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落第烙印の戦乙女〜魔法が使えない少女達〜  作者: 黒野 白登
第1章 『十音色隊結成編』
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第1章第1話 『一色 柚葉』

 この物語の主人公となる少年の昔の話です。


 一色柚葉ひいろゆずはのこれまでの人生は、本人曰く"ロクでもない"ものである。


 とある有名な大企業に勤める父と母の元に生まれた彼は、生まれながらにして裕福だった。

 家は他の家庭と比べれば、比較的まぁ豪邸といえる方だった。食べ物や衣服、本や玩具がんぐ等望めば何でも手に入る生活。だが、柚葉は面白くなかった。つまらなかった。


 彼の両親は、大企業へ勤めていたが故に、子供に対して"時間をく暇が無かった"。

 両親はいつも家に居なかった。残業で何時間も帰れず、最悪家に帰れない日もあった。仮に帰って来られたとしても疲労が蓄積している体では柚葉に構ってあげられるはずも無く。


 仕事に忙殺ぼうさつされて、そうした心の余裕が無かったのだ。

 だから、柚葉が"遊んで"等とおねだりをしても、"また今度"と冷たくあしらわれる事が決まったパターン。


 両親からしてみれば、柚葉を愛していない訳は無かった。ただ、構う時間が取れない程に忙しいだけで。


 だがそれは、当時まだ幼い子供であった柚葉からすれば、そんな両親の姿は"自分に冷たくしている"ように映ってしまっていた。 だから。



 ーいつしか柚葉は、両親を嫌っていた。


 だが、柚葉は家庭内で決して一人だった訳では無い。


 彼には"双子の姉"がいた。五つ程年齢が離れていたが、双子の姉はよく柚葉の面倒を見てくれた。一緒にご飯を食べてくれて、一緒に勉強をしてくれて、一緒に遊んでくれて、一緒に本を読んでくれて。とても優しい姉達だった。性格は真逆だったが、どちらも柚葉の事を心配して愛してくれた。

 柚葉にとって本当の両親とは姉達だったのではないかと思う程に。自分に冷たく接する両親はきっと自分の事が嫌いなのだと思っていた。だってそうじゃなければ、ずっと苦しかったから。


 姉達と一緒にいた方がずっと幸せだった。


 寂しさを紛らわせる事が出来た。


 ーただそれと同時に。双子の姉達に"負い目"を感じていたのも、それが胸の奥に引っ掛かり続けていたのも事実だった。


◇◇◇


 柚葉は、学校に中々行けなかった。

  いわゆる、"不登校気味"で。


 柚葉は家庭環境のせいもあるが、奥手で自己主張が苦手な節がある。

 おまけに、柚葉の"容姿"は周りから気味悪がられていた。同年代の他の男子達と比べると、男らしさが一切無かったからだ。周りからも柚葉は性格も相まって"男の娘"といった認識で見られていて。


