72話 黒い影(サルヴァトーレ)と親友(ジュリオ)
翌日。太陽の光がオーラドピア共和国全体を照らす。アルベール達は、街中に出ていた。オーラドピア共和国でしか買えない、食材や衣服、果物が置いてあった。
市場へと行き、それらを見て回る。目的がないまま彷徨っていると、ある事に気がついた。オーラドピア共和国の人たちは、肌が色黒である事。それだけ、太陽から放たれる紫外線が、ものを言うのだろう。
「さて、行くか」
自由行動でイネスと別れ、アルベールは自身を襲ったやつと、行動を共にしていた。事情を知っているものの、警戒心は剥き出した。
「なぁ、その親友は今どこにいるんだ」
聞いて良いのかわからなかった事を、アルベールは聞いた。躊躇いを感じるも、そう発したのであった。
そう聞かれたそいつは、少し暗い顔をしながら、人気のないところへと移動をし、淡々と話をした。彼は、黙々と聞き、一言も発せず黙って聞いていた。
「———って言う訳なんだよ」
内容はこうだ。黒い影の名前は、“サルヴァトーレ”。親友からは“サルヴァ”と言われてるらしい。
そして、本当の体は別の場所にあり、これは自分の意識を入れたただの器らしい。
親友の名前は“ジュリオ”。サルヴァトーレの幼い頃からの親友。つまりは、“幼馴染”と言う関係らしい。その親友は影族と呼ばれる一族に捕まってると言う事。命を捕らえられているという事だ。
ジュリオを助ける為、アルベール達を襲った…。という訳だ。
(………誰かを守る為に……)
一人の人物が頭を思い浮かぶ。それは、ライリー・ブロッドだ。アルベールの友人の一人だ。
茶髪の髪をし、グレーの色をしている。男らしい声をしており、西の国での友人。そんなライリーは好きな人のために命を投げ出した。ライリーのいとこ。
エヴィ・ヴィンケル。黒髪のボブの髪をしており、金色の瞳をしており、ライリーの想い人だ。
今は、何をしているのか。アルベールは予想もつかない。
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エヴィの方では。毎日のようにライリーの墓に墓参りをしている。エヴィ自身の心では後悔でいっぱいだ。なぜ、想いに気づかなかったのか…。と。
(ライリー……、私、気づかなかった。あなたが、私のことを想ってくれていたこと……。ごめんね………)
後悔の山が募り、いずれ爆発しそうなほど。だけど、ライリーはもうこの世には存在しない。命というものは、そういうものだから。
今、西の国の方では雨が降っている。雨に打たれながら、ブロッド家の敷地内で、ライリーの墓に花を添えていた。石には十字架が付けられており、そこにはこう書いていた。
“Riley・Brod”と。ライリーの好きな紫苑の花を添えて。
ライリーの墓に向かって、寂しく微笑むその姿は哀愁が漂っていた。
「安らかに眠ってね……ライリー」
そう微笑み、エヴィはライリーの墓から去っていく。そんな姿を、
『ありがとう……。エヴィ』
ライリーの魂が、現れエヴィの後ろ姿を見送った。それを、エヴィは知らない。見えるはずのないライリーの姿など、誰にも認識はされないのだから。
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エイダン達の方では、アルベール達が落ちてから、まだ二日しか経っていない。長い道のりを徒歩で進み、魔法を合わせても、全然遠いのだ。
だが、嘆くものなど居なかった。アルベール達がきちんと生きていることを、確認するまで。渓谷に落ちてから、時間は経つ。
今どこにいるのか、情報を掴めないが、目で確認していない。だから、きっと何処かで生きている……!と、希望を胸に抱いて。
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アルベールとサルヴァトーレは、街並みを歩き回っていた。そこそこオーラドピア共和国を楽しんでいる。アルベールはサルヴァトーレが悪いやつではないのかと、多少は思っていた。
なぜなら、自分の友人が捉えられ、人質にされている状態で、他人を傷つけてでも、その人を解放したいという気持ちは、誰もが持っている性質だと感じているから。
下手な真似をすれば、親友を殺され、その絶望に包まれるだけ。絶望という名の悪魔が、心を支配する。そうなってしまえば、罪悪感に包まれてしまい、自分自身を一生恨んでしまいかねない。
もしかしたら、罪悪感で自殺を志してしまうかもしれない。そうなってしまえば、元も子もないのだから。
「………………」
一緒に行動を共にしているが、気まずい雰囲気が流れる。それを打破したのは、アルベールが先だった。
「お腹すいただろ?」
「………………いや、大丈夫だ」
そう言うも、お腹の虫は遠慮なくなった。
「遠慮すんなって。そっちの事情を俺は俺なりに、理解してるつもりだ。親友が人質に捉えられてしまったら、きっと俺もそうする。それに、似てるんだよ。俺の友人に。守る為に、自分の命を投げ出して犠牲になった人物が。だから、放っておけない。だから、協力するよ。あんたの友人も、あんたの体も取り戻そう。力を貸すよ」
アルベールはサルヴァトーレの方を向きながら、そう伝えると、微笑み返され、
「ありがとう」
とお礼を言われた。その後は、さっきの空気が嘘のように、色んな店を回った。
南国でしか食べられない果物。ドラゴンフルーツに、パイナップルに、バナナ、パパイヤ、マンゴーと食べ、フルーツを使った飲み物。海のように綺麗な青の色をしたジュース。
秋とは思えないほどの、夏らしい雰囲気。それは今の季節を忘れてしまいそうな程だった。
どれも美味であり、その後はイネスと合流する。
イネス自身まだ警戒しているが、説明したところその警戒心は無くなった。イネスもおそらく、アルベールと同じ連想をしたのだろう。その為か、イネス自身も、協力すると言っていた。
嬉しそうな表情をするサルヴァトーレは、太陽のように明るい表情をした。黒い影だとしても、その顔だけは分かったのだ。
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一方、その頃とて。ジュリオの方では———。
(大丈夫……、必ずサルヴァが来てくれる……。僕は……信じてるから。サルヴァ)
自身置かれた状況を理解しながらも、サルヴァトーレを信じ続ける。幼馴染としての、信用だ。
鞭で叩かれながらも、拷問されながらも、ジュリオはサルヴァトーレを信じ続けた。
ジュリオにとって、サルヴァトーレは数少ない親友の一人。
ジュリオの隣に魂を抜かれた、本来のサルヴァトーレの体。それを見つめながら、期待する。
“親友”になるまでの、時間を過ごした二人の絆は、そう簡単には崩れ去る事が出来ない。それ程までに、固く繋がれた線。他人が入った事によって切れる線ではないと言うことを、彼らは知らない。影族はその事を———。




