77話 復讐
「『我は導き手となるもの。それは数多の生を守護するもの。それはきっと、其方のこと』
魂の怨念を喰らえ!『怨嗟の声』
影族との一騎打ちが始まる。俺は、長年愛用していた杖で、魔法を放ち、魔石が光、そこから魂のようなふわふわした物体が、影族の方へ向かっていく。
だが、風刃で切られてしまう。どうするか…。考え付いた先は、ただ一つ。
(背後を———……取る!)
一気に背後に回るも、今気付くと全身真っ黒な相手の前後なんて分からない。それに気づいた時は、もう既に遅し。と言う訳だ。
「ぐぅっ!………くそ」
(何故だ。本来なら、攻撃魔法ではもっと威力があるはず…!なのに、何故だ?それに、あの霊魂は、俺の魔力を直接注いだものなんだぞ?なのに、どうして———?)
そう考えている途中、影族の一人はいってきた。影族とは、だいぶだが距離は離れている。だが、魔法の攻撃が当たらないほど離れている訳じゃない。
「どうしタァ?あんだけでほざいていた癖に。それに、大魔導師と言う肩書きはカモフラージュじゃねぇのか?本当は、そこら辺の雑魚魔法使いどもと同じくらいなんだろ?もう吐けよ。「俺は弱くて、ダメな大魔導師なんです」って」
このままだったら、相手のペースに呑まれてしまう。と考えるも、思うように体が動かなかった。何故だ。混乱するばかり。
「教えてやろうか?俺は親切だからな?ここは、古代から影族が住んでいた土地。それを、神殿の形へと変え、仕掛けを作る。それは、【魔導回路】だ。分かるか?ここに仕掛けられている魔導回路は、相手を弱体化させる。魔力を吸い取る。な?つまり、ここに来た時点で、お前の負けは確定なんだよ。ま、お前は奴隷とかじゃ無くていいわ。苦しめて殺してやるから。フハハっ、感謝しろよ?」
何故だろうか。妙にムカつかない。そもそも、敵対している俺に対して、何故そんな重要なこと話すのだろうか?相手の考えていることが、さっぱり分からなかった。
だが、一番気になるのは、その【魔導回路】
魔導回路の仕掛けをこの部屋に作り、相手の魔力を吸い取り、弱体化させる。そこは分かった。だが、何故相手は。さっきよりも強く……または、動きが速くなっているのか。
答えは一点張り。弱点をつけは———、
(———俺の勝ち)
ニヤリと微笑み、自信に満ちる。相手は「何笑ってんだ?」と疑問を抱きながら、聞いてくるが。俺に関しては、どうってことは無い。何故なら、
「弱点を見つけたから……」
「は?何言ってんだ?」
真正面にいる、影族の一人。俺は杖を前をの方にやり、ちょっとだけ角度を変えた。それには、きちんとした理由がある。
「【魔導回路】をこの部屋に仕掛け、俺の魔力を吸い取る。道理で違和感があると思った。何故、魔法の威力が愕然と落ちているのか。それは、魔導回路のせいという訳だ。それを、あんたが直接教えてくれた。その分、あんたは動きや魔法の攻撃の威力が愕然と上がっている。不自然なんだよ。そんな事は。と言うことは、俺の魔力を吸い取った、機械のようなものから、自分自身につけている、“何か”に魔力そのものを転移させ、自身の魔力という風に偽っている。
そうだろ?あんたらが、真っ黒な理由が……。証明してみせるさ」
俺は自分の考えを告げた。そして腰あたり部分に威力は小さいが、水の固体を魔法で生み出し、杖から発射させた。
水飛沫が飛ぶと同時に、顔がはっきり分かるほど、纏わりついていた黒色が、剥がれ落ちる。だが、まだグレーのような多少の影はあった。
「チッ。何故、俺たち影族が元々真っ黒じゃないと言うことに気づきやがった?」
「………………やっぱりそうか。理由としては、古代人は当時から兵器を作るのが、得意なんだよ。古代人が存在したのは、ごく僅かな地域。それが北の国だ。北の国では当時の人たちから比べたら、最先端すぎる技術で国を作っていたからな。そして、あんたが古代人だって、自ら言った時。あんた自身も北の国、または。北の国付近の古代人だって言うこと。
そもそも、聞いたことがないんだよ。全身真っ黒なそんな。人間の姿なんぞ。それに、サルヴァが言っていた。サルヴァも今はあった時より全身真っ黒じゃ無く、顔の表情がある程度は分かるぐらいまで、薄くなっている。そして、サルヴァのあの姿は本物じゃない。魂だ。体から出てしまった魂が、人型とし、そして黒となり、憎悪の色で染められている。
と言うことは、あんたらもその口じゃないのか?あんたらも、体から離れてしまった魂で、本物の体は既に亡くなっている。それを生み出した理由は知らないが、憎悪や怨嗟があると、どうしても黒になりやすい。黒の感情は負の感情そのものだから。
憎悪、悲しみ、苦しみ、恨み、嫉妬。黒で表現することができる。あんたもそんな黒の感情で一心を黒で染められ、分からなくなるほどの黒の感情が募りに募った。違う?」
