5話・魔法魔女と一般人の共同生活
それからシャルとの共同生活は一週間ほど続いている。
髪色は違えど、妹の面影を強く残すシャルとの生活は、妹が生きていたらこんな感じかな、と思うようになっていた。
シャルの食事はやっぱり特殊で、毎日食べるわけじゃない。時々夜の散歩のときにお腹がすいたなぁとこぼすことがあっても、積極的に食べようとはしなかった。
俺としてもなにをすすめたらいいのかわからなくて、その点に関しては口を出していない。
だけど俺なりに考えてみたんだが、シャルは人間の温かな感情を好んでいるのかもしれない。
本屋のじいさんの本が好きな空気。四葉のクローバーの大切な思い出。俺が美容院を大事にしている気持ち。
そういうのが好きなのかもしれないって。
ゲームセンターにもせがまれて二日に一度くらいのペースで通っている。
小学生の学校が終わる夕暮れ時を狙って。魔法でとるのを禁止したらふくれたけれど、それが人間界のルールだもんねぇ、と一応納得した様子だった。
毎日、夜の散歩にシャルがくっついてくるのもまた日課になりつつあった。昼間に外出させてやれないのは心苦しいが、警察沙汰は本気で勘弁願いたいので仕方がない。
一番街でも俺の店に子供の居候がいると話題になりだした頃。
雨の降っている夜だった。
「あちゃあ、今日は雨かぁ」
どんよりと曇った空を見上げてため息を一つ。雨でも散歩にはいくが、チアリーが汚れるし、風邪を引かないか気を使う。
「恵みの雨だよ。大地の穢れを洗い落とす」
「魔法少女の考え?」
「そう」
この頃にはこんなやりとりも日常茶飯事で最初の頃のように大げさに驚くことはなくなっていた。
チアリーに雨よけの服を着せてやりつつ会話をして、近くのあぜ道まで車を走らせる。
シャルとであった田んぼ道をゆっくりと二人と一匹で歩くのも日常の一つに織り交ぜられようとしている光景だった。
だから。
それは。
俺にとって、唐突な。
忌まわしき過去を思い出す、非日常だった。
走りやの車の音が響く。エンジンの音がうるさい。いやだな、と脳裏によぎったのと、シャルがいきなり走り出したのは唐突だった。
車のブレーキの音が耳障りだった。ライトにシャルが浮かび上がって地面に影が描かれる。チアリーのリードを離す。走り出したのは、衝動だった。
両親と妹は自動車事故でなくなった。
自動車とトラックの衝突で、両親も妹も原型をとどめていなかった。幸い車はトラウマにならなかったけれど、あのときの両親と妹はトラウマだった。
だから。
車に轢かれそうになったシャルを。
助けるために飛び出したのは。
本能、だったのかもしれない。
もう誰かが、亡くなるのを見たくなかった。
どん。
車とぶつかる音が脳内に反響して、視界が反転した。
最後の視界で、シャルの無事な顔が見えた。ああ、俺は、今度は守れたんだ。