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88話 ラングニック家

俺たちを家の中に案内してくれたのは、村の村長の息子さんらしい。名前はデール・ラングニックと言うらしい。

その人の家に案内してもらった時、二人の老人が座っていた。


デールさんが「父さん、母さん。お客さんだよ」と言っている為、きっとこの人の両親なんだろうと思った。


…ん?気にしてはいけないんだろうが、気になってしまった。デールさんは見る限り、二十歳はたち前後。デールさんの両親は、穏やかなそうなお爺ちゃんお婆ちゃんだった。


本来は聞かない方がいいんだろうが、俺はこっそりデールさんに聞いてしまった。


「あの、こんなこと聞いてすみません。あの二人は……」


「あぁ、あの二人は元々俺の祖父母なんです。ですが、俺には両親がいないので、両親の代わりにそう言ってるんですよ。と言っても、それを知ったのは五歳になった時ですけどね」


と、苦い笑みを浮かべながら、そう告げた。


ホントにすみません。と、反省するばかり。それを他人である俺に伝えてくれて、本当にごめんなさい。と言う気持ちで一杯だった。


「さぁ、どうぞどうぞ。寒かったでしょう?」

「いえいえ、お構いなく」

「ご飯を用意するから、どうぞ座っておくれ」


と、親切丁寧にしてくれるその二人を見て、とても優しいお方なんだなと、思った。

それに、デールさんを見て、温和な人だと感じた時、それはきっと、二人の背中を見てきたからなのかなと、感じ取ってしまう。


「あぁ、いいよいいよ。僕がやっておくから。皆さんもどうぞ、座ってください」


慌ててお爺さんの方へ向かい、食事の用意をしてくれている。

みんなはお言葉に甘え、椅子の上に腰をかけた。机には花瓶があり、その中に待雪草スノードロップの花が置かれていた。


「さぁ、あなたもどうぞどうぞ」

「あ、すみません。ありがとうございます」


俺は、お婆さんにお礼を言い、余っている椅子の上に腰をかける。用意されたのは、温かなコーンスープで、上には細かく切られたセロリが振られている。

コーンスープから見える、食材ではにんじん、ほうれん草、長ネギ、白菜が入っていた。



話を聞く限り、このメニューはこの辺地域の郷土料理らしい。


『いただきまーす!』


手を合わせ、木で出来たスプーンを片手に持つ。美味しそうな湯気がコーンスープから立ち、とても美味しそうな匂いがする。


スプーンで掬い、黄色なコーンスープを口に運ぶ。口の中には牛乳の濃厚さが一杯に広がり、絶品だった。


「おいしい!めちゃくちゃ美味しいですよ!」


そう感想を述べると、次々と味わった感想が飛びまう。

それでもどれもほとんど同じだ。






ーーーーーーー



ラングニックさんの家でお世話になり、俺たちは一晩止めさせてもらった。その間、馬は手綱を木に括り付け、寝る前に毛皮を洗う。


「………よし、これでオッケー!じゃ、おやすみ。またよろしくな」


そう言い、馬の元から去る。ラングニックさんの家に入る途中、何かの物音を感じた。


(……何だ?魔物か?)


