85話 必然か、偶然か
翌日。俺たちは馬車を動かす。馬車が走り、それで発生した風は見事に俺の顔に当たり、冷たい風が当たる。
出かけたのは大体四時位。まだ当たりは暗く、日も出ていない状態だった。
「ふわぁ〜…」
それより眠い。なぜ前日の日に俺が見張りをするとか言ったんだと、今更ながらに馬鹿だと感じる。それよりも、まだ早朝のような時間なため、ほとんどが目を擦ったり、半分寝ていたりの状態だ。
いやほんと、誰か交代してほしい。
そう思いながらも、馬車を走らせ、鈍い体で何とか馬車を発車させている。
そうこうしていると一時間が経過していた。地平線の方から太陽が顔を出し、それと同時に雪が降る。日の光に反射され、雪が光っていた。
「お、ダイヤモンドダストか。朝からいいの見れたな」
本を読んでいたディランはそう言った。確かに、レーイルダ帝国ではそんな光景は滅多に見られず、環境自体違うため、ダイヤモンドダストなんてなかなか見られないもの。
雪が降ったとしても、早朝にはおそらく外には出ないだろう。寒い中。
「てか、まだ寝てるの?」
「そう見たいだな。アルベール、交代するか?」
本を読み終えたのか、ディランがそう言ってくる。最初の印象から全く変わってきているが、流石に一年も行動すれば、だいたい変わってくるもんだろう。
それに俺はこの時、ディランが神様のように見えたのだ。
「後で肩揉むよ」
「いや、いいよ」
断られたが、引くわけにはいかない。なぜなら、今俺の瞼はゆっくりと落ちかけそうとなっている。
一旦馬車を止め、ディランと交代した。俺は馬車の荷物とかがある所へ乗り、布で覆われた馬車の壁に背中を寄せ、今にも「寝ろ」と言われたら、寝れる状態にまでなっていた。つまりは、準備万端だ。
だが、そんなのは気にしてられないため、早速眠る。
今日もいい夢が見れますように。と、願いながら。
そして次に目が覚めた時、その時はもう既に昼だ。
「あ、やっと起きたの?寝坊助さん」
「えぇ、俺そんなこと言われるの?」
確かに俺が見張りするとか言ったせいだけど!!なんて思いながらも反論する事はできない。
「まぁ、自分からやりたいって言ったからね」
なんてニヤニヤした顔の、イネスさんにそう言われ、ぐうの音も出ないのは事実だ。明白な。
「だから何も言ってないだろう〜」
誤魔化しながら、昼食兼朝食を食べる。もうお腹の虫の音も鳴っており、早く食事を摂取したいと言っているようだった。
今日の昼食は、パンにコーンスープに、サラダだった。パンなどは買っておいたり、持ってきた小麦粉とか、材料が揃っていたら作れる。コーンスープに関しては、あれ?どうやって作ってるんだっけ?
(まぁ、ちょいちょいっとやってるんでしょう)
どうやって作っているのか、知らない俺は動物達に感謝し、作ってくれた人に感謝し、食事を口に運ぶ。
パンのもちもち感と、スープの濃厚さ、そしてサラダのシャキシャキ感がなんともベストマッチしていた。
(おにぎりに味噌汁、ウィンナーに卵焼きと言った東洋風の最強朝飯)
と、なぜかそんな事が頭に思い浮かぶ。不思議とはこう言う事だろう。
「そういえばさ、ここら辺白銀のような世界だからさ、ダイヤモンドダストとかあるんじゃないか?」
「あぁ、確かに。帝国じゃそもそも起きないしね」
「ま、俺たちは今日見たからいいけど。な?アルベール」
「え!?そだね〜」
ディランから相槌を打たれ、多少戸惑うもみんなから視線を逸らす。その理由としては昨日の夜に遡るのだ。
ーーーー
昨日の夜、みんなが寝る前の出来事。
『そういやさ、この地域に来てから、だいぶ経つけどダイヤモンドダスト見た事ないよな?』
『確かに。一回見てみたいよね』
『ならさ!アルベールが見張りだから、ちょうどその時間になったら、起こしてもらわない!?』
『え、?ちょっと待って!?』
『じゃ、おやすみー』
ーーーー
と言うのが起こった。その時は頭が働かず、その事はすっかり頭からこぼれ落ちていただなんて、口が裂けても言えない。
「起こしてって言ったのに……」
「ごめんって……」
それより俺は、ディランの方を見る。なぜなら、それを知っていたディランはまさに俺を嵌めた。と、考えすぎだと感じるが、そう思うのも何となくだった。
(ともかく、あと一ヶ月。頑張らないとだなぁ)
距離は確実に詰めてきているはずだ。そのため、どんどん進み、北の国へたどり着けば、何とかなるだろうと正直思っていた。
昼の雪の地域は気温は少しは上がる。だが、防寒着を着ないと全然寒いため、なかなか暖まらない。
