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魔物使いは繋がりたい!  作者: のえる
魔物使い見習い編
2/32

魔物を仲間にしてみよう

 キッチンに行くと、祖母は朝食の準備をしていた。


「おばあちゃん、おはよう!」


「あらメルタ、ソフィ、おはよう」


 祖母、サロン・カルーモと挨拶を交わす。


 彼女は昔、魔物使いとして魔物と一緒に各地を冒険していた。

 同じく冒険者であった祖父、シャルル・カルーモと出会い、意気投合して交際、そのまま結婚したらしい。

 そして僕の母が生まれ、父と結婚し、僕を産んでくれたというわけだ。


 しかし、僕が赤子の頃、父と母は魔物に襲われて命を落とした。

 だから僕は、両親との記憶が全くと言って良いほどない。


 でも、祖父母とソフィが優しくしてくれたおかげで、寂しいと思ったことは一度たりともないのだ。

 

 ……ソフィは時々うるさいけど。


「サロン、お前メルタに魔物使いのスキルを教えると約束したようじゃな?

 まさか、”使役しえき”ではあるまい?

 "念話ねんわ"程度だと思っておるが、相違ないな?」


 ソフィが祖母に向かって質問を投げかける。


「ほら、メルタは魔物と仲良くなりたいんでしょ?

 せっかくだし、”使役しえき” から教えてあげたいのよ」


 可愛い孫の夢を否定するなんて、私はしたくないもの、と祖母が笑う。

 ソフィはあきれた顔で返す。


「魔物使いのことになると、相変わらずよの。

 "念話ねんわ"だけかと思って油断していたわい……」


「大丈夫よ、メルタは強い子ですもの。

 それに、私だって甘いことだけを教えるつもりはありませんからね」


 祖母の口元は笑ったままだが、目が少し鋭くなった気がする。

 あれ? ひょっとして、これから学ぶことって結構危険だったりするのかな?

 ソフィは、真剣な目をした祖母の顔を見た後、少ししてため息をついた。


「分かった、それではお前に任せる。

 儂は横で見ているだけにするよ」


 そういってソフィは僕の肩から飛び立ち、部屋にある止まり木の上に移動した。


「なにはともあれ、まずは朝食を食べましょう。

 メルタ、おじいちゃんを起こしに行ってもらえる?」


 そういった祖母は、朝食の準備に戻った。

 僕は言われた通り、祖父の部屋に向かう。

 祖母とソフィの会話についていけなくて少しモヤモヤするけど、後で色々聞いてみよっと。


    ◇


 朝食を食べ終え、祖父は仕事で外に出ていった。

 食器の後片付けをする祖母を手伝いながらも、内心はソワソワしていた。


「……さて、それじゃあ始めましょうか!」


 洗った食器の水気をふき取り終えた祖母が、僕に向かって言った。

 よっ、待ってました!

 いよいよ初めてのスキル習得だ。


 魔物使いのスキルを覚えれば、森に住んでいる魔物達とも、いずれ仲良くなれるのかな?


 机を挟んで、祖母と斜めに向き合って椅子に座る。


「これからメルタには、私が魔物使いだった頃に使っていたスキルを教えるわね。

 でもその前に、大事な話をしておきたいの」


 祖母は、優しくも真剣な声色で話し続ける。


「まずは、私達が暮らしているここ、セレノ村の仕来り(しきたり)について。

 10歳を迎えた子供は15歳までの間、スキルを身に着けて修行に取り組むのよ」


 10歳。つまり、魔力が身体に流れ始める年齢だ。

 僕のように、自分が学びたいと思うスキルを決め、習得している大人に教えてもらうようお願いをする。

 

