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4話・魔法魔女と一般人の地方都市の冒険

 次はゲームセンター。本はやっぱり荷物なので一旦部屋に置いてきた。こういうとき近いと便利だ。

 一番街の真ん中あたりにある小さなゲームセンターは俺のお気に入りだ。たまにきては散財して遊んでいく。

 UFCに興味津々のシャルがべたっと猫のぬいぐるみの飾られたUFCにはりつく。

掌より少し大きいサイズだ。とってやりたいが俺のメインは音ゲーで、UFCは悲しいかな管轄外だ。

 ほれ、と五百円玉を握らせてやる。きょとんとした様子のシャルに目の前で実演を一回。


「ここにお金を入れて、ほら、こんな感じ」


 アームを動かしてとれるはずのない猫のぬいぐるみをつかむ。案の定するりとすり抜けたそれに落胆もせず五百円で六プレイなのでシャルに変わってやれば、眉間にしわをよせてUFCをやりだした。その姿は年相応で普通に可愛らしい。

 だが、四回プレイしてダメ。少しは動くけど、出口まで落ちてくれない。最後の一回で、シャルは盛大に眉間のしわをよせたまま小声で呟きだした。


「我、上下の法則を無視し、従来に囚われず、感覚のみで生く」


 意味不明の言葉に首をかしげて、次にぎょっとする。

 コンテナのなかの猫のぬいぐるみがふわりと浮かび上がったからだ。

 慌てて回りに視線を走らせるがさいわい店員は近くにいない。隠すようにコンテナに背中を貼り付けている間に、どうやら魔法? による裏技でぬいぐるみはゲットできた様子だった。

 ご満悦な状態のシャルの頭に拳骨を落とす。


「お前! な! みられたらどうするんだよ!」

「いたいなぁ。いいじゃないか、みられてなかったんだ。結果オーライだよ」

「ど! こ! が! だ!」


 大声で怒鳴ると人目を集めるので小声で怒鳴るなんて器用な事をする。

 不服そうなシャルはそれでも景品口から猫のぬいぐるみをとりだして満足そうだ。


「うん、かわいい!」

「そのあたりの感覚は普通なんだなぁ」


 人間の飯が食べれないといったり、アクセサリーの綺麗さではなく魔力を重視したり、本屋では本より空気を見ていたが、猫のぬいぐるみを可愛いと思う感覚は同じなのだと感心していれば、シャルは一つ首を振った。


「人間のかわいいとはまた違うね。魔法少女や魔女にとって猫は最も身近な隣人さ。共存しあう関係でもある。使い魔はたいてい猫の姿をしているしね。ぼくたちは彼らに敬意を払って手に入れる機会があれば手に入れるようにしているだけだよ」

「? つまり、信仰、みたいな?」

「そう、そんな感じ」


 猫のぬいぐるみに頬ずりする姿は文句なしに可愛らしいのだが、理由を聞いて微妙な気持ちになる。


「そしてね、猫というのは魔法ととても相性がいいんだ。たとえばこうやって」


 一通り猫のぬいぐるみを堪能したらしきシャルが、猫のぬいぐるみを両手に持って小さく呟く。


「汝、ここに通り道を。我、抑止の門を開くものなり」


 元々開いていた猫の口元が輝く。これまたぎょっとして体で光を隠そうとしたがその前に、猫の口から先ほど買ったばかりの本が吐き出されて唖然とする。


「こうやって、経由地点にするのにちょうどいいんだ」


 あきらかに猫のサイズとあってない本のサイズ。物理法則を丸々無視したそれに驚いているとにやりと笑って再び猫ぬいぐるみの口元に本を持っていく。淡い光をともなって本の端から消えていく。


「はい。これは夏樹にあげる。色々してくれているお礼。念じればたいていのものは取り出せるよ」


 ぽいっと気軽に渡されて慌てて受け取る。なんだか、すごいものを貰ったぞ……?