 もしも、柚葉が明るい性格だったのなら、周りから忌避きひされる事は無かったかもしれない。自分の魅力として振る舞う事も出来たかもしれない。でも無理だった。


 ー姉達に守られてばかりだった柚葉は、"他人"とどう関われば良いのか分からなかったからだ。


 『ーお前さ、気持ち悪いんだよ』


 ーだから、クラス内で馬鹿にされて、"浮いた"。


 中学二年生の頃だった。


 柚葉のような周りに馴染なじめない人間は、よくいじめの対象にされていた。


 ー顔が小さい事を笑われた。


 ー髪が長い事を笑われた。


 ー本ばかり読んでいると取り上げられ、ゴミ箱へ捨てられた。


 ー教室の窓から荷物を放り投げされた。


 ーすれ違いざまに肩を殴られた。


 ー靴箱の中に大量の泥を入れられた。


 ー挙げ句の果てには、女子の友達が多い事を気持ち悪がられ、自分から友達が全員離れていった。



 一人でただじっと席に座っていても、悔しくて、こらえ切れずに泣いても、誰も柚葉を見ようともせず、助けようともしなかった。


 ークラス全員、柚葉の事を嫌い、無視をした。

  仲の良い友達に裏切られ、人が、友情が信じられなくなって。

 酷くなる虐めに、感情を殺し、ついには涙すら出なくなって、容姿にコンプレックスを抱いて。



 ー中学二年生の出来事以降、柚葉は家にもり始めた。


 ー自分に優しくしてくれる、双子の姉達に甘え続け。


◆◆◆


 ー夢を、見る。


 それは、昔々の、懐かしい姉達との、思い出。



 一色ほの花と一色涼花。柚葉と五つ程年齢の離れた、双子の姉達の名前。

 性格はほの花が明るく物凄い社交的。その場にいるだけで周りを自然と明るくしてしまう天性の才能を持っている。

 涼花は、対象的にクールでいつも自然体。人の事をよく見ていて、優しく手を差し伸べられ、印象以上に温かい心を持っている。


 そんな二人の姉は、弟である柚葉を溺愛できあいしていた。幼い頃から両親の代わりに面倒を見ていたから という事もあるだろうが、単純に年齢が少し離れた弟が可愛かったのが一番なのだろうと柚葉は思っている。


 いつも一緒にいてくれて、見捨てる事は絶対に無くて。

 甘えて欲しい、頼って欲しいと言ってくれた姉達。

  それはきっと、姉達の本心で。


 柚葉は、甘えた。姉達ならきっと許してくれると現実から逃げたのだ。

 あの日に。



 同級生達からの虐めに耐えられなくなった時。姉達に相談をしてみた事があった。ほの花と涼花は自分の話をただ、静かに、優しい瞳で耳を傾けて聞いてくれた。

 辛かった。話している間、胸が痛み涙が出た。が、そんな自分をほの花と涼花は"よく今まで頑張ったね"と優しく抱き締めて慰めてくれた。


 駄目な弟で迷惑をかけているのに、"自慢の弟"だよと褒め続けてくれた。


 それがたまらなく心地良くて。


 だから、柚葉はさらに甘えた。


 『ー俺さ、もう学校に行きたく無いよ』


 嘘ではない。心からの本心だった。どうせ両親は自分の事なんか見てくれないから。姉達ならば自分を見てくれる。現実を見ようともせず、逃げた。


 『柚君がそうしたいなら、私は何も言わないかな!ほら、家に帰ったら絶対可愛い可愛い柚君がいるって事でしょ?私的にはそっちの方が良い!』

 『ー私もそう思う。学校って、無理して行く場所じゃ無いと思う』

 『涼ちゃんが言うと何か暗いね!?』

 『ーうるさい、ほのが明るすぎる。もう少し柚の気持ちを考えてあげて』

 『むぅ。可愛気の無い妹め!こうしてやる〜!』

 『ーあっ、ちょっ!くすぐったい!ゆ、柚見てないで助けてー』


 自分の話をしていたはずなのに、いつの間にか姉妹で取っ組み合いを始めるほの花と涼花。

 自分の気を紛らわせる為なのかは分からなかった。ただ、そういう姉妹達の姿を見ていると自然と笑みがこぼれて。


 『あっ!今柚君笑ったね〜』

 『良かった。柚の笑顔、私好きだから』


 そんな自分に、姉達も笑みを返してくれて。

  ーここが自分の居場所なのだと、強く実感した。



 ただ、今になって思うのだ。

  どんな時も明るく、笑顔を忘れないほの花。

  どんな時もクールで、常に落ち着いている姿の印象的な涼花。

 双子とは思えない程正反対だったが、二人は柚葉にとって親代わりであり、"憧れ"の存在だ。


 だから、今になってから、思ってしまう。


  ーほの花のように明るく振る舞えたら。


  ー涼花のように何でも落ち着いて対処出来たら。



  ー自分は、しっかりとした人生を歩んでいたのではないのかと。

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