81話 黒虎
(なんで見つからない?サルヴァもその体も…)
神殿を探すも、サルヴァの姿やその体を見つけることができなかった。
体力と気力を消費していくだけで、なんの手がかりも見つけられない。途中で出会ったイネスと探しにいくアルベールたちは、それでも暗中模索する。
(一体、どこに居るんだ……?くそ、なんで見当たらない……。ルフレも知らないっていってたし……)
虫の知らせを感じるアルベール達は、そう感じた。なんの根拠もないはずなのに、胸元がざわつき始める。必死に呼び叫び、神殿の中ではそんな反響が響く。
そんな中、アルベールが首元にかけていた炎の晶石が、赤く光を放つ。何かが共鳴しているのか。炎の晶石の光は、次第に強くなっていく。
神殿は大きく揺れるように、地鳴りが鳴り、足元が不安定となる。何が起きているのか、さっぱりと分からないその光景に、ただ悲観するだけだった。
(何が起こっている…?そしてこの地鳴り……。ルフレと戦った時に起こる前に、なった地鳴りに似ている……。誰かがそうしているのか……?)
「なに…?なにが起こっているの?」
「サルヴァが危ない……」
まだ神殿にサルヴァトーレが居るかも、と感じたジュリオはサルヴァトーレの名前を、必死に呼ぶ。だが、彼からの声が聞こえることは無かった。
「サルヴァぁ!!」
「このままじゃ、下手したら神殿が崩れそう…。一旦戻らないと……!」
イネスはそう言う。確かにイネスの言う通りではある。だが、親友を見つけていなくて、そのまま帰ってしまうその心情。それはとても辛いこと。アルベールはそんなモヤモヤの中で、どうするか考えてしまう。
「このままサルヴァを置いて帰れないよ!サルヴァは……僕の友人なんだ!だから、だから、サルヴァを連れて帰らないと!!」
ジュリオの放った気持ちで、歪んでしまう。どうすればいいのか…と。
このままじゃ、神殿が崩れそうな、そんな予感までもして来た。そしてここは海の中。危険な魚だっている。どっちにしろこのままじゃお陀仏になるのは、火を見るよりも明らか。と言う状況だった。
(………どうすればいい。どこにいる。サルヴァ。せっかく君の友人を見つけたんだぞ。なのに、なんで見つからない……!!サルヴァ………)
心の中で必死に文句を言っていた。どうすれば、どうすれば!!と、アルベールは深く考える。
さらに、そんな状況に追い討ちをかけてくるのは、崩壊しそうな神殿だ。
まずい、直感でこの場にいる皆はそう考えた。
(そもそも、炎の晶石が光っているのは、魔波を検知してじゃないのか?ここに魔物はいない。なら、なぜ……。
———魔物がいない?どう考えたっておかしいだろ!って言うことはまさか………どこかで魔波を検知しているのか?そこに行けば———………もしかしたら)
一つのことを思い浮かんだアルベールは、崩壊しそうな神殿の中を走る。もしかしたら、と言う想定で。
「アルベール!?どこ行くの!」
アルベールが突然駆け出したことにより、イネスにジュリオは慌てて、アルベールの後ろ姿を追いかける。
突然姿を消したサルヴァトーレは、暗闇の中に一人で立っていた。
忽然と消えた、その彼の瞳にはなにも映っていない。何が起きているのか。誰が想像できるのか?誰にも想像できない。彼の片手にはズタズタに引き裂かれた、写真があった。
刃物で切り裂いたものなのか、その痕跡がはっきりと分かった。
「どうシて?あまりにもヘンだ…」
そう呟くサルヴァトーレは、無虚の目となっていた。心が空っぽになったような、そんな死んだ魚のような目。
サルヴァトーレの体は、徐々に黒く染められていた。それがどんな感情なのか。サルヴァトーレは分からない。誰にも分からない。そんな感情こそ、闇に紛れ込んだのだ。
