92話 雪だるまの魔物
ベルトア帝国付近にある、スキー場へやってきた。そこは人で溢れかえっており、詩学なはずなのに、雪が積もっている。季節感覚が狂いそうになるかと、思ってしまった。
(うわ、すげぇ)
俺の横に立っている、イネスさんとリナさんは子供のように目を煌びやかせていた。もうそれは、はしゃぎたい寸前ぐらいまで。
でも確かに、こんな雪の光景を見ると、子供のようにウキウキとする感覚は、なんとなく分かる。学院長からの連絡が返ってくるまで、正直言って暇だ。平和であることはいい事であるが、なんとなく、不燃焼感が半端ない。
「よし、遊ぶか」
「「賛成!!」」
俺がそう言った後、二人はそう言った。ハイテンションでしかも、すぐ隣という位置にいた為、耳がキーンとなる。
咄嗟に耳を押さえ、スキーで必要な小道具とかで雪道を下って行った。
(王女様も大変なのかな……)
と、そんな二人のはしゃぐ姿を見て、多少哀れみに思ってしまうのは、重症な気がする。王女という立場を忘れているのか、覚えているのかの瀬戸際に近い。
(っていうか、庶民なはずなのに…)
ついつい自分の立場を忘れてしまう。
それはきっと壁がないからだ。そうに違いない。
と、そんな上下関係を打ち消すように、自分に言い聞かせる。
(それにしても、楽しそうだねぇ。俺もやるか)
足につけているスキー板と、漕ぐやつ?のストックという道具を使い、斜面を下った。バランスを取るのは難しかったが、案外楽しめた。
それはもう、波瀾万丈で。転ぶわ、怪我するわ、頭うつわで大変だった。
あれ、スキー場ってそんな感じだっけ?と、錯覚し始めそうだ。
そう思いながら、休憩していると、雪だるまが動き始める。あれも魔法の一種なのかなと思ったが、
「違う…。あれは………魔物!?」
「うそ、大変!」
雪だるまは複数増え、中にはおそらく、何者かが魔力を注いでいるのか、巨大化となる。
それは俺たちを覆い隠すほどの、そんな巨大化とし、雪だるまはスキー場を襲う。
「ぐっ、これじゃあまずい………」
まずいと思った理由。確かに、魔法使いがこの国にもいることは、確かに分かる。だが、この国の人たちは魔法を使っている場面を、一回も見たことがない。それは何故だ?理由が分かれば、苦労はしないだろう。
雪だるまの攻撃は、雪崩やら石みたいに硬い雪を投げつけてくること。それは、当たりどころが悪ければ、重症にまで陥ってしまう。
スキーをしていた人たちは、なんとか避難してくれたが、この状況をどうすればいいか。が、問題である。俺は大魔導師と呼ばれている。だが、その力は大魔導師と呼ばれていた頃よりも、衰えてしまっているのだ。
魔法の力も同い年に比べると、高い方ではあるが、大魔導師と呼ばれていた頃とは、全然魔力量が足りない。
(数が多いすぎる…。ざっと視認できるのは、せいぜい15程度。それならまだいけると思うが、人為的で雪だるまが大きくなっているのであれば、即座にやめさせなければならない。
これ以上、巨大な雪だるまを増やしてはいけない。そうなってしまえば———)
最悪な事を思い浮かんでしまった。だけど、そうなる可能性が高い。それを避けなければならない。
(早くしないと……)
「イネスさん、リナさん。やろう」
「「うん」」
二人は真剣な顔で頷く。流石にこの状況を見捨てていくわけには、行かない。という信念らしきものが、二人の目からは溢れていた。
三人で戦うなら、十分な相手だろう。だけど、これで終わりじゃない気がしてならない。俺のつけている炎の晶石は、光を放っていない。まるで、無反応だ。
(………………まだ、終わらなさそうだな)
そう考える。後先の事を考えるのは、どうしても得意。その分、嫌な予感を感じてしまう。それが的中するか否やは知らない。
だが、それよりも、だ。何故、誰かに見られているという、胸騒ぎがするのだろうか。もしかして、誰かが仕組んだ、人為的なものなのか?
