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7話 休日


休日となり、学院は休みだった。休日ともなれば、寮にいる学生の数は増え、外に遊びに行く者が多く、廊下はあっという間に人混みに溢れかえってしまった。


「なぁ、アルベール」

「ん?どうかしたの?エイダン」


男子寮でたまたま会ったエイダン・リータと歩いていた。


「今日休みだろ?だからライアンと一緒に遊びに行かないか?」

「帝都の方に?」

「あぁ、教材とか買わないとだろ?」

「俺、そんな金ない」

「平気平気!俺が出してやるっから!」

「いやいやいや!良いよ!」


エイダンの唐突の提案に、アルベールは驚き、拒否した。なぜなら、厚かましいと思ったからだ。彼は庶民。そうなれば、悪い噂が付き纏うだろう。


(そんなことしたら、俺社会で抹殺されそう………)


もしよからぬ噂が流れてきてしまえば、たまったもんじゃない。と感じ取ったアルベールは、提案する。


「ならさ、ただ遊びに行くだけは?」

「えー、それで良いのかよ?正直、父様はお前のこと認知してるらしいぞ」

「うっそーん!」


またもや唐突な事を言われ、戸惑ってしまう。庶民が貴族内で認知されていることを。


(え、俺貴族内で認知されてるの?)

「お前の噂は、貴族内じゃ有名だぞ?」

(え、まじで!?)

「何やら、“貴族学院と言われている場所に、今年は庶民の人物が入学した”ってね」

「まじか」

「あぁ、悪いものばっかだ。「なんで庶民が入れたんだ」だとか、「庶民の入れる学校じゃないのに」だとか」

(ここを作ったの俺なんですけどね!?)


納得が行かなかったが、仕方ないものだ。と割り切ったのだった。


(今の俺じゃ、大魔導師アーベルじゃなく、庶民アルベールだもんな)


腑に落ちないものの、今となっては事実でしかなく、彼が、「俺は大魔導師だ!」なんて言ったとしても、白い目で見られるのは、目に見えている結果だからだ。


「じゃ、ライアンを呼びに行きますか」

「そだね」

(あ、そういえば、多少のお金は持って行っとかないと)

もしかしたら、欲しいものがあるかもしれないとの事で、エイダンに“先に行ってて”と言い、自分の部屋に戻った。


「おや、もう戻ってきたのかい?」

「あ、いや。革袋を取りに来ただけ」

「あー、なるほど」

(俺が入学する前に、汗水流してやった仕事!どのくらい残ってたっけ…)


革袋と言うのは、お金を入れる袋のことを指す。他にも使い用はあるし、言い方も一緒だ。


(あ、早く行かなきゃ)


せっかくの休日のため、無駄に使わないようにしなきゃ、と思い部屋を出ようとした時、ディランに止められる。


「アルベール」

「え、何?」

「妹のこと、ありがとね」

「………………!………うん。アヴェリーノくんも苦労したんだね」

「そんなことないよ。ともかく、ありがとう」


アルベールは初めて、ディランの兄らしい一面を見た。そして、部屋を出て、男子寮の入り口にいると思い、そこまで走ると、案の定いた。


「おい、おせーぞ」

「そうだよ。何やってたのさ」

「革袋持ってきて………」


部屋から走ってきたため、息が荒くなり、心臓がドクンドクンと早く鼓動を打ち、額から汗が流れていた。


「良いのに。お金くらい俺たちが出すよ?」

「いや、良い。そんなんしたら、俺の立場なくなる」

「そうなってしまえば、俺たちが守ってやるって!」

「自分のお父様たちの命令には従わないとでしょ?」

「まぁ、時と場合によるかな?」


アルベールは息を整え、二人はそれが終わるまで待っていてくれていた。


「んじゃ、行くぞ」

「「うん」」


男子寮から出て、帝都に向かいながら、色々と話し込んでいた。


《帝都》に到着し、人で賑わっていた。


「よぉ〜し、じゃあ早速買いに行くぞ!」

「「おー!」」


元気よく声を上げ、アルベールの憧れだったことが、今出来ていた。


(初、友達とお出かけ!大魔導師アーベルとしてじゃ、全然技術も発達してなかったし、ここまで賑やかなんてこともなかったし、それに俺、一人だったし)


アルベールは人見知りだ。そのため、自分からあまり声をかけることは出来ない。話しかけられたら、話す。そんな感じだった。そのため、こうして友達と一緒に遊びに出かけるのが、夢見心地のようなものであった。


「なぁ、何買うんだ?」

「うーん、先にあそこ寄らない?」

「良いね!アルベールはどうする」

「うん!俺も行く!」


彼はとてもウキウキしていた。そのため、どんな事にでも挑戦できるほどの元気が。帝都にある施設を隈なく見て回る。


果物屋、書店、時たま商人売り場に行ったり。3人はこの日を満悦し、アルベールは余韻に浸る。そんな時、人通りがないところで、謎の影があった。


「なんだ、あれ」

「ん?………!?ま、まずい………!」

「どうしたの?エイダン。ライアンも」

「あ、あれは、“魔物”だ!」

(魔物………!?)


