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2話.王女と貴族と落ちぶれた騎士

「放っておいてください」

「いいえ、放っておくわけにはいきませんわ。アルマ村で多くの命を救った騎士様の功績を讃えないといけませんから♪」


「あなたは?」

誰だろう。口ぶりからすると貴族関係の人かな?

どうでもいいか。どうせ私はもう騎士じゃない。

落ちるところまで落ちた落伍者だ。


「あら?知らない?あなたそれでも騎士なのですか?」

「おあいにく様、私は騎士たり得ない出来損ないらしいですよ。ついさっき家族からも見放されて追放されたところです。誰だか知りませんけど、私なんて讃えたら、貴方も非難されますよ」


我ながらずいぶんと投げやりな返答をしたと思う。

だが、その女性はそんなこと気にも留めないというふうに言った。


「あら、心配してくれるんですか。ありがとうございます♪ですが大丈夫ですよ。なんせ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そんなことしたら打首にしちゃいます。なんて」

「え?」

顔を上げると、そこには信じられない人物がいた。


金のウェーブを巻いた髪に、

神秘的とさえ感じる綺麗な碧眼。


その特徴は私が知る一人の人物と一致していた。

けれど、その人がこんなところにいるなんて信じられず、半信半疑で聞く。


「まさか、ルナ…王女殿下…ですか?」

「正解です。よくできました〜!」

落ちぶれた私の横で、パチパチと拍手をしながら屈託のない笑顔で笑うこの人は、この国の頂点、第一王女だった。


この国でもっとも偉い女性だ。

そして、騎士が最も守らなければならないとされる王族でもある。


「し、失礼しました。ルナ様とは気づかずに、とんでもない無礼を」


急いで頭を下げる。

なんであんな態度をとっちゃったんだろう。

頭の中は羞恥心でいっぱいだった。


「問題なし!全然構わないですよ。あなたの現状も分かってるつもりです。大変でしたね。あなたを追い詰めてしまったこの状況を作り出してしまったのは私たち王族にも責任の一端があります。だから、私がお詫びしたいくらいなのに」

ルナ様はなんと、本当に頭を下げたのだ。


王族である彼女が。

これはとんでもないことだった。


「そ、そんな滅相もない。ルナ様頭を上げてください。私なんかのために、ルナ様ともあろう方がそんなことをしてはいけません!」

すると、ルナは顔を少し上げ、きょとんとした顔をして、笑った。

「ふふっ、やっぱり貴方は自分が悪かったんです、とは言わないのですね」

「え?」

「あ、ごめんなさい。勘違いしないでくださいね。嬉しくて。貴方は確かに理不尽な目に合ったはずです。絶望されてるかもしれません。けど、それでも自分の正しかったと信じ続けている。貴方はそんな強い人であって欲しかったんです。個人的にですけど」

なぜそう思われているのか、私には分からなかった。


けど、そんな期待をされても、私に応える事は出来ない。


「私はそんな強くないです。今の私は自分がなりたかったものもよく分からなくなってしまって…どうしようもない半端ものです」


すると私の言葉にルナ様は笑うのを止め、真剣な表情をして言った。

「やっぱり初めに言っておきます。貴方は何も間違っていない。あなたが救った村人たちはとても感謝していましたよ。だから、自信を持ってください」

「…ルナ様」

嬉しかった。自分がこんな偉い人に肯定されて。

例え、それが真実でなくても。


「と、いきなり現れてこんな力説されても困りますよね。私はあなたに話があって来たんです。リア・エリーゼ・ヴァイロンさん。あの事件の真相、知りたくないですか?」





「それで、本日はどのようなご用件ですかな?ルナ王女殿下。辺境の地に観光でも?いや失敬、王女殿下は余興で忙しいはずでしたなぁ。改革とかなんだったか。そのような時間あるはずはないはずですなぁ」

