表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
特異事案調査官・霧島冬馬  作者: たけるん
4/10

第四章:赫い目覚め

最初に感じたのは、生ぬるい液体が子宮の奥で蠢くような気配だった。


沙耶は裸のまま、冷たい石の床に転がされていた。

皮膚のあちこちに乾いた血が張り付き、内腿には赤黒い液がべっとりとこびりついている。


(……なに、これ……なにされたの……)


体は動かない。

指先は微かに痙攣していて、呼吸も浅い。

胸が熱い。喉が焼ける。子宮のあたりが、まだ“生き物”のように痙攣していた。


思い出したくない。

でも、脳が勝手に再生する。あの“赫い管”が、自分の中に喰い込んでいく映像を――。


「……っ、う……や、めて……ッ、いや……!」


今さらのように口から漏れる悲鳴。

だが周囲にはもう誰もいない。

さっきまで耳元で囁いていた信者たちの気配も、教主のあの腐臭も、すべて闇の奥に引いていた。


(……どこ……ここ、どこ?)


床の文様がうっすらと発光している。

それが目に焼き付き、現実と幻覚の境がぼやけていく。


──ぐじゅ、ぐじゅ、ぐじゅ。


耳元で音がした。

誰かの唇が、皮膚を這うような、そんな濡れた音。


(誰か……いる……?)


がば、と沙耶は手を動かした。

でも、誰もいない。ただの暗闇。自分の吐息と、心臓の鼓動だけが響いている。


──うまれろ。うまれろ。うまれろ。


何かの声が、頭の奥でリピートされている。

おぞましい子守歌のような、単調な言葉。


「やだ……私……私、産んでなんかない……ッ! なにか入れられたって、認めない……!」


必死に腹を抱える。

けれど、その手に感じたのは――“うねる胎動”だった。


(うそ、でしょ……?)


鼓動がある。自分のじゃない。

腹の奥に、“何か”がいる。


沙耶は咄嗟に爪を立て、己の腹をかきむしった。

傷が裂け、血が滲む。だがそれでも足りなかった。もっと、もっと奥まで――


「……霧島さん……っ」


その名前を呼ぶだけで、涙が溢れた。

磔にされたまま意識を失っていた霧島の姿が、脳裏にこびりついて離れない。


(助けなきゃ……あたしが……この地獄を、止めるしかない)


それが正気の残り火だった。



---


しばらくして、沙耶は立ち上がった。

髪は血に濡れ、足取りはよろけ、瞳の奥には朱色の光が微かに瞬いていた。


壁の奥から、信者の囁き声が聞こえる。


> 「胎が育った……巫女は受胎した……」 「次の儀式で、赫き胚は孵るだろう……」




沙耶はゆっくりと立ち上がる。

足元の血を踏みしめながら、鏡のように冷たい瞳で扉を睨んだ。


(次の儀式? ふざけんな。

 ――あたしがやるのは、“次の復讐”だけだよ)


掌の爪は深く皮膚に食い込み、血がぽたりと垂れた。

その血が赫い文様に触れると、文様が淡く光った。


「……いいよ、“神さま”。産んでやるよ。

 その代わり――おまえら全員、地獄に引きずり込んでやるから」


少女の声が、もう少女ではなかった。

今回、読んでいただきありがとうございます。「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、評価をよろしくお願いします!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