そう警戒するも、呻き声も聞こえなければ、炎の晶石は光っていない。その為、誰かが起きているのか。と、感じ取る。すると、現れたのはデールさんだった。


「で、デールさん…」

「起きていたんですか?」

「手入れをしていたので…。それより、デールさんはなぜこんな時間に?」


こんな時間に、と言うのも今の時間帯は夜中だ。その為、外に人が出ていると言うのは、確かに不思議に思うのも仕方がない。


その為、デールさんに聞く。


「どうかしたんですか?こんな夜中に」

「あぁ、実は日課なんです。寝静まった時に、鍛錬するのが日課で。ここあたりはあまり魔物は出ませんけど、もしものために、と思いまして」


デールさんからそう言われ、腑に落ちる。だが、夜中になると更に寒い。と言っても、温度は−10度ではある。ここ辺りで冬の季節ならまだ暖かいらしい。


「なるほど。なら、自分もいいですか?」

「……と、言いますと?」

「実は自分、あまり剣術とかは嗜んだことはないんです」


デールさんの両手に持っている、木刀を見てそう思った。それに肌から浮き出ている汗。さっきまで鍛錬していたことが、明白に分かった。


「いいですよ。では、始めましょうか」

「あ、ここでですか?!」


いきなりの始まりに、焦ってしまう。手ぶら…では無いが、馬用のブラシを持っているのみ。その為、武器なんて持って居ないのだ。その時にデールさんから右手に持って居た木刀を投げられ、俺はそれを慌ててキャッチした。


つまりは、これを使え。と言うこと。


「………やりましょうか。どうぞ、かかってきてください!」


真剣そうな顔で、鋭い目つきで、俺の方を見る。だが、口元は緩んでいた。口角を上げ、不敵な笑みを浮かべている。


よし、やろう。


そう思うのは時間がかからない。木刀を両手にしっかりと握り、地面を踏む。デールさんとの距離を近づけさせ、木刀を思いっきり下から振るのだ。


「…!甘いですよ!」


攻撃を跳ね返され、デールさんの木刀は俺の横側からくる。それを回避する為、一旦しゃがみ、そこから後方に飛ぶ。

今の技量でクロードと相手しているかと、錯覚してしまった。そう思うほど、デールさんの剣腕はクロードと同じであると言うこと。素人の俺からも分かる。


確実に負けてしまう!と言うことを。


「ぐっ!くっ…!」

「さぁ、まだですよ!」


圧倒的に押されていた。技量はやはり上だ。肌から滲み出る汗と、靴を履いていたとしても、靴の上からわかる雪の冷たさ。それらが伝わってくる。


息を吐くたびに白い靄が現れ、吐息をする度だ。息白し。とは、こう言うことを指すだろう。

だが、何故だろう。体は火照っている。つまりは、運動をしているせいか、体が温まってきているのだ。


「あ、やばっ!」


あまりにも考えごとに集中していた為、持っていた木刀を跳ね返されてしまう。その衝動でつい尻餅をついてしまった。


「大丈夫ですか?ですが、アルベールさんの腕もまぁまぁですよ」


励ましてくれているのか、デールさんはそう言ってくれる。俺にしてみれば、励ましにもなっていないが…。


差し出された手を取り、体を起こす。体を起こすと、地面には俺の尻の形となっていた。


だが、これで改めてわかる。俺は、魔法だけの大魔導師だと言うことを。


(俺って、魔法以外はホントに才能ないのかも……)


少しがっかりとしてしまったが、大丈夫と自分を励ます。なぜなら、才能が開花される。と言うことがあるからだ。


木刀を地面に置いた後、俺たちはラングニックさん家の扉付近に椅子のようなものが設置されていた。そこに腰をかけた俺たちは、そのまま話し込む。


レーイルダはどんな感じ…?とか、

どんなものがあるの…?とか、

好きな人いるの…?とか。


「あの、デールさん?最後の質問はないと思いますが……」


「え?そうですか?気になりません?」

「いえいえ。それなら、デールさんはどうなんですか?好きな人は」


と、冗談で聞いたつもりだったが、デールさんは歯切りが悪そうに答える。


「……いますよ?好きな人ぐらい」

「え、マジですか」


そんな事をほぼ初対面である俺に言っていいのかと、そもそも初対面である俺にそんな恋バナ的な話をしますか!?って言う感情が芽生えるも、今はどうだっていい。


あれ、不思議だ。なぜかそう言う話題はとても気になる。


ついつい気になる話題に、俺は聞き耳立てた。


「その人ってどんな人なんですか?」


次に開くデールさんの一言で、俺はなぜか胸が高鳴り出す。

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