王国から花粉症が消えた日
とある王国があった。
この王国の中心部には大きな山があり、そこには『ヒギノス』という木が大量に生えていた。
そして厄介な問題が一つ。
この『ヒギノス』は一年のうち、二、三ヶ月の間、猛烈に花粉をばら撒く性質があった。
そして、ある体質の人はこの花粉を口や鼻から吸ってしまうと、クシャミをしたり鼻水を出したり目がかゆくなったり、といった症状に襲われる。
こうなると、この人たちはまともに勉強や仕事はできなくなる。
なんとか症状を防ぐため、マスクをする、薬を飲む、などの対処をするのだが、それも一時しのぎにしかならなかった。
これらの症状はいつしか“花粉症”と呼ばれるようになり、年々その患者数は増えていった。
やがて、王国民の一割ほどが花粉症とまで言われるようになった。
彼らにとって、『ヒギノス』が花粉をばら撒く季節は憂鬱なものでしかなかった。
そこで彼らは王様に訴えた。
「王様、どうか花粉症対策をして下さい!」
「『ヒギノス』を伐採して、花粉を減らしましょう!」
「もっと効き目のある薬の開発を支援して下さい!」
ところが、王様は――
「この王国は問題が山積みなのだ。もっと重大な病気は他にもあるし、他国からの攻撃に備えたり、災害に備えたり、景気もよくせねばならん。今すぐ死ぬような病気でもない花粉症に、出せる予算はないのだよ」
彼らの意見をばっさり却下した。
花粉症の人たちは王様の答えに失望しながらも、その答えに理解も示していた。
「王様の言う通りだ。確かに花粉症は辛いけど、王国が抱えている他の問題に比べれば、自分たちでどうにかできる問題でもある。ワガママを言っちゃいけないよ」
みんなその通りだと納得し、今まで通り各自花粉症と戦おうと決意した。
このままこの王国は花粉症と共存していくものと思われた。
ところがある年、王国は突如方針を転換した。
国中の男を集め、「『ヒギノス』を伐採せよ」との命令が下った。
『ヒギノス』一本切るごとに賞金も出すという。男たちは大いに張り切り、次々に『ヒギノス』を切った。
結果、山から『ヒギノス』はほとんどなくなってしまった。
木を伐採したということは、土砂が流れやすくなったということでもある。
王国は新たな木を植えたり、壁を作ったりして、その対策も入念に行った。
さらに、薬の開発も命じられた。
『ヒギノス』は他国にもあり、そこから花粉が流れてくることもある。
その対策のため、王国中の薬師に花粉症用の新薬の開発を急がせた。
王国は積極的に金を出し、薬の効き目を確かめるために試薬を飲む人間には多大な報酬を出すと約束したため、薬の開発は飛躍的に進んだ。
おかげで他国から流れてくる程度の花粉で起こる症状ならば十分抑えられる画期的な新薬が誕生した。
こうして長年王国民を苦しめてきた花粉症は、あっけなくこの国から姿を消したのであった。
花粉症患者たちがとても喜んだことは言うまでもない。
そんなある日、昔は花粉症だった市民二人がこんな会話をしていた。
「花粉症対策が進んだおかげで、憂鬱な季節がなくなったよ」
「ああ、本当によかった」
「しかし、疑問が一つあるんだ」
「なんだ?」
「昔、みんなで王様に花粉症対策をお願いした時は、予算は割けないと断られちゃったよな。なのに今になって、なんで急にこんなに花粉症対策が進んだんだろう?」
「そんなもん、理由は決まってるじゃないか」
「え?」
「王様が花粉症になっちゃったからだよ」
おわり
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