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3話・魔法魔女と一般人による地方都市の探索

 翌日、簡単な朝ごはんを食べて、ついでにチアリーをゲージから出してやり散歩用のリードをつける。町の案内ならチアリーの散歩にも丁度いいだろう。店に入るときは外に繋いでまっていてもらうことになるが、見知った場所ならそれでも困らない。


「さて、準備はいいか?」

「ああ!」


 元気一杯のシャルの髪は異常な長さを隠すように俺が編みこんで編みこんで纏め上げた。それと、シャルが最初に来ていた服は洗濯で泥を落としたが、ちょっと奇抜というか、街中では浮く格好だったので、ネットで検索した無難な服を出してもらって着替えてもらった。

 オレンジの猫耳フードのパーカーにジーンズの短パン。活発な女の子、といった感じだ。一応言っておくが猫耳は俺の趣味じゃない。断じて! ……かわいいなぁ、とは思うけど。


「さあ、しゅっぱーつ!」


 おー! と手を振り上げて張り切っているシャルに小さく笑って、その小さな手を握った。迷子防止!






 俺が店を構えているのはとある地方都市の一番街だ。

 入り口近くに店を構えているので、まずは一番街の中を案内することにする。家に連れてきたのは夜だったので、周りがよく見えていなかったと思うし。


「そこはアクセサリーショップだ。個人営業で、手作りのものを売ってる」

「へぇ! 人間も手作りのアクセサリーの売買をするんだね!」

「シャルのところでもするのか?」


 斜め向かいにあるアクセサリーショップを指差せば、興味津々目をキラキラさせてシャルが食いついた。


「うん。魔法少女や魔女がつくったものには魔力が宿るからね。高位の魔女が作ったアクセサリーはとんでもない値段がするけど、その分とっても使い勝手がいいんだ」

「たとえば?」

「感情の保存ができる小瓶をぼくは愛用しているなぁ」

「感情の保存?」


 聴きなれない言葉に首をかしげる。シャルと話しているとこういうことばかりだ。


「人間だって食べきれない食材は冷蔵庫とやらにしまうだろう? それと同じだよ。お腹が一杯のときに、でも上質な感情を手に入れたら小瓶にいれて保存して、魔力が減ってから食べるんだ」

「なるほど」

「たまに人間界でも掘り出し物があるんだよ。人間界からの仕入れを仕事にしている魔女もいるくらいさ!」

「え? 人間がそんなものをつくるのか?」


 そんな芸当ができるのだろうか。なじみの店なので一言断って店先にチアリーを繋ぎ中に入る。疑問には当然、と答えが返る。


「意識して作ってるわけじゃないと思うよ。そもそもそういうことできる人は稀だからね、貴重だよ。占い師をやっている人間に多いときいたことがあるね。スピリチュアル系、と人間はいうんだっけ?」

「占いかぁ。この店の先にもあるぞ」

「そこもなにか作ってるのかい?」

「いいや。そこは占いだけ」

「なら興味はないなぁ。占いは非現実的で好きじゃない」

「……お前がそれをいいますかね」


 思わず脱力する台詞だ。非現実の塊にそんなことをいわれては占い師はやってけないだろう。

 遠い目になった俺の視線と店主の視線があう。この店は気さくなおばさんがやっていて、手作りのケーキも日替わりでおいてある。

たまに気分転換したいときに近いから、という理由で利用するのだが、今日はシャルがいるから喫茶コーナーは使えない。シャルに食べさせずに俺だけ食べるのはさすがに外聞が悪い。


「夏樹ちゃん、親戚の子?」

「あー、はい。そんな感じです」


 断言するとあとでぼろがでたときに困る。かといってシャルを馬鹿正直に拾ったともいえない。

 なんともいえない俺の濁した言葉に人のいい店主は突っ込んだ話は聞かないでくれた。気配り上手なのも俺がこの店が好きな理由の一つだった。


「お、これはいいな!」

「なんだ? 気になるのでもあったのか?」


 突然声を上げたシャルに手元を覗き込めば、そこには星のイヤリング。きらきら光を反射して輝く青い星のイヤリングはシャルには少し背伸びしたものに見えたが、純粋に綺麗なものだった。


「それはねぇ、最近知り合った人の作品なのよ。ほら、委託もはじめたいっていってたじゃない。その第一弾」

「へぇ」

「そのあたりのコーナーは全部同じ人よ」


 確かに区切ってある一角はこの店に元々置いてあった作品たちとは作風が異なる。別人の作品だといわれれば納得できた。

 イヤリングをたがめすがめつ眺めているシャルにそんなに気に入ったのかと後ろから値段を覗き込む。

 ……店主さんの作品に比べれば割高だが、委託費もはいっているだろうし、別に買えない値段ではない。


「シャル、貸して」

「? はい」


 素直に差し出したシャルから受け取ってレジへ。


「会計お願いします」

「まいどあり」


 にこにこ笑顔の店主さんからラッピングされたイヤリングをうけとって、呆けているシャルに渡す。

 はっとした様子でわたわたとイヤリングを受け取ったシャルが見上げてくるのに笑い返す。


「プレゼント。やるよ」

「ありがとう!」


 飛び跳ねるように喜ぶシャルに頬がほころぶ。店主さんも微笑ましそうにしている。

さっそくラッピングをあけて耳につけたシャルがどう? どう? といわんばかりに見上げてくるので、結い上げた髪を崩さないように頭をなでてやる。


「似合ってるよ」


 背伸びしている、と思ったけれど。

 つけてみれば、存外それはしっくりとシャルに馴染んだ。






「このイヤリングには魔力が篭っているんだ。非常食としてとてもいい」

「非常食……?」


 お店の中で話すのもなんだったので外に出てチアリーのリードを握っていれば、耳元のイヤリングを揺らしながら、嬉しそうにシャルがいう。


「魔女や魔法少女は魔力切れを起こすことは死に直結する。だから非常用の魔力を常に持ち歩くんだが、このイヤリングはいいぞ。星というのがまたいい。星と魔力は相性がいいから」

