86話 白銀の世界
そして翌日となる。再び馬車を発車させ、白銀の世界を馬車が走る。俺は今日も御者席に乗った。
御者席と言うのは、馬車を運転する場所のことを指す。と言っても、俺も最近知ったのだ。
(また雪降ってんなぁ)
手綱を引きながら、そう思った。俺は右手を手綱から離し、前に差し出す。手のひらに雪が乗り、きっと目では分からない雪の結晶というのが、あるのだろう。
再び右手を手綱の方へやり、馬車を走らせる。後ろからはみんなの声が聞こえてくる。聞き覚えのある声が。
昨日のことを思い出してしまった。なぜだ。そう考えただけで、胸が締め付けられる。
(俺は庶民で、大魔導師じゃない。この魔法があるから、俺は学院に入学できた。特待生として。奨学金を借りて。もし、それがなかったら、きっとみんなと出会えてないだろう)
大魔導師だった頃とは、随分と変わったことが目に見える。文明が発達して、古代文明は廃れたり。だけどそれでも、レーイルダ帝国は技術を発達させ、今となってはあんなに広大な国となった。
それは創設者からしたら、喜ばしい事だ。だけど、技術が発達したと言う事は、昔の技術はおそらく、利用されていない。古代文明のものだとか、それは今となっては化石のようなもの。
海の神殿を見て、そう思った。海の神殿は元々、影族が住んでいた場所。影族も元々は古代人だ。古代人だとしても、現代の人からは忘れ去られている。もし、認識されるのだとしたら、その骨が見つかったらだろう。
そう思うほど、時代と共に技術が進歩していっていると言う事。それは喜んでいいものか。迷う所はある。
(考えても仕方ないって……。あー、くそ。だめだ)
そう思いながら、項垂れてしまった。そのせいか、クロードから心配される。もちろん、平気な顔で「大丈夫、大丈夫」と答える。
(ひとまず俺は、今や現代人だ。大魔導師の力が抑えられたとしても、俺は俺。それに変わりはない)
二十歳と言う若さで、大魔導師は死んだ。そして、1万年後の世界に庶民として生まれ変わった。それだけでも、おかしな話だ。
だけど、見方を変えれば、俺はみんなに会うために生まれてきたんじゃないかって、思う事だってある。
(今は十六歳。大魔導師が死んだ時の年齢では、あと四年。それまで、何が起こるか。予想できないだろうなぁ)
あと四年後。世界がどうなってるのかなんて、分からない。俺が二十歳になった時、世界はどうなるのか?それを知ることができるのは、今の現状をどうにかするのが、先決。
魔獣騒動を鎮静させる。それが俺のやるべき事の一つだ。
(なんて、似合わない言葉言ってるんだろうなぁ…)
自分が恥ずかしく思えてくる。穴があったら入りたい。
(…ん?あれは)
白銀の世界を走っている影があった。吹雪は降っていなかったため、目視で確認できる距離にいたのだ。
「あ、狼じゃん」
「しかも害がない方の」
狼では害を加える種類と、加えない種類がある。白い狼は害を加えない狼の種類だが、人間に近づこうとは思わない。
(白い狼って初めて見たなぁ。この辺地域にならいるのか?)
その狼を見ながら、そう思った。素早い動きで雪の積もっている地面に、華麗に走り去っていた。
ーーーーーーー
時間は経ち、夜となる。山が近いところで馬車を止め、いつもの支度を始める。今回は体が温まるオニオンスープと、チーズ入りのパンだ。
焚き火を焚いたところで、そんな食材を口に入れる。オニオンスープを飲むと、芯から温まるような感覚を感じ、チーズ入りのパンは、チーズが伸び伸びで美味だった。
(毎回思うけど、みんな食事作るの上手くない!?これが現代人か…)
俺も手伝ったりはしているが、みんなが作るご飯は毎回美味しい。差を見せつけられたような感じがした。
(俺もご飯作るの上手くなろう……)
と、我ながらに思う。なぜなら、俺の作る料理は、料理とは言えない。魔法の研究をするような感覚で、調合するも、高い確率で失敗するのだ。
「ま、アルベールが作った料理は絶望的だからな」
なんて笑い話だ。とは思いつつも、それは自覚している。
「そんなこと言われなくたって、自覚してるよ」
「そうしてくれるとありがたいけどね」
談笑しながら、俺たちは夕ご飯を食べる。ほんと、みんなには感謝しかない。と、常日頃思っていた。
ーーーーーーー
ご飯を食べたあと、俺たちライアンを除くメンバーは、キャリッジの方に乗り、睡眠を取る。各自の防寒着を毛布がわりにし、できる限りぬくぬくした状態で眠っていた。
ーーーライアン視点ーーーー
「うぅ〜、寒い」
皆が寝たあと、俺は焚き火の前で見張りをする。ここあたりは魔物の報告がない場所ではあるものの、油断はできない。
父様から手紙をもらった時、魔物が出現した報告書を、一通り送ってもらった。その為、魔物が現れる場所を避けるように、みんなにもそれを報告した。
(父様が許してくれたことが、本当に助かった……)
元々俺は、ダールベルクの長男坊。その為、領主でもある父様の後継対象でもあった。俺は弟妹が存在するが、年はかなり離れている。
俺は十六歳、弟は十歳、妹は八歳だ。その為、弟は後継対象では無いものの、俺にもしものことがあれば、弟がそうなる。
(はぁ…最近全然会ってないなぁ。いや、一年以上だな)
弟妹を恋しく思いながら、俺は寒さに震えていた。それよりも、だ。俺は後継対象。その為、こう言う勝手な行動は控えるように、幼少の頃から教えられていた。だが、まさか学校を放棄してでも、友人についていくことを許してくれた事は、本当にびっくりしてしまう。
(父様が何を考えているのか、全く分からないのは、今に始まったことじゃない)
昔から、父様の考えていることは、正直家族である俺たちにも全然分からない。
それは母様もそうらしい。母様と父様は許嫁の関係であったが、あまり接点がなかったと言っていた。その為、なぜ母様が父様と結婚したのかが、あまり分からない。威厳がありつつ、民の人たちからは、信頼が厚い。
俺はそんな、家族のことを思い出した。
威厳のある父。
穏やかな母。
子供らしくない弟。
落ち着きのある妹。
それでも、みんなとは血の繋がりがある。俺の体内にある血は、ダールベルクの人間と繋がっている。死ぬまでこの関係は続くことだろう。
それが【家族】
(って、何言ってんだろうな。ささ、怪しいものがいないか、見ないとな)
俺はそんな静寂した白銀の世界に、意識を研ぎ澄ました。




