カフェの椅子に腰掛け「ぽーぽー」と『ポーカーフェイス』で口ずさむ
ルイス・ゲスイン公爵令息と婚約者の侯爵令嬢は学園帰りに、行きつけのカフェテリアのいつものテラス席で、仲睦まじく二人だけのティータイムを楽しんでいた。
「ぽーぽー、はーとよ、来い。ぽーぽー、はーとよ、来い。ぽーぽー、はーとよ、来い。ぽーぽー、はーとよ、来い。ぽーぽー、はーとよ、来い。ぽーぽー、はーとよ、来い。ぽーぽー、はーとよ、来い。ぽーぽー、はーとよ、来い。ぽーぽー、はーとよ、来い。ぽーぽー、はーとよ、来い」
「あれは?」
令嬢の指差す先、モミの木を見る。
「カラス」
「はぁ?」
「いや……だってカラスだろう」
「はぁ?」
「いや……どう見ても黒いから」
令嬢は質問を変えた。
「五稜郭があるのは?」
「函館」
「はぁ?」
「いや……函館だから」
「オルゴール館があるのは?」
「小樽」
「……夜に光る虫は?」
「夜光虫」
「はぁ?」
「いや……すまない、蛍で」
「先程と同じフレーズを、また10回おっしゃって」
「ぽーぽー、はーとよ、来い。ぽーぽー、はーとよ、来い。ぽーぽー、はーとよ、来い。ぽーぽー、はーとよ、来い。ぽーぽー、はーとよ、来い。ぽーぽー、はーとよ、来い。ぽーぽー、はーとよ、来い。ぽーぽー、はーとよ、来い。ぽーぽー、はーとよ、来い。ぽーぽー、はーとよ、来い」
「曲名は?」
「え?」
「曲名は?」
「え?」
令嬢が質問を変えた。
「ではあれは?」
「カラス」
「はぁ?」
「いや……だからカラス」
令嬢はまた質問を変えた。
「これは?」
令嬢は両手の小指から中指を折り曲げ、伸ばした親指と親指の先、第一関節と第二関節を曲げた人差し指と人差し指の先をそれぞれくっつけた。
「ハート、だな」
「わたくしの、ルイス様への気持ちですの」
「ありが「あれは?」」
令息は礼を言いかけたが、令嬢の声が重なった。
「いや……だから……」
そんな二人の様子を、店内のテーブル席から見つめる令嬢達がいた。
「はぁ、今日もお二人はお似合いですこと」
「本当に。麗しくていらっしゃるわ」
「あの落ち着き、お二人からは大人の雰囲気が漂いますわね」
「どんなことを話していらっしゃるのかしら?」
「哲学やお好みの文学について語り合っていらっしゃるとか」
「お互いの好ましく思うところを伝え合っていらっしゃるとか。君の瞳は夜空に輝く一等星のように美しい……とか、貴方様の深い知識の泉で溺れてしまいたい……とか」
「「「「「キャ~、素敵ぃ〜!!!」」」」」
テラス席。
「はぁ?」
「いや……カラス……」