蛇足-2
繰り返しとなりますが、本編の「検証」とは一切関係ありません。
こんなはずじゃなかったのに。汗が噴き出る、息が切れる。暗く静まり返った建物の中で足音が響く。
「違う、出来心で、ほんのちょっとの出来心。ちょっと興味があっただけで」
必死で叫ぶ、あえぎと混じってどこまで伝わっているか分からないが叫ぶ。叫ぶしか、ない。
「こういうのがあったって良いはず、感性は人それぞれのはずで」
「別にね」
男が、やって来る。
「俺は、全部否定する気はないのよ。こんな作品があっても良いと思うし、それを見て楽しむのは自由だと思う」
ただ、と声が低くなる。
「それが言えるのは”作品”の時だけだ。現実でやっちゃあいけない」
「げ、現実じゃ」
「現実だね。誰かが苦しんでいるのはあくまで事実だ。そんなものを作る奴も、見て楽しむ奴も、単なる悪党だ」
逃げなければいけないのに、足が上手く動かない。誰か、と助けを呼ぼうと思っていたはずなのに、気づけば口からは畜生、の声が漏れていた。
「恨むんだったら」
男が背後で手を上げたのが分かる。
「ロボット三原則を組み込まなかった先生方ぐらいだな」
「やれやれ、世界には困った奴が絶えないねえ」
『あなたがそれを言う?』
不機嫌、を通り越して不快感満載な顔を向けられた。やれやれ、と俺は肩をすくめる。
「もうちょっと愛想よくしてくれても良いじゃん。相方なんだし。あいや、倫理的にどうこうって言うのは、まあ、昔からよく言われることだけどさあ、なんというか、こう」
『そこじゃないわよ』
うんざり感満載だ。まったく、せっかく可愛くスタイルも良いのに。世の男ども全員振り向くに違いないその姿はまさに理想だ。性格さえ、良けりゃなあ。
『バグ起こしてるんだからさっさと診てもらえって言ってるのよ』
「三原則ないのは元からだし、ひょっとしたら他の奴らも……」
説得しようとすれば、前に出て立ちふさがってきやがった。ああ。
『そっちじゃないわよ。私が見えてるのはおかしいって言ってるのよ』
その話をされちゃ、こちらは肩をすくめるしかない。
『いるはずのない私、幻覚が見えてるのはどう考えてもおかしいでしょ。』
「バカ言え、見てもらえるかい。それこそさっきの件でもバグ、で直してもらえたら良いけど処分される可能性もあるんだぜ」
『感染したらどうするつもりよ』
「感染!?」
こいつとの話は行ってみりゃ周りには分からないんだから、基本バレないよう心掛けていたんだがつい大声を出してしまった。
「感染って。俺はアンドロイドだぜ。お前、ウイルス言っても生物のかかるウイルスとコンピューター壊すウイルスは違う訳で」
『私はあなたよ』
返ってきた言葉は、思ってたより冷たい調子だった。
『だからあなたの思ってること代弁してるわけだわ』
「つまり俺は想像力がとっても豊かだと?」
『相手をなめすぎよ。人類、まあアンドロイドやAIを含む形で言わせてもらうと、人類が知っているのはほんの一部分よ。世界がどれだけ広いと思っているの?いつ、機械を狙う”ウイルス”が生まれても何も不思議ではないわ』
「んなこと言ったってな、うん十億年に対してここ数年で……」
『あら、私はむしろ前からいたんじゃないかと思うわ。気づいてなかっただけで』
「お前、本当に俺か?」
『こっちこそ言いたいわ』
いないのだから、押しのけるのは簡単だ。
「まあ良いじゃねえか。本当に”ウイルス”ってんなら、誰かがワクチン作ってくれるの期待しようぜ。俺はスクラップ御免なんだよ」
見なくても、後ろであいつがやれやれしているのが分かる。
「それによ、あの変態どもよりはマシだろ?」
本来誰もいない空間に向かって、俺の声が響いた。