 唖然としている俺の前で、シャルは悪戯気に笑った。


「他の人には内緒だよ」






 一番街にはほかにもカフェとか洋服店とかもはいっているが、カフェはシャルが飲み食いできないので却下。

 これが俺とシャルの立場が逆なら連れて行っても目立たないが成人男性が、子供を差し置いてなにかしら飲み食いをしていたら虐待を疑われそうだと思ったためだ。

 虐待まではいかなくとも、いい印象は与えないだろう。

 洋服店は何件もあるが、シャルの年齢に見合う店がない。

たいてい一番街の洋服店は妙齢の女性向けなのだ。シャルにそれを話した所、本人も興味がなさそうだったので、結局どこにいくか迷って、近くの公園に足を運んだ。

 土曜の昼下がり。子供たちがきゃっきゃと遊ぶ中、チアリーのリードを引いてまったり散歩をする。

 幸せだなぁと何気ない日々をかみ締めていると、くいっと袖を引かれた。


「なぁ、あれはなんだい?」


 シャルの指差すほうには屋台の出店。どうやらそこまでの知識はないらしい。

これでシャルが食べれれば試しに食べてみるのがはやいんだろうけど、からあげなぁ。無理だよなぁ。


「出店。小腹がすいたときとかに食べるやつ」

「人間はどこでも食べるなぁ」


 呆れ交じりの言葉にそれだと食い意地がはってるみたいじゃないか、といいかけて、いや人間って結構食い意地はっているな? と意見を翻す。

 遊具で遊ぶ子供達を眺めながらさして広くない公園を一周して、さてこの後どうしようかと思ったらシャルがその場にしゃがみこんだ。


「なにしてるんだ?」

「四葉のクローバーがないかと思って」

「なんで四葉のクローバー?」

「魔法界にはないのさ。クローバーといえば三つ葉が当たり前、四葉なんて伝説級の代物だよ。魔法界産の四葉のクローバーなんて出てきた日には城がたつね。でも人間界ではわりとよくあるんだろう? 一度自分の目でみてみたくて」

「あー、あれって成長途中で足で踏まれると葉がわかれるんじゃなかったかな」

「本当かい? なら魔法界に帰ったら育てている三つ葉を踏んでみようかな」


 魔法界に帰る。当たり前の事実に胸がずきりと痛んで、ごまかすように明るい声を上げた。


「三つ葉を育てているのか?」

「ああ。魔法薬につかいうのさ。三つ葉は中々色々なものに使えて重宝するんだよ。そのかわり育てるのは難しいけどね」

「へ? その辺にほっとけば育つもんじゃねぇの?」

「それが残念。手間隙掛けないと綺麗に魔力の篭った三つ葉は育ってくれない……そうか、だから三つ葉を踏む人がいないから四葉がないのか」


 納得した様子でうんうんうなずいているシャルの手元は三つ葉を掻き分け続けている。

 向こうに行きたがるチアリーのリードを引っ張ってチアリーを抱っこして、俺も一緒に四葉の探索に加わる。


「こういうの、いいな。童心に返る」

「夏樹はいつも子供っぽいだろ」

「なんだと」


 軽口を叩きながら無心に三つ葉を掻き分けるのは、それはそれでとても楽しい時間だった。






 時間を忘れて四葉探しに無言で没頭していたら日が傾いていた。大の大人が四葉を探している姿はたいそうシュールだったろうが、傍にシャルがいたので大目に見てもらえていると信じたい。

 そういえば今日は昼を食べていない。ぐる、となった腹を押さえていまだ四葉を探しているシャルに声をかける。


「おーい、シャル。そろそろ帰るぞー」

「もう少し……四葉がない……」

「まぁ、四葉ってそもそも確立が低いからなぁ」


 一生懸命探しているシャルには悪いが一度意識した空腹が襲ってくるので真面目に帰りたい。

 ああ、そういえば家にアレがあった。と思い出して、シャルの頭に手を載せる。


「シャル、帰るぞ」

「えー」

「いいものやるから」

「いいもの?」


 こてんと首をかしげたシャルに笑って、チアリーのリードとシャルの手をとって帰路に着いた。






「いいものってなんだい?」

「ちょっとまってろー」


 帰るなりチアリーをゲージにも入れず机の引き出しをがさごそ漁りだした俺に不審な眼差しのシャル。

 その目は痛いなぁ、なんて思いつつ、目的のものを無事に見つけ出して、それをシャルに渡した。


「はい、四葉ってこれでもいいか?」

「これは……!」


 それは俺がガキの頃、妹と親と一緒に作った四葉のクローバーの栞だった。

今日のシャルみたいに妹が四葉のクローバーを探すといいだして、付き合った俺しか見つけられなくて、妹が半泣きになっていたのもいい思い出だ。

 そんな思い出の品だがすっかり箪笥の肥やしになっていた。なんだかんだ、捨てずにとっていたのをふと思い出したのである。


「でもこれ、大切なものだろう? 本当にもらっていいのか?」

「まぁ、埃被ってたし。喜んでくれるならやるよ」

「ありがとう!」


 ぴょんと飛び跳ねたシャルに確かに大事なものではあるのだが、埃を被っていたのも事実というか半ば存在を忘れていたので喜んでくれる人にあげるほうが妹も両親も喜ぶだろう。


「すごくいい香りがする」

「え? 匂いなんてするか?」

「美味しいご飯の匂いだ! こんなに匂いがはっきり分かるご馳走はそうそうない!」

「あー……なるほど」


 たしかに人の感情を食べるなら、幼少期の思い出の象徴であるそれはいい味がするだろう。

 具体的にどんな味かはわからないが。

 とてつもなく嬉しそうなシャルに小さく微笑んで、俺はチアリーによかったな、と笑いかけた。 

 チアリーは首を傾げてくぅんと鳴いた。


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