83話 海の神殿 崩壊
二手に分かれ、それぞれを対処することに決めた。アルベールはサルヴァトーレと共に。イネスはジュリオと共に。
そしてアルベール、サルヴァトーレは黒虎を相手にする。
イネスとジュリオは黒いシルエットの人物を相手にしていた。
それぞれのサポートがついている、アルベールやイネスと共に、一緒に戦っている二人。
焦っている表情をしているが、何とか持ち堪えている様子だ。アルベールは銃で残りの魔力を注ぎ込み、また巨大化とする銃を継続的に打ち始める。それを援護するかのように、サルヴァトーレは魔法を放った。
「………これで何とか行けそうな気がしてくるが」
「あぁ、だが、魔力は……」
黒虎は思いの外体は強固だ。その為、魔力がどんどん失われていく。それは致命的な問題となる。だが、ちんたらとやっているのも、時間が消費され、神殿がいつ崩壊するかも分からない。
苦戦を強いられたアルベールは、もう埒があかないと思い、サルヴァトーレに相談する。それは、弾丸を打って良いか。だった。
「銃を打つのか?」
「あぁ、俺の体内にある魔力を注ぎ込んだ。だいぶ強い威力が発射されるはずだ。その為には、力を貸して欲しい。頼む…!」
「あ、あぁ。分かった」
すんなり了承を得てくれたサルヴァトーレに、お礼を言い、黒虎から距離を離す。何をするか…。それは二人にしか分からないことである。
銃を持ったサルヴァトーレは、自身の魔力を銃に注ぎ込み、二人の魔力が加わった銃は更に威力が増すようになる。
その光景を見たイネスとジュリオは、何をするのか、想像がついたのだろう。二人が戦っている相手の黒いシルエットを、黒虎の方へと近づけさせ、それを見た二人は、詠唱を言う。
「『我は神聖なものの民。神からの賜物が降り注ぎ———』」
「『———それはいつしか、民へと送り込まれた安寧の施し』」
「『聖は聖へと運び込まれる、生命の施し。我の元へと来れし命』」
「『我を持って修復せよ。時の旅人よ』」
「「『『時の旅人』』!!」」
大きくなった銃から魔法陣の展開と、放たれる一筋の大きな光。それは黒い虎と黒いシルエットを、大きく包み込む。それは赤子が母親に抱かれるような、そんな温かな温もり。大きく彼らを包み込んだ光は、次第にどこかへ消えていく。きっと、彼らの夢の中だろう。
一瞬で消え去り、さっきの事が嘘のようにガランとしていた。何とかなった現状を喜ばしく思うが、アルベール達にそんな休暇は訪れない。今にも、神殿の中は崩れ去りそうな、そんな胸騒ぎがするほど、嫌な予感がずっと感じていたのだ。
「ま、まずい…!早く逃げないと……」
そう慌てて、最初に入ってきた入り口の方まで走っていく、アルベール達。
更に疲労や気力が増えたが、なんとかして海の中から脱出する事を試みる。
入り口にたどり着いたアルベール達は、来る時と同じように水の中に膜を作り、そこから地上へと行こうと考える。すぐそこまで神殿の崩壊は始まっているのだから。
(それにしても、あんなに崩壊するほど老朽化が進んでいたのに……。どうして………)
そう疑問に思うが、もう過ぎてしまった。そしてアルベールはふとサルヴァトーレの方を見る。サルヴァトーレの体は、まだ灰色ではあるが、徐々に黒が落ちていっていた。見つけたときは、真っ黒になっていたはずなのに、徐々に灰色っぽい色となる。つまり、負の感情が無くなってきた。と言うべきだろうか。
それはとても喜ばしいことの一つであると、アルベールは感じている。
(なんか、今までの旅と比べて魔物の数とかはあんま無かったな。あったとすれば人間?との戦いだったし)
と、今までの出来事と今日のことを思い出す。そう考えると、今までとは全然違った敵だった。
オーラドピア共和国に行くと、アルベール達は見知った顔達に手を振る。
「ハァ…、こんな所に居たのかよ」
「マジで俺たちの疲労を返してほしい」
それはアルベール達の友人、
エイダン・リータ。
ライアン・ダールベルク。
ディラン・アヴェリーノ。
クロード・アヴェリーノ。
リナ・ユスフリカだ。
「お姉様!無事だったんだ……!」
「うん、平気だよ。リナ」
エイダンとライアンはげんなりとしており、だいぶ探したのかな、とアルベールは思う。ディランとクロードはホッと、息を吐き、安心している顔だった。そしてリナは、姉のイネスに会えたことが何より嬉しく、イネスに思いっきり飛び込んだ。
妹からのハグを受け入れるイネスもイネスで、安堵している顔であった。
「………サルヴァ、ジュリオ。自分たちの家に行ってきたら」
「あぁ、そうさせてもらうよ。ここまでありがとな。ジュリオを助けてくれた事も」
「僕もありがとう。君たちのおかげで何とかなったから」
そうお礼を言われ、アルベールは謙遜する。なぜなら一番活躍していたのは、サルヴァトーレとジュリオだと思っているからだ。
(お礼を言うのは、俺たちの方だよ。だって、二人がいてくれたお陰で、生還出来たから。だから、ありがとう)
アルベールは二人の背中を見ながら、微笑みお礼を言った。そしてサルヴァトーレとジュリオは、オーラドピア共和国の方へと歩いていき、消えていく。
「———一週間ぐらい、滞在しよう。ね?イネスさん……」
「………そうだねぇ。なんかもう、色んな意味で」
魔力がほぼ切れかけているアルベールと、イネスは倒れかけそうだった。
「おいおい、何があったんだ?宿屋行くか?」
「「行きます……」」
げっそりした感じで、エイダン達の後ろを歩いていき、宿屋に着いたとき、真っ先にベットにダイブする。
その時の表情は、まさに至福の時間とも言えるものであった。
(あ、そういや、ルフレ達は大丈夫かな?………………あ、しまった……!?)
忘れていた事を思い出したアルベールは、ベットからガバっ!と起き、急いで上着を着る。それに気づいたエイダン達は、アルベールに疑問を聞く。
「………どうした?アルベール」
「え、いや。ちょっとね…」
曖昧に答えたアルベールは、宿屋から飛び出す。サルヴァトーレとジュリオがいる場所へと、探しながら見つける。着いた先は市場であった。
「いたいた。あのさ、影族ってあの海の神殿を根城にしてたの?」
「え?まぁ……」
「………もしかして………」
「………海の中にあった神殿は崩壊している。そこに行かなくちゃ。影族を………ルフレ達を助けなくちゃ………」
「………なら、俺も行くよ」
サルヴァトーレの告げた言葉に、その場にいたアルベールとジュリオは驚いた。だが、ジュリオも意味を知った時、顔色を変えて、アルベールに告げる。
「僕も行くよ」
「………え!?二人は影族に酷いことされたんだぞ?それは良いのかよ」
疑問に思った事を告げても、二人の意思は変わらなかった。それは顔色が変わらなかった事。いくら亡霊で魂だけどしても、それではきっと終わらない。
だが、アルベール達が神殿から脱出した時、もう既にルフレ達、影族は空間もろとも移動させ、崩れ去った神殿には誰もいないと言うことは、アルベール達は知らない。無駄足になって更に体に重荷がかかったと言うことは、後から知る事となる。