ボノクラ伯爵は口髭を優雅に引っ張り、ニヤニヤと笑いながら挨拶をする。


何が観光だ。

あの事件のことだって分かってるくせに。

口調こそ丁寧だが、王女が来たというのにどこか傲慢な態度が気になった。


ルナ王女は変わりものでも有名だ。

噂でしか知らないが、なんでも王女就任式の日、貴族と平民の身分差を無くすと宣言したんだとか。そのおかげでルナ様は平民からの支持は厚く、貴族には忌み嫌われている。


正直貴族から暗殺されたっておかしくない宣言をしたのに、護衛も付けずによくこんなところに来たなと思う。


私には「あくまで護衛のふりでついてきて」、とルナ様は仰っていたが、本当に護衛のつもりでお守りしないと。


「いえいえ。お初にお目にかかります。ボノクラ伯爵。第一王女、ルナ・リリベスティ・クリスティーナです。今日はアルマ村の事件の件で伺いました」

ボノクラ伯爵の嫌味に対してルナ様はスカートを少したくしあげ、

何も気に止めていないという風に挨拶をした。


そのことが気に障ったのか、ボノクラ伯爵は少し顔をしかめた。

何でもない開幕のやり取り。そこからすでに情報戦は始まっているのだ。


重い空気をひしひしと肌で感じる。


なぜ私がこんな場に参加しているんだ。

胃が痛くなってきた。



◇◇



時は、雨の中ルナ様と初めて会ったときに遡る。

あの後、ルナ様が泊まっている宿屋に連れて行ってくださり、シャワーを貸してくれた。


「サッパリしましたか?」

「はい」

私が髪を乾かしている途中、ルナ様がベットにくつろぎ、優雅に紅茶を飲んでいた。

王女殿下と2人で同じ部屋にいるってなんだかとても不思議な感覚だ。


「それは良かったです。ところで一応聞いておきますが、あの事件の真相。貴方はどこまで分かっているのですか」

「あ、いや調べようとはしたんですがらなにぶん謹慎中で手段もなく、正直ほとんど分からないです」


事実その時期は何もできず、出来たことと言えば同業の騎士たちに家の外から浴びせられる罵倒に耐えることぐらいだ。

ルナ様は間違ってないって言ってくださったけど、

本当にそうなのか自信がない。


「そうですか。じゃ、これ着てください。特に兜は忘れないで」

「へ?」

ルナ様から笑顔で言われて渡されたのは、全身を武装できるタイプの甲冑だった。


なんで?


「顔を隠せれば何でもいいのですけどね。貴方は無口な私のボディーガードという設定です♪今回の事件。実はもう調査は私の方で済ましてるんです。けど裏取りがまだなんですよね〜。なので、今からボノクラ伯爵に直接聞きに行きます。一緒に来てください」


そう言って笑顔でルナ様はおっしゃった。

「今から!?」

「ええ、善は急げと言いますし」


ルナ様って口調はおしとやかなんだけど、なんというか、とてもアクティブなタイプ?


見た目と行動力のギャップがすごい。

だけど、あの事件の真相を知るチャンスだ。


私は謹慎が解けても追放された身。このチャンスを逃せば、何があったか調べる機会は2度と訪れないだろう。


「私も行きます!いえ、行かせてください!!」


そうして、今私はボノクラ伯爵の屋敷に訪れている。



「アルマ村の事件、ですか。ルナ様が気になさるような問題があるとは思えませんがね。私の調査であの村の反乱が暴かれ、粛正が行われた。それだけですよ。いえ、問題はありましたね。ヴァイロン家の小娘、あいつが邪魔をしたせいで未だに刑は執行されていない。直ぐに騎士団を再編成して」

「待ってください。それは禁止したはずです。真偽がはっきりしないうちは、そのような真似は私が許しませんよ」

「チッ…ま、いいでしょう。それで、何か見つかったのですか?」

今舌打ちした?王女殿下の前で?こいつ!


「いえ、調査隊を送りましたがあの村で反乱の兆候は一切見つかっていません」

「調査に平民出身なんか使うからですよぉ。ルナ王女殿下。名家から調査隊を派遣すればちゃんと証拠を見つけてきたでしょうに。世の中我ら貴族を生まれが良かっただけと揶揄する愚か者もいるようですが、我らはきちんと天に選ばれ」

「ですが!」

ルナ様はボノクラ伯爵の言い分をピシャッと遮り、発言する。

「調査で別のことは分かりましてね。ボノクラ伯爵のご子息が最近アルマ村に滞在されたとか。しかも、そこでご子息は怪我をされてますよね。たしか骨折だとか」

「……」

ボノクラ伯爵が口籠る。


ちょっと待って。ボノクラ伯爵の息子がアルマ村に滞在したからなんだっていうの。ケガ?それだって関係ないしょう。いえ、まさか。


「担当直入に聞きます。ボノクラ伯爵、貴方はご子息が怪我をしたことを恨みに思って、今回の襲撃を企てた。違いますか?」


は?


思わず絶句する。

私は、いえ騎士達はそんな理由であの事件を起こしたの?

いや、そんなことあるはずは。


ボノクラ伯爵から笑顔が消え、真顔に変わった。


豹変したその氷のような目からはどこか狂気さえ感じた。


「違いますな。奴らは我ら高潔な貴族を害した。しかも我が家は5大貴族の一角だぞ。国をも動かす巨大な権力を持つ我らを。その跡取りである私の息子に傷をつけたのだ。これはもう国家反逆罪と言っても過言ではないでしょう。なぁ、ルナ姫様?」


ボノクラ伯爵はルナ様に見抜かれたと分かるや開き直り、この言い草である。


なんだ、こいつは?私は、私達騎士はこんな奴のために剣を払わなければならないのか?


これが、私が憧れてきた騎士の思想なのか?


堪らず怒りが込み上げてきた。

思わず剣が手に伸びそうになった時、

ルナ様は優しく私の手を止めた。


そして、ボノクラ伯爵にも気づかれないようにボソッと呟いた。

「過言ですよ。クソ野郎が」



ルナ様?

一瞬、おしとやかなルナ様が別人になったような気がした。気のせいだろうか?