人に害を及ぼす獣を魔獣。


人に害を及ぼす化け物を魔物。


だが、一番気になったのは、なぜ魔物が帝都内に現れたのか。


(なんで帝都内に!?)

「二人は急いで騎士兵に行ってきて!」

「アルベールはどうするんだ!?」

「俺は食い止める………」


二人の位置から見えないものの、アルベールの位置からは見える。あそこには小さな子供がいる。


「ハァ!?そんなの危険だろ!」

「いや、アルベールは強い。特待生席を貰うほどの実力者だ。わかった!それまで耐えてろよ!」

「あぁ!頼んだ!」

「くそっ!待ってろよ!」


エイダンとライアンはアルベールを信じ、騎士兵を呼びに行った。その間、時間稼ぎ、敵の体力を削ることにした。


(その間、俺は。魔物こいつの相手をする。きっと、あの子だって、怯えているはずだ………!)


俺はその人通りのない場所に足を運ばせ、杖を召喚し、魔物はアルベールに気付く事なく、“少女”に襲いかかる。が、魔物の爪は少女に当たらなかった。それは当たり前だ———。


「無理だね。あんたに、俺の障壁を壊すことはできない」


アルベールがその子を守ったから。


「………あ、あぁ………」


魔物に怯え、少女は足が震えており、腰が砕けていた。


「君は早く逃げて。良い?」

「で、でも………」

(怖くなって怯えちゃってっぽいか) 


学院以外で魔法を放つのは禁止。と言う掟が存在するものの、そうは言ってられなかった。


「一旦、動くな。『粘着グルーデンフィールム』」


粘着のかかってる糸が張り巡らせ、相手の動きを封じた。その間、アルベールは少女に近づき、手を掴んだ。


「………?お、お兄ちゃん………?」

「大丈夫。ここは俺に任せて。で、君は早く逃げるんだ。良いね?」

「で、でも………!」

「大丈夫だから」

「………………!あ、あぁ………後ろ………」

「後ろ?………………!?」


後ろから、異様な気配を感じ取ったアルベールは咄嗟に、少女を守るような形となり、魔物から攻撃を受けた。


「ぐあぁっ!」


魔物の爪が背中に入り、少女を庇ったまま、倒れてしまった。


(くそ…。ちゃんと行動を封じてたはずなのに………!)


なぜ解けたのかが、分からずじまいだったが、少女が逃げる時間を稼ぐしかなかった。


「だから………、早く君は逃げて!」

「で、でも………!お兄ちゃん、後ろから………血が………!」

(確かに痛い…。だけど、今まで経験した病気よりは、全然!!)


立ち上がり、魔物の前に立ち伏せた。そんな時、運良く二人が到着した。


「「アルベール!」」


二人の後ろからは騎士兵がいた。


「君たちは下がって!」


剣を構えた騎士兵たちは、そんな鋭い銀色の剣で颯爽と魔物を撃破した。


「はやっ」

「ふぅ、だけどなんでだ?街中で魔物が現れるなんて」

「それより、君大丈夫かい?」

「あ、はい。それよりこの子を」

「あぁ、わかった。呼んでくれてありがとう。リータ伯爵令息、ダールベルク伯爵令息」


騎士兵たちは、エイダンとライアンに頭を下げ、少女の手を引き、その場から離れた。


「ふぅ、これで事が治まったな。大丈夫か?アルベール」

「あ、うん。そこまでは大怪我じゃないと思うけど………?」 

「いや、ここから見ると痛々しい」

「ほら、病院行くぞ」

「はーい………」


その日はトラブルに巻き込まれたものの、生還でき、傷を癒した。そして、数日経った時、学院内にある図書館で勉強をしていると、一通の手紙が届いた。開くと、こう言う内容が書かれていた。


『この間は娘がお世話になりました。娘を守ってくださり、誠にありがとうございます。この恩は一生忘れません』


この文面を見たアルベールは、穏やかな微笑みをし、本を閉じた。


(文章を見る限り、あの子のお母様だね。あの子がいい子に育つ理由は、親がちゃんとこーゆうところをやってる所なのかな)


と、彼はそう感じた。本を閉じ、中をもとにあった場所に戻し、鞄を手に、図書館から出て行った。

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