てる。
「ごめん……ごめん、霧島さん……」
霧島は意識が戻らないまま、ただ静かに血を流していた。
その顔が、泣いているように見えたのは沙耶の錯覚だろうか。
(この種を、壊せば……)
沙耶の爪が赫い種を掴む。
――その瞬間。
ズン、と胎が蠢いた。
沙耶の口から、笑い声が漏れた。
「あは……は、あっはははははは!!」
もう止まらなかった。
自分が何をしているのかも分からない。
霧島の胸を裂き、血を浴び、赫い種を引き抜くその行為が、まるで“出産”のように感じられた。
「ああ、あああああああ……キモチイイ……!」
引き抜いた赫い種は、生きていた。
まるで心臓のように脈打ち、沙耶の手の中でブルブルと震えていた。
(これが、神……?)
そのとき、背後の扉が開いた。
「ようこそ、胎動の刻へ――巫女よ」
教主・千尋が立っていた。
その背後には、無数の信者たちが“赫い眼”で沙耶を見ていた。
「見事です。あなたは神を宿し、その胎を開きました。
次はその胚を、産み落とす番です」
千尋の手が、沙耶の腹に触れた。
「産みましょう。あなたが神になるのです」
沙耶は、笑っていた。
「……殺してやるよ、神さま」
千尋の顔に、初めて“恐怖”が浮かんだ。
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