俺の想像を告げた。正直、想像というだけだった。だが、影族の一人は、口を小さく広げ、答える。
「———あぁ、そうさ。俺たち、影族の子孫は今も生きている。だが、成れの果てだ。大昔では誇り高く持っていた、俺の一族もやがて廃れ、影族の一族は次々と殺されていった。やがて俺も刺されて死に、霊魂となる。殺したやつを見た。全身が真っ黒な服を着て、夜だったから、顔も分からず。
未練たらたらでこの世を去ったんだ。だが、のちに知った。俺を………俺たち一族を殺したやつを。
それは、オーラドピア共和国の連中だ。あいつらは、俺たちの一族を亡き者にしたんだ…!俺の家族……妹弟を殺され、親を………友人たちを殺され………!!だから、俺は誓ったんだ。オーラドピア共和国の奴等を、ぜってぇ許さねぇ。
それで気がついたら、憎悪で心を支配された。その憎悪は募りに募り、いつしか人型となった。見た目はそいつのようにベッタリと黒で塗りつぶされたかのような、そんな見た目となっていた。そして、思いつく。オーラドピア共和国の奴等を、皆殺しにしてやりたいと………!!」
顔の表情がわかるようになった時、影族の一人の顔は、憎しみに溢れた、怒りの表情だった。親を、家族を、友人を。殺されれば誰だって腹は立つ。もちろん、俺だって。だけど———、
「———気持ちはわからなくもない。だが、だからって今のオーラドピアの人たちを殺していい理由には、ならない。それは昔の話だ。オーラドピアの人たちは、人間。寿命は短く、儚く散る。当時の人はもう生きていないんだ…」
「あぁ、分かってる。俺ものちにそう感じた。だから、ある一族だけを殺してやろうと」
拳が震えに震え、そして形相な顔で叫び散らす。
「オーラドピア共和国の大統領の………一族を殺すことだ!!」
それは悲痛の叫びにも聞こえた。何故、オーラドピア共和国の大統領の一族を殺したいのか。今の話を聞く限り、なんと無く。なんと無く理解してしまう。
「調べ上げたさ…!夜な夜なオーラドピア共和国に出向き、亡霊のようなものだから、誰にも見つからない。それを利用し、殺したやつを調べ上げた。徹底的に!!資料を持って帰り、影族の作った【魔導回路】を使い、俺の記憶に写り出た人物と、その資料に載っている人間を。そしたら、一致したんだ。オーラドピア共和国の………大統領の家系に。
———アロンザ・オーラドピア。
当時の殺人鬼。
そんな血を受け継いでいる、オーラドピア大統領の血筋を根絶やしにしてみせるために………!!」
そんな相手の悲痛な叫びが、心に来た。そして俺は、こう考えた。ライリーは誰かを守るために犠牲に。
サルヴァは友人を助けるために、人を殺すように。
そして、そしてこの人は、当時の無念を晴らすために。
それぞれに意味があると言うことを、考えさせられた。
「………………それでも、無駄になると思う」
だが、俺は。それを易々見逃すわけにはいかない。関係ない人を巻き込むのは、可笑しいからだ。
「なんだと?」
「そんな自己満な思いだけで、関係ない人を巻き込むのは、可笑しい。確かに、あんたの気持ちはわかる。でも、それが正しいとは思えない。復讐は更なる恨みを買う。そうなってしまえば、復讐の連鎖を断ち切ることが出来なくなる。
それに、サルヴァを巻き込むのは、もっとおかしい。サルヴァはあんたらが捕らえているジュリオさんの友人。親友なんだ。その人を人質として利用するのは、あんたと同じ思いをしてるんじゃないのか?それも十分な殺意となり得る。
同じ立場になってしまえば、もう戻すことはできない」
影族の人は、深く考える。だが、後戻りすることはできないと言うことを、本人自体知っているのだろう。
影族の人は、気力が無くなる。膝を地面につけ、そして項垂れた。
このままだったら、当時の殺人鬼と同じ立場になってしまうことを。復讐を募らせ、そして人殺しをしようとした自分を、どうか恨んでほしい。再度改めて考えてくれたら、きっと成仏ができそうな、そんな予感がしたから。
啜り泣く声が聞こえる。俺はそっと影族の人に近づいた。同情から来ているものなのか、哀れだと思っているのか。
いや、違う。立場が違えど、遣りかねないから。俺自身も、人間がやってしまいそうな現実に。
影族の人の肩を触り、泣き止むまで待っていた。最近はよく気疲れをしてしまう。学院にいた頃は、そんな思いはなかった。いや、学院を出てからだ。こう言う場面をよく見るようになったのは。と、最近のことを思い出し始めた。
思った。復讐がない世の中など存在しない。だから、復讐から復讐を生む。今回の件に関しては、何故その人物が影族の一族を根絶やしにしたのかの理由がわからなかったが、それもまた、復讐から来ていたかもしれない。
感情に左右されるのは、当たり前だ。塞ぎようにも防ぐことの出来ない。だから連鎖を呼ぶんだ。
【復讐】という名の、鎖が結びついている限り。




