79話 糧となる力II
(———正直、魔力はほとんどない。どうすれば………)
どうしようかと、正直迷っていた。
転移させられた場所は、競技場のようなもの。その為、範囲は広い。戦うには有利な場所ではあるが、正直、魔力がほとんどない状態では、ほぼ負けだ。私の………負け。
(………都合よく武器なんてないよね…。数分前の私を殴りたい………)
我ながらにユスフリカ王国の姫君とは思えないほどの、発言をしたと自覚している。だが、私は王家の血筋。それなりの作法も学んできた。そして魔力とは同様に武術だって多少は嗜んでいた。
腰を屈め、相手を警戒する。顔が見えず、どのような顔をしているかすら、分からない状態。サルヴァさんやアルベールは影族と言っていた。黒い見た目をしているから、影族と呼ばれているのか、安直に思い浮かぶ。
「フフフッ、アハハハッ、さぁ、子猫ちゃん。やりましょうか?私とあなたの、歴史に残るほどの交わりを………」
何を言っているのか、さっぱり理解できない。だけど、今から再び戦いが始まることが、予想された。
相手をよく観察する。どのような、攻撃パターンがあるのか。見極める為。
(とにかく、相手の行動をよく見なくちゃ。隙を見せたときに、不意打ちを狙って攻撃するために…!)
相手は魔法を放つ。氷で作られた、相手の背中に魔法陣が展開され、そこから氷柱が飛び出る。
その氷柱は私の方へと追撃してくる。その氷柱を回避するも、頬を掠ってしまう。
(———ぐっ、最悪…。とにかく、あの人の攻撃を回避した後は………どうにかして打撃を与えないと……)
頬から多少の血が、垂れている所を触る。傷口はあまり深くはない。
私は相手を睨み、急いで今いる場所から立ち走る。
「逃がさないわよ?ハァっ!!」
「………ッ!………早い」
相手からの攻撃を交わし、小声で呟く。相手の攻撃に移す行動が早く、避け切れるのが精一杯だった。
まずい…。直感でそう感じる。それは今まで行った事より。
なぜだか、脳裏に浮かんだ。幼少期を。だが、今はそんな事より目の前の事だ。
相手の片手には、黒色の剣を持っていた。それは真っ黒に塗り潰された、夜のような。相手のシルエットと同化しており、長さが分からず、体の方へ持っていくと、どこから来るのか予想がつかない。
まさにまずい状況だ。だけど、時間を戻すことは不可能。今の戦力で勝利できる道を探さないといけない。
「どうするかい?このままだったら、ゆっくりと死ねるが?」
「……私には、双子の妹がいるの。それそれは本当に可愛い妹。ときに素直じゃない時があるけど、私は妹に会わなくちゃならないの!だから、こんな所で死んでられない。それに私には———。ううん、とにかく。私は先に進まないといけないの!」
自分の思いをはっきりと告げ、抗う。私は、死なない。命を大切にしたい。妹に会わなくちゃならない。それらの思いが一つにまとまり、その思いは私の力となる。
「私には、仲間がいる。だから、勝手に一人では死ねない。だから抗うの。私は、そんな運命には従わない!!」
もう一度はっきりと告げた。私の強い思い。それは、私だけの宝物になる。
「———そう。残念。なら、さっさとおしまいにしましょうか。あなたを殺すわ。どうやら私、あなたようなタイプは好きになれないみたい」
「ならなくて結構よ。私も、貴女のような人は好きになれないみたい」
「チッ、王族の者め…!!」
まさか、相手が知っているとは予想外だ。と思っていたが、制服の胸元にユスフリカ王国及び、ユスフリカ家の紋章。代々伝わる天馬の紋章。
それに違和感がなかった為、再びその紋章を触る。王家の血筋を受け継いだ私は、今盛大に誇りを持っている。
それは———昔の私じゃ、到底考えられないほど、立ち向かっている私がいるから。
「私が王族であろうと、私は貴女のような人に優しくなんてなれない。こんな風に———!!」
私は相手の女性との距離を、確実に詰まるように相手の懐に入る。
入った後は、足元を払い、そしてもう片方の足で相手に回し蹴りを決める。
手加減をしなかった私の、足蹴りに対して、よろよろになりながら、怯み、項垂れる。
「ふぅ…。またやってしまった」
何も後悔はしていない。今は、使用人の人たちが見てるとか、リナが見ているとかはない為、私の得意技を決めることができた。
(言えないよねぇ。みんなには。私が実は……結構はしたないってことを………。あはは………)
王家の姫君たるものが、ああいう行為を行えば、間違いなく引かれると感じる。むしろ、お父様の前でやれば失神レベルにはなるかと。
それほど私は、ユスフリカの第一王女としての作法さを持っていない。私はどちらかというと、剣技や武術を習いたかった。
(そう言えば、それとは逆にリナは花道や、裁縫、庭に出て小鳥と一緒に居たり…。すごい真逆の双子って言われてたな………)
と、昔を思い出す。と、言っても五年前くらいではある。余韻に浸るも、この頃から私は王女様としての振る舞いがなって無いなと、感じるのであった。
(………やり過ぎちゃったみたい…。もう、起き上がってこないよ)
多少の罪悪感に苛まれるも、本当に後悔はしていない。
ピクピクと動いている女性を見て、なんとか倒せたのかなと、安堵した。
女性を倒した後、空間が消され、居た場所に戻されていた。だが、いるのは私一人。薄暗い廊下の中に一人でいるというのは、なかなかに怖いものであった。
二人のどちらかを探し、なんとかして知恵を出すようなしてもらおう。と、ちょっとした計算があるも、あまり強制じゃない。
(それよりも、アルベールやサルヴァさん大丈夫かな……)
二人を心配してしまう。アルベールは同い年とは思えないほど強い。サルヴァさんに関しては、どんな力を持っているかは、あのとき多少見ただけ。だからどんな力量かは分からない。
(———まだ戻ってきてない……か)
私は壁に寄りかかり、二人が戻ってくるのをじっと待つ。
二人が無事に戻ってくることを信じて———。




