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第3話 眠れぬ夜

 

「実は妙な噂があるらしい」

「噂? どんな?」

「殺害予告」

「えっ? 誰の? ノアの?」

「そう」

 平然と答えるノアにリアムは怒ったような表情をした。

「ノア! もっと危機感持って!」

「十分持ってるよ。顔に出てないだけ」


 ノアは感情を表に出さない。出さないというより出し方を知らない。

 十二歳の時にはすでに才覚を現し、大人たちに囲まれて最先端技術の開発を行っていた。

 幼い頃は開発をしていたという自覚はなく、ゲームのステージをクリアしていくような遊び感覚だった。自分の行動に周りの大人たちが一喜一憂しているのを不思議に思っていたが、成長するにつれ環境の異常さに気づいた。同年代の子どもたちとの関わりを持たないまま大人になって人とのコミュニケーションの取り方が分からなくなった。その結果、対人恐怖症を発症し、普通の日常生活が送れなくなった。今では人里離れた要塞のようなこの屋敷にリアムと二人だけで暮らしている。公の場に顔を出すことがないノアのことをネット上の架空の人物と信じて疑わない者までいる始末だ。


「ノア、殺人予告の犯人は分かってるの?」

「いや、分からない。私もさっきその噂を聞いたばかりだ。今から調べるよ」

「だからさっきセキュリティレベルを上げろって言ったんだね」

「ああ」

「じゃあ、あの外部からのアクセスが犯人?」

「多分な。相手も相当な技術者らしい。簡単には尻尾を掴ませてはくれないだろうけど追跡してみるよ」

「じゃあ僕は不審な物がないか家の周りを見回ってくるよ」

「ああ頼む」


 食事を終えたノアが皿をシンクに運ぼうと立ち上がると、「これはいいからノアは犯人の追跡を始めて」とリアムがノアの手から皿を取り上げる。

「ありがと」

 礼を言うと、ノアは書斎へと引きこもった。


 リアムは外に出て家の周りに異常がないか念入りに調べた。塀の外と屋敷へと続く道路も調べたが特に異常はない。


 家の中に戻りノアの書斎のドアをノックする。


 コン、コン、コン


「どうぞ」


 ドアの向こうからノアの声が聞こえてきた。

 リアムは書斎に入り異常がなかったことをノアに報告した。


「そうか、ありがとう」

「そっちはどお? 追跡できた?」

「いや、敵もなかなかやるよ。最後まで辿り着けない……追えないなら、いっそのことおびき寄せるか」

「ちょっとノア、危ないことは止めて!」

「お前がいれば大丈夫だろ」

「もちろん全力で守るけど絶対ということはないんだからね」


 ノアは生きるということに執着していない。自分のこともどこか他人事だ。


     ****


 その夜、リアムは自室で休んでいた。

 部屋はそれほど広くなく、ベッドやテレビなどは置かれていない。

 家具らしきものはゲーミングチェアのような椅子が一脚だけ。そして椅子の後ろに金属の箱が置かれており、その箱から数本のケーブルが椅子に繋がれている。


 静かに目を閉じ、椅子に深く座っているリアムは石像のように動かない。息をしているかを確かめたくなるが、アンドロイドであるリアムは息をしない。


 リアムは時折こうして椅子に座って静かな時間を過ごす。その間にエネルギーの補給とデータのバックアップ、そしてリアムの頭脳であるAIのシステムチェックが行われる。


 一連の処理が終わり静かに座っているとノックの音が聞こえてきた。


「リアム、ちょっといいか?」


 その声に反応してリアムは立ち上がり、ドアを開けた。

 そこにはノアが立っていた。リアムを真っ直ぐ見上げている。


「どうしたの、ノア? 眠れない?」

「ああ」


 リアムは微笑みながらノアの次の言葉を待った。


「……抱いてくれ」

「分かった」


 リアムはノアを抱き上げ、ノアを寝室へと連れて行く。

 ノアをベッドの上にそっと横たえると、流れるような手の動きでノアのシャツのボタンを外し始める。

 リアムがノアの首筋や胸元にキスを落とし始めると、ノアから甘い吐息が漏れ始める。


 その夜、リアムはノアが疲れ果てて意識を失うまで抱いた。



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