(そういや、今更だけど。みんな、貴族なんだよな……)
みんなの顔見ながら、そう思った。
その中の二人は王女という立場だ。今までは普段通りに接していたが、俺以外は全員貴族。それを忘れちゃいけない。どの時代でも上下関係はしっかり保たないといけないのだろう。それは、社会で生きていくために必要な事だと、俺は思う。
ふとした事を思ってしまう。それは、嫌なことが脳裏を掠める。
それは、
———俺が、学院に入学していなかった時のことだ。
俺自身、大魔導師呼ばれていた。だが、それは前世のことで、今世では何の才能もなく、魔法の才能もなく、貴族でもなく、ただの平民だとしたら、俺はきっと学院に入学できていない。そうなってしまえば、この場にいるみんなとは、友達となっていないし、今まで出会ってきた人たちとは、無縁の状態だ。
今更ながらに考え出す。【もしもの現実】
俺がもし、大魔導師ではなく、普通の少年で、普通の家庭で、普通の人生を歩んでいるのなら、俺はきっとこの場にいない。
(当たり前だと思っていた現実が、ひょんなことで変わっていたりする……。それって結構、寂しいものなんだな……)
そんな事を思ってしまう。だが、俺は今この場にいる。それは分かっていた。だけど、だけどどうしても考えてしまう。
(…………必然な出会いって……本当にあるのかな)
今の俺は、悲観的になっている。運命を変える事はできない。今までの出会いが必然ではなく、ただの偶然なのだとしたら、今この場にいるみんなと友達になれているのは、きっと確率は低い。俺が、別の種族で、別の国出身なら、尚更だ。
(それでも、この現状は変わらないのかな。魔獣騒動、犠牲になっていく人々の命運。それが変わる事は………決してないのかな)
だめだ。悲観的になってきている。そんなのではダメだ。きちんと分かっているはず。なのに、どうしても考えてしまう。それは、俺の育ちとみんなの育ちが確実に違う。
エイダンはリータ伯爵の息子。リータ伯爵は帝国の経済部分についており、何やら陛下から多大な信頼を置かれているとか。
ライアンはダールベルク伯爵の息子だ。土地が大いにあるダールベルクは領主としての地位も持っており、その場の民からの信頼を厚い。
クロードはアヴェリーノ侯爵家の人間だ。剣の腕は帝国騎士団内では上位とも言え、剣豪の称号を得ている。とても同い年とは思えない。
ディランもアヴェリーノ侯爵家の人間だ。地理が得意であり、それに大人な雰囲気を纏っている少年だ。同じ相部屋の人物とは、信じ難い。
イネスさんはユスフリカ王国の第一王女。だが、王女でも話しやすく、可憐だ。やはり、王族の血を引き継いでいるだけあるのだと、感じた。
リナさんもそうだ。ユスフリカ王国の第二王女。イネスさんとは反対であるものの、双子揃って仲がいい二人は、常に共に行動する。それをよく見かけるのだ。
それを今改めて実感する。貴族の人たちに囲まれている生活。それは、きっとみんなだから気にしなくて済むのだ。これが他人ならば、きっとそれ以上に気を使うだろう。
(って、何言ってんだ。俺は学院の在校生だぞ?あそこだって貴族が通う学院じゃないか。だから、平気。そう、平気だ)
考えている方向は、徐々に悪い方向へと進んでいった。
(はぁ…。きっといつしか、この時間は続かないんだろうな)
もうやめた。俺はそう思った。これ以上考えても、良いことにならないのは分かっているからだ。
(今はこの瞬間を楽しむ。それだけでいいだろう。俺は、この瞬間が…。いつか、別れが来る。それは、経験したことがあるだろ。俺は、いや違う。人間は、生命はいつか死ぬんだ。そう、俺も経験しただろ。病で死んで、マーティナを………置いていって…………)
そんな時、ふと頭をよぎる。それは、マーティナの声だ。
『アーベル……アーベル!置いていかないでよ……!私はいやだよ……。死んじゃ嫌だよ!』
久々に聴くその声に、どことなく懐かしかった。
『うん、分かった。なら、また会おう』
『あぁ、また会おうな』
また会う———再会の言葉。
(きっと会えるだろ。だって、俺がこうして未来で、生まれ変わったんだ。だからきっと、マーティナだってどこかで、誰かとして生きているだろ。だから大丈夫)
俺は再び、みんなの方を見た。楽しく話していたみんなの表情を見て、俺はやっぱり今が楽しい。
それだけで十分だと。だから俺は、今この場にいる。必然だろうと、偶然だろうと、そんなの知ったこっちゃない。今があれば、それでいい。
そう、それでいいんだ———。