『サルヴァぁ!!』
誰かが彼の名前を呼ぶ。それは、彼にとって聴き慣れたはずの声だ。その声にサルヴァトーレは、
「………ジュリお?」
親友の名前を呼ぶ。ジュリオ・レアンルドシ。ジュリオの名前を知っている。幼い頃からの幼馴染。そんなジュリオの顔を、姿を、声を、匂いを思い出し、そしてなぜ自分がここに居るのかを、疑問に思い始めた。
「ここは、いったい…」
そして何かの呻き声も聞こえてくる。サルヴァトーレの顔に、何やらベタつく液体が降って来た。そして臭い。
「な、なんだ……これ」
光魔法を放ち、空間に光を灯らせた。視界がだんだんと分かって来た時、そこは大きな部屋の中央部分に立っていた。ここが海の中にある神殿とは想像もつかないほど、大きな部屋。
そしてサルヴァトーレの体を覆い尽くすほどの、大きな影。上を見上げると、そこには大きな体をし、黒をベースとした体に、白色の毛並みが混じっている。その姿は【黒虎】だ。
「………う、嘘」
秋の象徴、【白虎】とは正反対な色の【黒虎】
「………ま、まじかよ………に、逃げなきゃ………!!」
その巨体な虎に足元を掬われそうなほど、度肝を吐かれていた。入り口らしき扉を開けようとするも、何かが引っかかっているのか、扉は開かない。
黒虎はサルヴァトーレを獲物と思っているのか、その巨体な体が、大きな足で確実に距離を詰めてくる。
それを避け、黒虎は扉らしき場所に激突する。
だが、それは運が良かったのか、扉の方から走る足音が聞こえてくる。
靴の確実な歩幅を走る音が。おそらく、さっきの激突した音で、“偶然”に近くにいた誰かが走って来たのだろう。
扉を必死に叩き、そこから声が漏れ出る。
「サルヴァ!サルヴァ!!」
「………!ジュリオ!!」
サルヴァトーレの友人、ジュリオの声だった。
「扉が開かない………!!どうしよう………。サルヴァ、そこで何が起こってるの!?」
「黒い虎に追われているんだ!!」
「…………黒い虎…?」
ジュリオとは別の声が聞こえてくる。だが、それにもサルヴァトーレは聞き覚えがあった。その声は、大魔導師の声。
「…………!アルベール!」
だが、今は庶民である事を、サルヴァトーレは知っている。アルベールの正体を知っている、数少ない人物という事を。
外から物音が聞こえてくる。それは炎のバチバチ音だ。
それが鳴り止むと、それと同時に扉が開かれる。そして扉の隙間からは、炎の光が強く光っていた。
その光に遮られた視覚で、見えなくなった黒虎は、その光に圧倒されていた。
「大丈夫か!?サルヴァ!!」
「ジュリオ、無事なのか!?」
「あぁ、僕は無事だ。ともかく、何が起きているのか、説明してほしい!」
説明を求めるジュリオであるが、それを遮ったのは、紛れもないアルベールだ。
「今は、そんな事をしている場合じゃなさそうだ」
「えぇ、そうね。黒虎が再び動き出しそうだわ」
続いてイネスが言う。二人の判断は確かに正しいものだった。だが、ここで不安が生じる。それは、イネスの魔力はあまり回復していないと言う事。戦えるのは、アルベール、ジュリオ、サルヴァトーレの三人となる。だが———、
「イネスさん、これを使って」
アルベールが召喚したのは、東側に位置するユスフリカ王国よりも、さらに東側の国。そこで作ってもらった黒椿だ。
「………うん、ありがとう」
武器を手にしたイネスは、魔力があまりなくとも、戦えることができるようになった。そのため、前に立ちはだかる黒虎を相手にするには、十分な戦略層である。
四人の顔は、剣幕そのもので黒虎を睨んでいた。




