エピローグ:赫き余燼
東京・中野区。
狭い団地の一室。静かな夜だった。
カップ麺の湯を捨て、霧島冬馬は湯気越しにテレビを見ていた。
ニュースでは、先日山中で崩落事故が発生し、違法宗教団体の残骸が発見されたと報じている。
「公安が調査中」と言うナレーションの下で、映るのは焼け焦げた神殿跡地の航空写真。
霧島はふうっとため息をつき、カップ麺に粉末スープをぶちまけた。
(表向きは事故。裏は封印。……これで、よかったのか)
床には報告書のドラフトが散らばっていた。
「赫き神に関する特異宗教事案の一件、完結」とあるその上に、霧島の手書きのメモが置かれている。
《対象S(沙耶)の心理状態、安定。
対象H(陽菜)は保護観察中。依然として低強度の幻視あり。
“赫い胎”はすべて無力化。》
報告書に挟んだ封筒には、沙耶からの短い手紙が入っていた。
> 「霧島さんへ
私はまだ、地上が怖い。だけど歩くよ。
今度また地獄があったら、隣で歩いてください」
沙耶
「……まったく、お人好しすぎんだよ」
霧島は笑いながら、湯の戻りきった麺をすすった。
目の下にはクマ、机には未処理の書類。
だが、その瞳だけはまだ、地下に棲む何かを見つめている。
ふと、スマホが震えた。
公安の内部ネットからの暗号通信。
画面に表示された一文――
> 《特異生命痕跡、都内複数箇所にて同時検出。
名称:CHIMERA》
《調査要請対象:特異事案調査官・霧島冬馬》
「……キメラ、だと?」
霧島はスマホを伏せ、立ち上がった。
窓の外――高層ビル群の隙間から覗く夜空に、どこか見覚えのある赫さが揺らめいていた。
「ったく、今度は何匹混ぜやがった」
ぐっとネクタイを締め、スーツのジャケットに袖を通す。
――霧島冬馬、再び。
“神”が死んでも、“人間の怪物”はまだ生きている。
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―次回予告:「CHIMERA|キメラ」
> 解剖不可能な死体。
生きているはずのない構造。
そして、“混ざった声”が叫ぶ。
「カミが つくった ボクたちは なにもの――?」
特異事案調査官・霧島冬馬、
次なる舞台は東京――
人が人を超えて混ざる、禁忌の街へ。
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