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梶田敦也と中島千尋(1)

『キャー』


 千尋がお化け屋敷のゾンビに驚き、悲鳴を上げる。

『だ、大丈夫だよ、千尋さん』


 自由な映像表現が可能なバーチャル世界故に、リアルな恐怖が襲ってくるお化け屋敷。敦也は自分も怖いのに、強がって千尋を励ました。



『凄く怖かったねー、あんなにリアルだとは思わなかった』


 お化け屋敷を出た途端、悲鳴を上げ続けていたのが嘘のように、千尋が楽しそうな声で言った。


『次はあのジェットコースターに乗ろう』

『えっ……俺、あの手の乗り物に乗った事がないんだけど……』

『大丈夫、大丈夫!』


 腰の引けた敦也を、千尋は笑顔で促した。


 小樽で出会って以来、二人は頻繁にデートを重ねていたが、まだ恋人と呼べる程打ち解けた関係にはなっていない。


 

 千尋さんは俺の事が好きなのだろうか?


 頻繁にメールをくれるし、デートにも誘われる。でも何故なんだろう? 俺に思い当たることは何もない。キャラだって今は現実通りのブサメンだ。わざわざこんな俺を選ぶ理由が分からない。逆にブサメンなのが正直な人間と思われたのだろうか?

「真実の世界」の中で若く綺麗な女性は結構多い。だが、施設の中で若い女性は少数派だ。本当に若く美しい女性であれば相手は選び放題なはずだ。


 夜、明かりを消した真っ暗な部屋。布団の中で敦也は、月明かりに照らされた天井を見つめて考えている。


「本当に若く美しければ……か」


 俺は千尋さんが女だとは思っていないのか?


 思い出すだけで、身が張り裂けそうになるあの記憶が、敦也の中で蘇る。


「里香は女ではなかった……」


 敦也は布団からがばっと上体を起こす。


「違う! 里香は女だ! 俺の中で生きている!」


 敦也は必死に自分の思いを掻き消した。


 敦也は千尋を女性だと、心から信じ切れずにいた。


「俺はまた騙されているのか……」


 また?

 また? また? また? また?

 違う! 違う! 違う! 俺は騙されてなんかいない! 違う、違う、違う……。


 千尋の事を考えると、敦也はいつも里香の記憶に苦しめられる。敦也も分かっているのだ、里香に騙されていた事は。だがそれを認めてしまうと里香の存在を否定してしまう。その板挟みが身悶えする程苦しいのだ。


 千尋さんを完全に信用する事が出来ないと、この苦しみからは逃れられないのかもな……。



 私は恋をしているのかも知れない。


 最近敦也君とのデートが楽しみで仕方ない。敦也君の心の傷を癒したいと思って会っているのに、実際楽しんでいるのは私の方だ。


 敦也君は女性の扱いに慣れていない。でもその分、一生懸命誠実に向き合ってくれる。その姿を見ていると優しい気持ちになれる。騙そうとして付き合っている時の荒んだ心では気が付かなかった事だ。


 私も本当の意味で男性と交際した事はない。利用しようと近づいてきた男達にちやほやされ、騙されただけだ。


 だから今、敦也君とのデートが楽しいのだろう。本当の男女交際とはこんな楽しいものなのかと初めて感じた。


 それだけに……。


 まだ敦也君に本当の事を打ち明けられない事が苦しい。


 小樽で再会した時。あの時に打ち明ければ良かった。もしあの時に恨まれたとしても諦めがついただろうし、敦也君の傷も最小限で済んだだろう。逆に許して貰えていたなら、今頃後ろめたい気持ちもなく付き合えただろう。


 もう今更打ち明けるのは怖い。敦也君に恨まれたくない、嫌われたくない。今言えば、敦也君のショックも大きいだろう。


「どうすれば良いの……」


 千尋は布団に横たわり、小さな窓から入る月明かりに照らされた、狭い天井を見つめている。


 寂しい。


 復讐と言う心の支えを失ってから夜がたまらなく寂しい。私は正常に戻ったんだ。こんな閉じ込められた一人の部屋に居て、寂しくない訳はない。


 駄目だと思いつつ、我慢が出来なくなり敦也君にメールを送ってしまう。


(千尋です。遅くにメールしてすみません。まだ起きていますか? 一人は寂しいですね。あなたの事を考えてしまいます)


 五分経つ。返事はこない。


 仕方がない、深夜一時だし、携帯とは違いパソコンのメールだから見ていなければ気が付かない。


 十分経つ。まだ返事はこない。送らなければ良かったといつものように後悔する。


 一時間経つ。返事がこない。もう一度メールを……。


 意味があるはずない。携帯とは違うのだ。


 これじゃあ、敦也君の傷を癒すどころか重荷にしかならない。まだ私は壊れているのだろうか?

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