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76話 影族(シェード)

「———ぐぅっ!」


腹に痛みが生じる。激痛が走り、膝を地面についてしまった。

目の前には、黒い影で見えない。顔がどのような顔で、性別がわからないほど、黒で塗り潰されていた。こいつが影族シェード。今回の主犯だ。


「おいおい、こんな程度かぁ?呆気ねぇなぁ?ほら、もっと遊べよ!!」


「ぐぅっ!」


何故こうなっているのか、それは約三十分前のことである———。






———神殿の中へ入った俺たちは、広い神殿の廊下を歩いていた。迷路みたいにぐねぐねと入り組んでおり、道に迷いそうなほど。サルヴァに教えてもらいながら、進んでいると突然視界が暗くなる。


それは霧のようにモヤモヤとしており、足取りがわからなくなってしまった。いよいよ、霧が晴れる。そう思った時には、既に遅かった。


「オラァ!!」


「———なっ!?ぐっ!!」


背後を消し、後ろから蹴りを入れられる。そのまま地面を滑り込むように、流され、居るところが一体どこなのか、分からなくなるほど、背景そのものが変わっているような気のした。


そして目の前には、全身が真っ黒に塗りつぶされたかのような、そんな奴が目の前にいた。そいつの足か何かで俺は再び蹴られる。


「ぐはっ…!………もしかして………お前が………」


「そうさ。俺は影族シェードの者。侵入者はまた排除しないとだよなぁ?」


「ぐぅっ!!」


蹲っていたところを、再び蹴られ、色んな意味で危うい状況。そして一つのことに気づく。周りには俺しかいない。他の二人がどこかへ消えたのだ。


「さっきの霧は———………もしかして…」


「あぁ、そうさ。【迷宮ラビリンスミスト】よーく、知ってるよな?大魔導師さん?」


「———!?」


声にもならないほど、驚いてしまった。何故、俺の正体を知っているのか。俺が大魔導師アーベルである事を知っているのか。影族シェードは何者なのか。

そう思うほど、頭は混乱していた。だが、一番混乱していたことは———。


「———どうして、古代魔法を扱える……?」


一番の疑問はそれだ。【迷宮ラビリンスミスト】は古代魔法の中ではマイナーであるものの、目隠しの魔法として、1万年前では使用されていた。それを何故、相手が知っているのか。

古代魔法なだけあり、仕掛けを施していたのだろうが、それは違う。一番のあれは、“術式を知っていた”と言うことだ。


「あぁ、術式の事だろ?それなら簡単だ。俺も、いや。俺たちもあんたと同じ口だからだよ。大魔導師アーベルさん?」


顔が見えないからこそ、どう言う表情で言っているのか、想像もつかないが、声は煽っている。


「いやぁ、本当に無知なんだねぇ?なら、簡単に説明してやろう。

我々、影族シェードは古代人の生き残りなんだよ」


「………古代人の………生き残り?」


途切れ途切れで答える。古代人の生き残り。それはその名の通り。そして、古代人はもう既に一族が全滅している。と、1万年後の世界である、この世界の本にはそう書かれていた。


「本が全てじゃない。それは、現代人の勝手に作った物語だ。当時を知らないものが、研究やらなんやらで当時のことを鮮明に当てることなど出来やしない。まさに、時間魔法さえあれば、過去へ行き、それを見れることはできるがな?」


(………心を、読まれてる…?)


そう感じ取ったのは、俺が口にも出していないことを、その質問に答えるかのようであったから。相手の言っていることが正しければ、それは大きな終焉をもたらす。

古代人の技術は今や、衰退しているものの、作られたものは消え去ることは無い。そして古代人の作った兵器が復活すれば、それはこの世の終わり。


それが影族シェードが企んでいることであろう。オーラドピア共和国の異常な猛暑。熱中症で倒れ、死んでしまうほどの気温。水分補給を補えば、何とかなることであろうが、水は無限じゃない。浴びるように水を飲んでしまえば、逆効果になることもあり得るだろう。

それで死んでしまった人たちの、魂を集め、何かを企む。それを止める為に、俺たちはいると言うこと。


「クククッ、アハハハッ!さぁ、踊れ!狂い踊りやがれ!!そして、お前たちの魂を、世界の役に立てろ!!俺たちのために役立てろ!!嗚呼、そうだ。お前だけは奴隷として扱ってやるよ。これからは、我々影族シェードの時代!!そう、俺たちは神に選ばれたのだ…。古代人が今や衰退している、この世で生き残っている俺たちは、選ばれしもの!!一族の為なら、他のやつの命など知らぬ!!」


「………………」


(戯言を…。………………もし、この世に神がいるのだとしたら。神はきっと、あいつらのような奴を1万年も居させるわけない。他人の命を………他人の命を無碍にする奴など……)


俺はつい、笑みを浮かべてしまった。いや、おかしすぎで笑ってしまう。


「ぷっ!アッハハハハハ!!」


狂ったように笑いこけてしまう。そう思うほど、あいつの戯言はふざけてる。


「………どうした?あまりに素晴らしいことすぎてか?」


「嗚呼、お腹いてぇ。いや、その逆だ。あまりにもふざけすぎて、な?つい笑っちまったんだよ」


「どこかだ?」


ふざけてる。と言うと、顔をしかめる。あまりにもふざけすぎている。一族のためだけに他人の命を無碍にする奴に?神が選んだ?


「戯言は寝てから言えよ。お前らみたいに、他人の命を無碍にしている奴が、神が選んだ?違うね!!神じゃなく、死神だ!!お前らは、死神に選ばれたんだよ!!それが違うのだとしたら…。本当に神が選んだとしたら…。俺は、そんな神に選ばれたお前らに喧嘩をいくらでも売ってやる!!それは、神に対して喧嘩を売るのと同じだからな?だろ?神に選ばれたんだろ?なら、相手してやるよ。大魔導師と呼ばれた、俺が相手してやるよ!!お前らのような、そんな考えをしている奴を見ると、反吐が出る…!」


叫びに叫び散らし、喉が枯れそうなほど。叫ばずには居られなかったからだ。喚き散らした後、影族シェードの一人は、断言かって言うくらい、啖呵を切った。


「いいぜ?俺たちには、神がついている。ふっ、死んでも悔やむなよ?」


「いいさ。相手が神だろうと、なんだろうと。俺は戦ってやる。大魔導師の意地として。俺の……意地として」


啀み合う。影族シェードがこいつだけじゃないのだとしたら、時間をかけちゃいけない。応援が来る前に、この神殿の中にいる奴らを、倒し、企みを捻じ曲げる。


(だから、イネスさん。サルヴァ。そっちもそっちで、頑張ってくれ。俺も———すぐに助けれるようにするから……!)


杖を召喚する。俺の得意な“魔法”の力を使って。黒椿や銃に関しては、不意打ちの時に使うことにし、常に片手はものを持っていないようにする為に。


何があるか、分からない為に———。

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