「何かおっしゃりましたかな?ルナ様?」

「いえ、何も。ボノクラ伯爵の言い分はよーく分かりました。ですが、国家反逆罪はあまりに過剰です。貴方もそれを分かっていたからわざわざ隠蔽したのですよね。数日以内にペナルティが課せられますから、その点は覚悟しておいてください。あと、アルマ村への手出しはこれ以降絶対に禁止です。いいですね」


それだけ言ってルナ様は私を連れ、屋敷を出たのだった。

私は私達の帰りをギリギリと歯軋りをしながら見送るボノクラ伯爵の視線に気づいた。


だが、私の胸中はそれどころではなかった。

そんな理由で、村は襲われたのか。

けど、それ以上にその作戦に乗りかけていた自分にショックを受けていた。


そのまま私たちは無言で宿に戻った。

無意識に外に出る時に預けていたカギを受け取り、

着替えたがその時の記憶はあいまいだった。


頭の中が色んな感情に支配されて、余裕がなかったからだ。


ルナ様の後ろ姿を見る。

私の暴走を止め、あっさりと引き下がった彼女は何を思っているのだろう。


「失望しましたか?」

「え?」

その時、沈黙していたルナ様が口を開いた。


「私が改革を唱えていることは知っていますよね。それにも関わらず、権力を傘に着て暴走するあのような貴族に碌な制裁もできない私に、です」

「いえ、そんな事はっ!分かっています。今や貴族の権力は、王族に匹敵するほど大きくなった。その貴族が腐敗してしまったら、そう簡単には止められない」

「ええ、ですからアルマ村の件もボノクラ伯爵に出し抜かれ、襲撃を許してしまった。貴方がいなければあの村は壊滅し、多くの死者が出たでしょう。だから、私は貴方にお礼が言いたくて来たのです。あの村を守ってくれてありがとう」

「けど、私だって貴族の考えに従って村人を切ろうと、私が初めから助けようとしてれば、全員を助ける事ができたかもしれないのに、私は動けなかった」

私の頬から涙が出てきた。追放された悲しみとは違う理由で。


私は自分が正しかったと今度こそ分かったのだ。あんな馬鹿な理由で村人を殺していいはずがない。

だが、そうなると今度は別の後悔が生まれるのだ。


何故初めから村人を守れなかったのか、と。


分かってる。

私は私の騎士道を貫く強さが足りなかったんだ。

…私だってあそこにいた騎士達と同じだ。


すると、ガシッとルナ様に肩を掴まれた。

「ルナ様?」

「しっかりしてください!!貴方は間違いなく正しいことをしたんです!たしかに、完璧な結果ではなかったかもしれなません。けど、それは貴方の責任じゃない。さっきも言いましたが貴族の暴走を止められなかった、貴族の横暴が許されてしまう国を変えられなかった私たち王族の責任です。村人たちだって感謝こそしても貴方を恨んでいる人なんていなかった」

「ルナ様には分からないですよ。私はその現場にいたんです!あの惨劇を完全に止められるはずだった。初めから貴族があんな酷い奴らだって分かっていれば!」


その時フワッと暖かい感触が私を包んだ。

ルナ様が優しく抱きしめてくださったのだ。


「あの場では、貴族の命という絶対的なルールがあったのでしょう。知ってますよ。貴方は騎士に強い憧れがあったんですよね。ヴァイロン家としての強い重圧も。それでも自分の正義を貫くには腕っぷしとは別の強さがいる。リアさん、貴方にはその強さが少し足りなかったのかもしれない。ただ、それでも!あなたが何と言おうとあなたが救った命が確かにあった。それだけは忘れないで」

「でもっ!私にその強さがあればっ!見殺しにしないで済んで」


その瞬間、私の心が決壊したように、言い表せない感情が溢れ出た。

涙が止まらない。

これは、悔しさ?それとも情けなさ?自分の理想が踏みにじられたことへの憤り?


きっとその全てだ。


そうして、私は泣き続けた。

みっともなく、王女様の腕の中で。


無礼と受け取られても仕方ないのに、ルナ様は優しい顔でただ私を包み込んでくれた。





「ごめんなさい。みっともない所をお見せしました。こともあろうにルナ様に」

ようやく泣き止んだ私は、我に返り、別の意味で泣きたくなった。

王女であるルナ様になんという無礼をしてしまったのかと。


「謝らないでください。私、王女ですけど誰とでも気軽に接していきたいんです。また悲しくなったらいつでも私の胸の中に泣きに来てください」

にっこりと笑ってルナ様は言った。


「いや、それはちょっと」

その笑顔を見て、私は思った。

正直この人はどこか得体が知れないところがある。

けども、とても優しくて信頼できるいい王女様だ。


「さて、そろそろ次の本題に入りましょうか。私がここにきた理由は2つ。1つ目はあなたにお礼を言うこと。2つ目は貴方を勧誘すること。この国を守るために、騎士ではなく冒険者になりませんか?」

「え!?」


やっぱりこの人は何を考えているのか、得体が知れない。


そう私は思ったのだった。






読んでくださりありがとうございます。


もし気に入っていただけましたら本編の「かつて親友だった最弱モンスター4匹が最強の頂きまで上り詰めたので、同窓会をするようです。」も見てもらえると幸いです。


URLは張っていいのかイマイチ分からないので、張りません。

ごめんなさい<(_ _)>


作者ページから探すと見れるはずです。

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