「へぇ」

「作り手の処女作だな。なにごとも処女というのはいいもので、初めてという一点だけでも価値がある。人間も処女が好きだろう?」

「しょ、処女とかいうな!」

「なんでだ?」


 さらっとすごい発言をしてくれたシャルに裏返った声で窘めれば、きょとんとした表情で見上げられる。

 価値観に差があるのはわかっていたが、こんな公道で処女とかいってほしくない。


「なんでも!」


 少し強い言葉で押さえ込めば、シャルは不満を顔に出したが、すぐにイヤリングをいじってにこにこ笑顔になった。喜怒哀楽がはっきりしている。


「まぁ、いいや。夏樹、ありがとう。これはぼくにとってとてもうれしいプレゼントだ!」

「ああ……よろこんでくれたならうれしいよ」


 なんだか一件目にしてぐったりした心境で、それでも本心から喜んでいる様子のシャルに小さく笑みを浮かべた。






 次に向かったのは本屋。

 三軒となりにあるこじんまりとしたこれまた個人営業の店。

 品揃えは店の主人(77歳・男)の趣味を反映して古めのハードカバーが並ぶ。

 ハードボイルド系とよんでいいのか、そういう作品が多い。ライトノベルが欲しかったら駅の中にも本屋があるので、そちらにいけばいい。

 むしろ差別化が上手くできていて、当初駅の中に本屋ができたときはここも終わりかな、なんて失礼なことを考えたものだが、上手に共存していた。


「本は読むか? ていうか、文字読めるか?」

「馬鹿にするなよぅ! 人間界の文字は魔法少女学校の必修科目だよぅ!」

「へぇ」


 これまた新しい事実に驚きつつ、魔法少女学校なんてあるのかと感心しつつ。それならと趣味にあうかは多大に疑問だったが本屋に入れば、本屋にはいるなり、シャルは目をきらきらさせた。


「ご飯の匂い!」

「ええ?」


 すうと息を吸い込んで、まぐまぐと口を動かしているシャルに空気にご飯? と首を傾げるが、本人はとても満足そうである。むしろ肝心の本をみていない。

 せっかくなので、このまえ買った本も読み終わったし、新しくなにか買うかと店内を見て回る。

 この間は戦争ものだったから、もうちょっと落ち着いた話が読みたい。どれがいいだろう。


「お?」


 タイトルに引かれて手に取ったのは「魔術を科学的に徹底分析!」というタイトルの本。あきらかにシャルの影響だったが、とてとてと近づいてきたシャルが俺の手元をみて頬を膨らませる。


「魔法は魔術とは違うよぅ」

「魔法と魔術って別物?」

「全く別物!」


 断言されてそうか、と頷きつつ、興味はあるのでそれをレジにもっていく。

 年配のじいさんが一人で切り盛りしているため、とっつきにくい印象があるが俺は子供の頃から可愛がってもらっているのでそういうことはない。


「坊主、二千九百円だ」

「坊主は止めてくださいって。はい、三千円」

「ほら、釣り」

「どもー」


 慣れた動作で本をそのまま渡される。一見さんはとまどうかもしれないが、本を包んだりしないのもここの特徴だ。

 片手に本を持ったまま、さて一度部屋に戻るか、このまま散歩を続けるか、と迷っているとじいさんが爆弾を落とした。


「年の差なぁ。俺は女房は十歳年上だったが、お前さんは十歳以上年下か」

「ちょ、は?!」

「道ならぬ恋ってやつだな」


 にやりと人の悪い笑みを浮かべたじいさんに、ちげーよ! と叫んで店を後にする。

すたすたと歩く俺の後ろでやりとりを聞いていたはずのシャルが不思議そうに首を傾げていた。


「夏樹、ぼくたちは道ならぬ恋なのかい?」

「違うから! というか、そういう関係ではないだろ!」

「ぼくは夏樹がいいならべつにいいけど?」

「へっ」

「なぁんてね!」

「この、こいつ!」

「あははは」


 きゃらきゃらと笑って逃げるシャルを追いかけぐりぐりと頭をぐーにした拳をおとす。それすら楽しそうな笑い声をあげるシャルに俺も気づいたら笑っていた。


「そうそう、あのお店は定期的にいきたいね。具体的にいうと週に一度くらい」

「なんでだ?」

「お店に満ちるマナが心地いいから。人間で言うデザート的なね」

「マナ?」

「んー、感覚的なものだからなぁ。説明は難しいというか、めんどくさいなぁ」

「おいこら」

「店主さんの本が好きって気持ちが充満していて、美味しいってことだよ」


 端的に言い表されたシャルらしい表現に小さく苦笑して、ならまたいくか、と聞いた。笑顔でシャルはうん! と頷いた。


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