そう思うしかなかった。だが、考えている暇はない。今は、目の前の敵と戦わないといけない。
俺たちは戦闘態勢に移行し、俺は杖を召喚する。木で頑丈となっており、その上部分の先端には、魔石が仕組みこまれている。
愛用の杖…というわけだ。
雪だるま達の見た目は、可愛らしいものだが、攻撃の手数が何より怖いものだ。
ビュン!
と、石のように硬い雪を投げ、
バジャー!
みたいな雪崩が降ってくる。
「………チッ、『電撃』!!」
俺はそう言い、詠唱を取り消す。慌ただしいこの場面では、詠唱を言う時間はないもの。
バレないようにしなくちゃ…なんて、言ってられない。
電撃が雪をたどり、投げられた雪という名の投石を打ち消す。
ビリビリッ!
と、電撃の道標がなる。
「すごい…。詠唱無しだなんて…」
「お姉様、それよりも…」
「え、えぇ。そうね」
イネスさんとリナさんが話し込んでいるのが分かる。なにやら、何かをする模様だった。
「アルベール!油断しちゃダメよ!」
「…りょ、了解!」
突然のことで、混乱するも、返事はしておいた。イネスさんからそう言われた後、イネスさんとリナさんは、二手に分かれ、近くにいる巨大な雪だるまを囲むような、体制となるわ
「『我の元へ来たれし、精霊。炎精霊!!』」
「『我の元へ来たれし、精霊。風精霊!!』」
二人が一斉に言うと、蜥蜴の形をして、全身が炎で纏われている、炎精霊のサラマンダーと、風精霊のシルフ。エルフのように、とんがった耳で人間より長い。
炎を纏い、それで攻撃する蜥蜴と、風で蜥蜴の火の攻撃を飛ばす風精霊。
巨大な雪だるまは、その白い体に火の粉がつき、ぼうっと燃えたぎる。
「す、すごっ」
俺はその光景を見たまま、その光景に圧倒されていた。
そんな事やったことないぞ…
と、思いながら、現代の魔法の凄さを改めて認識した。
あれは、精霊魔法か?それとも召喚魔法?だが、術式そのものが違うと言うことは、固有魔法の一種か?
そんな言葉が脳裏にズラァーっと、並ぶ。
「あ、やば」
そんな光景に目を奪われていた俺は、周りが見えていなかった。今、俺の目の前にいる敵が、右手を振り下ろそうとしている場面が、目に映る。
「フッ!『炎槍!!』」
目の前にいる雪だるまの攻撃を、回避する為、地面を蹴り、大きく飛ぶ。
完全に隙が出来た雪だるまに対し、杖で魔法陣を展開させ、そこから炎の槍が召喚される。
勢いを増し、敵に突っ込んでいく炎槍は巨大化した雪だるまに、当たりぼうぼうと燃えていた。
マジ危な…と心底焦っていた。と言うより、今も心臓がバクバクなっている。情けない。
「ふぅ…。ん?」
どうやら巨大化となった雪だるまは、二体倒せていた。あとは、雪だるまの通常サイズ?の敵が後13。そこまで強い魔法を放たなくても平気な、雑魚敵だが、投石がうざったい程だ。厄介な相手………と言うわけ。
「くそ、どうする…」
「広範囲魔法とかは?魔法陣展開………とか」
「それもあるが………」
「何か問題が?」
まぁ、そうだ。問題が一つだけある。バラバラに分かれている雪だるまを一斉に倒すなら、スキー場と同じくらいの魔法陣を展開しなければならない。だが、そこはいい。
投石をどうにかしなければならないのだ。投石を。
(最大限の魔法を放つには、詠唱を一言一句間違えてはいけない。そのためには、集中力が催される。その間に二人に時間稼ぎを…と思ったが、魔法を放つ前に二人が倒してしまいそうだ…。そうなれば、やる事は無駄になる………。どうする…)
そこが最大限の問題だ———。




