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蛇足-1

蛇足です。本編の検証とは一切関係ありません。

「おお!夜永じゃん!分かる?オレ、福谷!クラスメートの!」

いきなり声をかけられ驚いて振り向けば、魔法使いの恰好をした幼女がいた。

「お前年齢も性別もそのまんまって真面目だなあ。せっかりの仮想世界なのに」

幼女の姿で、男子学生の姿で話しかけられても困る。それも福谷といえばクラスの中で特段ノリが良いタイプだ。一番会いたくないタイプだ。こんなことならもっと違う姿を設定すれば良かった。彼のように性別も年齢も変える勇気はないが、髪の毛の色を変えたりそれこそ人外を装うことだって出来たのに。

 大きくため息をついてしまったのもありこちらの思考が伝わったのか、福谷も少しばかり申し訳なさそうな顔をする。

「悪い悪い、何しろステータスに名前出てたからさ。お前の名前、ヤマダとかサトウに比べたら珍しいじゃん」

 確かになあ、と常に勝手に出ているステータスを眺めて思う。姿を変えてニックネーム設定をすることこそ出来る物の、こうして本名を常に出されてしまっては余り意味がない。せっかくの嘘世界なのにこれでは現実を引きずってしまう。

「偽名登録って出来るのかな。何しろ最初身分証明書とか言われたし」

 思いっきり現実と離れた彼がぼやいても説得力は無いが、彼なりに思う所はあるらしい。

「せっかくのファンタジー世界なんだしさ、やっぱりブレイドとか格好良い名前名乗りたいよな」

「そっちかい」

 思わず突っ込みが口に出ていた。

「ここは偽造かあ?何か言うじゃん、裏ルート。面倒くさい登録とかお金支払とかしなくても遊べるっていう」

「やめておいた方が良いと思いますよ」

 先ほどまで買い物の相手をしてくれていた武器屋の店員が、おそるおそるといった調子で話しかけてきた。その姿はファンタジー世界にあわせて等身大の木彫りの人形ではあるが、中身は人工知能、AIらしい。仮想世界で働いてくれているAIは多数いて夜永も普段から世話となっているが、正直言ってそこらの人間よりも優秀で礼儀もちゃんとしているので頭が下がる。

「やめといた方が良いって理由は?」

福谷が頭をかしげる。幼女の姿なら可愛いが、実際の容姿を知っていると微妙な気持ちになる。

「すいません、私も詳しい訳ではないのですが…ゲームのようにみせかけて、悪い事にまきこまれてしまうトラブルが起きているようなのです。その、世界が世界なので情報取得を目的として」

「ふーん、でもまずいことなったらログアウトすれば良いんじゃないの?」

言いながら福谷はステータスの所に表示されるボタンを指さす。ログアウトボタン。この世界からおさらばして、現実世界に戻すボタンだ。時間が来たら押さなければならないので正直普段は憎いボタンだが、トラブルの際おさらばできるという意味では心強い。逆に逃げられるパターンもあるので悩みどころではあるが。

「それが正規でないと、施設とかもちゃんとしてなくて、そういうボタンもないとか……。いえすいません、全部噂で確かな情報ではないのですが」

「うわーそれ本当だったら怖いな嫌だなー。うんこ沼入ってずっと出られないとか、うわあ」

 最初に出てくるのがそれかよ、と心の中でつっこむ。

「なんていうかさ、そういうの見分けるコツない?ない?」

平和な発想の福谷だったら基本的には変な事に巻き込まれる心配は少ないと思うのだが。

「すいません、ちょっとそこまでは……」

「なんか名前の特徴とかさ、こう、さあ」

 すいません、と深く頭を下げるAIにまだ駄々をこねるのを見て、ついげんこつをかます。何しろ姿が幼女で小さいので簡単に出来てしまう。

「あー!酷いぞお前―!非道!外道!鬼!餓鬼!枯れ欅!」

 餓鬼はお前だ、というか枯れ欅はお前だ、と内心つっこみながらふと思い出す。このところ、ニックネーム被りを良く見かけるようになった気がする。もし福谷の言うように何かがあったとすれば……。

 いやバカな、心の中で首をふる。

 こっちの考えを全く気にせずに、福谷がまた口を開く。

「そういやさ、俺達はこうして現実からこういうファンタジーやら大昔やら未来世界やら遊びに来れるけど、AIの皆どうなの?やっぱり出られないの?」

 それは夜永も前から気になっていた。てっきり出られないと思っていたのだが、話してみるとAIは皆博識で流行などもしっかり把握、知識ならともかく感想でも盛り上がる事がある。

「それがね、出来るんですよ」

目鼻のないはずの木彫りの人形に笑顔が浮かぶのが分かった。

「アンドロイド、人型ロボットをお借りして時折外に遊びに行けるんです。色々経験した方が皆さまのお役に立てるというのはあるのでしょうが、スタッフの皆様方に感謝ですね」

 へーそうなのーと最初は笑顔の福谷だったが、ふいに顔をしかめる。

「つ、つまり普段の俺見られてるかもしれないのか。まあ姿違うし向こうでは名前出たりしないから大丈夫……だよな?」

 思いっきりこっちを見てきたが、一言で返しといた。

「知らん」

夜永冷たいー!と駄々っ子のように、というか駄々っ子をする姿を見てまた溜息が出た。こいつ精神年齢何歳だ。

仮想世界のお日様が、現実と同じように心広くAIも中身が男な幼女も照らしている。


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