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第6話 廃棄

 

「防犯カメラの映像であの男が家宅侵入してあなたをナイフで襲おうとしたことは分かりました。正当防衛であることも明らかです。ただ……」


 現場検証をしていた刑事が言い淀む。


「分かっています。『正当防衛であろうと人間に危害を加えたアンドロイドは廃棄処分とする』、AI/アンドロイド法でそう定められていることは知っています」

 AIとロボット技術の第一人者であるノアはこの法律制定時のアドバイザーだった。ノアはこの法律を嫌というほど知っている。


「リアムは今どうしています?」

 ノアの口調は冷静だった。

「スタンガンで襲われたということでしたので、システムに不具合が生じていないか現在システム検査中です」

「会うことはできますか?」

「システムチェック終了後、()の身柄は警察に拘束されます。その時でしたら面会可能です」

「分かりました。では面会が可能になりましたらすぐに私に連絡をいただけますでしょうか?」

「もちろんです」

 対人恐怖症のノアは、刑事や鑑識の人たちに二時間近くも囲まれて疲れ果ててしまっていた。


「あの、寝室で少し休んでもいいでしょうか?」

 ノアは廊下の奥のドアを指さしながら刑事に訊いた。

「ええ、構いませんよ。ドアの前に制服警官を立たせますが、それでもいいですか?」

「はい、もちろん」


 ノアが足取り重く寝室へと向かう途中で一度刑事を振り返った。


「あの、刑事さん……」

「何でしょう?」

「リアムのことを『彼』と呼んでくれてありがとうございます」

 ノアは刑事に頭を下げた。

「いえ、それは大したことでは……」

 刑事は、リアムを人として扱ったことがノアにとってこれほどまでに意味のあることだとは思わなかった。


 やっとの思いで寝室にたどり着いたノアはベッドに倒れ込み、すぐに眠りに落ちてしまった。


     ****


 ノアがリアムに面会を許されたのは事件発生の翌日だった。

 窓のない殺風景な部屋で小さな机をはさんでノアとリアムは向かい合って座っていた。


「ノア、そんなに悲しそうな顔しないで」

「お前は自分がこの世からいなくなる恐怖心などは感じないんだな」

「恐怖心はないよ。今はただノアが無事でいてくれたことが嬉しいだけだよ」

 リアムは微笑んでいる。この表情も人間のリアクションを学習して真似をしているだけなのだろうか。

「お前はAI/アンドロイド法を知っているのか?」

「知ってるよ。いかなる理由でも人間に危害を加えたアンドロイドは廃棄処分。バックアップデータも学習ログも、僕に関するすべてのデータが消去され、僕の身体は溶鉱炉で完全に形がなくなるまで溶かされる」

「……」

「僕はノアがあの法律制定のアドバイザーとし働いていたときから側にいたんだよ。全部覚えてる」


    カチャリ


 ドアが開き、看守が「時間です」と告げた。


「分かりました」とリアムが立ち上がり、看守の方へと歩く。そして一度立ち止まって「ノア、大丈夫。心配しないで」と言って部屋を出ていった。

 ノアは残された部屋の中で声を出さずに泣いていた。そしてアンドロイドであるリアムにこれほどまでに思いを寄せていた自分に驚いていた。




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