 これといって特に学びたいスキルが無い子供も、15歳までの時間を使い、自身が興味を持てそうなスキルを探すのだ。

 そして……。


「15歳になったら、セレノ村を囲うカレメの森を抜けて、コルテーゼという街に向かうの。

 街で3年間暮らして、立派になったらまたこの村に戻ってくるのよ」


 この仕来り(しきたり)の目的は大きく2つだ。

 1つは、子供の成長のため。


 セレノ村で生まれた子供は、外の世界を知らない。

 村としては、子供にはいつまでも村に住み続けてほしいが、情報を遮断してまで囲いたいわけではない。

 それは大人の都合であって、子供の可能性を潰してしまう愚かなことだ。


 外の世界を知り、己を知る。

 それでも尚、セレノ村に戻って住み続けることを選んでくれるのならば、喜んで向かい入れるのだ。


 考えた末、子供自らの意思で外の世界で暮らすことを決めた場合には、無理強いすることなく背中を押してくれる。


 そして2つ目は、街との強固な関係性を構築して、村の発展に繋げること。


 セレノ村とコルテーゼの間には、ある契約がある。

 15歳になる子供が18歳になるまでの3年間、働き手として、安い給料で派遣する代わりに、無償で住居を提てもらうというものだ。


 15歳といえば、スキルの使い方にも慣れてきて、これから益々知識を吸収していこうとする言わば成長盛りの年齢。


 人手が不足している仕事を、格安の給料、かつ、素早い成長をもって街に貢献する。

 そして18歳になった後、村に戻ってきてもらい、街で得た知識を村に共有して、発展に貢献してもらうという仕組みだ。

 

 ちなみに15歳は、幼さも若干残っているためか、コルテーゼの人たちに可愛がられる年齢だったりする。

 村に戻った後も関係性が続き、後を追いかけるように、村に引っ越してきてくれる人もいるのだとか。


 もちろん、街での生活が忘れられず、村に戻ってからすぐに街へ引っ越してしまうケースも多いが。


「これからあなたには、魔物使いのスキルを教えるわ。

 その後で良いから、学んだスキルを活かして、街でどんなことが出来るかも考えてほしいの」


 スキルを学ぶことは、目的ではなく手段だ。

 学んだことを活かして、どうしていきたいかも考えなくてはいけない。


「分かった、約束するよ。

 教えてもらったスキルを使って、人に喜んでもらえるようなことを考えてみる!」


 そう答えると、祖母は笑顔でうなずいた。


「メルタならきっと出来るわ。それじゃあ、スキルを教えるわね。

 こういうのは、実戦が一番早いのよ」


 そう言うと、祖母は席を立った。


「カレメの森に行きましょうか。

 そこであなたにはスキルを使って、まずは一匹の魔物を使役してもらいます」


「分かった、いつでも行けるよ!」


 僕は席を立ち、ソフィの元に行って肩につかまらせた。

 その後、祖母を追って家を出た。


    ◇


 外に出て10分ほど歩くと、カレメの森の入口が見えてきた。

 そこから更に歩くと、川が見えてくる。


「さあ、ついたわよ。

 これからメルタには、あの子にスキルを使ってもらうわ」


 そう言って、祖母は川の近くにある木陰を指さす。

 そこにいたのは、一匹のスライムだ。


 全身がゼリー? のようなもので出来ていて、薄い青が混ざった色をしている。

 大きさは、子供の僕が両手で持ち上げられる程度だ。


「スライムは意思の無い、置き物みたいな魔物なの。

 攻撃はもちろん、スキルの抵抗もしてこないから、初めての相手にはもってこいなのよ」


 魔物使いは、初めてスキルを使う相手として、スライムを選ぶのが通例らしい。


「メルタ、さっそくスライムの近くに寄ってみて」


「うん! よ~し……!」


 僕は祖母に言われるがまま、スライムに近付いた。

 つつくと、ぷよぷよと手を押し返してくる何とも言えない手触りが結構好きだったりする。


「スライムに手を突き出して、目をつぶって」


 言われた通りに目をつぶると、祖母が僕の背中に手を当てた。


「『使役しえき伝授でんじゅ』」


 祖母が呟くと同時に、背中に触れる手を伝って暖かい感覚が流れ込んできた。

 体温のようでいてしかし違う、言い表しづらい暖かさ。


「あなたは今、私から魔力の流れを感じているはず。

 これと同じことを、目の前のスライムにもしてみるのよ」


 イメージをする。

 相手に触れるだけでなく、体温のように何かを注ぎ込む。

 何となくは分かるけど、イメージが固まらない。

 難しい、上手くやれるかな……


「不安にならない、集中して」


 祖母の言葉を聞いて、集中し直す。

 そうだ、やれるかじゃない、やるんだ。

 祖母に言われたイメージを描き続けると、ふと、自分の中で何かが変わった気がした。

 昨日までの自分には無かった感覚だ。


「そのままスライムに手で触れて、唱えなさい」


 目を開けて、スライムの身体に手を当てる。


「スキル、『魔物使役まものしえき』!」


 その瞬間、僕の魔力がスライムに流れ込んだ。


「――使役を承認します」


 頭の中で、機械的な声が響く。

 スキルが発動し、使役が完了したのだ。


 この日僕は、はじめての仲間を作った。


 名前:メルタ・ルース

 種族:人間

 スキル:

  魔物使役まものしえき

  ・魔物を使役したり、使役を解除したりすることができる。


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